30 / 361
雨に追われて
しおりを挟む「なんで?考えてる事わかるの」と、友里恵はちょっと由香とじゃれる。
「アンタ、声に出てた」と、由香は楽しそうに笑う。
「それにさ、ケータイなんだから勝手に変換されるよ、ふつー」と
由香はにこにこ。
友里恵も「そっか、そーだ。ね。でもさ、雨」
由香は「でもさ雨、って相変わらず飛ぶなぁ」
友里恵は「飛びます飛びます」
由香「オマエ、ほんとーにおばあちゃんだろ」
「ああ、たまちゃんが言ったのか」と、由香。
友里恵「そういう事言わないよ、アタシのたまちゃんは高級なんだもん。」と、笑顔。
勝手に所有物にしている(笑)と、由香は笑い、
高級ってなんだろうかなぁ。と思うけど
確かに、そういうギャグは言わないようである。
「それはそうと、飛行機飛ぶかな、あした。」
由香は真面目な顔で。
急に真面目になるな、と友里恵もいいつつ
「ちょっと怪しいね、これ」と、黒い空を見上げて。
「田村さんが、汽車で行けば、って」
「汽車ぽっぽかぁ、いいなぁ。走ってる?」と、由香。
よく知らないのはふつう。
友里恵も笑いながら「そう、愛紗がさ、夜行で行くって言ってたね、あれの事かな」
由香は「あれ?今乗ってるんじゃない?たしか、東京を16:30だって」
時刻をよく覚えているのは、職業柄。
乗客からよく、聞かれるのだ。
飛行機の時間、列車の乗り継ぎ。
バスは割と時間に融通が利く代わり、時間通りに走るのは難しい。
「メールしてみよっか」と、友里恵は
ちょこちょこっと。
ストラップの沢山ついたケータイで、素早く。
そういうところはJKのころのまま。
愛紗は、さきほどから止まったままのブルー・トレインの個室で
雨の音を聴いていた。
屋根が近く、湾曲している窓を
雨滴が流れていくのを眺めていると、感傷的な人なら
旅情に浸れるかもしれない。
でも、今は旅のはじまり。感傷よりは
運転の継続が心配だ。
サイレントにしてあるケータイの着信ランプが光る。
フォールドタイプではなく、スライド・キーボードの出る
ピンクのケータイ。
メールは、友里恵から。
「汽車は知ってる?」と、誤変換なので
愛紗は笑ってしまった。
友達のおかげで、気持ちが明るくなれた。
電話しようか?と思ったけど。
まだ会社だと困るから、メールでお返事。「今ね、静岡のちょっと先で停まってる。このまま走るかわからない」
と、返事。
由香から返事。「それじゃさ、新幹線で行ったら追いつかないかな、愛紗の列車に」
そういう経験を、バスガイドはしていたりもする。
電話していい?と、友里恵から。
うん、と返事すると、すぐに元気な声「あいしゃーぁ、げんき?」
友里恵である。
元気な声に、愛紗も元気づけられる。「うん、元気元気。どしたの?」
友里恵「あのさ、飛行機が飛ぶかわかんないから。その汽車に乗れないかなって」
愛紗はちょっと考え、「これから、お家に帰って支度しても・・・その間に
この列車が動いたら、乗れないね。追いついても、名古屋辺りかな。」
新幹線が動いていれば、の話である。
「したく、できてるよー。ね、由香」と、友里恵は元気だ。
早く遊びたいらしい。
その気持ちはよくわかる。なにせ、自由時間のほとんどない生活なのだから。
もとより、バスガイドは毎日が旅、である。
そんな生活を知らずに入るから、大抵は数年で辞めていく。
ドライバーも同じだ。
「行ってみよう!」と、友里恵は子犬のようにばたばた。
由香はその様子に微笑みながら「アンタさ、ぜんっぜん成長しないのな」
友里恵は少しふくれて「うるさい!なんだよ、前科男がカレシの」
と、おもしろい戯言
由香は怒って「アレは近所に住んでたたけの奴。カレシじゃない!」
団地の近所の子が、高校を中退して。
仕事が無く、ケータイの不正販売に手を染めて補導されたと言うお話で
偶々、由香の幼馴染だった、と言うだけの。
「でも、それはそうとさ友里恵、行くんなら早くしないと。次の新幹線に乗れるかどうか」
隣の三原駅まで行って、そこから新幹線だけれども
大雨で、そこまで行けるかどうかも怪しい。
在来線で行くにしても、それが運転見合わせになる事もあるのだ。
「~あなた、早くいかないで~」と、友里恵はふざけてるので
いーかげんにしろ、と。
由香は頭をひっぱたいた。
「いったーい、何すんの?」と、友里恵は止まらないので
由香、お手上げ(笑)。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
晩夏光、忘却の日々
佐々森りろ
青春
【青春×ボカロPカップ】エントリー作品
夕空が、夜を連れて来るのが早くなった。
耳を塞ぎたくなるほどにうるさかった蝉の鳴く聲が、今はもう、しない。
夏休み直前、彼氏に別れを告げられた杉崎涼風は交通事故に遭う。
目が覚めると、学校の図書室に閉じ込められていた。
自分が生きているのか死んでいるのかも分からずにいると、クラスメイトの西澤大空が涼風の存在に気がついてくれた。
話をするうちにどうせ死んでいるならと、涼風は今まで誰にも見せてこなかった本音を吐き出す。
大空が涼風の事故のことを知ると、涼風は消えてしまった。
次に病院で目が覚めた涼風は、大空との図書室でのことを全く覚えていなかった……
孤独な涼風と諦めない大空の不思議で優しい、晩夏光に忘れた夏を取り戻す青春ラブストーリー☆*:.。.
三角形のディスコード
阪淳志
青春
思いがけない切っ掛けで高校の吹奏楽部でコントラバスを弾くことになった長身の少女、江崎千鶴(えざき・ちづる)。
その千鶴の中学時代からの親友で吹奏楽部でフルートを吹く少女、小阪未乃梨(こさか・みのり)。
そして千鶴に興味を持つ、学外のユースオーケストラでヴァイオリンを弾く艷やかな長い黒髪の大人びた少女、仙道凛々子(せんどう・りりこ)。
ディスコードとは時に音楽を鮮やかに描き、時に聴く者の耳を惹き付けるクライマックスを呼ぶ、欠くべからざる「不協和音」のこと。
これは、吹奏楽部を切っ掛けに音楽に触れていく少女たちの、鮮烈な「ディスコード」に彩られた女の子同士の恋と音楽を描く物語です。
※この作品は「小説家になろう」様及び「ノベルアッププラス」様でも掲載しております。
https://ncode.syosetu.com/n7883io/
https://novelup.plus/story/513936664
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる