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第11話 秘術
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メフィオステル地下墳墓―――。
アンデット群を撃退した一行の輪に、緊張をはらんだ声が掛かった。
「―――こっちに来てください」
声の主は、顔にあどけなさの残る魔族の兵士フランツだった。そういえば、エリーザを称える輪の中にフランツと怪我を負った魔族の兵士の姿がない。
声のする少し離れた通路脇に、フランツたちの姿を認めた一同が駆け寄った。
そこには悲痛な面持ちのフランツと、横に意識のない魔族の兵士が寝かされていた。エリーザが寝かされた兵士の横で膝をつく。口の中で何かを呟きながら、兵士の傷口に躊躇なく手をかざした。辺りは厳かな空気に包まれ、転生して間もない哲郎にもエリーザが回復魔法を施しているのが分かる。哲郎もエリーザの横で膝をついた。
「助かるのか」
「あなたより傷は深くありません。・・・・・・でも、どうして」
哲郎のストレートな問い掛けに、困惑を隠しきれないエリーザが答えた。
「・・・・・・たぶん、黒騎士のつけた傷が原因だと思います」
不安そうなミリーが言う。どこか思い詰めた表情にも見える。もしかして怪我を負った兵士と特別な関係なのか、と哲郎は直感する。
「知り合いか?」
「・・・・・・はい、幼馴染です。―――ミロと言います。魔王様の近くで役に立ちたいと・・・・・・」
「エリーザ、なんとかならないのか!」
「魔法が効いていません。黒騎士のつけた傷は、普通の傷ではないということですか」
意識がないミロの呼吸が浅くなってゆく。太ももの大きな傷口から血が溢れ出し、エリーザのかざしている手を汚した。憎いはずの魔族の血で手が汚れようとも、懸命に回復魔法を施し続けるエリーザ。その横顔から哲郎は目が離せないでいた。
―――憎いはずの相手に・・・・・・ 奴隷に堕ちてまで! なんでそんなに一生懸命になれるんだよ!!
いつしか哲郎の胸の内を、熱い何かが込み上げてくる。
「おい誰か! フルポーションとか復活の薬とか持ってないのか!!」
歯噛みする哲郎は、ゲーム中に登場するアイテムの名前を適当に連呼する。しかし誰からの返事もない。
「―――心臓が ・・・・・・止まります」
「糞っ―――! 魔法がダメなら現代知識だ。みんな鎧を脱がせろ、早く!!」
哲郎の呼びかけに、回復魔法では助からないと判断したエリーザが即座に反応する。みんなも後に続いて素早く鎧を脱がせると、哲郎がミロのシャツの前面を引き破った。
そして、赤い双眸を瞑った哲郎は―――、魔王の胸に手を当てた。
―――ドク、ドク、ドク
手の平に感じる確かな鼓動。位置は人間と同じ。心拍数は人間と変わらないような気がする。哲郎は僅かな可能性に賭ける。
集中するために大きな深呼吸を繰り返し、当時の記憶―――、警察学校必須科目の救急法に手を伸ばした。
―――確か、気道確保だっけ・・・・・・ 両手を組んで・・・・・・ 垂直に押し下げる。本当、真面目に授業受けときゃよかった・・・・・・
深い後悔の念とともに、動かなくなったミロの胸部に重ねた手のひらを置く。自分の肘は曲がらないように真っ直ぐに、そして垂直に押し下げる―――。
「その前にミロの顎を上に引き上げろ、気道確保だ! あと口の中を見て、舌が内側に落ち込んでないか確認しろ!」
「キ、ド、ウ、カクホ?」
