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Lotus7
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環8を3rdで流す。この時間帯は空いていて、流すには適当だ。
牛丼屋のオレンジの看板がやけに眩しく感じる。柳の枝が微風にゆらぎ、水銀灯
の明かりを散らしている。
瀬田の立体交差を左折し、東名高速へと向かう。下りを走る車はまばらで、
空車の帰りタクシーの派手な行灯だけがぽつりぽつりと浮かんでは消える。
精霊流しのようだ。
緩い下りを5thでクルージング。3車線の真ん中を80km/hで流していると、
右サイド・ミラーにヘッドライトの青白い閃光が映る。
左車線に移ろうとする間もなく、右車線と左車線を風が吹きぬけた。
丸いテールランプが4個、並走している。右車線の方はR32のようだ。
テールランプの位置が高い。
左の方はどうやらFerrariのようだ。幅の広さからすると、512あたりだろう。
モーターボートのようなRB26DETTのサウンドと、甲高い12気筒がハーモニー。
Tenorとsoprano歌手の競演のようだ。
高速道路では奴等にはかなわない。何せ、こちらは旧式だからな。
やがて、Tenor&Sopranoのヴェル・カントは、フェイドアウトしていった。
もう、初秋のような澄んだ空が美しい。
漆黒から青、水色、橙、赤のグラディション。
アルミのボンネットにグラディションが映る。Kent-unitの振動で小刻みに揺れ
有機的なものを感じる。
Cyborg? いや、もっとPrimitiveだ。こいつは。あまりにFunkyすぎる。
その語感にふさわしいのは、garageに眠るHonda-unitの赤だろう。
幻想を打ち砕くかのように、バンカラなsoundが追い越して行く。
疾風 と言うよりは 洪水のような加速だ。「4気筒?...FJ20か?」
Ibory whiteの平たいボディ。「あれは、なんだ?」AE86か?
ウエッジ・シェイプのbodyがコーナーをトレースし、過ぎ去って行く。
4気筒特有のBeatが猫の喉鳴らしのようだ。
少し疲労を感じる。風に当たりすぎたようだ。Full-open-bodyは体力が要る。
やはり、こいつはスパルタンスポーツ。machineが乗り手を撰ぶ。
山間の小さなパーキングによせ、レストハウス沿いにPark。
アイドル・油圧・油温正常。水温正常。異音・異臭なし。
Made in U.K は、やはり神経を使う。下手をすれば命取りだ。
デフがねじ切れ、巻き込まれて下半身不随になった奴。
160kmでリアサスが折れ、酒匂川の鉄橋から落ちた奴。
みんな、いい奴だった。
イグニションを切る。わずかにディーゼリング。タペットの騒がしいノイズが
消え、耳鳴りのような感じ。
Runner's highのような、奇妙な浮遊感。
レストランに向かい歩く。手足がしびれて歩きにくい。
Drag less drag。Natural-High。
こんな事を言うと警察に捕まってしまうのだろうか。
レストハウスの淡黄色の電球が眩しい。
週末の昼間は家族連れのRVでごった返すParking-areaも空いている。
時間帯のせいだろう。
RVに乗せられている、あれほど惨めな男の姿はない。
内なる野生を押し殺し、女子供の奴隷となって。
そのやるせなさを嫌がらせと前車煽りで憂さ晴らし。
みっともない。よせばいいのに。
取留めもなくぼんやりしていると、見覚えのあるmachineに気づく。
白のmachineと、R32とFerrariだ。
白のmachineに近づいて見る。どうやら日産車のようだ。
低く構えたForm、太い排気管。改造車のようだ。
「何か。」背後から声をかけられ、硬直する。
「めずらしい車だね。」僕は答える。
その男は、メタルフレームの眼鏡をかけた中肉の青年だった。がっしりとした
日焼けの腕は屋外労働者を思わせ、しかし物腰や丸顔とどこかアンバランスな
感じがし、そこに僕は親しみを覚えた。
メタルフレームを見てメルセデスの男を思い出し、少し心が痛む。
