ふたりのMeg

深町珠

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恋はみづいろ

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そう、思ってると


「あきらめなくてもいいのに。」



...ルーフィ?


彼は、テレパシー?(かな)で、語りかけてきた。


「もっと自由に、イメージしてみようよ。
きっと、だいじょうぶさ。」



.だって、わたしは音楽の才能なんてないもの。

そう、ルーフィに語りかけると


「それは、今までそうだった、ってだけさ。
これからは、そうじゃないかもしれないよ、きっと。
さあ、旅してみよう?」



ルーフィ?だって、きょうは編集部にいかないと...



「だいじょうぶ。だって、僕らは時間旅行ができる」



..ルーフィってば...(^.^)


ちょっと、少年みたいに無鉄砲なルーフィを
わたしはかわいいな、と思った。その時!


SPARK☆

閃光が煌めくと、わたしはどこかへ飛ばされたような
そんな気がした。

ゆらゆらと、飛んでいる。そんな感じ。


「気持ちいい?」

ルーフィの声がする。わたしの近くで
おなじように漂っている。

でも、すごいスピードで飛んでいるような気もする。


..なんか...不思議。



「うん、4次元空間だから。」



...4次元?って、なに?


ルーフィは、にっこりしながら話す。
「たて・よこ・厚みがあるのが3次元。スリーディメンションって言うよね。」



...そういえば、聞いたことがある。立体テレビのCMだったわ。



「うん、それそれ。でもさ、どこまでも縦をながーく延ばしてったら、どこまでいく?と思ったことない?」



..そういえば...お空のずっとずっと向こうに行って...
くらいしか思いつかないけど。



「そう、それが3次元の限界さ。でもそれが、曲線だったり、時間が過ぎると形が変わる線だったら?」



...考えた事無い。思いつかないな。



「うん、ふつうそうさ。それが4次元。今僕らはそこにいる。時間を動かしたり、空間を動かす事もできる。」




...それが、魔法....?


「まあ、そんなとこかな。」



...科学者みたい。



「うん、古代エジプトじゃあね、占星術師や魔法使いは
科学者だったんだよ。」



...ほんとに?



「うん。ナポレオンだって星の動きを見て進軍してた」


...そうなんだー。


わたしは、ルーフィと時空間を旅しながら
不思議な感覚に身を任せていた。

これから、どうなっちゃうんだろう。
怖いような、でも
なにかが待ってるみたいな。

そんな感じ。




空間を旅しながら、わたしは
ルーフィに尋ねた。

「どこへ行くの?」


ルーフィは、不思議そうな笑顔で答える。

「どこ、って...君が行きたい、と思うところさ。
僕はただ、行き先に向かうお手伝いをしてるだけ」


「わたし?...何も思ってないけど。」


ルーフィは、にっこりと。
「そう、想いって言うのはね
自分で気づかない事もあるのさ。
生まれてから、自分を自分、って分かるまでの記憶、
それと、果てしなく遠い過去から、生まれるまでの記憶。」



「よくわからないけど、深層心理と遺伝情報ってこと?」


「まあ、そんなとこ。流石に記者さんだね。言葉を良く知ってる。」
ルーフィーは、遠くを見ているように。
風もないのに、爽やかに髪が揺れているように
感じられる。




「それで、魔法でわたしの行きたいところへ?」



彼は、空間を飛びながら答える。
「うん、それはでも、君の力が芽生えてきたから。
そのうちに、ひとりで飛べる。たぶん。
でも、制御できるようになるまでは
どこか、違うところへ行ってしまうかもね。」

なんて、ルーフィはちょっといたずらっぽく笑った。
そんな表情は、ちょっとかわいい少年みたいで素敵、
なんて?


思っていたら!


急に、空間が揺らいだ。

ルーフィの気配が感じられなくなって。わたしは焦って
何度も名前を呼んだ。

「ルーフィ、ルーフィーー、どこへ行ったの?」

「大丈夫かな、お嬢さん?」


どこか、知らない場所。
マロニエの並木道、すっきりとした青空の
ペイヴメントに、わたしは倒れていた。

優しく、抱き起こしてくれた紳士は
爽やかな銀髪を整えて
口ひげも凛々しく。

...この方...どこかで...お見かけしたような....


