上 下
20 / 38

キャンパス

しおりを挟む


とはいえ、そんなに都会、と言う程でもない
地方都市、と言う感じの駅で、僕は電車を降りた。

遠くには山も幾つか見えるし、空も良く見える。

「環境は、いいね。」


駅前の看板を見て、スーパーの名前を探したが・・・。

さあ、さっぱり分からない(笑)。


駅員さんに聞いてみると・・・。「ああ、ひとつ戻った方が近いかも。
歩いても行けるけど。線路沿いに行けば、山の方に見えるよ、看板。」

・・・と言う訳で歩いていったが、結構ある。

夏の朝なので、そんなに暑いと言う程もないけれど。
まだ7時にもならない。


歩いているうちに、太陽が昇ってくると、段々暑くなってくる。


10分くらい歩いただろうか。

次の、急行が止まらない駅が見えた頃に、看板を見つけた。


「なーんだ。やっぱり電車で戻れば良かった。」

と。笑ってしまう。


でも、まだ朝8時前。
スーパーに行っても、搬入の業者さんくらいしかいないだろうなあ。

と、気づく。


「大学はどっちだろう?」

陽子さんは、短期コース、つまり短大に行ったのだけど
同じ校内にある。

たしか、山の上だとか・・・。

「まあ、今は夏休みだから、行っても誰も居ないな。」


と、ふらふらとスーパーの看板の方へと行ってみる。


スーパー、と言うよりも
ショッピングセンターと言うくらいの広さで
駐車場が、どーんと広く

2階建て。屋上が駐車場。


「すごいなぁ・・・。」と、思ってみていた。


僕の町の店も大きいけど、その倍くらいはあるみたい。


やっぱりボーリング場の跡地かな、なんて思った。

ボーリングが流行って、廃れて。
後は、スーパーになったり、映画館になったり。
いろいろだった。


搬入のトラックが出入りしているので


つい、なんとなくそっちの方へ、歩いていってみる。

広い県道沿いにあるこのお店。

搬入用出入り口は別にあり、その、トラックが往来している辺りから
ちょっと歩いて入ってみたり。


邪魔にならないように・・・と、端っこを歩いて。



と・・・・
ガードマンのおじさんが「キミ、ダメだよ入ってきちゃ」

ああ、見つかっちゃった(笑)