初めて聞く言葉にエリーザは戸惑う。しかし聞き返すことはなかった。真剣な魔王の様子に、時間がないことを理解して、言われた通りにミロの顎を上に持ち上げた。口の中を確認すると、「何も入ってないです」と優秀な助手ばりに哲郎に報告した。
「―――禁断の秘術、その名も胸骨圧迫!!」
「ひゃゃゃあああ!! 魔王様~~~何を!?」
初めて見る心臓マッサージに、ミリーの絶叫が地下墳墓にこだまする。
「これしかない、信じろミリー!」
黒騎士のつけた傷が原因で、ミロの心臓が止まった。エリーザは、ミロの傷は俺より深くないと言った。それに、回復魔法が効かないとも。考えられる可能性は二つ。黒騎士のつけた傷自体に呪いのような効果があるのか、もしくは、強力な毒が含まれていたかだ。
心臓が止まった理由が後者なら、心臓マッサージでも助からないだろう。しかし哲郎は前者の可能性を確信的に考えていた。
その理由は、鑑識の授業で習った死体現象―――。時間や場所などの条件で、死体には様々な現象が現れる。死後硬直や角膜の混濁などもそうで、死体は時間とともに腐敗してゆくのだ。その死体現象の中で、薬毒物で死亡した場合の死後の変化について学んだ記憶が蘇る。
ミロの体には、皮膚が変色したり、嘔吐するなどの薬毒物の反応が微塵も認められなかった。そのことから、哲郎は前者の呪いのような効果を確信的に考えたのだ。
黒騎士のつけた傷に、相手の心臓を止める呪いのような効果があったとしたら、その効果でミロの心臓が止まったというのなら、その止まった心臓を再び動かせば、効果を一度発動した呪いは継続しないのではないのだろうか。完全に一か八かの賭け。
懸命な哲郎の横で、エリーザの黒瞳は、魔王の汗まみれの顔を映し続けている。
―――糞っ! 足りねえ・・・・・・
「人口呼吸!!」
「ジン、コウコ、キュウ?」
胸骨圧迫を続ける哲郎が叫び、エリーザが首を傾げてオウム返し。
「切るとこ間違ってるけど――― そうだ、人口呼吸! ミロは息をしてない。だから口から直接吹き込んでやるんだ」
「直接って、どうやって?」
「キスだよ、キス。口移しみたいな感じで―――!」
いい加減な哲郎の説明にエリーザの顔が赤く上気した。どうやら人口呼吸のやり方は伝わったらしい。
懸命な救命処置を行う魔王の額から大量の汗が滴り落ちる。エリーザの黒瞳が真っ直ぐに魔王の顔を見つめる。
「信じます」
口の中で呟くように言ったエリーザは、覚悟を決めてミロの顔に自分の唇を近づけ―――、「ちょっと、待ったーーー!!」と哲郎が大慌てで制止する。
「な、なんなんですか!? ジンコウコキュウをするのではないのですか」
「そうだけど、な、なんでエリーザがやるわけ。人口呼吸は誰でもいいのよ。あえてエリーザがやらなくてもいいから。そうだ、フランツ、お前がやれ! 嫌ならダンボールでもいいから」
懸命に心臓マッサージを行いながら、これまた懸命に訴える魔王。
「なんだか信用した私がバカだったような気がしてきました」
「え!? それって、いい感じだったの俺? って、フランツ!! お前がやれ魔王の命令だ!!」
「えっ!? わ、私が―――」
白羽の矢が立ったフランツが覚悟を決める。
その時―――、「私がやります」と言ってミリーが手を上げた―――。
哲郎の説明を聞いていたミリーは、躊躇なく口をつけ、息を送り込む。
「そうだ、鼻を摘まんで―――、胸が膨らんだら一旦やめろ。繰り返すぞ」
一同が見守る中、心臓マッサージとたどたどしい人口呼吸が続けられた。
いくら時間が経過したのかは、分からない。一同に諦めの気持ちが芽生え始めた頃、奇跡が起こる。
―――ゲホッ、ゴホッ!
