タビスルムスメ

深町珠

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由布岳さんはデカパンさん

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急行「球磨川」4号は、ほぼ定刻に人吉駅に着いた。

まゆまゆは、業務室から出て、鍵を掛けた。

この瞬間は、車掌になったような、そんな気がして嬉しい(^^)。
まだ、車掌補である。

「先は長いな、真由美ちゃん」と、自分に言って。

裕子の姿を探した。

ホームに下りる。

がらがらがら・・・ごー。と、12シリンダエンジンの独特の音が響くスレート屋根。


クリーム色の、少し煙に煤けたボディ。窓のところは赤く塗られて。


裕子は、最後尾にいるだろうと思って、まゆまゆは
とことこ歩いて。


最後尾から2両目で、車内にいる裕子を見つけて。


デッキから乗り込む。

裕子は「ああ、お疲れ様、私は折り返しだから」と、簡潔に。

にっこり。



まゆまゆは「じゃ、お先に失礼します」と言うと

裕子は「ハハ、あんた、5月になったら20歳だろ、あたしと同い年だよ。」と。


まゆまゆは「でも・・・なんとなく」


裕子「なんとなく、か。かわいいなぁ、まゆまゆは。やっぱさー。
そのままお嫁さんになった方がいいよ。その方が高く売れるって」

まゆまゆは「そうですか?」


裕子は笑顔で「そうだよー。いいトコのお嬢さんなんだから、何も
こんな仕事しなくたって。図書館のお姉さんとかさ、市役所の事務とか。
上品な仕事いっぱいあるじゃない。」


まゆまゆは、そういわれると、なんかわからなくなった(^^)。
なぜ乗務員になったのか。


「ま、いっか。明日もあるから。帰って寝な。」と、裕子。


まゆまゆは「はい」と、にっこり。お辞儀をして。


裕子は、シートの忘れ物を捜しながら。「じゃね」と、手を振った。











特急「ゆふDX」は、湯平を過ぎてトンネルに入る。

「トンネルの中だと、なんか夜みたい」と、友里絵。

由香は「そろそろ夜だよ」


パティは「あー、帰って来たーって思います。ここ抜けると」


列車は、トンネルを抜け、川沿いの国道を見下ろす位置にある線路を
左カーブ。

谷間に、セメント工場が見えたり。

道路沿いに、ラーメン屋さんがあったり。

すこしゆっくり進み、丘を登ると

南由布駅。

田んぼの中。

4月の半ばでも、もう、稲が青々と茂っている。



夕暮れの、由布岳が車窓右に。



友里絵は「なんか、デカパンのおじさんの頭みたい」

由香は「バカボンはあんた」


友里絵「だよーん」


パティ「ベシが好きべし」


ともちゃんは「うなぎいぬかなぁ」


さかまゆちゃん「えー、なんだろ。ケムンパスかな」


菜由は「おお、マニア受け」

愛紗は「え、なんだっけ・・・デコッパチ」


友里絵「それはア太郎」


愛紗「あ、そっか」


みんな、楽しく笑う。


陸橋を潜ると・・・大きな左カーブの向こうに製材所が見えたり。

由布院の、瀟洒な黒い駅が見えてくる。


「ラブラちゃん、いるかなー」と、友里絵。


パティ「あの、駅の向こうの?」

友里絵「そうそう、来るときね。ちょっと遊んだの」


パティ「フフ、犬好きなの?」

友里絵「ねこ派だけど」



駅は左カーブの途中。

1番線に向かう・・・・・。




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