ふたりのMeg

深町珠

文字の大きさ
上 下
3 / 502

日曜、ふたたび

しおりを挟む
「〖魔法:空間転移ゲート〗ッ!」

 じぃちゃんが見せてくれた手品が実は魔法と言う事実を、ばぁちゃんに教えてもらった僕は、この世界でも魔法が使える事を知った。
 それならば僕も魔法が使えるはずだ…と、必死に魔法を使おうとする。

 だが、何度やっても魔法は発動しない…だだ、それでも諦めずに魔法を使おうとすると何度目かは分からないが、身体から何かが失われた感覚に陥る。
 この感覚は魔法を使った時みたいな…だが、残念ながら魔法が発動した気配がない。

「クソッ!やっぱり・・・・失敗した!!」

 そう、この世界に戻って直ぐ、今までの事は夢だったのか?と思い、魔法を使おうとした。
 その結果、何度試しても魔法は使えなかったのである。

「あらあらあら、正義マサヨシさんは普通に使えていたのに、何が悪いのかしら…。」

 僕とじいちゃんの違い…本当に、何の違いがあるのか僕が知りたいくらいだ。

「そう言えば、結局、私は使わずじまいだったのだけど…。」

 と言って、ばぁちゃんは家の中へと入っていってしまう。
 それから暫くして、ばぁちゃんが戻ってきた。
 その、ばぁちゃんの手には、何だか不思議な感覚のする小さな箱があった。

「ばぁちゃん、それは?」
「これはね、正義マサヨシさんが私にプロポーズしてくれた時に、私にくれた物よ。」
「へ~、じぃちゃんが…。」

 正直、プロポーズした時の物と言われても興味はない。
 それがあれば、プリン達の所へ戻れると言うのなら話は別だが…。

「でもね?私は正義マサヨシさんに幸せを、いっぱい貰ったから…これは夢幻ムゲンちゃんにあげるわ。
 多分、夢幻ちゃんに必要な物だと思うの。」

 そう言って渡された、小さな箱を、恐る恐る開ける。
 するとそこには…見た事もない石が付いているリングである。

「これは…指輪だよね?」

 何処から見ても指輪だが、何故か当たり前の事を聞いてしまう。
 まぁ、プロポーズの時と言うのだから、指輪を贈るのは至極当然の事だと思う。

「そうね、確か…正義マサヨシさんが言うには『願いの指輪』と言っていたかしら?
 その指輪は、持ち主の本当に叶えたい願いを、一度だけ叶えてくれるそうよ。
 まぁ、私は願いは正義マサヨシさんが全部叶えてくれたから試した事無いのだけど…。」

 そう言って、僕にウインクをする、ばぁちゃん…。
 何度か若い頃の写真を見た事があるが、このタイミングでそんな事をされたら…ばぁちゃんが、もし若かったら、僕もじぃちゃんみたいに、恋に堕ちていたかも知れない。

「って、待った!!そんな大事な物、貰えないよ!」

 気付くのに遅れたが、ばぁちゃんは使わなかったとは言え、プロポーズと一緒に渡されたのであれば、これは婚約指輪である。
 つまり、これは…ただの指輪などではなく、じぃちゃんの形見と言う事でもある。
 そんな大事な物を、『はい、そうですか』と簡単に貰う訳にはいかない品物だった。

「いいえ、それは違うわ。
 今の、夢幻ちゃんだから、私は上げたいの…だって、夢幻ちゃんは男の子じゃない!
 だったら、夢幻ちゃんは、惚れた女の子を幸せにしてあげる義務があるわ。
 そう、正義マサヨシさんが、私を幸せにしてくれた様に!」

 まさかのダメだし…だが、ばぁちゃんの言う通りである。
 じぃちゃんなんか、惚れた女の為に、世界まで救ったのだから…。
 しかも、貴重な『願いの指輪婚約指輪』を使わせる事なく、幸せにしたと言われたら、じいちゃんと、ばあちゃんの孫である僕が、自分の惚れた女の一人や二人…いや、正確には四人だが…幸せに出来ないでどうするって話だ。

