タビスルムスメ

深町珠

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想い

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「どしたの?」と、友里絵が心配そうに。

オトメちっくロマンではないと、表情で気づいて。


「ううん、なんでもないの。ちょっと。鉄道の制服を見てたらね。
わたしが、バスを運転してひとりだちした、そういう夢を見たの。」

と、愛紗。


「ひとりだちかぁ。ふつうは一ヶ月くらい掛かるけど。タマちゃんは
2週間掛からなかったんだってね。」と。友里絵。



「うん。その話は聞いた」と、愛紗。「わたしはとても・・・あの大岡山じゃ
無理だって思った。」


「でもさぁ、誰だって最初は怖いって。タマちゃんもそう言ってたよ。」と、由香。


「そう。それでかな、空想したの。なれっこないから。」と、愛紗。



友里絵は「でも、無理しなくていいってタマちゃんも言ってたし。
あたしたちは21歳だもん。タマちゃんはさーぁ、なんて言ったって
あの時43でしょ?」と。


「そりゃそーだよ、愛紗だってっさ、43になったらさ。」と、由香。

「おばさんね」と。愛紗。


「あたしらはババアだな」と、由香。


「一緒にスンナ!」と、友里絵。

その時、道路沿いを走っていた軽自動車、スバルR-2の親子が
窓を開けて。列車に手を振っていた。

友里絵も窓を開けて「おーい!」と、手を振って。


愛紗も微笑む。

由香も一緒に手を振って。



列車は高台、道路は川沿い。

同じように川に沿っている。時々、列車はトンネルに入って。


出てきたら、さっきのスバルR-2の親子が、また、手を振っていて。

友里絵も楽しそうに手を振る「どこいくのー。」


客車列車なので、レールの継ぎ目を乗り越える音がよく響く。

かたかたん、かたかたん・・・。


ゆっくり、ゆっくり。


道路を走っている車とそんなに変わらない。


窓を開けると、ディーゼル機関車の排気の匂いがする。


その匂いで、愛紗は、なんとなくバスを連想していたりした。


研修で乗った観光バスは、とても大きかったけど
そんなに怖いとは思わなかった。


リゾート地にある研修所なので、ヘンなクルマや人が居ない。

そのおかげだった。





列車は、川沿いの鬼瀬駅に止まる。


乗降する人はいないようだった。


それで、すぐに出発する。


客車列車なので、ちゃんと車掌が乗務している。



笛を吹いているのが遠く、後ろの車両から聞こえて。
ドアが閉じられる。




ピー、と
甲高いディーゼル機関車の笛の音。


前の方から、がちゃり、と引かれていく。



「なんか、のどかでいいね。」と、友里絵。


「うん」と由香。


愛紗はと言うと、ずっとこういう列車に乗っていたので
帰ってきたと言う気持だったり。


家には帰れないけど。



ゆっくり走っているように感じるけれど、結構早いらしく
さっきのスバルR-2に、また、追いついて、追い越した。



天神山駅は、裏が崖で
滝が流れているけれど
緑深いので、よくみないと判らない。


友里絵は目がいい。「あ!滝だ。すごいなぁ」と。

由香は「どこどこ?あー、あれかぁ」

白糸のように細い流れが、頭上から流れ落ちている。


愛紗は良く見て知っているので、にこにこしながら見ている。




崖の反対側は道路、と行っても細い道で
それも、少しの平地。

その下は、また崖で
栗の木が何本か生えていて。

「秋になるとね、あの木に栗がなるの」と、愛紗。

友里絵は「わー。栗ひろいしたいねー。」

由香も「うん、秋にまた来ようか」


愛紗は、まあ、栗は一杯なるので
拾わなくても100円で袋一杯だから

拾った記憶はない。



でも、拾うのも楽しいかな、なんて
友里絵を見ていると思う。



列車はごとごと、ゆっくり下る。


「いいねー、列車の旅って。」と、友里絵。


窓を開けていると、かたかたん、かたかたん、と

レールの響きが軽快だ。


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