地下トンネルのコンクリート柱に激突し、激しく潰れた白いメルセデス。
燃え盛る炎の中、断末魔の絶叫。
そんな悪夢を何度となく見たような気がする。
バックミラーに映る煙を見てその場から走り去ってしまったことを今でも悔やむ。
現場を見ていれば妄想に悩まされる事もなかったろう。
ふと、我に返る。男がいろいろmachineのことを話してくれている。
Nissan Sylviaだそうだ。S12型といい、FJ20Turboの最後の型らしい。
熱っぽく話す若さが眩しい。
話好きのようなので、レストハウスに誘う。
独り旅の途中のようで、退屈していたのだろう。饒舌だ。
しかし、いやな感じはせず、その事を不思議に思う。
この男の熱っぽさはMachineへの一途な想いを感じ、
それが共感を呼んでいるのかもしれない。
レストハウスは深夜の時間帯でセルフサーヴィスだ。
プラスチックのトレイに紙コップのコーヒーを載せ、代金をレジで払う。
制服の若い男が、眠そうな顔でコインを受け取った。
まばらにしか人がいないテーブルの窓際に座る。
男は斜向かいに座った。
電球色の蛍光燈が放つ黄色い、しかしタングステンのそれとは異なる
淡い光線の中で、心地よい疲労感に浸りながら僕は漂っていた。
郊外のファミリーレストランのような作りの店の中に何組かの人。
男女カップル、トラックの運転手風の男、一見不可解な初老の男と若い女....。
それぞれに、それぞれの事情があり、こんな時間に此処に居る。
その中の少し離れたテーブルに僕らと同じ、男の二人連れが見える。
ストーンウォシュの皮ジャンを着た男が、少し猫背をこちらに向け、煙草を
くゆらせている。
反対側に、ダンガリーの男が珈琲を啜っている。
直感的に、この二人がR32と512だな、と思った。
ダンガリーがR32だろう。あの手のmachineに乗る男にはあるパターンがあり、
この男はそのうちの典型的な一つのタイプだった。
機械に同化してしまい、自己主張を機械に代理させるようなタイプである。
日本人のカーマニアにはこういうタイプが多い。突出を避ける農耕民の発想。
対して、Ferrariに相応しい男は自から主張をするような奴だろう。
自動車をあたかも女を愛するかのように愛でる。昔のハードボイルドに出てくる
様なタイプだ。
この革ジャンの男はどうかは解らないが、少なくともFerrariを持つ事のできる
だけの財力が有るということだけは解る。それだけに、どことなくあのメルセデス
の男を連想させる雰囲気が有る。
「君の車は?」
S12の男が聞く。
しばらく、無言のままだったので、唐突な感じがした。
僕は、無言のまま視線を"7"に送る。
S12の男は、それに気づいたのか、
「ああ、あれ、スーパー7。ゼロヨン早いだろね。一発やろうか。」
男は元ゼロヨン族であるらしい。
だが、今のS12は、ストリート仕様といった感じである。
引退して、でも忘れられない熱さ。といったところか。
「いや、あれはゼロヨン向きじゃないんだ。」僕は答える。
本当は”スーパー7”じゃ無いんだけど。まあいいか。説明も面倒だ。
その時、ダンガリーと視線が合った。反射的に目を反らす。
彼は革ジャンに何かささやくと、煙草に火を点け、こちらに歩いてくる。
「よお、兄さんたち。」
背中から声を掛けられた形になったS12は、黙っていた。
「あれはあんたのかい。」
煙草を持った左手で"7"を指す。
僕は仕方なく頷く。面倒はお断りだ。
「警戒するなよ、俺は”族”じゃない。」なおもダンガリーは続ける。
それは解る。族とは異なる感じだ。いわゆる改造マニアだろう。
指先のオイル染み、薄汚い格好などでそう思う。
自分のマシンの馬力がなによりも自慢なのだろう、"7"を打ち負かして
仲間内で吹聴するのが目的かも知れない。
そんなエゴに付き合っている暇はない。
いまは「trip」の最中なのだ。
革ジャンがダンガリーの後ろに立った。
「よせよ。」左手でダンガリーの右肩に触れる。
「いいじゃないか。俺は、ただ,,,。」ダンガリーは言う。
「座ってもいいかな。」と言い、革ジャンは僕のとなりに座る。