「あ、あ~ぁ、もう!分かったよ、ばぁちゃん!!」

 僕はそう言うと、ばあちゃんから『願いの指輪』を受け取ると指に填める。
 そして…あちらの世界に行く事を強く…強く強く願った。

【…ジ…ジジ…聞こ……?…てるかな?】
【お~い、聞こえますか~?】

「…その声は…もしかして先生?」
「あら?今の声、私にも聞こえたわ。」

 どうやら、先生の声は、何故か僕だけではなく、ばぁちゃんにも聞こえている様だ。

【良かった、繋がった!】
【何故か、急に強い力を感じたから逆探知してみたんだけど、やっぱり貴方だったのね!】

「え、えぇ…でも、何で先生が?」

【何でって…こっちの世界に来たいって強く望む声が聞こえたから?】

「え?それって…。」

【えぇ、来れるわよ?でもね?
 今度は私が召喚する訳じゃないから二度と帰れないし、今度こそ死んだらそれでお終い…それでも良いの?】

 そう言われて、僕は思わず、ばぁちゃんの顔を見る。
 もし、このまま向こうの世界に行く事になれば、もう、ばぁちゃんや家族とも会う事が出来なくなると言われたのだ。
 それでも、それでも僕は…。

「もう、夢幻ちゃんったら、何を迷ってるフリをしてるの!
 貴方は、世界のことわりさえ、その意思で覆したじゃないの!」
「え?僕が、世界の理を?」
「そうよ、プリンちゃんが死んだ時、それでも夢幻ちゃんは諦めず世界の理を捻じ曲げ、彼女を救ったのよ?
 だったら、今度も、そんな『世界の理ルール』なんて捻じ曲げちゃえば良いのよ!」

【ちょッ!?何言ってんの貴女!】
【私、あの後、綻び直すのに三日間も徹夜しまくったんだからね!】

「あ~もう、五月蝿うるさいわね!お姫様で聖女だった私が許す!夢幻ちゃん、やっちゃえッ!!」

【だから、煽らないでってば~!】

 ばぁちゃん、それは傲慢とも言える理屈ですよ?
 だが、あの一件で先生から何か言われそうだと思っていたけど、何も無かったのはそう言う事三日間徹夜があった訳か…。

「ププッ…流石、ばぁちゃんお姫様、言う事が違う!
 そうだよな…好きな子を幸せにする為なんだもん、世界の一つや二つ、敵に回したって、どうって事ないよな!」

 ばぁちゃんに感化されたからか、そう思ったら、何も心配する事が無くなっていた。
 次の瞬間…指にはめた『願いの指輪』が激しく光り出す。
 今なら、使えなかった魔法も使える様な気がする。

「ばぁちゃん、、行ってくるよ!」
「あら、やだ…いつの間にか、夢幻ちゃんも、男の顔出来る様になったじゃない。
 だったら、これは私からのお呪まじない…もう、おばあちゃんだから効果は期待出来ないけど…。」

『チュッ』

 そう言って、ばぁちゃんが、俺の額にキスをする。

「聖女様の祝福なんて、勇者セイギマサヨシさんにしかしなかったんだから…絶対に負けんじゃないよ!」
「あぁ、任せとけ!速攻で、ぶっとばしてくる!」

 そう言って、ばぁちゃんから距離を取る…そして…。

『パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!』

 六芒星を描く様に腕を動かし、その頂点となる部分で指を鳴らす。
 チートスキル〖森羅万象〗…その効果がヤバ過ぎて、今までは使う事自体、良くない事だと思っていた為、極力、使わない様にしていた能力を、コレでもかと言うほどフルに発揮する。

 そして、僕は頭に浮かんだ呪文を唱える。

「世界と世界を繋ぐ門、我が意を受け、我の望みし世界の門を開け!
 願わくば、我が望みし時へと我を誘え!」

 目の前の空間がバチバチと音を立てている。
 だが、まだ門は開いていない。
 何か、邪魔する力が働いている様に気がする。

【あ~、もう!良いわよ良いわよ!】
【今度は何日掛かるか分かんないけど、許可すれば良いんでしょ!】
【…まぁ、貴方達の願い・・・・・・は既に、七夕・・の時に受理しちゃてるし…ね。】

 すると、今まで邪魔していた力が霧散したのを、確かに俺は感じた。
 次の瞬間、俺は再度、詠唱し魔法を発動させる。

「〖魔法:次元転移門《アナザーゲート》〗!」

『バキン!』

 先生が許可したからか、目の前に空間が罅割ひびわれ、ついにゲートが開く。


「ばぁちゃん、俺、行ってくる!」
「えぇ、今度はお嫁さん達を連れて遊びにおいで。」
「あぁ、絶対に戻ってくるから!みんな良い子達だから楽しみに待ってってくれよ!!」

 俺はそう言うと、こちらの世界とあちらの世界異世界を繋ぐ門を潜るのだった…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...