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trouble
しおりを挟む人間は、もともと論理的に出来ていない。
当然だが、論理があとから出来たからである(笑)。
おじいちゃんが、息子を国鉄に入れれば
孫を国鉄に入れなくても良かったのだが(笑)
それも、論理的じゃないけれど
情緒的な行動である。
息子と父、みたいな相性、それも
情緒の問題だけれども
それでいいのである。
満足、と言う気持ちのために
人間は生きているのだから。
リサの、この8歳の夏休みの記憶が
17歳になって、おじいちゃんと
ちょっとした言葉の行き違いで
おじいちゃんの希望を叶えないことで
リサがおじいちゃんを失意に落とし
それが、おじいちゃんの命を落とす要因になったと
リサが悩むきっかけになったとしたら。
この夜の夢は、その記憶を整理するために
リサ自身が見た夢かもしれなかった。
ひとは、記憶を整理するときに
夢を見る。
一度、メモリーに書き出して
コピーするようなものである。
コンピュータは、その仕組みの模倣である。
リサは、夢だと思っているから
不思議には思わないけれど
おじいちゃんは元気で、まだおじさん、と言う
位の年齢であるのに
落ち着いた物腰は、もちろんそれが
天国のおじいちゃん自身であるから、で
「機関車だって、労って走れば答えてくれる」なんて事を幼いリサに言ったりして
逆転機のハンドルを、ゆっくりと絞ったりして
それは、長い経験を経てそう思えるもので
年若いと、やっぱり雑念があったり
エネルギーが余っていて、無我な境地には
入れないものだから
8歳のリサに、ほんとうにそんな事を
言ったかどうかはわからないけれど
機械に気持ちが伝わると言う事は
あるだろう。
蒸気機関車は、生きてるように
体を左右に揺すって走る。
それは、バランスのための錘が
車輪についていて
左右で位置が変えてあるから、そう感じるのだけれど
機関車乗りたちは、それを生きているように
感じた。
「機関車だって、心があるのさ」と、
おじいちゃんは独り言のように
幼いリサに告げながら、加減弁をゆっくりと開き
逆転機を戻す。
蒸気の伸びがいい時は、そうして
速度を出した。
流体を扱う蒸気機関車は、電気機関車よりは
有機的に感じる。
天候や、気圧にも左右されるあたりは
あたかも、機関車が何かを語っているかのようだ。
リサは、8歳だったその時に
何かを感じていたのだろう、10年後に
自分が機関車乗りを目指すなどとは
全く思わなかったのだけれど。
この時の思い出が、道を決めたのかもしれなかった。
機関車にだって心はある、とでも
言いたげに、蒸気機関車は
愛を以て接する機関車乗りに応えて走る。
心、自律してあるものだけれども
人間にだって、心ないひとがいるくらいだから
機械にだって心があってもいい。
それは、愛するひとにだけ理解できるものである。
手を掛けてあげれば、機械だって調子が
よくなるし、そういう時のひと、は
機械の応答に、心を得たような気持ちになる。
手入れをした機械が、いつまでも
快調であるように、事故に遭わないように
気づかいする事。
それは、愛である。
機械と人間は、そんなふうに
慈しみあってきた。
なので、おじいちゃんは
天国に来る前、一足先に
蒸気機関車が国鉄から無くなった時
記念乗務を任されて。
お別れ列車を運転した。
その機関車に、天国に来ても
ずっと乗っているのだろう。
鉄道は仕事。
そうだけど、おじいちゃんの人生だった。
男の仕事って、そういうものだ。
リサは、おじいちゃんの機関車に揺られている。
でも、それは夢なので
本当に、何かに揺られているのだろう。
体に伝わる揺れが、夢のきっかけになる事は
よくある事だ。
揺れ。
夢を見ていたリサは、目覚めて夢うつつ。
4人寝台個室の、下段。
まだ、夜明けは遠い。
ベージュの天井は、上段寝台のベッドだけれども。
友達が眠っている夜半。
列車は、高速で走りつづけているから
眠っている間に移動すると言う、とても
贅沢な経験をしている、旅。
カーテンで仕切られた、ひとりのベッドと
3人の友達。
リサ自らの出奔を気にして、遠い北の果てまで
探しに来てくれたのだった。
眠ったままの友達に、感謝の気持ちで
いまさらながら彼女は、胸の温まる思いだった。
眠っているめぐは、夢の中。
でも、ちゃんと眠っているような気もしなくて。
