タビスルムスメ

深町珠

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蒸気機関車

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「真由美ちゃん、お昼に誘う?」と、菜由。

愛紗「明日も乗務だったら、悪いかな」


友里絵「朝早くて眠たいならねー。でも若いんだし」


由香「いくつくらいなのかなぁ」

友里絵「あたしとそんなに変わんない・・・と思うけど。
20前かな」


と、蒸気機関車を眺めながら。

運転士さんが「乗ってみる?」

友里絵は「はーい。」と、ドアのない機関室に
梯子から昇る。

ホームからだと、そんなに苦労はない。


「熱い」と、友里絵。


機関助士さんが「そう、燃えているもの」と、焚き口の蓋を開けて見せてくれた。

オレンジ色の炎。熱気。


「髪の毛パーマになっちゃいそう」と、友里絵。


機関助士さんは、ははは、と笑って
蓋を閉めた。


真っ黒な室内に、計器が沢山、コックが一杯。

機関士さんの前には、大きなハンドルと歯車。
天井からも、何か梃子が出ていて、ハンドルが付いている。


「紐、引いてごらん」と、機関士さん。

友里絵は、ちょい、と引っ張ると

汽笛が、ぽ、と鳴る。

「かわいい音」と、友里絵、にんまり。


由香が「友里絵、こっち見て」と、写真を一枚。



友里絵は機関室から降りてきて「すごいねー」

由香「ふつうは子供しか乗れないけど」


友里絵「子供だと思われたのかな」


菜由「かわいいからね」


友里絵「ほんと?」


由香「黙ってればね」


友里絵「ははは」



菜由「いや、小さいって意味」


友里絵「可愛くはないのか」

菜由「そんなこともないけどさ」


由香「ははは」


真由美ちゃんが、ぱたぱた、と駆けてくる。

制服を着ていないと、街を歩いている女の子、そんな感じ。


薄いピンクのスラックスに、白いシャツ、パーカー。

何か、キャラクターのワンポイントがついている。


愛紗は「かわいい」と思わず。


真由美は、ありがとうございます、と。お辞儀。


菜由「ごめんね、突然で」


真由美は「いいえ、明日は明け番なのでお休みでーす。」


友里絵は「いいなー。」








不規則勤務なので、明け+公休は何よりも嬉しい。
バス・ドライバーでは、事故が多発したため
公休日には、最低24時間が空くようにと規制が厳しくなったが
その前は、日勤+遅番で8時ー23時に終了、休みの後は早番+日勤4時ー15時と

か・・・。


ガイドには、規制がないために
様々だった。
遅番で午前0時近くに勤務を終えて、次の日は休みでも・・・・
その次の日が午前4時、なんてのは普通だった。
その仕込みを、前日の午後に来てやったりもしていた。

これは無給である。








「じゃ、お昼ご馳走するわ」と、菜由。


友里絵「いよっ!太っ腹!」

菜由「最近、ほんとに太っ腹」と、おなかをさすって。

みんな、笑う。

真由美ちゃんも「わたしも、学生時代より太りました」

愛紗は「わたしもそうでした。お昼の時間がまちまちだし。夜が遅かったりで」


由香「真由美ちゃん、いくつ?」

真由美ちゃんはにこにこ「19です」



友里絵「いーなー。わたしも戻りたい」

真由美は「友里絵さんはおいくつですか?」


友里絵「20」

由香「あんまり変わらないね」


真由美ちゃんも笑う「ほんと。かわいいですよ」




友里絵「あたし、かわいい?」


由香「口さけ女かいな」


みんな、笑って「なつかしいね」



真由美ちゃんは「お昼の時間がまちまちだから。でも、わたしはまだ楽なので・・・。」


と、駅の改札から5人は歩いて、駅前に出る。

駅前にはからくり時計があって、時々蒸気が出て
お人形さんがなにやら、お芝居をしてくれる。



「これからのご予定は、いかがですか?」と、真由美ちゃん。

髪を解くと、すこし長めの髪が肩のあたりで、さらっと。

とってもきれい。


菜由は「湯前線に乗って、終点まで行こうかなー、なんて。
その後は人吉で泊まりだから、夜までに帰ればいいの」


真由美ちゃんは「じゃ、駅のそばの食堂で。普通のご飯がおいしいの」



友里絵「いいねー。旅してるとそういうの。」


真由美ちゃん「そう。わたしもそうなのです」

カレーとか、ラーメンとか。こってりしてるものは割とあるけれど
お家で食べるようなご飯って、中々旅先で探すのは難しい。

「さすがは旅のプロ」と、愛紗。

「えへへ」と、真由美ちゃん。にこにこ。


駅の前から、すこし線路沿いに歩いて、小さな食堂へ。


「よく、ここで頂きます」と、真由美ちゃん。





乗務の合間だと、中々家に戻って、と言う訳にもいかない。

家への往復に時間が掛かるし、何か事故とか、忘れ物とかあると
乗務できなくなることもあるから、駅のそばにいいお店があると便利である
東京駅の日本食堂は、元々そういう場所だったことは
古い鉄道ファンならよくご存知のこと、だろう。





「いいのよね、こういう雰囲気」と、菜由。

「なんか、落ち着く」と、愛紗。

「お家に帰ったみたい」と、友里絵。

「名物もいいけど、地場のもの食べるのもいいね」と、由香。


普通のお惣菜でも、その土地の人が作ると
味付けが違うし、材料が違う。
独特の旅先の味で、それは通販などでは手に入らない。
旅の醍醐味、かもしれない。


コンクリートに、鉄の足のテーブルと椅子。


それぞれに、おかずを取って。
ごはんとおつゆ。

それで、めいめいに精算すると言うシステム。

「なんか、なつかしいね」と、友里絵。

「大分にもあったね」と、由香。

愛紗は思い出した。大分駅のうどんスタンドのおばさんに出会った事。



遠い昔、みたいな事に感じた。


「じゃ、おねーさんにまかせなさーい」と、菜由。

「おばさんじゃないの?」と、愛紗。


「ひどいぞ」と、菜由。

愛紗「うそうそ」


友里絵は「おじさんにまかせなさい」と言おうかと思ったけど
真由美ちゃんがかわいいので、ヤメタ(笑)。

意外と、そういう事で雰囲気って変わるのだ。

かわいい子を守ってあげたい、かわいいままでいさせてあげたい。
そういう気持って、誰にでもある。

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