バス・ドライバー日記

深町珠

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7236D ,出発、進行! 人吉、定時!

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「猫ふんじゃった、ね、タマちゃんが軽井沢のホテルで弾いたんだって。」と、友里絵。にこに

こしながら。


由香「それで?」


友里絵「うけたんだけど、次の朝、ピアノにメモが置いてあって・・・。

「猫ふんじゃったは弾かないで下さい」



菜由「ははは。」


由香「ホテルじゃなー。」


友里絵「なんでも、皇太子様が・・と言うと、今の天皇陛下かな?が
泊まった場所なんだとか。」




真由美ちゃんは、にっこり「すごいところにお泊まりなんですね。」


友里絵「そういえば、そうかも。いままで気づかなかったけど。」

由香「ホント。そーいうとこに居そうだもんね。」


愛紗は思う。・・・確かに・・・。

実際、どういう人なのかまったく知らないのだった。
先輩の女子ドライバー、美和の話しでは
「すごい大学を出ているんだって」との事であるが・・・

美和の母は大学の職員である。

それで、どこかで調べたのかもしれないけれど
タマちゃん本人は「そんなことないですよー」との事(^^)。






列車の運転士は、ベテランのようで
白髪交じりの短髪、日焼けの顔、眼鏡。
年季の入った制帽を被っている。

発車が近くなり、駅の方から歩いてきた。
真由美ちゃんを見かけて、左手を上げて挨拶。

真由美ちゃんも、お辞儀。


「知ってる人?」と、友里絵。


真由美ちゃんは「はい。よく列車で会います」


運転士は、運転室ドアを開けて
ブレーキ・ハンドルに鍵を挿して。ハンドルを手前に引いた。
常用最大位置である。


そろそろ出発なのだろう。



車内に、録音の女声アナウンスが流れる。


♪ぴんぽん♪ と、チャイムの音。

ーーーこの列車は、湯前ゆきですーーー。
と、のんびりした声。


ローカル線なので、運賃箱と料金表があるのは
バスと同じ。

レールバス、なんて言う言い方もある単行車両。


ギアをつながずに、運転士さんがノッチを進めると
エンジンの回転だけ上がる。

この辺りが、バスによく似ている。




「この路線も、車掌を目指すなら、乗務する事になりますね」と、真由美ちゃん。


菜由は「今は、車掌さんじゃないの?」


「はい、車掌補になります」と、真由美ちゃん。


愛紗は「いろいろあるわね。乗客案内掛とか。」

真由美ちゃんは「はい。だんだん、経験を積んでいって試験を受けます。」








乗務員のみならず、全てが経験を要する職種で
乗客案内掛=>車掌補=>車掌=>専務車掌
と、なるように、いろいろある車掌職でした。

もともと、国鉄と郵便は
過疎地域への雇用促進が主目的だったので
農業や、漁業のような仕事とは違う職種の
地方への展開のため、だったので
こういう仕組みを取っていて。

採算、と言うよりは
お互いの助け合い、と言う意味合いが強いものであった。

簡単に言うと、都会で儲けたお金を分配して地方に分けると言う
税に似たようなもので運営を考えていた。

それは、今でもそうで
例えばJRは、東海道新幹線の利益を他各社に分配している。
他社は、それがないと採算割れになったりもする。







運転士さんがマイクで「湯前ゆき、発車します」と、シンプルなアナウンス。

駅の案内放送は、聞こえなかったようだった。



運転士さんが、ホームの乗降確認をして、ドア・スイッチを下げた。


「面白いね」と、由香。
「ワンマンバスみたい」と、友里絵。


真由美ちゃんは「特急でも一部ありますね。私達が検札はしますが、車掌業務は
しない列車」


菜由「そういうのがあるの」


「はい、2両の、平日の昼間の列車などはそういうものもあります。
ワゴンサービスはあるんですけど」と、真由美ちゃんはにこにこ。


13時15分。列車の発車時刻である。



ドアを閉じた運転士は、出発信号機を確認。

出発、進行!


ギア、変速段に入れて。


ブレーキ・ハンドルを緩める。


ちょっと、車両が動き出す。


ノッチを進める。


がらがらがら・・・と言うエンジン音が少し高くなり
ゆっくりゆっくり。

ディーゼル・カーは
走り出す。



ゆらゆら、と・・・空気バネなので
ふんわり、ふんわり。
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