バス・ドライバー日記

深町珠

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767A、新横浜、定発!

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愛紗も、部屋着、と言うか
さっき着てたジャージに着替える。


「それ、学校の体操着じゃない?」と、菜由

愛紗は「そう」

友里絵は「いいよね。なんか懐かしい。あたしも、持ってこようかなー。」


由香「友里絵が着ても、そのまんま中学生だよね」



「ちょっとは成長してるよー。」と、友里絵。にこにこ。


由香は「どこが?」


友里絵は「見えないトコ」


菜由は「見えないとこか。ま、いっか。友里絵ちゃんはそれで行く?」


友里絵は「だって持ってないもん。乗務終わってすぐ来たから。」
由香は「キミが急がせるからだろ」と、笑顔で
友里絵をつっついた。


わはは、と、友里絵も笑いながら「じゃ、ドテラでいーや」

由香は「丹前だってば」


と、友里絵と由香は浴衣ルックで。
愛紗と菜由はジャージ。なんとなく修学旅行みたいな4人は


305を出て。ランドリーを見て。「あ、もう終わってるかな」と。


乾燥機の中にある洗濯物を持って、一旦部屋に置いてから


1階の食堂へ行った。
















同じ頃、こだま767号、名古屋行きは
新横浜を出た頃だった。



「新横浜、なつかしいな。」

以前は、横浜に住んでいた事もあり
日吉、大倉山、青葉台。

あの辺りは思い出が多い。


その頃の新横浜は何も無く、田んぼばっかりで

大倉山から歩いて、新横浜駅に向かっても
迷う事はなかった。

彼が子供の頃の話だ。


「随分、時の経つのは早いものだな」と、思う。

それから兄が、大倉山の寮に住む事があったり。
自分自身が、青葉台の、これまた寮に住む事があったりで
この辺りは、なんとなく思い出深い。


つい先日も、横須賀YRPで仕事をした時に
新横浜で下車して通っていた事があった。

「あれは、早稲田の仕事だったかな・・・。」
所謂AI、なんて言葉が流行る前に

人間の感情=視聴覚 の関係を
情報工学・生理学モデルで学習、なんて仕事だった。


Matlabを使ったシミュレーション、だったっけ。


そんな風に、回想する彼を乗せて
こだま767号は、加速を続ける。

すぐに、200km/hを超え、265に達する。


深町は、すこしまどろみながら思う。

「まあ、日生くんもまだ、夢を見ている世代なんだな」

彼自身は、別に職業を選んだつもりはなく・・・・。
なんでもいいと思っていた。

たまたま、社会の変化で 正規雇用=>非正規が
普通になったので

自分に出来る仕事をしていた結果、今の彼があるだけで。

「どちらかと言うと、バスの仕事は好きだったな。」


単純に、送り届けるだけの仕事。
そこには嘘はないから。


でも・・・そこに、「嘘」をついて
人を貶める連中が出てきて。それで嫌になったのは、ある。


研究の世界でも、そういう連中もいるけれども・・・・
研究結果は、嘘はない。


でもまあ、その結果が評価されないことはある。
ふつうの人には解らないから、ごまかし、ごまかしで
生活の糧を得ている、ニセ研究者たちが多数居て。

それで、深町たちが必要な訳だ。


正規、であり続ける為に
正しい事を言わず、上司、人事権を持った人に従ってしまうから
研究が失敗する訳だ。



「それよりは、バスの方がまだ、まし」かもしれないが・・・・。



それでも、クレーマーや当たり屋からの護身は必要だし・・・。

「女の子ドライバーだと、本当に護身が必要なこともあるな。」




深町自身、男ではあるが護身を要したことは何回もある。

バスの乗務では、乗客。


ある日の乗務で、心を少し病んでいる子供達が乗ってくる路線があった。
そこに当たった。

その子たちが騒ぐので、睡眠不足で疲れていた彼は
「静かにしてもらえる?」と言ったが


「障害者だから仕方ないんだ」と、言う。


それが解っていれば、仕方ない事はない筈だ。


そればかりか、信号待ちをしていた時に
その少年のひとりが、彼の後ろから頭を殴ったりしたので

彼も「危険だから降ろすよ」と言って
交番につきだそうとした。

ところが・・・その少年は、バスの手摺りに頭突きを繰り返す。


制御が出来なくなっている訳だ(境界型、と言われる状態)
深町は、その方面の知識を持っていたので「これは危険」とばかりに
手を触れず、暴行されないように注意していたら
途中の停留所で勝手に降りていってしまったり。


そんなこともあった。


「あれが日生くんだったら・・・・。」と、思ったりする。
まあ、女子ドライバー誰でも無理だろうし。


そういう事を思うと、野田の気持もよく判る。

「観光バスくらいが無難だよな」


実際、女子ドライバーは高速バスや、長距離バスが殆どだった。
そういう路線には、あまり問題もないし
ドライブレコーダーが付いているからだ。




「危険、と言ってもなぁ・・・・。」本当に、ジャングルで闇討ちされるように
後ろから襲われたらひとたまりもない。


路線バスとは、そういう危険を孕んでいる仕事なのだ。



それらは全て「愛」のない人々が起こす事だった。

仕事にしても、昭和まではそんなことはなく
「不正」をしない。大人はそういう者だった。

今では、そんな人は少ない。ごく一部の研究者くらいだ。
「不正」をしたら、自分自身が気分が悪い。

そんな人も少ない。反対に「みんながしている通りにしないと怖い」
なんて人のほうが多い。


「そういう世の中から変えないと」婚姻などはとてもも無理だと深町は思っていたから
これまで未婚で居た。


もし、自分の恋人が酷い目にあったら。
たぶん、自分は・・・・法的にもその対象を破壊しようとするだろう。
けれども、日本全体がそうだったら。

もう、007になるしかないだろう(笑)。と思う。


そんなことは不可能だ。


だから、友里絵たちが愛らしくても、見守ってはあげようと思うが
深入りはしないようにしていた。



母親が好きな訳でもなかった。
ただ、身寄りがないから助けてあげただけ、だ。



それが、人への「愛」だと深町は思う。




















指宿の友里絵たちは、バイキングの夕食を目前に・・・。

「さ、食べるぞー。」と、友里絵。

友里絵はパスタが好きなので・・・・。スパゲティのコーナーを見ると
なんと。
チーズ、そのままをくりぬいてお皿にしてある。
そこに、熱いパスタを入れて、絡めてあるのだが・・・。その香りだけでも、美味しい。

「すごーい。ゴージャス!」と、友里絵は喜んで
それを、お皿一杯に取った。


「他にもいろいろあるぞ」と、由香。



友里絵は「いーの!これだけでも十分」と、にこにこ。



「まあ、いっか」と、由香。



シチュー、カレー、マカロニサラダ。そうそう。ショート・パスタの和え物もある。
和食では、このあたりの名物のきびなごのお刺身、炭火焼き。
おくらの和え物。おくらも名物である。
五穀ごはん、玄米ごはん。


山菜の煮物。漬物。

お肉は、名物の黒豚ステーキ、ふつうのビーフステーキ。

おくらロールパン、ふつうのイギリスパン。

麦味噌、赤味噌、白味噌のお味噌汁、ポタージュ、コンソメ。


五目焼きそば、広東麺。
麻婆豆腐。回鍋肉。




「すごいね」と、菜由も驚く。

「うーん。想像以上」と、愛紗。


「こんなに食べきれないよ」と、友里絵。


「明日もここだから」と、愛紗。



「よーし、食べるぞー。」と、友里絵。
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