息を吹き返したミロが激しく咳き込んだ。
「―――ミロ!!」
口を離したミリーの呼びかけにミロの意識が戻る。
「ミリーか・・・・・・ 会いに来てくれたのか・・・・・・」
「バカ・・・・・・ 死んじゃうところだったのよ」
「ずっとミリーの声が聞こえてた気がするよ」
「ただの幼馴染でしょ。なに言ってるのよ」
2人の会話に割り込むのは忍びないと思いつつも、哲郎は現実を見ていた。
「会話はそこまでだ。残酷な言い方だが、いつまた心臓が止まるかわからない」
会話を止めて、止血に取り掛かる。
「血が止まった―――!!」
驚きの声を上げたのはダークエルフのラ・エルだ。他のメンツも一様に驚いた顔をしている。やはり回復魔法が存在する世界では、医学や医術の進歩は元の世界よりも絶望的に遅れているのだろう。
「秘術、止血! 心臓に近い血管の上をこうして強く縛ってやる」
魔族の人体構造が分からないので、かなり適当だった。しかし強く縛れば血が止まった。これぞ哲郎マジック。
哲郎の考えは正解で、一度発動した呪いの効果は、心臓が止まる事で打ち消されていた。
「不思議ですが、もう大丈夫です。一人で立てます」
もともと傷自体は、哲郎の方が深かった。呪いの効果が打ち消されたミロはゆっくりと自分の体を確かめるようにして立ち上がる。
ミロが完全に立ち上がると、今度は魔王がふらついて地面に膝をついた。慌ててミリーとエリーザが支える。
「だ、大丈夫。ちょっと力が抜けただけだから」
「大丈夫ではないと思いますよ。もともとミロさんよりあなたの傷の方が深いのですから」
「もしかして、心配してくれてんの?」
「知りません」
魔王を支えていた手を放して、エリーザが一人で歩き出した。
この場所に留まることは、追っ手のことを含めて考えて危険以外のなにものでもない。その事はみな承知している。ゆっくりと歩き出す一同。
進む先は一本道で、並ぶ石棺は不気味だが、もうアンデットの気配はなかった。暫く進むと、大きな岩石を四角にくり貫いたような空間に出た。天井が高い。中央に祭壇らしきものがみえた。
「ボス戦は避けがたい雰囲気だな」
「魔王様、何か感じるんですか?」
哲郎の呟きに、後ろのミリーが聞いた。
「ああ、定番なんだよ」
「定番?」
「みんな、準備はいいか!」
中央の祭壇に目を凝らす。すると魔王の超感覚が発動した。
ズームアップしたその先には、法衣を纏った死霊術師が立っていた。
アンデット群を撃退した一行の輪に、緊張をはらんだ声が掛かった。
「―――こっちに来てください」
声の主は、顔にあどけなさの残る魔族の兵士フランツだった。そういえば、エリーザを称える輪の中にフランツと怪我を負った魔族の兵士の姿がない。
声のする少し離れた通路脇に、フランツたちの姿を認めた一同が駆け寄った。
そこには悲痛な面持ちのフランツと、横に意識のない魔族の兵士が寝かされていた。エリーザが寝かされた兵士の横で膝をつく。口の中で何かを呟きながら、兵士の傷口に躊躇なく手をかざした。辺りは厳かな空気に包まれ、転生して間もない哲郎にもエリーザが回復魔法を施しているのが分かる。哲郎もエリーザの横で膝をついた。
「助かるのか」
「あなたより傷は深くありません。・・・・・・でも、どうして」
哲郎のストレートな問い掛けに、困惑を隠しきれないエリーザが答えた。
「・・・・・・たぶん、黒騎士のつけた傷が原因だと思います」
不安そうなミリーが言う。どこか思い詰めた表情にも見える。もしかして怪我を負った兵士と特別な関係なのか、と哲郎は直感する。
「知り合いか?」
「・・・・・・はい、幼馴染です。―――ミロと言います。魔王様の近くで役に立ちたいと・・・・・・」
「エリーザ、なんとかならないのか!」
「魔法が効いていません。黒騎士のつけた傷は、普通の傷ではないということですか」
意識がないミロの呼吸が浅くなってゆく。太ももの大きな傷口から血が溢れ出し、エリーザのかざしている手を汚した。憎いはずの魔族の血で手が汚れようとも、懸命に回復魔法を施し続けるエリーザ。その横顔から哲郎は目が離せないでいた。
―――憎いはずの相手に・・・・・・ 奴隷に堕ちてまで! なんでそんなに一生懸命になれるんだよ!!
