タビスルムスメ

深町珠

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12D、日田定着!

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滝は、ナイアガラのように
断崖から落ちてきていて。
その断崖の向こうは、何気ない平地。

田畑があったりする。

川が、そのまま落ちてきているような滝。


「マンガにあったね。こーいうの。流されてきて、わーっ!」
と友里絵は面白そうに。


滝つぼは、また
何気ない川である。


「陥没したのかな」菜由。


「そうかもね」と、由香は
反対側も断崖で、列車はその断崖の上と同じ高さを
鉄橋で渡っている。

つまり、この滝つぼ周辺だけが「すっぽり」落ちたような地形。



「すごいところがあるね」と、友里絵はびっくりする。


「九州って、全部が阿蘇山の上なんだって」と、愛紗。


「あっそ」と、友里絵。


「言うと思ったよ。おっさーん。」由香。



列車は、いつの間にか平らなところを走っていて。

あの断崖はどういう場所だったのか、と
思い出せないような、平和な風景に出会う。

郊外の都市、と言う感じ。




車内アナウンスが入る。



ーーまもなく、日田に着きます。お出口は右側です。--。



軽やかな声は、CAのひとりだろうか。




「案内放送も出来ると、いいねー。」と、友里絵。


「タマちゃんも得意だったね、あれ」と、由香。


「ああ、覚えてる。お客さんが『高速バスの運転手さんですか』って
聞いてきた感じで」と、菜由。



「そんなことがあったの」と、愛紗。



そういえば、特製のマイクを自作して
制服の襟に付けていた。


ふつう、バス・ドライバーは帽子に付けるのだけど
なんとなく、ハンドマイクっぽい方が好きだったらしい。



「お客さんがね『国鉄バスかと思った』って言ってたとか」と、友里絵。



「そうそう。

『ご乗車ありがとうございます。この車両は、海岸通り経由、市民病院ゆきです。
ただいま定刻、12時45分で大岡山を出発致しました。
到着時刻は後ほど、大手町を過ぎましたらお知らせいたします。
次は、大手町。5分程で到着致します・・・。』 

てな感じ」と、由香は深町の真似をした。



「それ、運転しながら言ってたの?」と、愛紗。


経験すると解るけれど、あの大きなバスで混雑した駅前を走りながら
流暢に話すのはかなり困難だ。


もし、事故が起きたら責任である。



「普通、つっかえつっかえになるものね。誰でも。」
と、菜由。




愛紗は思い出す。そういえば、自分が添乗した時も
おしゃべりしながら平気で、車内アナウンスをしていた。

バスを運転しながら、である。


どこか、自分とは違う技術を持っているのだろう。




「野田さんは『あれは人間じゃない。鉄人だ』と言ってたし」と、菜由。


「そうそう、それ、あたしらにも言ってたっけ。岩市が激怒したって平気で
ニコニコしてたって。」と、由香。


岩市と言うのは、当時の所長である。
不祥事が続き、解雇された。

所長級で解雇と言うのはマレである。




「それで尚更怒る」と、友里絵。


「そうそう」と、菜由。





列車は、日田駅にゆっくり、ゆっくり。

閑散とした大きな駅で、空が広く見えるのは架線が無いから。

跨線橋もなく、地下道だけだ。

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