ふたりのMeg

深町珠

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オイルの香り

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オイルの香り


風の中を駆け抜けると
よく表現されるけれど
オートバイが動いているので
風のような存在であるだけ、だ。

と、ルーフィはしばし目的を忘れるほどに
モペッドを楽しんでいた。

それがちいさな車体であると
親しみやすいのもあるだろう。



移動図書館のバス、そのルートを追って

海岸の方へ、モペッドは走る。

メガネ橋を越えて、海の方へ。

青い煙を吐いて、かわいい音を立て。


最初の巡回地点は、海に近い
山裾にある村らしい。


追い掛けて、村の広場で
バスのタイア跡を発見した。


「もう、貸し出されてしまったのだろうか?」


ルーフィは少しどきどきしながら、
図書館の蔵書を検索。


あまり当てにはならないものの、
貸出中にはなっていない。


次いで、重力場を測定してみても

付近に、めぐはいない模様。




「遅かったかな。」

少し焦りを覚えるルーフィであったが


地道に探るしか、ない。



「つぎの巡回ルートは・・・。」
海岸に沿って南下した、岬。


すこし距離がある。

人目がなければ空を飛んで行きたいが

モペッドを置いていく訳にもいかない。


アクセルを開いても、ハミングする
くらいの速度なので、それが
かえってのんびりできていいのだけれど。

海沿いの林には、もう、秋の気配も
感じられるような

ひぐらしの声が響いていたり。



「いいところだなぁ」と

ルーフィは、のんびりツアーの
ような気持ちにもなってきて。


すなまじりのコンクリート道路を
右左。

海岸に沿ってカーブする道路を
走っていくと、岬が見える。


岬への、ビーチのところは

林になっていて。

そこに、巡回バスは止まっていた。


エンジンを止めて、自転車のように
静かに坂道を下り、バスのとなりに
モペッドを止めた。



バスの中扉は開いている。


追いついたとの実感で、ルーフィは満足していた。

けれど、めぐが見つかったわけではなかったので

安心するのは早計だ。


モペッドのイグニッションを切り、キーを抜く。


スタンド、と言う自立型の支えを立てて、後輪を浮かせた。

自転車とほとんど同じだ。




この国ではモペッドに乗る時ヘルメットは要らないので


さわやかな風が、短い髪を靡かせて快かった。


自転車並みの速度、25km/hしか出せないが
それでいいのである。



はやる気持を抑えて、ルーフィは巡回バスの中に入る。

中はクーラーが利いていて涼しいが、それは本を守るためである。

同じ理由で窓は日光を遮るようになっている。


クーラーの電源は屋根についているソーラーパネルが担っており
エンジンを切ったままでも電源が確保できるようになっている。



「旧いバスでも、工夫次第だな」と、ルーフィは感心しながら

絵本の行方を探る。



・・・・・しかし、見当たらない。



「どこにいったのだろう?」



安心しかけた背中に、冷たいものが走るような気がする。


巡回バスに乗っていた、見覚えのある顔の司書に尋ねる。

めぐのバイト仲間らしい司書は「その本は.....。貸し出されたようですね。」と

巡回バスの中にある貸し出しデータを見た。


バスの中にある巡回文庫の本は、図書館に戻ってから
データをコンピュータに移すらしい。



「しまった....。」と、ルーフィはつぶやく。



「その絵本なら、さっき、小さな子が借りていったみたいです。」と
その司書は言った。


「さっき....。」一足遅かった。


住所や名前を聞いても、教えてはくれないだろう。


いくら知り合いだと言っても。



ルーフィは落胆して、バスを降り

まだ、遠くに行っていないかもしれない。



そう思い直し、量子コンピュータで
重力場の測定を始めた。



どこか次元が歪んでいれば、そこにめぐの存在があるはず。



サーチ範囲を広げ、軍事衛星の座標電波も拾い
付近を隈なく調べる。


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