「すみません」と言って、戻ろうとした。

すると・・・。


「町野くん、町野くんだろ?」と、
搬入プラットホームの高いとこから、聞き覚えのある声。

振り向くと・・・・。

天然パーマ。色浅黒く。
にこやか、元気。

どこかで貰ったエプロンをしていて。「フランQ」とか書いてある・・・。


「副店長!・・・じゃなかった。原田さん!」


あの、副店長だった。


原田さんは、軽く、プラットフォームの階段を駆け下りてきて


「よーぉ、元気だったか。」と、僕の肩を叩いて、にっこり。

僕も、懐かしい、お世話になった人に会えて、嬉しかった。


「キミがどうしてここに・・・あ、そうか、沢口くんか、まだ出勤前だから。」と
記憶のいい人。

アルバイトなんて一杯いると思うけど。


「原田さんは、なぜここにいらっしゃるのですか?」と、尋ねると

「うん、本部だから、時々回るんだ。まあ、バイヤーと言うか・・・
アルバイトみたいなもんだよ、忙しい店のお手伝い」

と、偉くなってもそういう事を厭わずにやる原田さんは、いいなぁ、と思う。

会社も、そういう気風の会社で

「福祉の思想」を持っているから

陽子さんのような前途のある人には投資する。そういう感じなので


役職だろうと、仕事は仕事。出来る事はやる。

そういう人がリーダーになる、そういう会社だった。


「じゃ、寮へ行ってみるか・・・と言っても、女子寮だからなぁ・・・。」と、原田さん。


僕は「大丈夫だそうです、寮のみんなが『遊びにおいで』って言ってくれて。」
と言うと

原田さんはにっこり。「まあ、キミなら大丈夫だろうね。ちょっと待ってて。クルマで送るから。



と、言ってくれたけど


「いえ、お仕事のお邪魔になりますから、場所を教えてくだされば
歩いて行きます。」




原田さんはにっこり「そうか。ありがとう。場所はね、そこの次の角を曲がって少し行くと
ちょっとお洒落な建物がね、池のそばにあるから。

アメニティなんとか、って言う看板が出てるよ。そこが女子寮。」

と、原田さん。


「ありがとうございます。」と、僕は礼をして。

行こうとした。

原田さんは「お昼頃まで居るから、時間があったら事務所に寄ってね。
珈琲でも飲もうよ。」



と。


僕はにっこり「ありがとうございます。助かりました。お蔭様で。
女子寮の場所なんて聞けませんし。」と。笑。


原田さんは、搬入プラットホームに駆け上がり「じゃ!」と、手を振って。
仕事に戻る。



「颯爽としてるなぁ・・・。」と、僕は思う。



スーパーマーケットの店員なんて、一見つまらない仕事、と
見えるけど。

気の持ちようで、あんなに颯爽とした
ビジネスマンになれるんだなあ、なんて思った。


そう考えると、将来の職業選びも、ちょっと違って見えてきたりした。


鉄道員になりたいと思っていたけれど、もし、なれなくても
他に、いろいろあって。

その仕事なりの楽しさが見つかるかもしれない、などと。 




原田さんに教わった道順を辿ると

大きな池があった。
池の周りに道路があって。

僕は、みんなでツーリングした富士五湖を思い出していたり。

「精進湖もこんなもんだったな」なんて思う。


その湖岸道路から、ちょっと入ったところにあった
煉瓦ふうに見える、コンクリートの建物が

その、アメニティ青池だった。



お洒落な建物で、エントランスが広くとってあって
なんとなく「レストランかな」なんて思うような感じだけど
3階建て。


「まだ、寝てるかな・・・でも8時過ぎだから」

とは思ったけど、そう、女の子だと
寝起き見られたりすると怒るし(笑)

ノーメークは見せない、とか(笑)

「どっかで暇つぶして来るか」と
思って、湖岸を散歩しようと思って。


湖岸の道路は自然のままで、草花が生い茂っていて。

青池と言う名前だけど、水は青くなく
ふつうの透明な水。

水鳥がふわふわ。あひるかな。

ユーモラスな声で鳴くので心和む。

ぱたり、と、扉が閉じる音がして。

アメニティ青池から、誰か出てきた。

すらり、長身。漆黒の長い髪。

きりっ、とした凛々しいお姉さんは
なんとなく、知的な雰囲気の。


僕の方をちら、と見て

微笑む「旅行?」

お姉さんは、大学生だろうか。



「あ、あの・・・・僕、スーパーでアルバイトしてた・・・。」と言うと

お姉さんは唐突ににかっ、と笑って。
その落差が面白かった。

「ああ、キミ、陽子ちゃんのカレシでしょ!声で分かった!」


そう、電話を取ってくれたお姉さんの声だった。


「はい。ちょっと、近くまで来たもので。」と言うと

お姉さんは笑って「来るのは聞いてるわ、さ、入って!陽子ちゃんもわたしも
きょうは学校なの」


と、僕の手を取って広いエントランスへ。

・・・・学校あるんだな、なんて思って。



ふかふかのソファのあるリヴィングは、明るい。
柔らかい色の照明があり、結構な広さ。

1階は、ダイニングとバスルーム、プレイルーム、ロビー。
2階と3階がプライベートスペースらしい。


お姉さんは僕をソファに掛けさせて「わたしは麗子、うららって呼んで。
陽子ちゃんと同じ学校だけど、私は大学なの、あ、フダちゃーん、来たよ。陽子ちゃんの
カレシ」


よばれたフダちゃんは、ほえ、と言う顔で。
上下トレーナーのまま(笑)

