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国道を走る。
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愛紗は、それで実感する。
自分は、知らないうちに守られているんだって事を。
でも、なんとなくうんざり(笑)と言う気持もあった。
鉄道運転士に憧れたのも、路面電車の運転士も
結局、自分はその凛々しい服装だけを見ていたのだろうと
気づく。
そんな、女の子っぽい空想だけなら
せいぜいガイドくらいが、いいのかもしれない。
そんな風に思って、少しがっかりしたのもあった。
現実は厳しい。
と、森のバスはスムーズに走り、国道に乗って西へ。
「本当は駅まで行くんだが、もうお昼近いから
車庫に戻って、車庫入れをしてから
到着点呼だな」と、森。
愛紗は「はい」と、少し力なく応えたので
森は「自信なくなったか?誰でもそうだ。自信過剰より
余程いいぞ。最近入ってくる若いドライバーのほとんどが
漫画と間違えているから、怖いって判らないで事故起こす」
と、森は、近年入ってくるドライバが数日で辞めていく実情を嘆いた。
「わかんない、想像力がない。まあ、仕方ない。生まれた時から親が
監視して、危ないことはさせない。保育園に入れて、幼稚園。
家じゃゲームかアニメ。それで危ない経験なんてできないからなあ。
だから、大事故を起こしても平気だ。金払えばいい、そんな顔で。」
それで、辞めていくのだと。
「それよりは君はまともだ。そういうもんだよ人間。してない事は判らないから
不安で当然だ。あの、定年で辞めた指令の坂江さんもね、そう言ってたな。
『私だって怖い事はある』と」
と、森は言った。
坂江は、先日定年で辞めた叩き上げの指令で、おそらく学歴なんて中卒か
そのくらい。
でも、安全については叩き上げで、筋金入り。
見た目も凄みがあり、アル・カポネみたいな感じだったと
愛紗は思い出す。
でも、優しい人で、愛紗たちガイドにも頼れるお父さんみたいで
人気があった。
無理強いはしない、曲がったことはしない。
坂江も、そういえば誰にも優しかった。無理はさせなかった。
そういうものなんだろう、人の上に立つ人。
そういう凄みがあって、ドライバーの一部は怖れていた。のは
ずるい事をすると、とても怖いのだそうだ。
どう怖いのか、判らないが(笑)。
深町も、そういえばにこにこしてお父さんみたいに接していたような
記憶がある。
クレーマー事件に巻き込まれても、坂江が弁護してくれて
助かったりした事もあったと聞く。
それは、正邪を見極める人だった、坂江の人徳だ。
今は、契約で、アルバイトではなく路線に乗務している。
体を悪くしているが、それでも乗るのは人員不足だからだ。
森のバスは快調に加速して、60km/h。
西沢交差点を通過。
森は「そうそう、さっきのたまちゃんのクレーマー事件ね、事務所に
怒鳴り込んできたのは
ここで、たまちゃんのバスの前に割り込んだ奴だったんだな。
黒い、日産デュアリスだったっけ。
醜く太っていた黒眼鏡の男で、髭を汚く生やしていて
半ズボンにサンダル。大宮ナンバーだった。
その時の指令が坂江さんだったな」と、森。
愛紗は「どうしてクレームになったのですか?」
森は、3車線の真ん中から右に移る。
「さっきの交差点を左折して、左折で、このバスみたいに走ろうとした。
そこに、そのクレーマーが前に割り込んだ」
愛紗は「左折優先」
森は笑って「そうなんだ。その時指令補佐だった大竹も怒っていた。
向こうが悪いって。でもまあ、それで道をゆずったたまちゃんは
3車線の中央レーンを走る。それでも、そのクレーマーは
バスの前に入ってゆっくり走って。」
愛紗は「低速度妨害」
森は笑って「その通りなんだが、そういうものだ。そういう人は。
それで、たまちゃんはE3491、当時乗っていたそれを
右レーンに移した。車庫に右折するから。ちょうど今と同じところだ。
そこで、クレーマーはバスの前に割り込んで急ブレーキを掛けた。」
「優先者妨害、危険行為」
森は笑って「そうなんだ。でもまあ、そういう男は頭がヘンなんだな。
相手にしないたまちゃんに更に怒って、車庫まで追いかけてきて
事務所に怒鳴り込んだ、と言う訳。
まあ、法律はそうなんだけど、日本の法律って思いやる人の為にあるから
悪い人に甘いところもある。そういう時でも殴ったらダメだしな。」と、森。
「クレーマーは、たまちゃんが理路整然と今の君みたいに
事務所で説明したが、引っ込みが付かなくなったのと
クレーマーよりたまちゃんの方が大柄で、殴り合いになったら負けると
実感したんだろう。土下座しろと吠えた。後は、さっきの通り。」と、森は笑う。
そういう時、女の子は不利。
言外に言っているように愛紗には聞こえた。
森は「まあ、たまちゃんも若かった。理論的に問い詰めたら
逆上する。それがまだ判っていなかったんだろう。人間ってバカなんだよ、基本は。
