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old fashioned love song
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呆気なく免許が取れたので、自分のバイクがほしくなる。
兄のTYは、兄がクルマの免許を取って
乗らなくなると、母が強奪。
この頃は戦前の名残で、そう言う親も居た。
で、チャピィに変えてしまったが
(兄もこの性格が災いし、若くして死す。桑原桑原たけし。)
兄はGR50の中古を買って来た。
6万。
1500km、3年落ちだから
当時はバイクって安かった。
新車で10万である。
それを、チューニングして。
圧縮比を上げ、充填効率を良く。
125ccノーマル並みの速さになった。
でもまあ、気分としては...。250cc位はほしい。
GTがいいかな、RDかな。
この頃、学校で授業中に『お手紙』が回って来て。
「ねえ、オートバイ持ってる?」
クラスの女の子、尚子だった。
バスケ部だったかな。
なので『50はあるよ』と。
ふつうにクラスメートで、割と可愛いコだった。
でもまあ、陽子さんの方がいいなぁ、なんて。
家族の為に、健気に頑張る19歳。
希望を持ってほしい。
そう言う人の為に、何かしてあげたい。
僕もそう言う人種。
なら、オートバイを買わずに
父の療養費にすれば、とも思う。
でも兄が「高校生のうちはいい。遊べ。学生時代じゃないと出来ないぞ」
そう言ってくれたので。
アルバイトで買う、そう言う約束で
バイクに乗れた。
(ただ、買ったバイクは兄も乗りたかったらしい。)
当時の家族って、そんな感じだった。
これは、日本中がそう言う感じだった。
いい時代だったんだ。
会社も、学校も。
でもまあ、若者だから
なんとなく、死、の匂いのあるものに憧れる。
オートバイもそうだし。
ハード・ロック。 そういうものだと思う。
僕は、なんとなくその、中学のクラスメートだった
朋ちゃんの刹那なところが、気になったりもして。
Led Zeppelin の stairway to heavenを思い出して。
ちょっと悲しくなったり。
あの、前奏のギターのアルペジオを
弾いているつもりになって
左手はコードの形になったり。
・・・なんで、あんなに刹那な16才と
明るい19歳が居るんだろうな。
と、陽子さんのことも思った。
恋・希望。
そのどちらかなんだろうな、なんて
思ったりもした。
朋ちゃんは、どういう訳か失望をしたようだった。
でもまあ、それに関わるほど
アルバイト生活は暇では無かった。
生きていく。
その為には、悩んでいる暇なんてないのだ。
その気分をぶっ飛ばすには、やっぱり
ハード・ロックかな、と。
まだ、ウォークマンが無かったので
心の中で音楽を繰り返していた。
Deep Purple のハイウェイ・スター。
ライブ盤が好きだった。
「そろそろ、部活動を決めないと」と言う
小野君の言葉を思い出し。
「じゃ、軽音にするかな」
事情は判ってくれるだろうし、バンドでなくソロなら
文化祭も問題は無い。
練習しなくてもいい曲を弾けばいいから。
稔くんは、意外にも体育系で
陸上部に入ったらしい・・・のだが。
あんまり練習には出ないようだった(笑)忙しいもんねぇ。
この学校は、あんまりスポーツの成績とか
そういうものに拘らない学校だった。
県立だし、PRの為にスポーツや、学業を使うのは
芳しくないと言う教育委員会の考えだった。
(それはそうですね)。
スポーツは、心を鍛えるもの。結果は二の次。
正論だが、中々そうはならないな、なんて事を
少年なりに思っていた。
あの、スーパーの食料品チーフの近藤正臣似くんも
好きな陽子さんが相手にしてくれず、僕を可愛がるので
八つ当たりに仕事上の立場を利用して、怒鳴る、怒る。
仕事の為にならないのはあたりまえだけれども。
あんな大人には絶対なるまいと思った(笑)。
ーーーそういう訳で、稔くんは相変わらず
授業が終わるとどこかに居なくなっていた。
僕は、放課後になると
アルバイトがあるので。
この頃は午後6時から、出ていたから
それまでに家に帰って、着替えてからスーパーへ。
4時半くらいには下校しないと忙しい。
「クラブ、どうしよっかな」と思い
やっぱりLM、軽音にする事にした。
表向きはロック禁止、エレキ禁止であったが
(まだ、エレキが不良と言う偏見が残っていた時代である)。
「えーと、クラスでLMの奴は、誰か居たかな?」
思い出してもよく判らないので、学級委員の女の子。
理恵ちゃんに「クラブね、LMにするから」とだけ言っておいた。
先生には伝わるだろうから、急かされる事もない。
まあ、どの道幽霊部員になるのだし(笑)。
理恵ちゃんは、このクラスではひとり。
この頃、割と人気のある名前だった。
別のクラスにも何人か居た。
このクラスの理恵ちゃんは、髪はさっぱりストレート。ちょっと長めのボブ、と言う感じで
シルバーフレームの眼鏡を掛けて、もの静かな文学少女と言う感じだった。
話をした事が無かったのだけど、卒業後の5月、街で
横断歩道の信号を待っている僕に、後ろから声を掛けて来たりして。
ちょっとびっくりした記憶がある。
学校で声を掛けられた記憶が無かったから。
淋しかったんだろうな、卒業で。
そんなことを、今思う。
ロックのことを考えていたら、なんとなくギターの音がしたので
音の方向へ行って見ると、階段の下の倉庫、みたいな所に
小さなアンプとギターを持ってきて、何か弾いているようだった。
「弾くのは面白そうだ」と思う。
どちらかと言うと、ジョージ・ベンソンみたいに
綺麗な音でメロディを弾くのはいいな、とも思っていた。
管楽器の方が実は得意で
小学生の頃から、トランペットで鼓笛隊に入ったり
(でも、買えないので辞めたが)
中学になると、ブラスバンドの連中が仲間だったので
いろいろ吹いたりした。
低音楽器がメンバー不足、なんて時。
割と、あれは誰でもなんとかなってしまう。
ユーフォニーム、とか、チューバとか。
そんな事を思いながら、二階への階段を上がると
北校舎との連絡通路に、ジュースの自動販売機があった。
紙パックの牛乳、フルーツジュース。
いつでも買えるので、よく休み時間に飲んでいる人が居る。
ホントは禁止だが、まあ、おおらかな校風である。
ふんわりした気持で歩いている。
二階なので、窓の向こうに雲が見えて。
そろそろ、夏の雲のように真っ白な雲が見えている。
ノリちゃんが、ちょっと緩めのワイシャツ姿で。
暑がりなので、夏服はありがたい。そういう感じだ。
でも、黒いズボンは暑いみたい。
ちょっと緩めかな。ドカン、と言うズボンだろうか。
僕のもそれに似ているが、これは単に貰ったズボンが