「あ、キミかー。若いね。いくつ?」

僕が「16」



「16かー。いいなぁ。わたしも戻りたい。あ、私は礼子。この家ね、レイコが3人居るから
わたしはフダってよばれてる」


僕は、ちょっと笑った。


「あ、お姉さんを笑うと怖いわよー。あとで可愛がってあげるからね」と
にこにこ。

「陽子ちゃんは?」と、うらら。


ダイニングの方から「まだ、お部屋じゃない?」と言ってでてきた
ふんわりした感じの子。

「あの子はスズちゃん。玲子なんだけどね。なぜかスズちゃん。
鈴の字に似てるからかな、あの子は陽子ちゃんと同じ、短大」と。
礼子さんは言う。


「礼子さんは大学なんですか?」と僕が聞くと

「そう。ここの寮は全員。その方がいいでしょ?学生らしくて」


「なるほど・・・・・。じゃ、卒業したらみんな、寮から出るんですか?」


うららさんは「そう。だって、赴任先へ行くから。たぶん、みんなデザインセンター
だと思うけど。何をデザインするかはわからないけどね。
他にも何人かいるわ。ねえ、スズちゃん、マサエちゃんと靖子ちゃんは?」


「まだ寝てるんじゃない?」

「もー。遅刻するよ。ほんと。起こして来ないと。
ねえキミ、起こしてあげてよ。」と
うららさんはイタズラっぽく。


僕は「いやー。それはちょっと。可哀相ですよ、寝起き訪問なんて。
TVのバラエティみたい」

スターどっきり〇秘報告、なんてのがあった(笑)。


「はは、ほんと。でも、面白いじゃない?ついでに陽子ちゃんも起こしてあげれば?」 


と、礼子さん。


なんか、いたずらに巻き込まれて、僕は二階へ。

階段は内側で、ふつうの家みたい。

廊下が長く、部屋は片側だけ。

端っこが靖子さん、かな。


「おはようございますー」と、スズちゃんがふざけて。

ドアを、コンコン。


とてとて、と、歩いてきて「起きてますー。」と、
ドアを開けたのは、

色白の美人さん。ちょっと小柄で
黒目がちの。

ちょっと中東ふうにも見える。


僕にどっきりしたけど、スズちゃんが居たので「おはようございますー。」と
ドアを閉じた。


「さ、次は面白いぞー。」と、スズちゃんは、隣のドアを、コンコン

「遅刻するぞー、こら!マサエ!」


どたどたどた・・・・。(笑)

ドアをがちゃ。

「遅刻、ウソ、何?、あんた誰、いやーオトコー。いや!」
と、ユーモラスな丸顔にソバージュの色浅黒く、愛らしい子は
ちょっとふくよかにまんまる。

かわいらしいふわふわパジャマ。

と、ドアを騒々しく閉じた。

スズちゃんは「ははは」と笑って。

「奥が陽子ちゃんだけど。もう起きてるだろうから、あなた、行ってきて」

3階は、レイコシスターズの部屋、らしい(笑)。


「え、僕は・・・いいです。遠慮しておきます。」
と、ちょっと、たじろぐ。

寝起きだったら可哀相だし(笑)


「優しいのね。じゃ、わたしが」と、スズちゃんは
陽子さんの部屋のドアをコンコン。


かちゃ、と、扉が開いて

陽子さんは、僕を見て、にっこり。

「ああ、来てくれたのね。」
もう、出かける支度をしていた所だった。





「うらら、そろそろ時間。」と、フダちゃん。

「あ!大変。じゃ、きょうはクルマで行こう!みんな、支度したら
わたしの車へ」
と、うららさん


僕は、ぽけっ(笑)