わたしはぼんやり考えていたが、紳士がにっこりと
微笑んでいるのに気づき


「あ、あ、済みません。pardon。」


紳士は、柔和にほほえみ

「良かった。それは..。すこし休んでいきなさい。
私はそこの家に住んでいる者でね。...心配は無用、妻も一緒だから」


と、紳士はwink。

ちょっとおしゃれな紳士、爽やかなスーツのセンスは
どこか、アートの香り...
誰だか、思いだせなーい(笑)



招かれるままに、私は紳士について行こうとすると

「その、ぬいぐるみはお嬢さんの?」


..ふと、ふりかえると
ルーフィ(の、ぬいぐるみ)が、マロニエの切り株に
うつ伏せになって転がっていた。(笑)

ああ、ごめんなさいルーフィ、と
わたしはルーフィに駈け寄り、埃をはたいた。


「ルーフィ?そのぬいぐるみを呼んでいたのかい?」
と、紳士は楽しそうに笑った。

おもしろいお嬢さんだね、と手を振りながら
さあ、いらっしゃい、と誘った。


わたしは、少女のようにぬいぐるみを抱えて
紳士の後をついてゆく。

ゆったりとした街路、大きな家がぽつぽつと
建っている。
風通しのよさそうな丘の道は、なんとなく
避暑地のようだ。


♪there's summerplece...と
私は名画座で見た「避暑地の出来事」のテーマソングを
口ずさんだ。


紳士は、振り向いて「いい曲だね、私も大好きさ」と
私のメインメロディの、対旋律をハミングした。

しっかりとした音階、おしゃれなオブリガード。


素敵な一瞬ね、と
わたしは、どこか知らない街に飛ばされてしまったのも忘れ(笑)

旅先の出来事を楽しんでいた。「でもさ」

わたしに抱かれたまま、ぬいぐるみのルーフィは
話しかける。


「なに?」



「危なくないかなぁ。」
と、ルーフィは心配そうに。



そんなこと思いもしなかった。
「うん、あの人なら平気よ」



「そっか。まあ僕もいるけどさ。」
と、ルーフィはちょっとまだ心配そう。



「ありがと、ルーフィ。心配してくれてるのね。」
やさしいんだなぁ...



「うん、まあね。やっぱり君になにかあったら
僕も帰れなくなるしさ」



と、ルーフィはちょっとぎこちなく。




「ありがと」
ほんとにそれだけ?って聞きたかったけど
でも、いまはやめておこう。




「それよりさ。」
ルーフィは、心に囁きかけた。




「なに?」




「ぬいぐるみに話しかけるのって、かわいいけど変かな」

ルーフィはにっこり笑った。



その時、前を歩いていた紳士は振り返り
「お嬢さん、さあ、ここが私の家。どうぞ。」


白い御影石が、ストリートから続いている。
その両側は、綺麗なベント・グリーン。
エントランスはマホガニーのドア。
三角のお屋根。
壁は真っ白。


右手のガレージには、シルヴァー・ブルーの
シトロエンDS21が、おひるね猫みたいに
屈んでいた。


「素敵なお家」

わたしは、思わず感想を。


紳士は、にっこりと笑って
「ありがとう。さあ、どうぞ」


ドアを静かに開き、私を招き入れた。

ぬいぐるみ(のルーフィ)を抱えたまま入るなんて
なんだか、不思議の国に行ってしまったアリスみたいだけど。


すこし、はにかみながら私はエントランス・ホールへ。


「すごい.....」

それも、思わずの感想だった。



お屋根の高さまで吹き抜けていて
窓にはステンド・グラスのような装飾。

クリスタルな輝きの灯り。

重厚な階段が正面に。


その階段の下は、ダンス・ホールになりそうな広さの
セカンド・エントランス。

コンサート・グランド・ピアノはsteinway&sons。
壁際にはチェンバロ。


ピアニストの椅子には、上品なご婦人が
おかえりなさい、と。


わたしは、どぎまぎした。
これも、別世界の出来事みたいに思えて。




「あ、あの、はじめまして。私は、先程...」
なんとか、挨拶をしようと思ったけど
言葉が見つからない。



紳士は、状況を説明した。

並木道でこのお嬢さんが倒れていたのでね、と。



婦人は、どこかお悪いのですか?と
案じてくれる。

柔和で優しいその表情にも、どこかで見覚えがある
..ような気が。




記憶の綾糸を、継穂するようにつないでみる。


ピアノ、チェンバロ。
銀髪の紳士はお髭で、上品な方。

夏の日の恋、をご存じで
綺麗な対旋律を正確に歌えて...