太すぎただけだった。
「何見てる?」と、ノリちゃんは直裁に話す。
いつもそういう話し方だ。
僕は「ああ、雲。夏だなー。」と、にっこりすると
ノリちゃんも笑顔で「夏休みに行きたいなぁ、ツーリング」と。
ノリちゃんは10月生まれなので、まだ免許は取れない。
「そうだね。」と、僕はそれだけ言って
夏の雲を見た。
開け放たれた窓から、爽やかな夏の風、のような
薫り高い風が流れてくる。
「免許、取るの?」と、ノリちゃん。
僕は「もう取ったよ。5月生まれだから」と。
学校には持ってきてはいない。万一落とすと
持っている事がバレてしまい、ピュンピュン丸先生の
面子を潰すから。
それに、風紀委員の先生、丸坊主でいつも竹刀を持っている
ヘンな、小早川が見つけると面倒だ。
何かと因縁を付けられると面倒なので、職員室に行くときも
小早川が居ない時に、みんな、していた。
以前は結構、ツッパリの生徒と喧嘩したりしたらしい。
(ちなみに小早川先生は剣道部ではなく、世界史教師である)。
だから、僕らは世界史を選択しないようにしていた(笑)。
そういう理由で結構、決まってしまったり。
渡り廊下なので、いろいろな人が通る。
三年生も通る。丸川先輩は、いわゆるツッパリで
髪をオールバックにしていて。
でもいい人で、僕らに会うと「なんかあったら言えよ。北高の
平和は俺達が守る」と。
昔風の義賊、なんだろうか。
番長、みたいな怖いものとはちょっと違うイメージだけど、
この時代はどこでもそういう用心棒のような人が居た。
頼りになる兄貴、みたいな。
そう、あのスーパー、ヤオセイでも
お肉屋さんのお兄さんがそれふう、で
左手の指が何本か、無かったり。
その人は、僕が「おはようございます」と
夕方でも挨拶すると
ニカッ、と笑って「よぉ、学生。頑張るな」
僕の事は、誰かから聞いているのだろう。
なので、あの近藤正臣似くんのハラスメントは
朝が早いお肉屋さんが帰ってから。
「・・・まったく、セコイ奴」と、僕は思う。
昼間は、あの人が居るから
陽子さんも安心だろうな。そんな風にも思った。
ーーーーーー
そのうち、夏休みが来れば。
子供の頃は楽しくて仕方なかった夏休みも
「アルバイトに長く出られるな」
その位の感覚しかなかった。
でも、それは人が足りなければの話で
どちらかと言うと昼間の時間は暇だから
パートのおばさんとかが多く居て
僕ら、学生アルバイトの出番はあまり、ないようだった。
下校しながら、自転車を走らせて。
田んぼを渡る風が、蒸し暑く感じるようになる7月である。
梅雨の間は、自転車通学も参る。
雨合羽に、傘。
傘は本当は禁止だから、正門に行くと
風紀委員が煩いので、みんな、裏から入っていた。
通学かばんにカバーをするのが面倒なので、僕は
スポーツバッグをたすきに掛けて、その上から
合羽の上を着ていた。
だから。
着膨れたカッパ、そんな感じで
「こんな姿を陽子さんに見られたくないなぁ」なんて
アルバイトに行く時は、傘だけで出かけたりした。
ジーンズにTシャツ。
だいたい、安物だったけど、無地の青や緑、そんな色のものを着ていて
ブルー・ジーンズは、裾の広がったものを探して着ていた。
色を落としたりしていない、ナチュラルなもの。
髪も伸びてきて、ちょっとはミュージシャンふうに見えるだろうか、なんて
思ったりもした。
パーマは学校で禁止なので、真っ直ぐで長いままだったけど、
たまーに、母のホットカーラを使って、ウェーブをつけて
アルバイトに行ったりした。
そうすると陽子さんは僕を見かけて
「ステキね。かわいいわ」と。
陽子さんにかわいい、と言われると
うれしい。
他の人に言われたら「子供じゃないんだから」って
可愛いはない、なんて言い換えさせたりするんだけど(笑)。
そんな、ある日。
夏休みに入ろうか、と言う頃。
閉店時刻が7時で、その日は
八百屋のバックヤード、学校の教室くらいの広さのそこで
僕は、きゅうりの袋詰めをしていた。
きゅうりを何本かいれて、ビニール袋の口を
テープの回ったセッターに通すと
よく見かける、テープがくっついて封が出来るあれ、が出来る。
結構難しい。
それをしていると、陽子さんが
私服に着替えて。
僕のそばに来た。
僕は顔を見上げると。
「あの、ね。私、支店に戻る事になったの。」
陽子さんは、複雑な表情をしていた。
晴れやか、なんだけど、どこか翳りがある、と言うか。
僕は、ちょっとその表情が気になった。
「良かった、と思います。何か、気になる事があるんですか?
僕で良かったら、聞きます。話して下さい」と、努めて笑顔でそう言った。
陽子さんは「でも、ここじゃ・・・・・。」と。
視線を落とす。
僕は少し考え「それじゃ、今日は早退にします!この袋詰めが済めば、大丈夫。」
と言うと、陽子さんは「それじゃ悪いわ、一時間くらいだったら
わたし、待ってるから、隣の喫茶店で」
ここのスーパーは、潰れたボーリング場の建物そのままなので
喫茶店、ゲームコーナーはそのまま営業していた。
並びの建物なので、そんなに気になる距離でもない。
と、陽子さんは気を遣ってくれたが、僕は少年なので
「はい、でも、ホントに一時間くらいなら早退できます。」
事実、八百屋の仕事の後は時間潰しのようなものだった。
店内の陳列等は、どうでもいい仕事なのだった。
僕は、事務室に直ぐ行って、まだ残っていた副店長に
「すみません、少し早退できませんか?」と言うと
副店長は、事情を察した表情で「いいよ、直ぐ帰りな。八百屋の残りは
俺がやっておく」と。
陽子さんと僕の事は、店の中の誰もが知っているから、でもあった。
その陽子さんが、いなくなるので
副店長も、よくものの判った人だった。
僕は、ロッカールームに行って
八百屋さんの上着を脱いで。
いつもの、Tシャツとジーンズに戻った。
そして、通用口から出て。
陽子さんの姿を探した。
もう、社員はみんな帰ってしまって
誰かに見つかる心配はないけれど
それでも、ちょっと気になるのだろう。
少し離れたところの、電話ボックスの所に
陽子さんの姿を見つけ、安堵した。
白い、麻だろうか。
夏服のワンピースは袖が小さく付いていて。
空色の編みこみが、細いストライプのよう。
「ごめんなさい。待ちましたか」
と、僕が言うと、陽子さんはにっこりとして
「君と、最初のデートだね。」と。
デート、なんて。考えた事も無かった。
そんな余裕は無かったんだ。
なにせ、学校とバイト先の往復。
夜9時頃、帰宅してそれから入浴、食事。
寝るのは11時過ぎだった。
それでも、まだ新聞配達よりは楽だけれども。
陽子さんは、意外に楽しそうで
「ずっと誘ってくれないんだもん、私って魅力ないんだって
落ち込んじゃったのよ。」と
ちょっと、お姉さんの顔をして、そう言った。