「あ、キミも乗ってく?大学、楽しいよ。講義ないし。
見学してけば?」と。

「はい。」


「フダちゃんはよし、スズちゃーん、靖子ちゃーん、陽子ちゃーん、マサエちゃーん!」 


うららさん、リーダー(笑)。


「もうすぐ、お掃除さんが来てくれるから。そのままでいいわ。」と、うららさん。

僕は、表に出てみると。

アイヴォリーのVWバスが、停まっていた。

「空冷だ、珍しいなぁ」と、僕が言うと

「そう。叔父のなの。借りてきた。沢山乗れると便利だし。」と。

玄関から、陽子さん、スズちゃん、靖子さん。
それぞれにお洒落な服装。


靖子さんは、白いシャツにスカートと
おとなしい。

色白なので、よく似合う。

「美人でしょー。靖子ちゃん。山形美人なの。手だしちゃダメよ」と
うららさん。笑う。

靖子さんも、にこり、と笑う。

笑うとかわいい(笑)。


「あーとは、マサエちゃんか。あいつめー。」とうららさん。


スズちゃんが「呼んでくるー。」と。
言ったら、出てきた。

まだ眠そうに。

「これ!マサエ、なんばしょっとか!」と、うららさん。


「九州ですか?」と聞くと

「うんにゃ、茨城だっぺ。」と言うので
みんな、笑った。



VWバスに乗り込んで、小窓を開けて。

セルモータが、きゅるきゅる。

「バッテリーが少し弱いみたい」と、僕が言うと

「あとで見て」と、うららさん。


エンジンは、でも、掛かる。

お掃除のおじさん、おばさんたちと
入れ違いに走っていくVW。

うららさんは片手を上げて、ご挨拶。

凛々しい。


「大学は山の手だから、スクールバスがあるんだけど
夏休みは運休」と、スズちゃん。


「時々、学校に出るんですか?」と、僕が聞くと


「そう。3年、4年はね。卒業制作があるし。」と、フダちゃん。


「あたしはないけど」と、後ろからマサエちゃん。

「ないんですか?」と僕が聞くと

「だって音楽科だもん」と。

靖子ちゃんもこくり。


「いいわねぇ、音楽は。消えちゃうし。」と、うららさん。

「でも、試験はありますけど。作曲とか。」と、マサエちゃん。


「音楽学校もあるんですか?」と、聞くと

「そう。芸術系学校なのね、ここ。」と。スズちゃん。


音楽大学と、専門学校があって。
他に、演劇もあるらしい。

「美大だと思っていた」と、僕が言うと

「それは、そう。隣にあるだけだから」と、うららさん。


「スーパーで、音楽って?」と僕が聞くと

マサエちゃんが「ほら、休憩室で鳴ってたBGMとか、CMソングとか。
ああいうの作ったり。音響デザインとか。」と。

いろいろあるんだな、と思う。


「うちの会社はちょっと、変わってるから。福祉の思想ね。」と
うららさん。

「それは、僕も感じてます。前、バイトしてたから。」と、僕が言うと

「あ、それで陽子ちゃんと・・・か。」と、フダちゃん。


「まあ」と、僕と、陽子さんは
ちょっと恥かしくなった(笑)。



「じゃ、お知り合いになったのはいつごろでー。」と、マサエちゃんが言うと


フダちゃんが「新婚さんいらっしゃい!、じゃないんだから」と。


みんな、笑顔。


「さ、着くよー。」と、うららさん。
山道の、曲がりくねった道路を
ゆっくり登ると、大きなキャンパスが見えて。

並木道。

左右に、テニスコート、グラウンド。

建物、いくつか。

その、奥まで行って
VWバスを停めた。

「普段は、車じゃ来れないけど。停めるとこないから。
でもまあ、きょうは休みだし。」と。


「キミはどうする?」と、僕に聞くから

「景色でも眺めて、学食カフェかなにかでのんびり」と言うと

「キミ、分かってるね。学食はそっち。なんか飲み物はあるでしょね。」と
うららさんは、てきぱき。


それぞれに流れ解散。



陽子さんは「じゃ、あとで・・。」と、にっこり。


そういえば、何も話してなかった(笑)。





案外な山の上なので、景色はいい。







街を見下ろしていて、思い出した。

「あ、原田さん・・・珈琲飲もうって。」

お話、したかったな。

「でも、どうしよう?・・・あ、そうか、電話掛けよう!」

学校の玄関は、バスロータリーになっていて
電話ボックスがある。

「さて・・・電話番号は。」

置いてある電話帳は、日に焼けて反り返っていて
ペーパクラフトの造花みたい(笑)


