Love borderline ~いつか、越えられるかな?~

深町珠

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セシルの気持ち

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セシルは、なんとなく

ミシェルの思いひと、めぐのバイト先の

図書館でバイトすれば、ミシェルの

気持ちが解るかな、とか思ってた

けど。





めぐは、あんまりバイトに来なくて

代わりにクリスタさんが来ているのだけれども





天使さんだから、ふんわり、ふわふわ

優しげで。





「ミシェルったら、クリスタさんの方がいいのに」







なんて、思ったりするセシルは

ふつうの女の子。







ミシェルの気持ちは、特別なの。







似てる天使さんでも、好きか、は別。





そういうものなの。











セシルは元気で、図書館にはちょっと

似合わないくらいの笑顔で



「いらっしゃいませー、は、変ね」と、笑うと



クリスタさんも笑顔。







「こんにちは」と、笑顔のセシルは



割と事務的なのがふつうの図書館では

ちょっと目立つ。







短く切り揃えた綺麗な髪は、かわいらしく

ミシェルが、どうしてセシルの気持ちに

答えないのか、不思議なくらい。







その愛らしさは、図書館の利用者、特に

男の子たちの人気を集めたりするのだけど





若い男の子たちは、ヌード芸術写真とかを

借りれなくて困ったりして(笑)。

貸出と返却は、今はコンピュータになったから
楽。

それでも、受付は
本そのものを扱うから

昔ながらの手仕事。


人に会うから、ちょっと出会いもあったりするけれど


あんまり可愛い子が受付だと、困ったりする事もあったり。



セシルは、明るい子で
誰にでも優しいから


普通、受付って
割と事務的で、もの静かなんだけど


「こんにちは。」とか言って


視線を合わせて挨拶したりすると

男の人の中には、その視線に
恋を覚えたり、好感を持ったり(笑)。

誤解なのだけど、セシルが
自分に好意を持っているのかな(笑)


なんて、思ったりして


ときめいたりする男の人もいる。




そのひとり、ルグランは
54才の男。

だけれども、見た目は40才くらいに見えて

82才の母と暮らしている。


耳の遠いお母さんと一緒に、にこにこしながら

ゆっくり歩いて来て。


受付の方の言葉を、お母さんの
耳のそばで話してあげたり。


お母さんの好きな時代小説を
探してあげたり。



優しいルグランに、セシルは
自然に微笑む。



「ステキなおじさま」と思って


にこにこしながらルグランを迎えたりする。



そうすると、ルグランも

セシルの笑顔を、眩しいように
少し俯いて、微笑む。



照れた少年のような表情は

セシルにも好ましく思えてしまって。




なんとなく、好ましいな、と


それまで恋していたミシェルの事を

その瞬間、少し忘れたりして。


もちろん、恋ではないけれど


いろいろな魅力が、ひとり、ひとりに
あるのね、と


セシルはそれを知る事になったり。


セシルのいる図書館で
時々、本を読んでいたルグラン


セシルのお父さんくらいの年齢だけれども

未婚、恋愛もほとんどしていない。


容姿もそれなりだし、紳士なので

割と、慕われる事も多かった。


けれども、恋愛をしなかったのは


自由を尊重するタイプだったせいもある。



恋愛、なんて言う束縛する関係を

相手に強いたくない、そんな気持ちがあったのは


彼自身が、家族に束縛されていたせいもある。



経済的に恵まれず、家庭を支える為、と言う
理由は

ルグランにとって、いい理由でもあった。



どちらかと言えば、自分の欲の為に
動くよりも


家庭や、社会の為に動く方が高級だと言う
価値観を彼は持っていたから



自らの恋愛、なんて言うものが
どのくらい幸せなのか、感じた事もなく


青年の時期を過ごしてしまって


若い娘に慕われても、恋愛、と言う
気持ちにもなれなかった。



その娘が、いい青年と付き合った方がいいと

自らの青年の時期を振り返り思うのだった。




そうしたルグランが、母をいたわりながら
図書館に来る姿を見て

セシルは、青年とは違った

魅力を、ルグランに感じるのだった。


自分の為でなく、周囲に優しく。



共和国のこの国でも、青年はやはり
エネルギーがあるから、いくらか闘争的だったりして


女の子には優しくても、おばあちゃんを
いたわりながら、歩くような
青年はあまり見かけなかったりもする。

それが自然なのだけれども。





そんなルグランにとって、セシルの真っすぐな微笑みは、少年期を思い起こすような

爽やかな気持ちを回帰するに十分だった。



ひととき、歳を取ってしまった
我が身を忘れさせてくれる、その微笑みに

会える、それだけで
図書館に来るのが楽しみになった。





そして、また
ルグランは、母を連れて
図書館に行く。

古ぼけた国産の白い車のリアシートが
母のお気に入り。

ドライブが好きなのだけれども

決して自ら
遊びに行こう、とは言い出せない。

そういう奥ゆかしさは、物の無かった時代の
美徳だった。


生きていくのが大変だった時代。


元々、人が生きていくのは
大変だ。


太陽のエネルギーを使って
植物が有機物を作り出し
それを動物が得る。


人の営みで言えば、果実を採取して
食べ物を得て、生きていく。


それだけでも大変だった、それが
人間の根源だ。



農耕が興って、食べ物を
安定して得られるようになっても

母の時代には、まだまだ物が
不足していたから

子供を育てる為に、倹約は美徳だったのである。



そうしてルグランは育ち

そういう女性を美しいと
思うようにもなっていた。


この国は共和国だから、経済も

安定している。


景気などと言うものに左右されず
人々の暮らしは静かで、争いなどは起こらない。



そういう暮らしなので、例えば
自動車などは高価な代物だった。




それに乗る事が楽しみ、などと
言う事は

女性の慎みとしては控えるべきものだったし

そうして人々は、地道に暮らしていた。





でも、ルグランの母は


自由経済の国の自動車、フォルクスワーゲンに
憧れた事もあった。


どこかで見かけたのだろう、ドイツの
ツーリストが


かぶと虫、と呼ばれる


流線型の不思議な自動車に乗って
街角を旅していくのを
少女だった母は、見かけて


言葉に出来ない感銘を受けた。


自由の国。


経済と言うものが相場で動き
相対的な価値で貨幣すら決まる。

そうすると、食べ物を得るために
働かなくても

フォルクスワーゲンに乗って、外国を

旅する事もできる。



そういう国の暮らしは、今は低迷していて


共和国の方がいい、と言う人々が多いこの国。



でも、なんとなく


自由なものは魅力的なのだ。




でも、口に出す事はない。



無事にルグランを成長させ、今は
時々図書館に来る事を楽しみにしている

慎ましい女性。


そういう人が、ルグランの好みでもあるのだろう。



図書館の受けにいる、愛らしい少女
セシルが

どうして気になるのかは
ルグランにも解らない。



まさか、性的な魅力ではない事は
確かなのだが。
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