実は女の子を誘った事はない。
誘い方も知らなかった。中学の頃は、なんとなくグループで
遊んでたから、誘うことも無かった。
僕は考え「じゃあ、喫茶店にでも行きましょうか」と言うと
陽子さんは「わたしの部屋に来ない?直ぐ近くだから」と言うので
僕は、自転車を取ってきて。
いつもの通学用だ。
陽子さんは「いつも自転車なのね。時々見てた」と。歩きながらにっこり。
お店沿いの国道を、町とは逆の方向に少し歩いて
グラウンドのある斜めの道、車は入れないので、ゆったり歩いて
三つ目の路地の奥に、陽子さんの部屋はあった。
コンクリートの三階建てで、外階段の。
よくありそうな鉄筋アパートだった。
割と新しかった。
白い吹きつけ壁が高級感を醸している。
「ここの三階の角ね。」と、陽子さんは
中央にある階段を先に登る。
音がしないように静かに歩く陽子さん。
上品な人だなぁ、と
僕は一歩離れて。
ドアはシリンダー錠で、重厚な感じのマホガニーのドアだった。
がちゃ、と、鍵が外れる音がして「さあ、どうぞ」
綺麗に片付いていて、仄かにいい香りがする。
陽子さんは玄関の灯りを点けて「狭いけど」と。
2DKなので、狭くは感じなかった。
あまり家具を置かず、シンプルな内装だった。
「ちょっと待ってて、お茶いれるから」と
陽子さんはダイニング・キッチンへ。
僕は、洋間にあるソファに腰掛けた。
窓にはカーテンが掛かっていて、表がどんな様子かは判らない。
静かだ。
「お待たせ」
夏なので、スパークリングかな。
シトラスの香りがする炭酸が、氷の満たされたグラスに。
綺麗に磨かれたグラス。
僕とは住む世界が違う人だなあ、と
一瞬思ったけど
陽子さんも、弟たちに仕送りをしている人なんだな、と
改めて気づく。
僕は、一気にそのシトラスを飲み干そうとしたが
炭酸が強く、途中で止めておいた。
陽子さんは「そういう所は男の子ね」と
にこにこ。
「そういうとこ?」と、僕は笑顔で聴き返すと
陽子さんは「君って、女の子みたいなんだもの。」
よく、言われる事だった。
大人しい、のだろうか。
幼馴染の女の子にも言われた。
あの、中学のフォークソング仲間、朋ちゃんにも
よく、そう言われた。
「そう、陽子さんはいつまであのお店に居るんですか?」
と、忘れていた事を聞くと、陽子さんはちょっと表情を曇らせて
「今月一杯なの」
あと幾らも無かった。
「そう・・ですか。」僕も、なんとなく沈んだ気持になる。
「でも、美大に行けるんでしょ?」と僕は明るい話題にしたくて
そう言った。
陽子さんは「そう、奨学金は貰えそうなの。でもね・・・・。」と。
視線を反らし、立ち上がって窓の傍に。
外の方を眺めて。
「わたしね。高校の頃も男の子と付き合った事、無かったの。
なんか怖くて。女子高だったし。でもね・・・・。
君は、なんか怖くないの。可愛いって思う。
ずっと、傍に置いて可愛がりたいなって思うの。
男の人に憧れるのと違うの。
弟とも違う。
なんだか、判らないの、私の気持。」と、陽子さんは
繊細な事を語った。
僕は、黙って聞いていた。
「僕は、そういう人なんですね、きっと。
幼馴染にも似たようなこと、言われました。」
陽子さんは振り返らずに「どうしたらいいか、わからないの。」と
ちょっと、涙ぐんでいるようだったので
僕は立ち上がり、恐る恐る、陽子さんの肩に触れた。
か細い肩、だったけれども
女の子らしい、柔らかな感じで
いい香りがした。
「すみません」と、言って
僕は背中から、すこしふるえる手を前に回して
柔らかく抱きしめた。
「ありがとう・・・・。」と、陽子さんはか細い声で
涙が、僕の腕に流れた。
「あ、ごめんなさい・・・。」と、陽子さんはか細い声で・・・・。
そうして、優しい時間が過ぎた。
なんとなく、肩の力が抜けたような気がした。
女の子と付き合う、って。
こんな感じなんだな。
僕は、家路を急ぎながら
星の瞬く田舎道を、ブリジストン・アスモの
ギアをTopにして。
「陽子さんは恋人、なのかな。」
そう思った。でも。
幾らも、日にちは残って居なかった。
「夏の日の恋'76かな」
と、パーシー・フェイス・オーケストラの
ダイナミックなサウンドを連想しながら。
音楽が心にあると、あまり深刻に
悩まない。
そんな感じだ。
「いずれ、別れるんだろう」
陽子さんが故郷に戻れば
僕がついて行くか、
陽子さんに帰らないで貰うか。
どちらも無理だった。
それに、美大に行く為の勉強も必要だろう。
「僕にお金があればなぁ」
無いものは仕方ない。
翌日は、期末テストだったが
元々、勉強は得意なので
赤点にならなければいいかな。
そんな感じ。
元々北高を選んだのも、勉強に苦労しない為だった。
アルバイト生活になる為。
ホントは、中卒で国鉄に入りたかったのだが
国鉄職員の叔父の進言だった。
それで高卒にしようと(笑)。
叔父は大学へ行けと言ったのだが。
そんな想いがあるから、陽子さんが
一旦諦めた美大に、もう一度
行けるチャンスが来た、そんな気持ちを
大切にしてあげよう。
そう思った。
陽子さんの故郷と、この街は
オートバイなら、峠を越えて2時間位で
行ける。
「でも、そばには居られないな」
淋しい。そうは思うけど。
テスト勉強していない僕を見た
ノリちゃんは
「頭いいからなあ、タマは」
ノリちゃんは、お兄ちゃん肌なので
僕の事を呼び捨てで呼ぶ。
でも、嫌じゃない。
ノリタマツーリング倶楽部、にしようよ、名前。
ぞう、ノリちゃんは言うんだ。
のりたま、ってふりかけが
当時、人気だったんだ。
テストで、授業がない。
でも、アルバイトの出勤時間は
変えて居なかった。
忘れていたんだ。
久しぶりに、ゆったりとした気分で
下校した。
学校の周りは田畑で
畦道を僕は自転車で走って。
夏を感じていた。
夕方、定刻より少し早く
スーパーに入り、いつもは
慌ただしく制服を引っ掛けて
お店に出るんだけど
ゆったりと廊下を歩いていると
陽子さんにすれ違う。
陽子さんも気づく。けど
恥ずかしげに俯いて、赤くなって。
小さな声で「おはよ」
声が震えている。
僕も、なんとなく恥ずかしい。
「おはようございます」と、いいながら
すれ違う。
昨日の夜と、同じ香りがした。
振り返らずに見送り、僕は八百屋さんの売り場に出て
仕事。
青果チーフのアゴいさむ似(笑)が
「よぉ、カオ紅いぞ。熱あんのか?」
何でもないです、とかぶりを振ったが。
胸はときめいていた。
少年の夢はひろがる。
なんとなく、イメージだけだった
恋、結婚。
みたいなものが、カタチになって
見えて来たような、そんな気分。
「いいなぁ、陽子さんが奥さんなら
美大の卒業後って、4年かな。
その頃には僕も、高校を卒業しているだろうから
国鉄に就職、してるかな。
そんな夢想に耽っていた。
