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rain
しおりを挟む翌朝は、雨だった。
静かなこの街には似合いの雨..
家の前の坂道に、雨は優しくさらさらと降りそそぐ。
あの時も、今も、昔もずっと...
僕は、雨のせいかひんやりと冷えている部屋にひとり
外を見ていた。
出窓の向こう、街の家並みは白く霞んでどこか幻想的だ。
それも、あの頃と同じ...
いつからこうなってしまったのだろう、とか思ったりもするが
永遠なんてのもまた幻想なのだから、とも思う。
こんな風にネガティヴなのは
やっぱり雨のせいだろう。
ベッドから抜け出すと、椅子に掛けてあったリーバイス502XXを穿き
僕は部屋を出て、薄暗い廊下に人の気配が無い事を
奇妙に快く感じながら半地下のガレージへのドアを開く。
7は昨夜の格好のまま、ガレージの奥へ頭から突っ込んである。
アルミ・ボンネットにそっと触れるとまだ微かに暖かく
Ford711Mユニットの体温を感じさせた。
トノ・カヴァが開いたままだったのでファスナを閉じ
ボディ・カヴァを掛けておく。
雨の日のオープンカーほど悲惨なものはない。
雨月に輝くJaguar-E、であったとしてもそれは同様だ。
そのことも、僕を憂鬱にさせている理由のひとつだった。
こんな日に、7を外に出すのは忍びない。
第一、無事に戻ってこれるかどうかも判らない....
しかし...
高い位置にある明りとり窓の格子を、容赦なく雨音が叩いている。
その激しいビートの奔流は、どこかしら往時のブラス・ロックのようだ。
そんな風に言うとまた横田にromantistだ、なんて笑われるかな...
僕はふと、横田の丸い顔を思い出し、なぜだか心和んだ。
視線を下ろす。
ガレージの隅の、シルヴァー・ターポリンに包まれた物体に気づく。
それは、いつでもそこにあって、もう何の役目をも果たしていない
ただのモニュメントのようだった。
その日の僕は、すこし気持ちがDownしていたせいか...
その、ボディ・カバーをめくって見た。
嫌な気持ちになるから、と閉じて置いた想い出。
不思議なことに、真紅のボディを見ても何も感じなかったのは
やはりその時の僕が、Downしていたからだと思う。
ボディカバーを剥いでみると、少し汚れたままのボディは
まったくあの頃のままで、そのことに懐かしさすら感じていた僕だったが
どこか、イメージ・フィールドに映る状況が現実でないような、
そんな奇妙な感覚に囚われていた。
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