タビスルムスメ

深町珠

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12D、豊後森定発!

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「愛紗はさ、お母さんタイプなのね」と、菜由は面白いことを言った。


「わたしが?」と、愛紗はちょっとびっくり。笑顔になる。


「あー、そうかも。」と、友里絵。



「優等生だし、美人だしね」と、由香。


愛紗自身は、そんなふうに思ったことはない。


「そうかなぁ」と、回想するけど、どこかしら勝気な所もあるかもしれない。



菜由は「だから、子供の力になれないお母さんじゃ・・・かっこ悪いもの
女ってそういうとこ、あるでしょ?」


友里絵は「あたしらは不良だからさ、最初っからカッコ悪いもん」


由香は「『ら』ってなんだよ、最初から。まあ、そうだけど」

と言って、ギャハハ、と笑った。



「菜由はさ、随分大人なんだねー、びっくり」と、友里絵。


「そりゃ、主婦だもん」と、菜由。



「所帯持ちって大人になるのかな」と、由香。



菜由は「うん。だってさぁ、旦那、とは言っても一緒に暮らす訳だし。
わがまま放題になんてできないし。「かっこ悪い」なんて
言ってられないもの。」



「屁もするし」と、由香。


「私はないけど、亭主はするでしょ」と、菜由は笑う。



「食い物が悪いのかな」と、友里絵。


「食い物って言い方がなぁ、大体おっさーん」と、由香。






列車が止まった。

豊後森機関区の跡は、車窓左手に見える。
扇型の車庫はそのまま、蒸気機関車の向きを変えた
ターンテーブルは、地面から掘り出されて復元されている。

車庫そのものはもう古いので、入れないようにはしてあるが。



車窓右手は、こじんまりとした駅前。
線路に並行して道があり、バスの停留所と転回場がある。
道に沿って、煤けた感じの木造、モルタルの商店が幾つか。
機関区があった頃は、大いに賑わったのだろう。



「ここは山北に良く似てるね。」と、友里絵。


「うんうん、さっきのは・・・なんだっけ、あの。美味しいお菓子が売ってる駅!」と、由香。


「それじゃわかんないって」と、友里絵。



「そっか」と、由香は笑う。「なんか、ほら、カステラみたいな和菓子でさ。」



愛紗は思い出すけど、そんな駅があったような気もする。
国府津の少し手前の、御殿場線。





「ま、何にしてもさ、愛紗ももう少し、肩の力抜いてさ。
ありのままに生きた方が楽なんじゃない?」と、菜由。



「アリがママ」と、友里絵。

「年取ると、アリババだ」と、由香。



わはは、と笑う。


煩いJKと変わらないけど(笑)。



「ゆふいんの森」に、ここから乗る乗客は殆どいない。



対向列車は「ゆふ」。普通の特急である。
赤いディーゼルカーだ。


「あっちなら周遊券で乗れたんだけど」と、愛紗。


「えー、そうなんだぁ、なんだ、先に言ってよ」と、友里絵。

「オマエが飛び乗ったんだろ」と、由香。


「あ、そっか」と、友里絵。キャハハ、と笑う。


「まったくもう。いつまでも子供だなぁ」と、由香。




「でも、乗車券は買わなくていいんだし」と、愛紗。


「そっか」と、友里絵。


「結構大きな駅だね、乗換えかな」と、菜由。


「うん。耶馬溪に行くバスとか。ずっと前は、さっきの廃線の乗換え駅だった」と、愛紗。



「詳しいなぁ、さすが駅員」と、友里絵。



「一応地元だし、伯母さんが」と、愛紗。



「伯母さんの駅で働けるといいね」と、友里絵。


「友里絵ちゃんはそう思う?」と、愛紗。



「楽そうだもん」と、友里絵。



「愛紗はさ、お母さんタイプだから。頑張りたいんだよね、きっと」と、菜由。


由香は「あたしはさ、愛紗は男になりたいのかと思ってたけど」



菜由は「どっちもあるんじゃない?負けたくないって気持だもん」



「なーるほど」と、由香。


「主婦は違うなぁ」と、友里絵。


「おばさんになったのよ」と、菜由。


「そう言えるのってステキね」と、愛紗。


「そう?ありがと」と、菜由。



乗降はほぼ無く、対向の「ゆふ」が入線したので

「ゆふいんの森」はドアを閉じる。


乗降よし!

と、車掌がドアスイッチを押すと

空気シリンダーが動き、ドアががらり、と閉じる。



ドアランプが消える。


運転士はそれを確認。「滅」



出発信号機を確認する。



「出発、進行! 豊後森、定発!」


ブレーキが緩み、空気が漏れる音がする。


床下のディーゼル・エンジンが唸り、屋根の排気管から
一斉に黒煙が出る。


トルク・コンバータに油圧が掛かる。


変速段。


エンジンは唸っているが、少しづつ進み、エンジン回転は上がらない。


その回転が、油圧となり
車軸を回していく。



ゆっくり、ゆっくり。


勢いが付き始める。


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