八百屋さんの仕事も、ちょっと
のんびりムードで
幸せに浸っていた。
期末テストの順位なんて、別に気にしていなかったけど
ピュンピュン丸先生は「順位をこんなに落として」と
言っていた。
まあ、どうでもいいや。
登校するのも、なんとなく暑い7月。
梅雨はもう上がっていた。
77年頃は、梅雨は6月の風物詩で
7月の半ば頃には上がっていたから
北高の生徒たちも夏休みの計画で楽しそうだった。
僕はまあ、アルバイトがあったし
遊びに行く事なんて無理だった。
陽子さんの事もあったけど、でも、それは悩んでも仕方ない。
「Can't give you anything みたいな気分かな」なんて思った。
「誓い」と言う邦題がついている、The stylisticsのいい曲。
僕には何も無いけれど、でも、君が好きなんだ。
そういう曲。
いつか、ラジオで聞いて。ラジカセで録音した。
FMエアチェック、だろうか。この頃は流行っていた。
陽子さんも音楽は好きらしい。
「you make me feel like dancing」は、レオ・セイヤーの楽しい曲で
踊りだしたくなっちゃうような気持を歌ったみたいだな、と
僕は思った。
「まあ、別に離れたって別れる訳でもないし・・・・。」とも思うし
職業少年にとって、悩んでいる暇は無かった。
懸命に働かないと生きていけないのだ。
それは、陽子さんも同じなので
僕らは、残り少ない日々ではあったけど
相変わらず、スーパーで仕事中に会って
微笑みを交わす、くらいの感じだった。
「でも、そのくらいが丁度いいな」と僕は感じる。
それは、陽子さんもそうだったんじゃないかな、なんて
空想もした。
なので、稔くんとガールフレンドたちの生き方は
やっぱりなんとなく「違う」なあ、と
そんなふうに思った。
そういう生き方が好きな人もいるんだろう。
終業式が終わり、夏休みに入るのだけど
登校しなくていいので楽になると言うだけだった。
幸い、スーパーの方で「昼間も出る?」と
副店長さんが気を利かせてくれて。
僕と陽子さんの事は、このお店ではもう皆が知っているので
残り少ない日々を、できれば一緒にさせてあげたいと
そういう気持だったのだろうと思う。
アルバイト料のほうは、昼間は時間給が安いのだけど
お金貰えて、陽子さんの近くに居られて。
それはとっても幸せな事だった。
別に、姿を見ていなくても
同じ屋根の下に居て。
時折、お昼ごはんの時間が一緒になると
陽子さんは僕の近くに来て、なにか、他愛もない話をする。
節度のある人だから、ひと目のある所で
殊更親しい、と言う態度を取らないようにしている。
そういう所も好感だった。
僕も恥ずかしくなくて済む。
でも、パートのおばさん達や、若い女子社員は
その、僕らの表情で何かを感じるようで
僕らが、社員食堂の隅に居ると
あまり関わらないように、遠くに離れていたりした。
「みんなが、やさしい」と、僕はそう思うーーーー。
その、僅かな日々はとても幸せだった。
陽子さんは住所と電話番号を知らせてくれたから、僕もそうしたけれど
電話が無かった。
この当時は、電話加入権が高くて
無い家も多かった。
僕の家も、父が働けないのでそうなった。
それで、アパートの住人で仲のよい、土居さんと言う
看板職人の人の電話を「呼び出し」として書いた。
「手紙書くね」と、陽子さんが言ったりすると
ああ、お別れなんだなぁと。ちょっと思うのだった。
「引越しの準備、出来てますか?」と、僕は
そんなふうに実務的な事に気持を切り替えて。
陽子さんは「だいたいね」と言って
にっこり。
表情が、ちょっと19歳の女の子なりになったな、そういう
感じに見えて
その変化が不思議だった。
最初は、もっと大人な感じに見えたんだけれども
このところ、僕にはそういう少女の顔を見せるようになっていて
それは、とても素敵に見えた。
無理してたんだな、と
労う気持で一杯だった。
「手伝いに行きます、引越しの日」と僕が言うと
陽子さんは俯いてかぶりを振り「いいわ、辛くなるから」と
その一言で、ちょっと涙ぐんでしまった。
「ごめんね」と、陽子さんは席を立って
ちょっと早足で社員食堂から出て行った。
「やっぱり悲しいんだろうな」と
僕は思う。
僕は「cant give you anything」の歌詞を思い浮かべて
それを言ってあげるべきなのかな、なんて
思ったりもした。
言葉にした事はなかった。
でも、恥ずかしくてとても言えないので
この曲の事、歌詞の事を書いて
「こんな気持です」と、陽子さんに紙片を渡した。
アパレルの品出しをしていた陽子さんに、仕事の連絡のように手渡して。
なんとなく、感じ取ってくれた陽子さんは、胸ポケットにそれをしまって
にっこり。
いつもの平日みたいに、夜7時に閉店すると
八百屋さんの翌日準備。
この日は、西瓜の数を数えて、明日出せるものを選んだり。
キャベツが、明日どのくらい売れるか見当で
傷んでいるものを外したり。
そんな仕事をしていて。
いつものように、僕はひとりで仕事をしていた。
陽子さんが私服に着替えて歩いてくる。
その、足音でなんとなく判るようになっていた僕だった。
ゴム底の靴で、音はしないのだけれども。
陽子さんは笑顔で「お手紙ありがとう。嬉しい、とっても。」それだけを告げて
ちょっと涙ぐみそうになって踵を返して
「ありがとう」と、か細い声で言って。
そのまま、バックヤードから出て行って。
廊下を小走りに歩き、通用口から出て行ったようだった。
陽子さんの希望通り、引越しの手伝いはせずに
7月の最終日、僕は一日中アルバイトをしていた。
副店長は、何か言いたげに僕を見ていた。
陽気で、気の利く、いい人だ。
真っ赤なコスモに乗っていて。
黙々とアルバイトをしていて、アパレルの辺りをちら、と見ると
いつも、そこに居た陽子さんの姿が無いので
僕は、本当に泣きたくなった。
なんといっても16歳の少年である。
「映画みたいに『行かないで、お願い』と、縋るべきだったのかな」
なんて、思ったりもしたけれど、でも、そんな事は出来なかった。
気持は好きだって言ったって、食わないとならないし。
陽子さんをお嫁さんに貰うくらい、働かなくては。
今すぐには、とても無理なお話だった。
「それに・・・・。」
陽子さんの将来も台無しにしてしまう。
そう思って堪えた。
「心だけでいいのにね。」なんで体があるんだろ、なんて
思った。
夜、閉店しても
アルバイトを続ける。
八百屋さんの仕事をしながら「もう、家に着いただろうな」と。
陽子さんにとっては故郷だから、ここに居るよりはいい。
自然が一杯で。
山と海があって、浜辺。
夏は、海岸が賑やかだろう。
美大を受験するにしても、来年だから
しばらくは働きながら絵の勉強をするのだろう。
夢がある。それだけでもいい事だと思う。