特別なこの夜が、過ぎていってしまうのが
惜しくて、ずっと起きていたかった
クリスマスの夜のような(笑)。
そう思うと、夢は
そのクリスマスの思い出になってしまったり。
寒い、星の綺麗な夜に
雪、ふらないかしら、なんて
窓辺から空を見上げていると
サンタさんがお空を飛んでいるような、
そんな気がしたり。
クリスマスのご馳走を、おばあちゃんが
作ってくれて。
おいしい、おいしいって食べて。
ふわふわのケーキ、bush de noire。
スパーリングワイン。
ずっと起きていたかったけど、眠ってしまった
ゴージャスな夜。
クリスマスキャロル、鈴の音。
果てしないような気持ちを思い出しながら
夢心地のめぐ、だった。
同じ、特別な夜を過ごす
神様はしかし
遠く離れた異国から、平和になった
めぐたちの国を見守りながら(笑)
サンライズエクスプレスの個室寝台に
寝転んで
和やかな夜を過ごしていた。
かつて、めぐたちの国でも
人間の過剰な欲望のせいで
愛を破壊された世の中になっていたけれど
それは、結局人間自体を破壊して
人間以外の動物にしてしまう環境。
だったから、神様と魔法使いは
愛の復権を計ったのだった。
人間は、何かを愛さないと生きていけないし
例えば女の子を護りきれない世の中は
愛せない絶望が、男の子たちをも荒ませる。
なので、その環境を
神様は変えてしまったのだった。
深夜。まだ開けないうちに
電灯が消えた。
列車は走ったままだ。
豆電灯がついているので、深夜の寝台車では
あまり困る事もない。
もとより、みんな眠っているので気づかないけれど
車掌、リサのおじさんは
その異変に気づくが
まだ、つぎの停車駅までは距離があるから
修理してもらうひとを
とりあえず頼んで、つぎの駅で乗って貰って
修理しながら走ってもらう。
走るのに問題ないときは、こんな
解決方法もある。
でも、車掌としては
とりあえず原因を調べないといけないから
電源車に向かって。
個室で眠っていたミシェルは、電気が途絶えた事を
ヒーターが切れた事で知る。
階段の明かりも切れてしまって、だけど
機関車は走っている。
その事から、電源が途絶えたのかな、などと
考えるあたりは
お父さん、エンジニアの彼の思考を
受け継いでいるような、そんな感じもする
ミシェルである。
自然に、そばにいるひとの感じかたを
真似てしまうのは
ミシェルが素直な感じかたをする少年だから
かもしれない。
お父さんが嫌いだったら、わざと違う感じかたをするようにするだろうけれど
好き嫌いより、客観的なものの見方を
する方が妥当だ、と
少年らしくない感じかたをするのは
どちらかといえば、それも男の子っぽいとは
言えないかもしれなかった。
それは、彼にとっては
歌うように、絵を描くように
自然な事だった。
慣れ親しんだパターンに、当て嵌めて行くだけで
それが楽しい事だ。
目玉焼きに、塩と胡椒をかけたりする時に
卵とバターと塩の味をイメージするのと同じ。
それが、フライドエッグと名前を変えても
ベーコンがついても。
それが好きなら、楽しい。
ミシェルは、電気が切れて
でも、機関車が動いている事で
たぶん、ブレーキの電力は来ていると考えた。
電磁直通ブレーキ、だから
電気が機関車から切れれば、ブレーキが効いてしまって
列車は止まる。
客室の明かりが切れても、ブレーキは効くように
出来ている。
安全を第一に考えられているからだ。
つまり、電源車のエンジンが止まったか
発電機が回らなくなったか。
送電設備か。
そんなふうに、冷静に考えるあたりは
エンジニアっぽい。
機関車乗りの事も、[engineer]と、言うのだ。。
電源車では、ミシェルのおじさんが
一応、車掌なので
点検をしていた。
薄暗い電灯は、非常のバッテリだから
当分は持つ。
つぎの駅、と言っても
もう深夜だから、修理を出来るひとのいる
駅は、相当大きな駅。
さっき、管理局のある大きな駅を
出たばかりだから
200kmくらいは先になる。
途中で止めるほどの故障でもない。
ただ、電気が止まってしまうと
エアコンも動かないから
寝台車では、ちょっと暑いかもしれない。
自動ドアも開かないが、幸い深夜で
寝台車は自動ドアではない。
ディーゼルエンジンは元気に回っているので
発電機のトラブルだろうか、と
計器をチェック。
電力が落ちているようだ。
回転は正常。
「まいね」と、おじさんはちょっと
諦めムード。