「えーと・・・スーパーマーケット、と。」

職業別で探すと楽だ。

「あ、あった。」

10円玉入れて、ダイアルを回す。

じー、ころころ、じー・・・。


呼び出し音・・。

かちゃり。


さっきのガードマンのおじさんの声だ。

まだ開店前なので、社員はいないらしい。


「あ、あの、さっき僕、原田さんと話していた者ですが・・・・。」

と言うと、ガードマンのおじさん


「ああ、さっきの子。何?」

と言うので「原田さんにちょっと用事があって。」

と言うと、ガードマンのおじさん「キミ、あ、いえ、あなたは
原田部長の・・・お知り合いですか?」



原田さん、部長なんだ。へー。

偉くなったなあ。と思いつつ。


「はい、以前お世話になったものです。町野と言います。
原田・・部長はいらっしゃいますか?」



ガードマンのおじさん「今、会議中ですから、お託でしたら・・・。」と

言うので

「それではお伝え下さい。僕は町野ですが、丘の上の大学に来てしまって
お昼までには戻れないかと思います。お誘いありがとうございました。残念です。」

と。
ガードマンのおじさんは「了解致しました。お伝えいたします。それでは失礼致します。」 




へーぇ。本社の部長って言うと、偉いんだろうなぁ。

どの位偉いのか知らないけど(笑)。


気さくで、いい人だな。



それから僕は学食に行って、お昼のメニューを見ていたりして。


スタミナ丼。
ラーメン。
カレー。
きょうのランチ。

ふつうっぽいけど、結構お洒落で

カレー、と言っても
銀のお皿に盛ってあり、ルーは、別。

スープとサラダつき。
230円。

「安いなぁ」


まだ、お昼に早いから・・・。




コーヒーを頼もうか、と思ったけど

ティーサーバーに、麦茶とお茶が
飲み放題になっているから(笑)

それにした。

なにせ、苦学生である(笑)。




ひろーいテーブル。長いのとか、4人掛け、6人掛け。

いろいろ。
壁際にひとり掛け。


「バラエティがあるね。」


壁には、なんだか分からない絵とか(笑)。

芸術学校らしい。


演劇のリサイタルのポスター。

音楽会。

クラシックの演奏会。


「いいなぁ、大学」


僕は、行けないだろうと思っている。

お金、ないもんね(笑)。





麦茶は、結構濃くて美味しかった。

「お水も美味しいね」と、思う。



「あ、ここにいたの。」との声に気づく。


陽子さんがにっこり。

「お休み時間?」と僕が聞くと

「うん。きょうはね、自由制作みたいだから。」と。

後で、夏休みの終わりに出す、宿題みたいなものだけど

持ち帰って作れない時は、学校で作るそうだ。


「どんなの作ってるの?」と、尋ねると

「立体造形」と、陽子さん。


「見せてよ」と言うと

「見てもわかんないと思う」と、壁にある絵を指差して。

「そうだね」と、僕も笑う。

芸術ってわかんないな。

音楽なら分かるけど、あれもクラシックみたいなのは
よくわからないのもある(笑)

ジョン・ケージとか。



窓の外を見ていたら、真っ赤なコスモが登ってきた。

「あれ?もしかして。」


バスロータリーの手前のパーキングに停めて。


原田さんが降りてきて。

「あ、陽子さん、原田さん!部長なんだって。」


陽子さんは「うん、知ってる、社員だもん」


僕は「そっか」と、笑って。


表に出て。

「原田さーん、こっちですー。」


ロータリーを歩いていた原田さんは、駆けて。

若いなぁ。気取ってないなぁ。


僕も、駆けていった。


「すみません、来てくださって。」と、僕。

原田さんは「いや。沢口くんの学校を見たいのもあって。
すごいねー。ひろいねー。」
と、はっきりした言い方が、愛らしい。


陽子さんも駆けてきて「原田部長、お世話になっております。」


原田さんは「社外では部長はなーし!」と、笑う。

みんな、笑顔になった。


「そっか。町野くん、バイト辞めたんだってね。」と、原田さんは言うので


「はい、いろいろあって。」


原田さんは「うん。聞いてる。災難だったね。僕が知ってれば
なんとかなったんだけど。今は?」


僕は「ちゃんこ鍋屋さんでバイトしてます。」
と言うと、原田さん


「おー、あそこの店長知ってるよ。GT-Rに乗ってる。
そうか、あそこか。バイト料いいもんな、あそこ。
もしさ、町野くんが、卒業したらさ。
うちの会社に、もし良かったら来てね。