いつしか哲郎の胸の内を、熱い何かが込み上げてくる。
「おい誰か! フルポーションとか復活の薬とか持ってないのか!!」
歯噛みする哲郎は、ゲーム中に登場するアイテムの名前を適当に連呼する。しかし誰からの返事もない。
「―――心臓が ・・・・・・止まります」
「糞っ―――! 魔法がダメなら現代知識だ。みんな鎧を脱がせろ、早く!!」
哲郎の呼びかけに、回復魔法では助からないと判断したエリーザが即座に反応する。みんなも後に続いて素早く鎧を脱がせると、哲郎がミロのシャツの前面を引き破った。
そして、赤い双眸を瞑った哲郎は―――、魔王の胸に手を当てた。
―――ドク、ドク、ドク
手の平に感じる確かな鼓動。位置は人間と同じ。心拍数は人間と変わらないような気がする。哲郎は僅かな可能性に賭ける。
集中するために大きな深呼吸を繰り返し、当時の記憶―――、警察学校必須科目の救急法に手を伸ばした。
―――確か、気道確保だっけ・・・・・・ 両手を組んで・・・・・・ 垂直に押し下げる。本当、真面目に授業受けときゃよかった・・・・・・
深い後悔の念とともに、動かなくなったミロの胸部に重ねた手のひらを置く。自分の肘は曲がらないように真っ直ぐに、そして垂直に押し下げる―――。
「その前にミロの顎を上に引き上げろ、気道確保だ! あと口の中を見て、舌が内側に落ち込んでないか確認しろ!」
「キ、ド、ウ、カクホ?」
初めて聞く言葉にエリーザは戸惑う。しかし聞き返すことはなかった。真剣な魔王の様子に、時間がないことを理解して、言われた通りにミロの顎を上に持ち上げた。口の中を確認すると、「何も入ってないです」と優秀な助手ばりに哲郎に報告した。
「―――禁断の秘術、その名も胸骨圧迫!!」
「ひゃゃゃあああ!! 魔王様~~~何を!?」
初めて見る心臓マッサージに、ミリーの絶叫が地下墳墓にこだまする。
「これしかない、信じろミリー!」
黒騎士のつけた傷が原因で、ミロの心臓が止まった。エリーザは、ミロの傷は俺より深くないと言った。それに、回復魔法が効かないとも。考えられる可能性は二つ。黒騎士のつけた傷自体に呪いのような効果があるのか、もしくは、強力な毒が含まれていたかだ。
心臓が止まった理由が後者なら、心臓マッサージでも助からないだろう。しかし哲郎は前者の可能性を確信的に考えていた。
その理由は、鑑識の授業で習った死体現象―――。時間や場所などの条件で、死体には様々な現象が現れる。死後硬直や角膜の混濁などもそうで、死体は時間とともに腐敗してゆくのだ。その死体現象の中で、薬毒物で死亡した場合の死後の変化について学んだ記憶が蘇る。
ミロの体には、皮膚が変色したり、嘔吐するなどの薬毒物の反応が微塵も認められなかった。そのことから、哲郎は前者の呪いのような効果を確信的に考えたのだ。
黒騎士のつけた傷に、相手の心臓を止める呪いのような効果があったとしたら、その効果でミロの心臓が止まったというのなら、その止まった心臓を再び動かせば、効果を一度発動した呪いは継続しないのではないのだろうか。完全に一か八かの賭け。
懸命な哲郎の横で、エリーザの黒瞳は、魔王の汗まみれの顔を映し続けている。
―――糞っ! 足りねえ・・・・・・
「人口呼吸!!」
「ジン、コウコ、キュウ?」
胸骨圧迫を続ける哲郎が叫び、エリーザが首を傾げてオウム返し。
「切るとこ間違ってるけど――― そうだ、人口呼吸! ミロは息をしてない。だから口から直接吹き込んでやるんだ」
「直接って、どうやって?」
「キスだよ、キス。口移しみたいな感じで―――!」
いい加減な哲郎の説明にエリーザの顔が赤く上気した。どうやら人口呼吸のやり方は伝わったらしい。
懸命な救命処置を行う魔王の額から大量の汗が滴り落ちる。エリーザの黒瞳が真っ直ぐに魔王の顔を見つめる。