ダンガリーは向かい側に座った
「『Breakfirst run』をやらないか。」唐突に革ジャンが言う。
「Breakfirst run!?」
確か、ネルソン・マンデラ以前の南アフリカ共和国でそんな遊びがはやった、と
聞いたことがある。土曜日の朝、一般国道をアパルトヘイトの支配者たちが
金に飽かしたマシンを連ね、朝食を食うために数百キロも走る、と。
アドヴェンチャー・クラブ(ACP)でアフリカを縦断してきた仲間の
横田もそんな事を言っていた。
この成り金風のF512の男、いかにもそれらしい発想だ。
「君は南アの名誉白人なのか?」僕は思わず尋ねた。
一瞬、目つきが険しくなる。どうやら図星のようだ。
かなり、危ない商売をしているに違いない。
「なんだ、そりゃ。」F512はわざとらしく薄笑いし、テーブルに身をのりだす。
「次のインターで降りると、峠に向かうWinding-roadがある。そこを登りきった所の
Restaurantがgoalでどうだろう。」
「最後に着いた奴が飯を奢るのか?」S12が言う。
512は煙草の煙を吐き出し、笑う。「それはどうでもいいさ。契機だから。」
「チャンス?」
「そうさ。 チャンス。」512は、繰り返す。
「せっかくの水曜日じゃないか。」
「・・・?。」僕は意味が分からない。
「俺達は『水曜日クラブ』だよ。」R32が言う。
確か、自動車雑誌の編集をしている奴に聞いたことがある。高級スポーツカーばかり
を連ね、水曜日の明け方に山を走る連中の事を。
このところ、仲間内では事故が多かった。
借り物のFerrari F40でそれに参加し、死んでしまったジャーナリスト。
あの事故は「原因不明」だった。
そして、911RSRを壊したヴィデオ・ジャーナリストも、事故は確か水曜だったよう
な...。
煙草を揉み消すと、512は静かに立ち上がった。
R32もそれに続く。
テーブルの中央に、捻じ曲がった吸い殻と、ひとすじの煙が残る。
それを見て僕はメルセデスのあの男を、ふと思う。
狂った欲望の捌け口。 妄想の決着。
主人のために燃え、そして使い捨てられる。
主人。master。
"Master"は誰だったのだろう。主導権を握るもの。
欲望の果てに、自滅していったあいつ。
その”欲望”は、だれかの意図が絡んでないか?
そして、それを操っていたのは...。
「あの男も、結局は...。」メルセデスの男を憐れむ。
牛丼屋のオレンジの看板がやけに眩しく感じる。柳の枝が微風にゆらぎ、水銀灯
の明かりを散らしている。
瀬田の立体交差を左折し、東名高速へと向かう。下りを走る車はまばらで、
空車の帰りタクシーの派手な行灯だけがぽつりぽつりと浮かんでは消える。
精霊流しのようだ。
緩い下りを5thでクルージング。3車線の真ん中を80km/hで流していると、
右サイド・ミラーにヘッドライトの青白い閃光が映る。
左車線に移ろうとする間もなく、右車線と左車線を風が吹きぬけた。
丸いテールランプが4個、並走している。右車線の方はR32のようだ。
テールランプの位置が高い。
左の方はどうやらFerrariのようだ。幅の広さからすると、512あたりだろう。
モーターボートのようなRB26DETTのサウンドと、甲高い12気筒がハーモニー。
Tenorとsoprano歌手の競演のようだ。
高速道路では奴等にはかなわない。何せ、こちらは旧式だからな。
やがて、Tenor&Sopranoのヴェル・カントは、フェイドアウトしていった。
もう、初秋のような澄んだ空が美しい。
漆黒から青、水色、橙、赤のグラディション。
アルミのボンネットにグラディションが映る。Kent-unitの振動で小刻みに揺れ
有機的なものを感じる。
Cyborg? いや、もっとPrimitiveだ。こいつは。あまりにFunkyすぎる。
その語感にふさわしいのは、garageに眠るHonda-unitの赤だろう。
幻想を打ち砕くかのように、バンカラなsoundが追い越して行く。
疾風 と言うよりは 洪水のような加速だ。「4気筒?...FJ20か?」
Ibory whiteの平たいボディ。「あれは、なんだ?」AE86か?