僕に夢ってあったのかな・・・なんて思ったが
働くのと学校で精一杯。
夢見る暇も無かった。
兄のTYは、兄がクルマの免許を取って
乗らなくなると、母が強奪。
この頃は戦前の名残で、そう言う親も居た。
で、チャピィに変えてしまったが
(兄もこの性格が災いし、若くして死す。桑原桑原たけし。)
兄はGR50の中古を買って来た。
6万。
1500km、3年落ちだから
当時はバイクって安かった。
新車で10万である。
それを、チューニングして。
圧縮比を上げ、充填効率を良く。
125ccノーマル並みの速さになった。
でもまあ、気分としては...。250cc位はほしい。
GTがいいかな、RDかな。
この頃、学校で授業中に『お手紙』が回って来て。
「ねえ、オートバイ持ってる?」
クラスの女の子、尚子だった。
バスケ部だったかな。
なので『50はあるよ』と。
ふつうにクラスメートで、割と可愛いコだった。
でもまあ、陽子さんの方がいいなぁ、なんて。
家族の為に、健気に頑張る19歳。
希望を持ってほしい。
そう言う人の為に、何かしてあげたい。
僕もそう言う人種。
なら、オートバイを買わずに
父の療養費にすれば、とも思う。
でも兄が「高校生のうちはいい。遊べ。学生時代じゃないと出来ないぞ」
そう言ってくれたので。
アルバイトで買う、そう言う約束で
バイクに乗れた。
(ただ、買ったバイクは兄も乗りたかったらしい。)
当時の家族って、そんな感じだった。
これは、日本中がそう言う感じだった。
いい時代だったんだ。
会社も、学校も。
でもまあ、若者だから
なんとなく、死、の匂いのあるものに憧れる。
オートバイもそうだし。
ハード・ロック。 そういうものだと思う。
僕は、なんとなくその、中学のクラスメートだった
朋ちゃんの刹那なところが、気になったりもして。
Led Zeppelin の stairway to heavenを思い出して。
ちょっと悲しくなったり。
あの、前奏のギターのアルペジオを
弾いているつもりになって
左手はコードの形になったり。
・・・なんで、あんなに刹那な16才と
明るい19歳が居るんだろうな。
と、陽子さんのことも思った。
恋・希望。
そのどちらかなんだろうな、なんて
思ったりもした。
朋ちゃんは、どういう訳か失望をしたようだった。
でもまあ、それに関わるほど
アルバイト生活は暇では無かった。
生きていく。
その為には、悩んでいる暇なんてないのだ。
その気分をぶっ飛ばすには、やっぱり
ハード・ロックかな、と。
まだ、ウォークマンが無かったので
心の中で音楽を繰り返していた。
Deep Purple のハイウェイ・スター。
ライブ盤が好きだった。
「そろそろ、部活動を決めないと」と言う
小野君の言葉を思い出し。
「じゃ、軽音にするかな」
事情は判ってくれるだろうし、バンドでなくソロなら
文化祭も問題は無い。
練習しなくてもいい曲を弾けばいいから。
稔くんは、意外にも体育系で
陸上部に入ったらしい・・・のだが。
あんまり練習には出ないようだった(笑)忙しいもんねぇ。
この学校は、あんまりスポーツの成績とか
そういうものに拘らない学校だった。
県立だし、PRの為にスポーツや、学業を使うのは
芳しくないと言う教育委員会の考えだった。
(それはそうですね)。
スポーツは、心を鍛えるもの。結果は二の次。
正論だが、中々そうはならないな、なんて事を
少年なりに思っていた。
あの、スーパーの食料品チーフの近藤正臣似くんも
好きな陽子さんが相手にしてくれず、僕を可愛がるので
八つ当たりに仕事上の立場を利用して、怒鳴る、怒る。
仕事の為にならないのはあたりまえだけれども。
あんな大人には絶対なるまいと思った(笑)。
ーーーそういう訳で、稔くんは相変わらず
授業が終わるとどこかに居なくなっていた。
僕は、放課後になると
アルバイトがあるので。
この頃は午後6時から、出ていたから
それまでに家に帰って、着替えてからスーパーへ。
4時半くらいには下校しないと忙しい。
「クラブ、どうしよっかな」と思い
やっぱりLM、軽音にする事にした。
表向きはロック禁止、エレキ禁止であったが
(まだ、エレキが不良と言う偏見が残っていた時代である)。
「えーと、クラスでLMの奴は、誰か居たかな?」
思い出してもよく判らないので、学級委員の女の子。
理恵ちゃんに「クラブね、LMにするから」とだけ言っておいた。
先生には伝わるだろうから、急かされる事もない。
まあ、どの道幽霊部員になるのだし(笑)。
理恵ちゃんは、このクラスではひとり。
この頃、割と人気のある名前だった。
別のクラスにも何人か居た。
このクラスの理恵ちゃんは、髪はさっぱりストレート。ちょっと長めのボブ、と言う感じで
シルバーフレームの眼鏡を掛けて、もの静かな文学少女と言う感じだった。
話をした事が無かったのだけど、卒業後の5月、街で
横断歩道の信号を待っている僕に、後ろから声を掛けて来たりして。
ちょっとびっくりした記憶がある。
学校で声を掛けられた記憶が無かったから。
淋しかったんだろうな、卒業で。
そんなことを、今思う。
ロックのことを考えていたら、なんとなくギターの音がしたので
音の方向へ行って見ると、階段の下の倉庫、みたいな所に
小さなアンプとギターを持ってきて、何か弾いているようだった。
「弾くのは面白そうだ」と思う。
どちらかと言うと、ジョージ・ベンソンみたいに
綺麗な音でメロディを弾くのはいいな、とも思っていた。
管楽器の方が実は得意で
小学生の頃から、トランペットで鼓笛隊に入ったり
(でも、買えないので辞めたが)
中学になると、ブラスバンドの連中が仲間だったので
いろいろ吹いたりした。
低音楽器がメンバー不足、なんて時。
割と、あれは誰でもなんとかなってしまう。
ユーフォニーム、とか、チューバとか。
そんな事を思いながら、二階への階段を上がると
北校舎との連絡通路に、ジュースの自動販売機があった。
紙パックの牛乳、フルーツジュース。
いつでも買えるので、よく休み時間に飲んでいる人が居る。
ホントは禁止だが、まあ、おおらかな校風である。
ふんわりした気持で歩いている。
二階なので、窓の向こうに雲が見えて。
そろそろ、夏の雲のように真っ白な雲が見えている。
ノリちゃんが、ちょっと緩めのワイシャツ姿で。
暑がりなので、夏服はありがたい。そういう感じだ。
でも、黒いズボンは暑いみたい。
ちょっと緩めかな。ドカン、と言うズボンだろうか。
僕のもそれに似ているが、これは単に貰ったズボンが
太すぎただけだった。
「何見てる?」と、ノリちゃんは直裁に話す。
いつもそういう話し方だ。
僕は「ああ、雲。夏だなー。」と、にっこりすると
ノリちゃんも笑顔で「夏休みに行きたいなぁ、ツーリング」と。