「信じます」
口の中で呟くように言ったエリーザは、覚悟を決めてミロの顔に自分の唇を近づけ―――、「ちょっと、待ったーーー!!」と哲郎が大慌てで制止する。
「な、なんなんですか!? ジンコウコキュウをするのではないのですか」
「そうだけど、な、なんでエリーザがやるわけ。人口呼吸は誰でもいいのよ。あえてエリーザがやらなくてもいいから。そうだ、フランツ、お前がやれ! 嫌ならダンボールでもいいから」
懸命に心臓マッサージを行いながら、これまた懸命に訴える魔王。
「なんだか信用した私がバカだったような気がしてきました」
「え!? それって、いい感じだったの俺? って、フランツ!! お前がやれ魔王の命令だ!!」
「えっ!? わ、私が―――」
白羽の矢が立ったフランツが覚悟を決める。
その時―――、「私がやります」と言ってミリーが手を上げた―――。
哲郎の説明を聞いていたミリーは、躊躇なく口をつけ、息を送り込む。
「そうだ、鼻を摘まんで―――、胸が膨らんだら一旦やめろ。繰り返すぞ」
一同が見守る中、心臓マッサージとたどたどしい人口呼吸が続けられた。
いくら時間が経過したのかは、分からない。一同に諦めの気持ちが芽生え始めた頃、奇跡が起こる。
―――ゲホッ、ゴホッ!
息を吹き返したミロが激しく咳き込んだ。
「―――ミロ!!」
口を離したミリーの呼びかけにミロの意識が戻る。
「ミリーか・・・・・・ 会いに来てくれたのか・・・・・・」
「バカ・・・・・・ 死んじゃうところだったのよ」
「ずっとミリーの声が聞こえてた気がするよ」
「ただの幼馴染でしょ。なに言ってるのよ」
2人の会話に割り込むのは忍びないと思いつつも、哲郎は現実を見ていた。
「会話はそこまでだ。残酷な言い方だが、いつまた心臓が止まるかわからない」
会話を止めて、止血に取り掛かる。
「血が止まった―――!!」
驚きの声を上げたのはダークエルフのラ・エルだ。他のメンツも一様に驚いた顔をしている。やはり回復魔法が存在する世界では、医学や医術の進歩は元の世界よりも絶望的に遅れているのだろう。
「秘術、止血! 心臓に近い血管の上をこうして強く縛ってやる」
魔族の人体構造が分からないので、かなり適当だった。しかし強く縛れば血が止まった。これぞ哲郎マジック。
哲郎の考えは正解で、一度発動した呪いの効果は、心臓が止まる事で打ち消されていた。
「不思議ですが、もう大丈夫です。一人で立てます」
もともと傷自体は、哲郎の方が深かった。呪いの効果が打ち消されたミロはゆっくりと自分の体を確かめるようにして立ち上がる。
ミロが完全に立ち上がると、今度は魔王がふらついて地面に膝をついた。慌ててミリーとエリーザが支える。
「だ、大丈夫。ちょっと力が抜けただけだから」
「大丈夫ではないと思いますよ。もともとミロさんよりあなたの傷の方が深いのですから」
「もしかして、心配してくれてんの?」
「知りません」
魔王を支えていた手を放して、エリーザが一人で歩き出した。
この場所に留まることは、追っ手のことを含めて考えて危険以外のなにものでもない。その事はみな承知している。ゆっくりと歩き出す一同。
進む先は一本道で、並ぶ石棺は不気味だが、もうアンデットの気配はなかった。暫く進むと、大きな岩石を四角にくり貫いたような空間に出た。天井が高い。中央に祭壇らしきものがみえた。
「ボス戦は避けがたい雰囲気だな」
「魔王様、何か感じるんですか?」
哲郎の呟きに、後ろのミリーが聞いた。
「ああ、定番なんだよ」
「定番?」
「みんな、準備はいいか!」
中央の祭壇に目を凝らす。すると魔王の超感覚が発動した。
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