タビスルムスメ

深町珠

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停止位置、よし!

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列車は、特急とは言え・・・制限75なので
至って、のんびりムード。
駅に停まらないぶん、早く着くくらい。

車窓右側には、桜島が見えてきて。
高台を走る国鉄線から、見下ろす位置に、国道。
それと、路面電車の軌道。

黄色いもの、アイヴォリーのもの。
いろいろ。

その向こうには、波打ち際。

白い波が、さわさわ。


「あ、坊や、ちんちーんだよ」と、友里絵。


由香は「なんか、ゆりえが言うと・・・」


友里絵「違うってば、今のは」


由香「さっきのは、そっちのか?」


菜由は「おもしろいね」ははは、と笑う。



火曜の朝、上り特急とあって
ひとかげはまばら。


おばあちゃんは「これからどちらへ?」


友里絵は「はい。人吉・・・かな。旅行です」


おばあちゃんは「いいわねぇ、若いうちは」と、にこにこ。


由香は「いまのうちに楽しんでおこうかな」


おばあちゃんは「それもいいわね」と、にこにこ。




列車は、ゆっくりと
速度を落として・・・。



ーーーまもなく、終点、西鹿児島です。
どなたさまも、お忘れ物、落し物、ございませんようにご注意くださいーーー。


明るい、女声のアナウンスのあと。



出かけるときに見えた、機関区の跡地が見えてくる。
小さな機関車もそのまま。



行くときと、帰るときと。
同じものを見ても、印象が違って見えるな、なんて
愛紗は思う。



「何か、違ってきたのかな、わたし」




列車は、減速する。

それまで、ずっと、静かだった車内に
エンジンの響きが伝わる。

排気ブレーキを掛けたのだった。








電車と違って、エンジンで動いているので
電力回生、と言う訳にはいかないが
その代わりに、クラッチを解放すると
長い距離を、慣性だけで走る事が出来る。



減速するときは、クラッチを接続して
ディーゼル・エンジンの排気管を閉じて
その排気圧力で、ピストンを抑制するのが排気・ブレーキ。

バスにも、もちろん付いている。


ディーゼル・エンジンは、スロットルが無いので
惰力走行をしても、ピストンを抑制する空気の負圧がない。
その代わりに、走行時はスロットル抵抗が無いのだ。




近年では、バスでも
電気ブレーキを備えるものも増えている。
観光バスの12m車のような、大きなものではあるが。









最後に、機械式ブレーキが掛かる。
金属的な音がホームに響く。



きーっ。




停止位置、よし!


運転士は、停止位置表示を確認した。

車掌は、ドアを開く。


空気シリンダの開く音がする。


ぷしゅー。




さっきのように、煙がドアの上から。


友里絵は、煙を頭に掛けている。



「なにやってんの?」と、菜由。


「頭よくなるように」と、友里絵。

由香「それは神社だよ」


友里絵「そーだっけ?」


菜由「たまて箱だとさー、おばあちゃんになっちゃうかも」


友里絵「ひえー。」




おばあちゃんたちも笑う「だいじょうぶよ」




「着いちゃったね」と、愛紗。


菜由は「帰りの汽車って、なんか、淋しい」


愛紗「そうね。」ほんとにそう思うけど・・・まだ、旅の途中。







さっきの坊やが、にこにこ。
おばあちゃんも、一緒に「それじゃ、いい旅を」

友里絵は「はい。坊や、ばいばーい。」

由香も「お気をつけて」

菜由は「ごめんください」


愛紗は「お元気で」




出会って、別れて。
旅は、つづく・・・・。





「あのぼうや、ちんちーん、ってするのかな」と、友里絵。


由香「なーんか、オマエが言うとさ・・・。」



「しこしこしこ」友里絵。


由香「ほらな」


「四股四股四股」



由香「キサマ、またしても。このやろー!」


友里絵、逃げる「はっはっは!」



菜由「元気だなー。」

愛紗「ほんと」
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