ウエッジ・シェイプのbodyがコーナーをトレースし、過ぎ去って行く。
4気筒特有のBeatが猫の喉鳴らしのようだ。
少し疲労を感じる。風に当たりすぎたようだ。Full-open-bodyは体力が要る。
やはり、こいつはスパルタンスポーツ。machineが乗り手を撰ぶ。
山間の小さなパーキングによせ、レストハウス沿いにPark。
アイドル・油圧・油温正常。水温正常。異音・異臭なし。
Made in U.K は、やはり神経を使う。下手をすれば命取りだ。
デフがねじ切れ、巻き込まれて下半身不随になった奴。
160kmでリアサスが折れ、酒匂川の鉄橋から落ちた奴。
みんな、いい奴だった。
イグニションを切る。わずかにディーゼリング。タペットの騒がしいノイズが
消え、耳鳴りのような感じ。
Runner's highのような、奇妙な浮遊感。
レストランに向かい歩く。手足がしびれて歩きにくい。
Drag less drag。Natural-High。
こんな事を言うと警察に捕まってしまうのだろうか。
レストハウスの淡黄色の電球が眩しい。
週末の昼間は家族連れのRVでごった返すParking-areaも空いている。
時間帯のせいだろう。
RVに乗せられている、あれほど惨めな男の姿はない。
内なる野生を押し殺し、女子供の奴隷となって。
そのやるせなさを嫌がらせと前車煽りで憂さ晴らし。
みっともない。よせばいいのに。
取留めもなくぼんやりしていると、見覚えのあるmachineに気づく。
白のmachineと、R32とFerrariだ。
白のmachineに近づいて見る。どうやら日産車のようだ。
低く構えたForm、太い排気管。改造車のようだ。
「何か。」背後から声をかけられ、硬直する。
「めずらしい車だね。」僕は答える。
その男は、メタルフレームの眼鏡をかけた中肉の青年だった。がっしりとした
日焼けの腕は屋外労働者を思わせ、しかし物腰や丸顔とどこかアンバランスな
感じがし、そこに僕は親しみを覚えた。
メタルフレームを見てメルセデスの男を思い出し、少し心が痛む。
地下トンネルのコンクリート柱に激突し、激しく潰れた白いメルセデス。
燃え盛る炎の中、断末魔の絶叫。
そんな悪夢を何度となく見たような気がする。
バックミラーに映る煙を見てその場から走り去ってしまったことを今でも悔やむ。
現場を見ていれば妄想に悩まされる事もなかったろう。
ふと、我に返る。男がいろいろmachineのことを話してくれている。
Nissan Sylviaだそうだ。S12型といい、FJ20Turboの最後の型らしい。
熱っぽく話す若さが眩しい。
話好きのようなので、レストハウスに誘う。
独り旅の途中のようで、退屈していたのだろう。饒舌だ。
しかし、いやな感じはせず、その事を不思議に思う。
この男の熱っぽさはMachineへの一途な想いを感じ、
それが共感を呼んでいるのかもしれない。
レストハウスは深夜の時間帯でセルフサーヴィスだ。
プラスチックのトレイに紙コップのコーヒーを載せ、代金をレジで払う。
制服の若い男が、眠そうな顔でコインを受け取った。
まばらにしか人がいないテーブルの窓際に座る。
男は斜向かいに座った。
電球色の蛍光燈が放つ黄色い、しかしタングステンのそれとは異なる
淡い光線の中で、心地よい疲労感に浸りながら僕は漂っていた。
郊外のファミリーレストランのような作りの店の中に何組かの人。
男女カップル、トラックの運転手風の男、一見不可解な初老の男と若い女....。
それぞれに、それぞれの事情があり、こんな時間に此処に居る。
その中の少し離れたテーブルに僕らと同じ、男の二人連れが見える。
ストーンウォシュの皮ジャンを着た男が、少し猫背をこちらに向け、煙草を
くゆらせている。
反対側に、ダンガリーの男が珈琲を啜っている。
直感的に、この二人がR32と512だな、と思った。
ダンガリーがR32だろう。あの手のmachineに乗る男にはあるパターンがあり、
この男はそのうちの典型的な一つのタイプだった。
機械に同化してしまい、自己主張を機械に代理させるようなタイプである。
日本人のカーマニアにはこういうタイプが多い。突出を避ける農耕民の発想。
対して、Ferrariに相応しい男は自から主張をするような奴だろう。
自動車をあたかも女を愛するかのように愛でる。昔のハードボイルドに出てくる