ノリちゃんは10月生まれなので、まだ免許は取れない。
「そうだね。」と、僕はそれだけ言って
夏の雲を見た。
開け放たれた窓から、爽やかな夏の風、のような
薫り高い風が流れてくる。
「免許、取るの?」と、ノリちゃん。
僕は「もう取ったよ。5月生まれだから」と。
学校には持ってきてはいない。万一落とすと
持っている事がバレてしまい、ピュンピュン丸先生の
面子を潰すから。
それに、風紀委員の先生、丸坊主でいつも竹刀を持っている
ヘンな、小早川が見つけると面倒だ。
何かと因縁を付けられると面倒なので、職員室に行くときも
小早川が居ない時に、みんな、していた。
以前は結構、ツッパリの生徒と喧嘩したりしたらしい。
(ちなみに小早川先生は剣道部ではなく、世界史教師である)。
だから、僕らは世界史を選択しないようにしていた(笑)。
そういう理由で結構、決まってしまったり。
渡り廊下なので、いろいろな人が通る。
三年生も通る。丸川先輩は、いわゆるツッパリで
髪をオールバックにしていて。
でもいい人で、僕らに会うと「なんかあったら言えよ。北高の
平和は俺達が守る」と。
昔風の義賊、なんだろうか。
番長、みたいな怖いものとはちょっと違うイメージだけど、
この時代はどこでもそういう用心棒のような人が居た。
頼りになる兄貴、みたいな。
そう、あのスーパー、ヤオセイでも
お肉屋さんのお兄さんがそれふう、で
左手の指が何本か、無かったり。
その人は、僕が「おはようございます」と
夕方でも挨拶すると
ニカッ、と笑って「よぉ、学生。頑張るな」
僕の事は、誰かから聞いているのだろう。
なので、あの近藤正臣似くんのハラスメントは
朝が早いお肉屋さんが帰ってから。
「・・・まったく、セコイ奴」と、僕は思う。
昼間は、あの人が居るから
陽子さんも安心だろうな。そんな風にも思った。
ーーーーーー
そのうち、夏休みが来れば。
子供の頃は楽しくて仕方なかった夏休みも
「アルバイトに長く出られるな」
その位の感覚しかなかった。
でも、それは人が足りなければの話で
どちらかと言うと昼間の時間は暇だから
パートのおばさんとかが多く居て
僕ら、学生アルバイトの出番はあまり、ないようだった。
下校しながら、自転車を走らせて。
田んぼを渡る風が、蒸し暑く感じるようになる7月である。
梅雨の間は、自転車通学も参る。
雨合羽に、傘。
傘は本当は禁止だから、正門に行くと
風紀委員が煩いので、みんな、裏から入っていた。
通学かばんにカバーをするのが面倒なので、僕は
スポーツバッグをたすきに掛けて、その上から
合羽の上を着ていた。
だから。
着膨れたカッパ、そんな感じで
「こんな姿を陽子さんに見られたくないなぁ」なんて
アルバイトに行く時は、傘だけで出かけたりした。
ジーンズにTシャツ。
だいたい、安物だったけど、無地の青や緑、そんな色のものを着ていて
ブルー・ジーンズは、裾の広がったものを探して着ていた。
色を落としたりしていない、ナチュラルなもの。
髪も伸びてきて、ちょっとはミュージシャンふうに見えるだろうか、なんて
思ったりもした。
パーマは学校で禁止なので、真っ直ぐで長いままだったけど、
たまーに、母のホットカーラを使って、ウェーブをつけて
アルバイトに行ったりした。
そうすると陽子さんは僕を見かけて
「ステキね。かわいいわ」と。
陽子さんにかわいい、と言われると
うれしい。
他の人に言われたら「子供じゃないんだから」って
可愛いはない、なんて言い換えさせたりするんだけど(笑)。
そんな、ある日。
夏休みに入ろうか、と言う頃。
閉店時刻が7時で、その日は
八百屋のバックヤード、学校の教室くらいの広さのそこで
僕は、きゅうりの袋詰めをしていた。
きゅうりを何本かいれて、ビニール袋の口を
テープの回ったセッターに通すと
よく見かける、テープがくっついて封が出来るあれ、が出来る。
結構難しい。
それをしていると、陽子さんが
私服に着替えて。
僕のそばに来た。
僕は顔を見上げると。
「あの、ね。私、支店に戻る事になったの。」
陽子さんは、複雑な表情をしていた。
晴れやか、なんだけど、どこか翳りがある、と言うか。
僕は、ちょっとその表情が気になった。
「良かった、と思います。何か、気になる事があるんですか?
僕で良かったら、聞きます。話して下さい」と、努めて笑顔でそう言った。
陽子さんは「でも、ここじゃ・・・・・。」と。
視線を落とす。
僕は少し考え「それじゃ、今日は早退にします!この袋詰めが済めば、大丈夫。」
と言うと、陽子さんは「それじゃ悪いわ、一時間くらいだったら
わたし、待ってるから、隣の喫茶店で」
ここのスーパーは、潰れたボーリング場の建物そのままなので
喫茶店、ゲームコーナーはそのまま営業していた。
並びの建物なので、そんなに気になる距離でもない。
と、陽子さんは気を遣ってくれたが、僕は少年なので
「はい、でも、ホントに一時間くらいなら早退できます。」
事実、八百屋の仕事の後は時間潰しのようなものだった。
店内の陳列等は、どうでもいい仕事なのだった。
僕は、事務室に直ぐ行って、まだ残っていた副店長に
「すみません、少し早退できませんか?」と言うと
副店長は、事情を察した表情で「いいよ、直ぐ帰りな。八百屋の残りは
俺がやっておく」と。
陽子さんと僕の事は、店の中の誰もが知っているから、でもあった。
その陽子さんが、いなくなるので
副店長も、よくものの判った人だった。
僕は、ロッカールームに行って
八百屋さんの上着を脱いで。
いつもの、Tシャツとジーンズに戻った。
そして、通用口から出て。
陽子さんの姿を探した。
もう、社員はみんな帰ってしまって
誰かに見つかる心配はないけれど
それでも、ちょっと気になるのだろう。
少し離れたところの、電話ボックスの所に
陽子さんの姿を見つけ、安堵した。
白い、麻だろうか。
夏服のワンピースは袖が小さく付いていて。
空色の編みこみが、細いストライプのよう。
「ごめんなさい。待ちましたか」
と、僕が言うと、陽子さんはにっこりとして
「君と、最初のデートだね。」と。
デート、なんて。考えた事も無かった。
そんな余裕は無かったんだ。
なにせ、学校とバイト先の往復。
夜9時頃、帰宅してそれから入浴、食事。
寝るのは11時過ぎだった。
それでも、まだ新聞配達よりは楽だけれども。
陽子さんは、意外に楽しそうで
「ずっと誘ってくれないんだもん、私って魅力ないんだって
落ち込んじゃったのよ。」と
ちょっと、お姉さんの顔をして、そう言った。
実は女の子を誘った事はない。
誘い方も知らなかった。中学の頃は、なんとなくグループで
遊んでたから、誘うことも無かった。
僕は考え「じゃあ、喫茶店にでも行きましょうか」と言うと
