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あなたの風になりたい
しおりを挟む「お昼よ。」と、陽子さんはにこにこ。
階段を上がって、僕の部屋に。
「ありがとう。ほんと、なんだかお世話になってばかりで。」と
僕が言うと
「いいの。お世話したいの。」と、陽子さんは
クラスメートみたいな口調になる。
ふたりきりの時は、そうなるみたい。
家だと、お姉さんでいないとならないから。
本当の気持を出しにくいんだろな。なんて、思ったりも。
お昼は、軽めに。
イングリッシュマフィンのサンドイッチ。
割と、油っぽいものでも、お魚のフライでも似合う。
お野菜のサラダを挟んでもいい。
「孝くんは?」姿が見えないので、聞いてみると
「友達の所に、宿題を見せて貰いに・・・。」と、陽子さん。
笑顔。
「ああ、僕らもやってたっけ。」と、僕。
たまごサンドを頂く。
「たまご好きね。」と、陽子さん。
「うん、なんとなく・・・。」と。僕。
「優しい感じが、いいわね。」と、陽子さん。
「勉強はできそうね。」と、陽子さん。
「・・・・そうでもないけど。あんまり勉強って好きじゃない。」と、僕が言うと
「私もそう。楽しく学べるといいなぁ。」と、陽子さん。
「絵の勉強は楽しいんでしょ?」と、尋ねると
陽子さんは「そう・・・キチンとした美術って、難しそうだけど、でも
文章が出てこないから。絵でしょう。なんか、わかるもの。フィーリングで。」と。
「まあ、美大に受かるかどうかはわからないけど」と、陽子さん。
和やかな時間が過ぎる。
「じゃあ、僕は歩いて駅まで行くよ。」と、お昼を食べたあと
僕。
「そう・・・・私も、お見送りに行くと泣いちゃいそうだから。
クルマ運転できないもの。帰り。」と、陽子さん。
「泣いた顔なんて、祥子には見せられないし。
あの子もつられて泣くわ。」
と、お姉さんもつらいなぁ、と、僕も思う。
その、少しあと。
僕は、来たときの服装に戻って、部屋を出る。
見回すと、感慨。
「いい休日だったな・・・・・。」
また、来れるかな?
それは、わからない。
階段を静かに下り、祥子ちゃんのお部屋の様子を伺うと
静かに眠っているようだったので。
リビングの陽子さんに、小声で挨拶して。
「それじゃ、また。」と。
陽子さんも、ちょっと淋しそう。でも、妹がいるから、と
耐えている。
あんまり長居すると泣いちゃいそうだから、僕も
そのまま、「お見送りはいいよ。」と。
玄関から、スニーカーを履いて。
さく、さく・・・。と、足もとの砂を踏みしめて。
駅へ歩いた。
松林を抜ける風が涼しく、もう秋だなぁ、と。
ちょっと、おセンチになる。
駅で、切符を自動販売機で買って
駅員さんに挟みを入れて貰って。
「ああ、お帰りですか。また、いらしてください。」と。
来た時のおじさんだった。
そのひとことで、この3日の間の出来事を回想した。
ああ・・・終わっちゃった。
クリーム色と水色の電車が、すぐにやってきて。
かたこと。
ドアが、がらり、と開く。
乗客はほとんど、誰もいない・・・・。
日陰の向かい合わせシートにひとりで座ると
電車は走りだした。
さよなら、夏。
僕は、思い出して
祥子ちゃんの手紙を、読んでみた。
かわいらしい文字で。
もしもなれたら、風になりたい。
風に、なれるかな?
あなたのかたさき、髪をまきあげて
ちょっと、いたずら。
あなたの風になりたい・・・。
と、愛らしい詩が書いてあった。
「文学少女なのかな。」と
可愛らしい笑顔を思い出したら、淋しくなって
泣きたくなった。
・・・・いい休日、だった。
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