様なタイプだ。
この革ジャンの男はどうかは解らないが、少なくともFerrariを持つ事のできる
だけの財力が有るということだけは解る。それだけに、どことなくあのメルセデス
の男を連想させる雰囲気が有る。
「君の車は?」
S12の男が聞く。
しばらく、無言のままだったので、唐突な感じがした。
僕は、無言のまま視線を"7"に送る。
S12の男は、それに気づいたのか、
「ああ、あれ、スーパー7。ゼロヨン早いだろね。一発やろうか。」
男は元ゼロヨン族であるらしい。
だが、今のS12は、ストリート仕様といった感じである。
引退して、でも忘れられない熱さ。といったところか。
「いや、あれはゼロヨン向きじゃないんだ。」僕は答える。
本当は”スーパー7”じゃ無いんだけど。まあいいか。説明も面倒だ。
その時、ダンガリーと視線が合った。反射的に目を反らす。
彼は革ジャンに何かささやくと、煙草に火を点け、こちらに歩いてくる。
「よお、兄さんたち。」
背中から声を掛けられた形になったS12は、黙っていた。
「あれはあんたのかい。」
煙草を持った左手で"7"を指す。
僕は仕方なく頷く。面倒はお断りだ。
「警戒するなよ、俺は”族”じゃない。」なおもダンガリーは続ける。
それは解る。族とは異なる感じだ。いわゆる改造マニアだろう。
指先のオイル染み、薄汚い格好などでそう思う。
自分のマシンの馬力がなによりも自慢なのだろう、"7"を打ち負かして
仲間内で吹聴するのが目的かも知れない。
そんなエゴに付き合っている暇はない。
いまは「trip」の最中なのだ。
革ジャンがダンガリーの後ろに立った。
「よせよ。」左手でダンガリーの右肩に触れる。
「いいじゃないか。俺は、ただ,,,。」ダンガリーは言う。
「座ってもいいかな。」と言い、革ジャンは僕のとなりに座る。
ダンガリーは向かい側に座った
「『Breakfirst run』をやらないか。」唐突に革ジャンが言う。
「Breakfirst run!?」
確か、ネルソン・マンデラ以前の南アフリカ共和国でそんな遊びがはやった、と
聞いたことがある。土曜日の朝、一般国道をアパルトヘイトの支配者たちが
金に飽かしたマシンを連ね、朝食を食うために数百キロも走る、と。
アドヴェンチャー・クラブ(ACP)でアフリカを縦断してきた仲間の
横田もそんな事を言っていた。
この成り金風のF512の男、いかにもそれらしい発想だ。
「君は南アの名誉白人なのか?」僕は思わず尋ねた。
一瞬、目つきが険しくなる。どうやら図星のようだ。
かなり、危ない商売をしているに違いない。
「なんだ、そりゃ。」F512はわざとらしく薄笑いし、テーブルに身をのりだす。
「次のインターで降りると、峠に向かうWinding-roadがある。そこを登りきった所の
Restaurantがgoalでどうだろう。」
「最後に着いた奴が飯を奢るのか?」S12が言う。
512は煙草の煙を吐き出し、笑う。「それはどうでもいいさ。契機だから。」
「チャンス?」
「そうさ。 チャンス。」512は、繰り返す。
「せっかくの水曜日じゃないか。」
「・・・?。」僕は意味が分からない。
「俺達は『水曜日クラブ』だよ。」R32が言う。
確か、自動車雑誌の編集をしている奴に聞いたことがある。高級スポーツカーばかり
を連ね、水曜日の明け方に山を走る連中の事を。
このところ、仲間内では事故が多かった。
借り物のFerrari F40でそれに参加し、死んでしまったジャーナリスト。
あの事故は「原因不明」だった。
そして、911RSRを壊したヴィデオ・ジャーナリストも、事故は確か水曜だったよう
な...。
煙草を揉み消すと、512は静かに立ち上がった。
R32もそれに続く。
テーブルの中央に、捻じ曲がった吸い殻と、ひとすじの煙が残る。
それを見て僕はメルセデスのあの男を、ふと思う。
狂った欲望の捌け口。 妄想の決着。
主人のために燃え、そして使い捨てられる。
主人。master。
"Master"は誰だったのだろう。主導権を握るもの。
欲望の果てに、自滅していったあいつ。
その”欲望”は、だれかの意図が絡んでないか?
そして、それを操っていたのは...。
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