電極の接点のようだ。
その接点を取り替えようにも、予備の部品が
どこにあるのかわからない。
車掌はそこまでしなくていいのだが(笑)。
機械室の扉は、15号車、電源車の入口
そのものだけれども
ミシェルは、おじさんに連れられて
入り口を知っていた。
鍵は、掛かっていなかった。
ふつう、鍵を腰から下げて
車掌は扉を施錠して歩くけれど
この鍵が、ゆるゆるなので
掛け外しにコツがいる。
なので、面倒だから
開けたままにしている(笑)。
機械室にわざわざ入る客もいない。
それで、開けたままの機械室に
ミシェルは入った。
轟音と共に回転するエンジン2基。
片方だけは発電しているので、とりあえず
危機はないらしい。
おじさんは、ミシェルに気づいた。
暗闇で、にっこり。
「んだな、けへ。」
ミシェルは、オイルで滑る床、鉄の橋になっている通路は
一応滑り止めのバッ点がついているが
それでも滑る床を注意深く歩き、おじさんの近くへ。
「ブラシじゃないですか?」
そんなふうに、機械を修理している
ミシェルは、男の子だ。
ずっと、男の子として生きてるから
積み重ねでそう思うのかもしれない。
魂が半分女の子だったとしても、
それはそれでいい。
それに、好きなひとに
振り向いてほしいから、鉄道の仕事を
選びたい、なんて気持ちと別に
機械のメカニズムをイメージして
修理を試みる、そんな気持ちは
なんとなく、純粋でいいものだ。
そういうところを、好きなひとに
見てもらえばいいのだけど
深夜である。(笑)。
そんなふうに、ミシェルとて
若者らしく、鋭敏である自分を
誇りに思っている気持ちも、いくらかは
あったりしたから
機械の故障を探し当てる事で
優れている自分に満足したり。
そういう部分が、誰にもある。
生き物らしく、ひとより優れている
事が嬉しい。
それはそれでいいけれど
優れている事を、ひとと争うような
そういう少年ではない事に、ミシェル自身
気づかないけれど
それは、ひょっとして
そういうふうに、お父さんや
おじいちゃんが思っているから、だったのかも
しれなかったり。
知らないうちに、そういう生き方を
感じ取っていたのかもしれなかった。
なにより、おじいちゃんの国鉄は
秀でて芸をするより、確実に安全な事を
するひとを好む場所。
お父さんも、研究者と言っても
名前が売れると言うより、研究が
好きな
ひとを好む、そんなところだった。
でも、ミシェルは
機械好きと言う程でもなかった。
お父さんやおじいちゃんが、割と
論理的な環境で働くひとだったから
それを受け継いだ、そんなとこもあるし
同じ中学生たちは
女の子に興味を持つ年代だったけど
お姉さんがいたので
女の子に幻想を持たない、そんなせいもあった(笑)。
自分と同じ、ただの人間としての
女の子に、それほど生物的興味を持つ事もないし
感情的になる事も多いし、自分勝手な生き物を
面倒に思う事の方が多かった。
そういうせいもあったけど、でも
めぐお姉さんに恋したのは、ひょっとしたら
神様のした、運命のいたずらかもしれなかった。
その事に、まだ誰も気づく事はない。
おじさんは、ミシェルの適性を喜ぶ。
「んだな、機械いじりに向いてる。」
言葉少なにそう言われ、ミシェルは嬉しくなった。
なぜ嬉しいのか解らなかったけど、いつも
お姉さんやおじいちゃんの関連で褒められても
あまり、嬉しいとは思わなかった。
ミシェル自身が、考えているのに
血筋だから、と言う理由では。
そのあたりは、
リサも同じように思っているだろう。
おじいちゃんの孫、と言うだけで
国鉄に特待生で入れる、と言う幸運は
ありがたいけれど、でも
リサ自身の才能でもなんでもない、と
それで、一時おじいちゃんの希望を
拒んだリサだったりする。
それは、若さ故の事なのだけれど
誰かの世話になって、いい思いをするのは
ちょっと、幼いような、そんな気持ちもあるのは
ふつうの感覚だ。
自ら開拓して道を行きたい、などと
思っても
実は、あまりそういう道は
今、残されていなかったりする。
学問でも、文学でも、運動でも、芸術でも
人間の歴史の上に成り立っているから
つまり、誰かの後追い発展。
それならば、おじいちゃんの世話になっても
同じである。
ミシェルは、その時
魔法を使った訳でもなくて。
自分で考えて、故障を見出だして。
その方が楽しい、そんなふうに
めぐと同じように感じるのは
どこかしら、似た心を持ったひと同士だからか?