陽子さんは「わたしの部屋に来ない?直ぐ近くだから」と言うので
僕は、自転車を取ってきて。
いつもの通学用だ。
陽子さんは「いつも自転車なのね。時々見てた」と。歩きながらにっこり。
お店沿いの国道を、町とは逆の方向に少し歩いて
グラウンドのある斜めの道、車は入れないので、ゆったり歩いて
三つ目の路地の奥に、陽子さんの部屋はあった。
コンクリートの三階建てで、外階段の。
よくありそうな鉄筋アパートだった。
割と新しかった。
白い吹きつけ壁が高級感を醸している。
「ここの三階の角ね。」と、陽子さんは
中央にある階段を先に登る。
音がしないように静かに歩く陽子さん。
上品な人だなぁ、と
僕は一歩離れて。
ドアはシリンダー錠で、重厚な感じのマホガニーのドアだった。
がちゃ、と、鍵が外れる音がして「さあ、どうぞ」
綺麗に片付いていて、仄かにいい香りがする。
陽子さんは玄関の灯りを点けて「狭いけど」と。
2DKなので、狭くは感じなかった。
あまり家具を置かず、シンプルな内装だった。
「ちょっと待ってて、お茶いれるから」と
陽子さんはダイニング・キッチンへ。
僕は、洋間にあるソファに腰掛けた。
窓にはカーテンが掛かっていて、表がどんな様子かは判らない。
静かだ。
「お待たせ」
夏なので、スパークリングかな。
シトラスの香りがする炭酸が、氷の満たされたグラスに。
綺麗に磨かれたグラス。
僕とは住む世界が違う人だなあ、と
一瞬思ったけど
陽子さんも、弟たちに仕送りをしている人なんだな、と
改めて気づく。
僕は、一気にそのシトラスを飲み干そうとしたが
炭酸が強く、途中で止めておいた。
陽子さんは「そういう所は男の子ね」と
にこにこ。
「そういうとこ?」と、僕は笑顔で聴き返すと
陽子さんは「君って、女の子みたいなんだもの。」
よく、言われる事だった。
大人しい、のだろうか。
幼馴染の女の子にも言われた。
あの、中学のフォークソング仲間、朋ちゃんにも
よく、そう言われた。
「そう、陽子さんはいつまであのお店に居るんですか?」
と、忘れていた事を聞くと、陽子さんはちょっと表情を曇らせて
「今月一杯なの」
あと幾らも無かった。
「そう・・ですか。」僕も、なんとなく沈んだ気持になる。
「でも、美大に行けるんでしょ?」と僕は明るい話題にしたくて
そう言った。
陽子さんは「そう、奨学金は貰えそうなの。でもね・・・・。」と。
視線を反らし、立ち上がって窓の傍に。
外の方を眺めて。
「わたしね。高校の頃も男の子と付き合った事、無かったの。
なんか怖くて。女子高だったし。でもね・・・・。
君は、なんか怖くないの。可愛いって思う。
ずっと、傍に置いて可愛がりたいなって思うの。
男の人に憧れるのと違うの。
弟とも違う。
なんだか、判らないの、私の気持。」と、陽子さんは
繊細な事を語った。
僕は、黙って聞いていた。
「僕は、そういう人なんですね、きっと。
幼馴染にも似たようなこと、言われました。」
陽子さんは振り返らずに「どうしたらいいか、わからないの。」と
ちょっと、涙ぐんでいるようだったので
僕は立ち上がり、恐る恐る、陽子さんの肩に触れた。
か細い肩、だったけれども
女の子らしい、柔らかな感じで
いい香りがした。
「すみません」と、言って
僕は背中から、すこしふるえる手を前に回して
柔らかく抱きしめた。
「ありがとう・・・・。」と、陽子さんはか細い声で
涙が、僕の腕に流れた。
「あ、ごめんなさい・・・。」と、陽子さんはか細い声で・・・・。
そうして、優しい時間が過ぎた。
なんとなく、肩の力が抜けたような気がした。
女の子と付き合う、って。
こんな感じなんだな。
僕は、家路を急ぎながら
星の瞬く田舎道を、ブリジストン・アスモの
ギアをTopにして。
「陽子さんは恋人、なのかな。」
そう思った。でも。
幾らも、日にちは残って居なかった。
「夏の日の恋'76かな」
と、パーシー・フェイス・オーケストラの
ダイナミックなサウンドを連想しながら。
音楽が心にあると、あまり深刻に
悩まない。
そんな感じだ。
「いずれ、別れるんだろう」
陽子さんが故郷に戻れば
僕がついて行くか、
陽子さんに帰らないで貰うか。
どちらも無理だった。
それに、美大に行く為の勉強も必要だろう。
「僕にお金があればなぁ」
無いものは仕方ない。
翌日は、期末テストだったが
元々、勉強は得意なので
赤点にならなければいいかな。
そんな感じ。
元々北高を選んだのも、勉強に苦労しない為だった。
アルバイト生活になる為。
ホントは、中卒で国鉄に入りたかったのだが
国鉄職員の叔父の進言だった。
それで高卒にしようと(笑)。
叔父は大学へ行けと言ったのだが。
そんな想いがあるから、陽子さんが
一旦諦めた美大に、もう一度
行けるチャンスが来た、そんな気持ちを
大切にしてあげよう。
そう思った。
陽子さんの故郷と、この街は
オートバイなら、峠を越えて2時間位で
行ける。
「でも、そばには居られないな」
淋しい。そうは思うけど。
テスト勉強していない僕を見た
ノリちゃんは
「頭いいからなあ、タマは」
ノリちゃんは、お兄ちゃん肌なので
僕の事を呼び捨てで呼ぶ。
でも、嫌じゃない。
ノリタマツーリング倶楽部、にしようよ、名前。
ぞう、ノリちゃんは言うんだ。
のりたま、ってふりかけが
当時、人気だったんだ。
テストで、授業がない。
でも、アルバイトの出勤時間は
変えて居なかった。
忘れていたんだ。
久しぶりに、ゆったりとした気分で
下校した。
学校の周りは田畑で
畦道を僕は自転車で走って。
夏を感じていた。
夕方、定刻より少し早く
スーパーに入り、いつもは
慌ただしく制服を引っ掛けて
お店に出るんだけど
ゆったりと廊下を歩いていると
陽子さんにすれ違う。
陽子さんも気づく。けど
恥ずかしげに俯いて、赤くなって。
小さな声で「おはよ」
声が震えている。
僕も、なんとなく恥ずかしい。
「おはようございます」と、いいながら
すれ違う。
昨日の夜と、同じ香りがした。
振り返らずに見送り、僕は八百屋さんの売り場に出て
仕事。
青果チーフのアゴいさむ似(笑)が
「よぉ、カオ紅いぞ。熱あんのか?」
何でもないです、とかぶりを振ったが。
胸はときめいていた。
少年の夢はひろがる。
なんとなく、イメージだけだった
恋、結婚。
みたいなものが、カタチになって
見えて来たような、そんな気分。
「いいなぁ、陽子さんが奥さんなら
美大の卒業後って、4年かな。
その頃には僕も、高校を卒業しているだろうから
国鉄に就職、してるかな。
そんな夢想に耽っていた。
八百屋さんの仕事も、ちょっと
のんびりムードで
幸せに浸っていた。
期末テストの順位なんて、別に気にしていなかったけど
ピュンピュン丸先生は「順位をこんなに落として」と
言っていた。
まあ、どうでもいいや。