「!あ。」

わたしは、思わず声をあげて。


「モーリアさん?ポール・モーリアさん?」
と、失礼にもお名前を呼ぶ。友人のように。


紳士は、にっこりと笑って
「はい。」と。



婦人も、にっこりと。



..いままで気づかなかったなんて。わたし、バカバカ。
恥ずかしくて顔が赤くなった。


近所のおじさんみたいに思ってて。


..え?近所って?ここどこ?


それに、シトロエンDSってずいぶん古い車だけど
新車みたいだった。


私は、ポケットのスマート・フォンを取り出してみたけれど
圏外だった。



「どうかなさったのかな」
と、モーリアさんは私の様子を気遣う。


「あの、あの...すみません、カレンダーはありますか?」


モーリアさんは、にこにこと笑いながら
隣室からテーブルカレンダーを。


7月。1976。



...!?1976。


でも、どうして?


「君の心のどこかにあったんだろうな」と、ルーフィ。
心でつぶやく。



そういえば、今朝。リヴィングに
モーリアさんの「恋はみづいろ」が掛かっていて。
私も音楽の仕事をしたかった、って思った。

でも、だからって行きたいなんて思ってないよ...


「そう、君はまだ能力を制御できないんだ。」と
ルーフィは心でつぶやいた。



その時、チェンバロの調べが流れる。

モーリアさんが、「恋はみづいろ」のメロディを
軽快に、ラテンっぽく弾いていた。



...なんて、素敵なんだろう。
私はうっとりと、聞いていた。
でも、突然に。
ダンサブルなオヴリガーダが浮かんだ。


とっさに、ハミングしてみる。

モーリアさんの目が光り、左手でわたしのオヴリガーダ、
右手でオリジナルのメロディ。


とっても素敵な曲みたい。

「よかったら、弾いてごらんなさい」と

モーリアさんは、グランド・ピアノを私に勧めた。

...ちいさな頃、おばあちゃんに習ったことはあったけど
でも、ポール・モーリアさんの前で弾くなんて...



「やってごらん」
ルーフィは、心に語りかけた。
見ると、ぬいぐるみの姿のままで
婦人にブラシを掛けてもらっていたりする(笑)
にっこり笑って、wink☆



....やってみようかな。


ルーフィが、魔法を掛けてくれるのかも...なんて
淡い期待をしながら、わたしはsteinway&sonsの
白い鍵盤に触れた。





隣にモーリアさんが座り、連弾で、と
左手でオリジナル・メロディのベースパート。
モーリアさんの右手は、メイン・メロディ。


わたしは、ただ右手で。
思いついたフレーズを弾いているだけ。

でも、モーリアさんは巧みに、それを音楽にしてゆく。



「すばらしいわ」
チェンバロの椅子に腰掛けた婦人は、それを聞きながら
にこにこと、拍手をした。



.....そんな、素晴らしいなんて...


わたしは、頬が紅潮しているのに気づいたけれど、あ、と思った。



ルーフィ?あなたが魔法を掛けたの?



「いや、僕は聞いてただけさ、それは、君のポテンシャル。
それと、ほら、君が音楽家になりたかったって言ってた、その思いが
そうさせたんだよ、きっと」

と、ルーフィは静かに囁いた。心のなかで。



「いいセッションだったね。若々しくて清らかなあなたのようだ、マドモアゼル」
モーリアさんは、にっこりと爽やかに。


「いつか、きちんとレコーディングしたいと思う。その時はまた、いらしてください。
タイトルはそう..."love is still blue"とでもしようか」





....そんなぁ、モーリアさんとレコーディングなんて....
と、わたしはうっとりとした。けれどもルーフィは....


「忘れてないよね、ここは1976年。」



...そうだった。わたしはつい、思いつきでタイム・スリップしちゃったんだった。

それに、"love is still blue"って、ヒットした[恋はみづいろ'77]のことでしょう。

そのセッションに参加するなんて、時間旅行者としては無理ね....。




そう、残念だけど
1976年のセッションに、未来から来た
わたしは参加できない。

時間の流れは、普通
過去から未来へとゆくものだから。

未来へ戻らなきゃ。

そう思った瞬間!

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