それとも若さ故か。
魔法、と言う
どこかから来た力より
自分で生み出した事の方が楽しい、そんなふうにも思った。
次の駅が近づいて、列車が臨時に停車する。
黄色いヘルメットを被った、工務係さんが
乗って来る。
作業の邪魔だといけないから、ミシェルは機械室の外へ。
列車は、走り出す。
走りながら修理するのだ。
ものの数分で、発電機のブラシが交換され
エンジンが掛かり、発電が始まった。
豆電灯だった室内に、蛍光灯が点る。
「坊、ブラシだった」と、工務掛のおじさんは
小さな金属片を、ミシェルに示した。
ミシェルは、なんとなく嬉しくなって
笑顔になった。
魔法より面白い。
そう思うところはめぐと同じだったが
そこは男の子である。
その魔法を、自分なりに作り出せないだろうか?
そんなふうにも思った。
列車が走るだけで、こんなに
いろんなひとの世話になっているんだな、と
改めてミシェルは実感した。
黄色いヘルメットの工務係さんも、
本当なら寝ている時間なのだろうし
それでも、起きて来てくれて
修理に来るのも
鉄道への愛だろうか。
そういう愛もあるんだけれども
少年ミシェルには、なんとなく解る。
恋愛だけが愛、なんて思う時期に生きてる
彼だけど。
工務係のおじさんは、ひと駅乗って
また戻るのだろうか?
揺れる電源車のデッキで、ミシェルは思う。
こんなに、一生懸命な人達の中に居られて
素敵な旅だった。
軽い気持ちで国鉄に入ると言ったけれど
本当に、こんなところで働きたくなったミシェルだった。
半分夢のなか、リサは
さっきの、おじいちゃんとの夢を
思い出していて。
ふと、思う。
自分のなかにあって、どこか
ふっきれない部分。
機関車に乗っているおじいちゃんは
いつも楽しそうだったっけ。
その、おじいちゃんの計らいだから
自分も機関車乗りを目指す。
それはいいんだけど。
鉄道の現場で働いている人達の
苦労を知って。
温室育ちみたいに、国鉄のお金で
大学に行ったら、なんだか
いけないような。
そんな気もしていて。
そういう鬱屈が、少しリサの中にもあった。
国鉄の人達は、親切にしてくれている。
そういう気持ちに甘えていていいのか?
そんな、凛々しい気持ちもあった。
夢の夢、なんて言うと
ジョンレノンの歌みたいだけれども
リサの、夢の中のもうひとつの夢、それは
天国にいるおじいちゃんと、心が
つながった
魔法だったのかもしれないけれど
そのおかげで、リサは
なんとなく、もやもやとしていた気持ちの
源がわかった。
その夢の中、晴れやかな空のいろと
なぜか、トム・ジョーンズの歌が
リサには聞こえた。
おじいちゃんが大好きで、時々
ライブを見に行ってたから、そのせいかも
しれないけれど
音楽は不思議で、いつまでも
心に残っていて
ふい、と夢に出てきたりする。
ダイナミックで、聞くと元気になる
トム・ジョーンズ。
彼も、炭鉱で働いていた時期があったりした。
元気さや、ストレートな
スポーツマンみたいな爽やかさが
歌に伝わるような人。
その、爽やかな気持ちで
リサは、夢でトム・ジョーンズを聞いた。
トムにとって、歌は仕事かもしれないけれど
歌う事で、いろんな人達が元気になれれば
それは、人々への愛だろう。
そういうものなら、お金払っても
別に惜しくない、って
誰しも思う。
それは、トムの天性で
彼は、ひょっとしたら天使さんだったのかもしれない。
そう、天使って
なんとなくイメージで、女の子かな(笑)と
思うけど、それは
人間がそうイメージしたのは
遠い昔に宗教を広めたひとが、そう考えたからだし
人間は、お母さんから生まれるから
そうイメージしたけれど
神様も天使さんも、
生まれた訳でもないし
見えるものでもないから
どっちでもないのだ。
機械を直している時、工務のおじさんは
機械にとっては天使さんだったかもしれない。
そして、鉄道のために
みんなが寝ている間に、機関車を運転している
ひとも、駅のひとも
心に、天使さんがいるのだろう。
そういうひとが、いつか
天使さんになるのだろう。
まだ夜明け前の、めぐたち4人は
4人個室で、しっかり眠っている。
旅が疲れたのか、揺れる列車の中でも
深く眠っている。
普段なら学校に行っているはずの日、だけど
友達のために、心配して
旅に出た。
後先考えずに、友達のために
何かできるって、素敵な事。
自然に、それができる友達を持った
リサは、幸せだ。
それだけに、リサはちょっと思ったりする。
友達のために、なにができるだろう?