登校するのも、なんとなく暑い7月。
梅雨はもう上がっていた。
77年頃は、梅雨は6月の風物詩で
7月の半ば頃には上がっていたから
北高の生徒たちも夏休みの計画で楽しそうだった。
僕はまあ、アルバイトがあったし
遊びに行く事なんて無理だった。
陽子さんの事もあったけど、でも、それは悩んでも仕方ない。
「Can't give you anything みたいな気分かな」なんて思った。
「誓い」と言う邦題がついている、The stylisticsのいい曲。
僕には何も無いけれど、でも、君が好きなんだ。
そういう曲。
いつか、ラジオで聞いて。ラジカセで録音した。
FMエアチェック、だろうか。この頃は流行っていた。
陽子さんも音楽は好きらしい。
「you make me feel like dancing」は、レオ・セイヤーの楽しい曲で
踊りだしたくなっちゃうような気持を歌ったみたいだな、と
僕は思った。
「まあ、別に離れたって別れる訳でもないし・・・・。」とも思うし
職業少年にとって、悩んでいる暇は無かった。
懸命に働かないと生きていけないのだ。
それは、陽子さんも同じなので
僕らは、残り少ない日々ではあったけど
相変わらず、スーパーで仕事中に会って
微笑みを交わす、くらいの感じだった。
「でも、そのくらいが丁度いいな」と僕は感じる。
それは、陽子さんもそうだったんじゃないかな、なんて
空想もした。
なので、稔くんとガールフレンドたちの生き方は
やっぱりなんとなく「違う」なあ、と
そんなふうに思った。
そういう生き方が好きな人もいるんだろう。
終業式が終わり、夏休みに入るのだけど
登校しなくていいので楽になると言うだけだった。
幸い、スーパーの方で「昼間も出る?」と
副店長さんが気を利かせてくれて。
僕と陽子さんの事は、このお店ではもう皆が知っているので
残り少ない日々を、できれば一緒にさせてあげたいと
そういう気持だったのだろうと思う。
アルバイト料のほうは、昼間は時間給が安いのだけど
お金貰えて、陽子さんの近くに居られて。
それはとっても幸せな事だった。
別に、姿を見ていなくても
同じ屋根の下に居て。
時折、お昼ごはんの時間が一緒になると
陽子さんは僕の近くに来て、なにか、他愛もない話をする。
節度のある人だから、ひと目のある所で
殊更親しい、と言う態度を取らないようにしている。
そういう所も好感だった。
僕も恥ずかしくなくて済む。
でも、パートのおばさん達や、若い女子社員は
その、僕らの表情で何かを感じるようで
僕らが、社員食堂の隅に居ると
あまり関わらないように、遠くに離れていたりした。
「みんなが、やさしい」と、僕はそう思うーーーー。
その、僅かな日々はとても幸せだった。
陽子さんは住所と電話番号を知らせてくれたから、僕もそうしたけれど
電話が無かった。
この当時は、電話加入権が高くて
無い家も多かった。
僕の家も、父が働けないのでそうなった。
それで、アパートの住人で仲のよい、土居さんと言う
看板職人の人の電話を「呼び出し」として書いた。
「手紙書くね」と、陽子さんが言ったりすると
ああ、お別れなんだなぁと。ちょっと思うのだった。
「引越しの準備、出来てますか?」と、僕は
そんなふうに実務的な事に気持を切り替えて。
陽子さんは「だいたいね」と言って
にっこり。
表情が、ちょっと19歳の女の子なりになったな、そういう
感じに見えて
その変化が不思議だった。
最初は、もっと大人な感じに見えたんだけれども
このところ、僕にはそういう少女の顔を見せるようになっていて
それは、とても素敵に見えた。
無理してたんだな、と
労う気持で一杯だった。
「手伝いに行きます、引越しの日」と僕が言うと
陽子さんは俯いてかぶりを振り「いいわ、辛くなるから」と
その一言で、ちょっと涙ぐんでしまった。
「ごめんね」と、陽子さんは席を立って
ちょっと早足で社員食堂から出て行った。
「やっぱり悲しいんだろうな」と
僕は思う。
僕は「cant give you anything」の歌詞を思い浮かべて
それを言ってあげるべきなのかな、なんて
思ったりもした。
言葉にした事はなかった。
でも、恥ずかしくてとても言えないので
この曲の事、歌詞の事を書いて
「こんな気持です」と、陽子さんに紙片を渡した。
アパレルの品出しをしていた陽子さんに、仕事の連絡のように手渡して。
なんとなく、感じ取ってくれた陽子さんは、胸ポケットにそれをしまって
にっこり。
いつもの平日みたいに、夜7時に閉店すると
八百屋さんの翌日準備。
この日は、西瓜の数を数えて、明日出せるものを選んだり。
キャベツが、明日どのくらい売れるか見当で
傷んでいるものを外したり。
そんな仕事をしていて。
いつものように、僕はひとりで仕事をしていた。
陽子さんが私服に着替えて歩いてくる。
その、足音でなんとなく判るようになっていた僕だった。
ゴム底の靴で、音はしないのだけれども。
陽子さんは笑顔で「お手紙ありがとう。嬉しい、とっても。」それだけを告げて
ちょっと涙ぐみそうになって踵を返して
「ありがとう」と、か細い声で言って。
そのまま、バックヤードから出て行って。
廊下を小走りに歩き、通用口から出て行ったようだった。
陽子さんの希望通り、引越しの手伝いはせずに
7月の最終日、僕は一日中アルバイトをしていた。
副店長は、何か言いたげに僕を見ていた。
陽気で、気の利く、いい人だ。
真っ赤なコスモに乗っていて。
黙々とアルバイトをしていて、アパレルの辺りをちら、と見ると
いつも、そこに居た陽子さんの姿が無いので
僕は、本当に泣きたくなった。
なんといっても16歳の少年である。
「映画みたいに『行かないで、お願い』と、縋るべきだったのかな」
なんて、思ったりもしたけれど、でも、そんな事は出来なかった。
気持は好きだって言ったって、食わないとならないし。
陽子さんをお嫁さんに貰うくらい、働かなくては。
今すぐには、とても無理なお話だった。
「それに・・・・。」
陽子さんの将来も台無しにしてしまう。
そう思って堪えた。
「心だけでいいのにね。」なんで体があるんだろ、なんて
思った。
夜、閉店しても
アルバイトを続ける。
八百屋さんの仕事をしながら「もう、家に着いただろうな」と。
陽子さんにとっては故郷だから、ここに居るよりはいい。
自然が一杯で。
山と海があって、浜辺。
夏は、海岸が賑やかだろう。
美大を受験するにしても、来年だから
しばらくは働きながら絵の勉強をするのだろう。
夢がある。それだけでもいい事だと思う。
僕に夢ってあったのかな・・・なんて思ったが
働くのと学校で精一杯。
夢見る暇も無かった。
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