人事に言えば、入れるよ。

そうすれば、沢口くんみたいに・・その、奨学金出るし」


と、原田さんはすごい事を言ってくれた。


「ありがとうございます!」と、嬉しく思った。

そういう事を言って貰える程、何もしていないのに。


思いやりっていいなぁ。

そう思った。




それから、原田さんは次のお店に行くからと
真っ赤なコスモに乗って。手を振って
走っていった。

陽子さんと僕は、見送って


「いい人だね、原田さん」

「ほんとね・・・・・。」


あの人に恥じないように、しなくちゃな。

そんな風に思った。





「午後からは休み」と、陽子さんが言う。

「仕事も?」と、僕が聞く。


学食には、少しづつ
学生さんの姿が見えてきた。
10時半くらいか。

丘の上の学校なので、クーラーが無くても涼しい。

遠くに富士山が見える。


「そう。仕事は休みの日なの。」と、陽子さん。

「うららさんたちも?」

「そう。みんな、休日をずらしたの。」と、にっこり、陽子さんは
そうしていると、最初に会った時よりも少女っぽく見える。

学校なので、メークアップをほとんどしていないのもあるかな。


「なんか、邪魔しちゃったみたいな・・・。」と、僕が言うと


陽子さんはかぶりを振り「ううん、みんな、あなたに会って見たかったんだって。」

と、にこにこ。



「女の子だなぁ」と、僕は思う。



僕らは、あんまり、友達の彼女がどんなでも
気にすることってないけど(笑)


陽子さんが教室に戻ると言うので
僕は美術教室の方へ、ふらふらついていって。
見学をしながら。

美術科、と言うか
美大の建物は、ここの正面にあって。

元々は美大だけだったけれど、子供の数が増えたので
短大、専門学校。

音大、演劇学校。

とか、増やしたそうだ。

いくつかの楽器メーカーとか、画材メーカー等の
協力があったそうだ。


「まあ、そうすると芸術に親しむ人が増えていいよね。

と、僕は思う。


小学校の頃、ブラスバンドが作られて
僕は、ちょっとだけトランペットを吹いたりした事があった。

冗談で「タブー」を吹いたりして

よく叱られた。


そういう風に、楽器に親しむのもいい事だと思う。

「絵もそうなんだろうなぁ」と。

絵の具の匂いのする、廊下はちょっと暗い。
だいたい、絵画のあるところは日射を嫌うので
そういう感じ。


どこかで裸婦デッサンでもしていないかと思ったが(笑)

それは残念ながら、無かった。


真剣に、何かを描いているようだ。


陽子さんは「立体造形」と言っていたから・・・。


彫塑みたいなものかな、なんて思って。


とことこ歩いてみる。


「おお、キミか。」と、聞き覚えのある声は

うららさん。


あちこち絵の具のついたエプロンをして。
シルバーフレームのメガネを掛けて。

「はい。知的に見えますね。メガネ。芸術家みたい。」

と、僕が言うと

「私は、知的なのかな?元々」と、楽しそうに笑うと
可愛い笑顔になって。

とても魅力的。


「うららさん3年生なんですか?」と聞く。

「そう。今が一番楽しいね。」と。にこにこ。

「来年は卒業だから?でも、就職先は決まってるでしょ?」と、僕が言うと

「卒業制作がダメだと、出られないもの」と。


「絵って、そういうもの?」と、僕が言うと

「そういうものなの。」と、にっこり。

でもだいじょうぶよ、と。

「陽子ちゃんは立体だから、大抵大丈夫ね」と。うららさん。

「なぜですか?」


「あのジャンルは結構、まだ新しいから。評価が割れても問題ないし」



と、うららさん。


「なーるほど」


「それに短大だしね」とも。


「作家になるのに学歴って関係ありますか?」と尋ねると

「ない。ないわね。才能だけね。でも才能ってひとが決めるの。
多くの人が『いい』と思うのが才能」と。うららさんは凛々しく。

ちょっと仰ぎ気味に、空を見て。


「まあ、僕にはわかんないけど」と言うと

うららさんは楽しそうに笑い「そんなもんよ」


「音楽なら分かるけど」と言うと

うららさんは「じゃ、音楽科の方へ行ってみたら?楽しいわよ、きっと」


と。

それじゃ、そうするかな、と

元来た道を戻って、玄関の方へ。


「えーと、音楽科はどっちかな」と。


ふらふら歩くのも楽しい。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

処理中です...