タビスルムスメ

深町珠

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雨、雨

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「明日からお休みでなかったの」と、田村は優しい言葉。

ちょっと、東北訛りっぽいところが、温かいな、と

友里恵は感じる。



「はい、そのつもりです。雨が、すごいですね」





田村は、ゆっくりと観光バスを走らせながら



「そだね。どこかへ行くの?」



友里恵は、ちょっと伸びてきた髪を気にしながら

「飛行機で、宮崎へ。由香と」





田村は、大きなハンドルを回しつつ

「おー。それは。宮崎って、日生さんと?」

友里恵は、愛紗の事をみんなが心配してるんだな、と
暖かい気持ちになった。

お父さんのような田村にそう言われると、そう思う。

まあ、変な奴に言われたら怒るだろうけど、そういうものだ。

ハラスメント、なんてのも
そういう、暖かい思いやりのない人たちの言葉で

ここ、大岡山では無縁である。



友里恵は笑顔で「はい。そのつもりでしたけど、この大雨では
明日、飛行機飛ぶでしょうか」


と、ちょっと心配。


「飛行機ね。そーだねぇ。そういう時は汽車がいいねぇ。飛ばないし」と
田村はにこにこして、ゆっくり、ゆっくりと
大型の観光バスを営業所の敷地へ入れた。


.....汽車。

友里恵はふと思う。
愛紗は、夜行で行くと言っていたけど.....。


携帯電話掛けようかと思ったけど、乗務中は禁止である。
当然であるが、そういう所で会社のイメージは変わるもので
バスガイドは、ある種タレントのような切り分けが出来ないと無理だ。


公私のけじめ、と言う事なのだが。それはドライバーも同じである。

日常の雑事は、運転席に入ったら忘れる位でないと、事故を起こす。



それで、友里恵は
バスを降り、格納(バスを車庫に入れる事を、こう呼ぶ)。を行う
田村の為に、後方確認を手伝う。

のだが、雨が激しいので、格納掛を今日はしている野田が
「ああ、いいよ。雨だから。早く仕舞って帰りな。休暇だろ。」と、日焼けの笑顔で。

雨合羽を着て、傘をさしている。


野田は指令だが、そういう仕事をきちんとこなす辺りが、人柄である。


「ありがとうございます、野田さん」と、友里恵は笑顔で。


野田は、いいよ、と手を振り「そういう時はマトモなのな、おまえら」と
豪快に笑う。


友里恵も笑って「普段はマトモ・・・でもないか。わはは」と。

田村の楽しい。「さ、お行き。由香ちゃんももう帰ってるんじゃないの?」


言葉が優しい。田村は東北の出身らしく、長閑で
皆に好感を持たれている。



はい、と。友里恵はバスを降りて、大きなバス用の傘・・・乗降の際、乗客にさしてあげたりするものだ・・・を、さして。

小柄な友里恵がさすと、なんとなくユーモラスだ。


風があるのであおられそうになりながら、整備工場の陰を通って。

整備は日曜は休みであるから、機材を仕舞っている石川が
整備服で黙々と作業をしていて。


友里恵が「おつかれさまでーす」と、元気に挨拶すると

石川は片手をあげて、にっこり。

野武士のような石川は、ガイドたちにも人気がある。


愛紗の同期生、菜由を奥さんに貰って。幸せである。



「いいなぁ、そういうの」と、友里恵はひところ

「赤ちゃんほしー」なんて言っていた17才だった自分を思い出し、
ちょっと恥ずかしくなった。


思い出しながら歩いて、ガイド詰め所に入ろうとして

「そうだ、メール着てるかな」と、バッグの中にある携帯電話を取り出して
見ると

由香から。「雨だってさぁ、ひこーき飛ぶかなぁ」と。


ひこーきくらい漢字で書け、と笑ってると


「ひこーきくらい漢字で書け、って笑ったろ、これ」と、由香が
目の前にいて。


「なんだ、いたじゃん」と、友里恵は笑った。






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