仲良しのため、だけではなくて
クラスメートたちの進路も考えて
一度は諦めた国鉄への道。
おじいちゃんの気持ちを傷つけた、そういう
誤解がリサを走らせてしまった。
それに、ミシェルの進路まで(笑)。
でも、友達同士ってそうして
助け合いながら生きていくから
掛けがえがないんだ、って
今のリサはそう思う。
一生懸命に、友達のためになにかしよう。
眠ったままで、リサは思う。
眠りながら思う、なんて
少し変みたい(笑)だけど
人間の心って、そういうふうに出来ていて
眠ったり目覚めたりしながら
大切な事を、記憶して
受け継いで、暮らしていく。
時間って、大切なのだけど
記憶のなかでは時間は、動いていなかったりするし
難しい学問では、速い乗り物に乗っていると
時間が遅れる、なんて言ったりする。
でもまあ、過去は過去だし
記憶のなかの出来事は戻ってこない。
魔法でも使えれば別、だけれども。
今の一瞬も戻ってこない。
そういう大切な時間を、みんな、過ごしてる。
ずっと、朝が来なければいいのに、なんて
思いながら。
深夜を走る寝台特急Nortstarは
いつまでも終わらない夜を走っているように
旅が好きな人達には感じられたりする。
その時刻を無事に通過できるように
レールを整備するひとたちがいたり
信号を守るひとたちがいたり
列車を動かすひとたちがいたり。
そういう人達のおかげで、列車は動いている。
秩序的な、そうした大きなもの、即ち社会である。
割と、そういうものに惹かれるひとは
つまり、秩序的なひとである。
実際に、仕事で携わると
毎日そうか?と言われると
疲労から、いつもそうとは言えない事も
人間だから、ある。
夜は眠いし、朝もそうだし。
生き物はどうして眠るんだろうと
思ったりする鉄道職員もいるかもしれない。
リサのおじいちゃんだって、立派なひとだったと
みんなに言うけれど
記憶の中のおじいちゃんは、結構
疲れで苛立っていたりする事もあった。
そういう時々の事、あの時のあの人は
どうしてあんな事を言ったりしたのだろうと
思う事もあったりするのが人間、である。
その時に戻ってみたい、思う事もある。
どちらかと言うと、スイングジャズが
似合うような夜の寝台特急。
静かに眠っている4人、リサ、めぐ、れーみぃ、Naomi。
突然の旅だったけれど、本当だったら
みんな受験勉強をしている10月である(笑)。
こんな時期にのんびり旅行、なんて言っているのは
4人はほとんど進路が決まってるため、も
あったりする。
この国は、神様のおかげで
変に競争しなくてもいい社会になった(笑)
と言うか、それまでの競争は
ほとんどの場合、意味ない争いで
ただの自己満足がほとんどだった。
いい大学、いい会社。
そういうとこに入る事が目的なのは
なんとなく変だ(笑)。
「あ、いけない!」
めぐが目覚めたのは、列車の
おはよう放送が流れた頃だった。
同じ個室、4人用[カルテット]の
みんなは?
上段ベッドから見回して見ると、みんな、まだ
眠っていた。
隣のれーみぃ、
下のベッドの
naomi、リサも
旅で疲れたのか、よく眠ってる。
食堂車クルーの出勤は5時だ。
おはよう放送?
上段ベッドには窓がない。
寝ぼけた頭でよく周りを見回すと
廊下も、窓の外もまだ暗かった。
「空耳かぁ」と、めぐは安堵した。
寝坊した夢を見たらしい。
まだ、開け切れない午前4時.....
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