旅と鉄路

深町珠

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[日豊本線上り第2列車 寝台特急"富士" 〜豊後水道をゆくEF81〜 ] 

[由布院の町並み]

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[由布院の町並み]

翌日も晴れ。

朝目覚めると、S君がいない。
あれ、と思っていると、部屋のドアチャイムが鳴った。
オートロックを忘れて朝風呂に出てしまい、入れなくなってしばらく廊下に立っていた、との事(笑)。
全然気づかず(笑)。

どのくらい立っていた?と聞くと「一度諦めて、もう一度温泉に行ったから1時間くらいは」と言う。
すまんすまん、と笑うが、普段、割と朝は早い方なので自分でもちょっと驚く。
昨日の疲れが残っていたようだ。


さて、今日はどうしようか、とS君に聞く。
予定になっているのは、夕方、大分駅で南宮崎発の上り2列車「富士」に
添乗する、と言う事だけだから、それまで少しぶらつきましょう、と彼。
ここのホテルはチェック・アウトが11:00なので、のんびりできる。
由布院から大分までは久大本線のディーゼル・カーで1時間くらいだから
ゆっくり遊んでも十分に間に合う。
ま、とりあえず朝食でも、と1階のレストランでバイキングの朝食。
連休中にしては空いているが、本来は会員制リゾートであったため
見た目、「一見さんお断り」風のホテルだから、という理由もあるだろう。
大理石(風)のエントランス、銅板レリーフ(風)の表札と、ちょっと高級っぽい
作りから、宿泊料金が高そう...に見えるという理由もあるかもしれない。
(実際は、1万円台だから高くはないのだが)。

まあ、空いているのは良い事なので、おとなしくバイキングの朝食を取る。
和洋中織り交ぜて、というヴァラエティに富んだメニュウでつい、食べ過ぎる。
中でも豆腐と牛乳が旨かったが、これは地場の名産だ、との事。

水の良いこの辺りでは、豆腐も美味しいものが出来ると思う。
何しろ、町内の水道取水地はこのホテルの裏手、1kmくらいのほんの小川の畔にあり
その場所は本当に清浄なところ、川の水を飲んでみたい、と思うような場所である。
見上げると、由布岳の斜面に放牧されている牛が、のんびりと寝ころんでいるのが見える...
と、牧歌的な、どこか北欧的ムードの中で育つ牛から搾乳すれば
なるほど、美味なヨーロッパ風牛乳?(ミルクというべきか)。
冗談を言っているとS君、パンとご飯、牛乳に味噌汁、スクランブル・エッグにゆで卵、
ハムにチーズ、ソーセージ、湯豆腐...
という凄まじい食欲を示す(笑)
流石は体力勝負のカメラマン。

筆者も負けじ、と納豆ご飯に牛乳、コーヒー。(笑)。
馬鹿をやっていると町内見物の時間がなくなるので、程々で引き上げる。


フロントで自転車を借りて町内を回ってみる事にする。



まず、鉄道ファンなら気になる久大本線の駅へ。



 

ゆふいん駅(エキ、は旧字体である)と、木の看板が立っている駅舎は
木造、黒い仕上げで塔の見られる、どこかレトリックな雰囲気の新造。
個人的にはレトリックな新造よりは、古いままの駅舎の方が好きだが
まあ、そうも言えない事情もあるだろう。
ここ、由布院は「九州の軽井沢」と呼ばれる女性に人気の観光地として
現在では人気を博している、との事。
特急「富士」の存続に役立てば良いが、と、観光地化する事には目をつぶる事にする。
JR九州もリゾート特急「ゆふいんの森」を運行するなど、その恩恵に預かっているところでもある。

駅前は本当に小さな広場であり、辻馬車が居たり、レトリックな小型観光バスがあったり..
と、どこか異国っぽいムードで、これまた若い女性向き。


おじさん2人組で赤い自転車、はどう考えても不似合い(笑)
なので、駅を離れて南由布方面へ。


大分から斜面を上って来る気動車は、南由布から大きく左カーブすると
目前に由布岳がにょっ、と登場するというドラマチックな線形で
ここはよく、鉄道写真の撮影地になるところ。
 
 
 


非電化単線、枕木は昔のままの木、と...
これで蒸気機関車でも走っていれば超人気スポット。
否、そうはならない方が良い。
これ以上人出が増えないで、静かな山里で居てほしい。
そう願いたくなるような、南由布から臨む町内の風景である。


まだ時間があるので、町内を一周しませんか、とS君。
そうだな、と、相槌を打ち、ペダルを踏んで山の方角へ。
湯布院町は盆地形状であり、周辺への道はぐるりと町を囲んでいる。
つまり、方向音痴でなければ目標の方角へハンドルを進めていればそこに着く
という旅人にはありがたい構造。
さっきの駅前通りは緩やかにカーブして山の方へ向かっているので
道なりに進み、適当なところで左に折れると
のんびりとした秋のもう収穫も済んで広い田園風景をまっすぐに進む。
と、小川が見えてくるが、その小さな川が大分川の源流、起点である。
この大分川沿いに久大本線は下るから、車窓から眺めていると
小川が、その川幅を広げて、やがて都市の河川となる様子を
社会科の授業よろしく見学?できる。

その大分川の橋を渡り、林の中を5分ほど、小さな池が見えてくるが
これが金鱗湖、温泉の湧く温水池である。
それ故早朝などは朝靄立つ幻想的写真スポットである。
朝靄は、湯布院の朝の風物であり、盆地にたなびく靄を
狭霧台、由布岳中腹の展望地から眺めると絶景、とされているが
その靄の発生源はこの温泉池であろう、と思われる。

池のほとりに下ん湯、という共同浴場があるが
外からまる見えなので昼間に入浴する人はまずいない。
露天風呂と内湯があるが、いずれも池の方向は吹き抜けで
対岸からはまったく素通しだから、入るとしたら夜をおすすめする。
この日は雑誌かなにかの撮影らしきモデルさんが来訪しており
池のほとりに人だかりが出来ていた(笑)。
やれやれ。
言うまでもなく、人だかりのほとんどは男性である。^^:
煩悩絶ち難し、と...

筆者とS君は悟りを開いているので(???)

自転車で次を回るとする。
否、時間がないだけなのだが(笑)。
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