あいつは利口だから、それが判らないんだろう」と、森は言った。
理論的誤りなら正せばいい。そう、愛紗も学校とか
家庭で習っていたが
そうでない人間もいる。そういう人も乗るのが路線バスだ。
そう、実感するコトバだった。
自分は、知らないうちに守られているんだって事を。
でも、なんとなくうんざり(笑)と言う気持もあった。
鉄道運転士に憧れたのも、路面電車の運転士も
結局、自分はその凛々しい服装だけを見ていたのだろうと
気づく。
そんな、女の子っぽい空想だけなら
せいぜいガイドくらいが、いいのかもしれない。
そんな風に思って、少しがっかりしたのもあった。
現実は厳しい。
と、森のバスはスムーズに走り、国道に乗って西へ。
「本当は駅まで行くんだが、もうお昼近いから
車庫に戻って、車庫入れをしてから
到着点呼だな」と、森。
愛紗は「はい」と、少し力なく応えたので
森は「自信なくなったか?誰でもそうだ。自信過剰より
余程いいぞ。最近入ってくる若いドライバーのほとんどが
漫画と間違えているから、怖いって判らないで事故起こす」
と、森は、近年入ってくるドライバが数日で辞めていく実情を嘆いた。
「わかんない、想像力がない。まあ、仕方ない。生まれた時から親が
監視して、危ないことはさせない。保育園に入れて、幼稚園。
家じゃゲームかアニメ。それで危ない経験なんてできないからなあ。
だから、大事故を起こしても平気だ。金払えばいい、そんな顔で。」
それで、辞めていくのだと。
「それよりは君はまともだ。そういうもんだよ人間。してない事は判らないから
不安で当然だ。あの、定年で辞めた指令の坂江さんもね、そう言ってたな。
『私だって怖い事はある』と」
と、森は言った。
坂江は、先日定年で辞めた叩き上げの指令で、おそらく学歴なんて中卒か
そのくらい。
でも、安全については叩き上げで、筋金入り。
見た目も凄みがあり、アル・カポネみたいな感じだったと
愛紗は思い出す。
でも、優しい人で、愛紗たちガイドにも頼れるお父さんみたいで
人気があった。
無理強いはしない、曲がったことはしない。
坂江も、そういえば誰にも優しかった。無理はさせなかった。
そういうものなんだろう、人の上に立つ人。
そういう凄みがあって、ドライバーの一部は怖れていた。のは
ずるい事をすると、とても怖いのだそうだ。
どう怖いのか、判らないが(笑)。
深町も、そういえばにこにこしてお父さんみたいに接していたような
記憶がある。
クレーマー事件に巻き込まれても、坂江が弁護してくれて
助かったりした事もあったと聞く。
それは、正邪を見極める人だった、坂江の人徳だ。
今は、契約で、アルバイトではなく路線に乗務している。
体を悪くしているが、それでも乗るのは人員不足だからだ。
森のバスは快調に加速して、60km/h。
西沢交差点を通過。
森は「そうそう、さっきのたまちゃんのクレーマー事件ね、事務所に
怒鳴り込んできたのは
ここで、たまちゃんのバスの前に割り込んだ奴だったんだな。
黒い、日産デュアリスだったっけ。
醜く太っていた黒眼鏡の男で、髭を汚く生やしていて
半ズボンにサンダル。大宮ナンバーだった。
その時の指令が坂江さんだったな」と、森。
愛紗は「どうしてクレームになったのですか?」
森は、3車線の真ん中から右に移る。
「さっきの交差点を左折して、左折で、このバスみたいに走ろうとした。
そこに、そのクレーマーが前に割り込んだ」
愛紗は「左折優先」
森は笑って「そうなんだ。その時指令補佐だった大竹も怒っていた。
向こうが悪いって。でもまあ、それで道をゆずったたまちゃんは
3車線の中央レーンを走る。それでも、そのクレーマーは
バスの前に入ってゆっくり走って。」
愛紗は「低速度妨害」
森は笑って「その通りなんだが、そういうものだ。そういう人は。
それで、たまちゃんはE3491、当時乗っていたそれを
右レーンに移した。車庫に右折するから。ちょうど今と同じところだ。
そこで、クレーマーはバスの前に割り込んで急ブレーキを掛けた。」
「優先者妨害、危険行為」
森は笑って「そうなんだ。でもまあ、そういう男は頭がヘンなんだな。
相手にしないたまちゃんに更に怒って、車庫まで追いかけてきて
事務所に怒鳴り込んだ、と言う訳。
まあ、法律はそうなんだけど、日本の法律って思いやる人の為にあるから
悪い人に甘いところもある。そういう時でも殴ったらダメだしな。」と、森。
「クレーマーは、たまちゃんが理路整然と今の君みたいに
事務所で説明したが、引っ込みが付かなくなったのと
クレーマーよりたまちゃんの方が大柄で、殴り合いになったら負けると
実感したんだろう。土下座しろと吠えた。後は、さっきの通り。」と、森は笑う。
そういう時、女の子は不利。
言外に言っているように愛紗には聞こえた。
森は「まあ、たまちゃんも若かった。理論的に問い詰めたら
逆上する。それがまだ判っていなかったんだろう。人間ってバカなんだよ、基本は。
あいつは利口だから、それが判らないんだろう」と、森は言った。
理論的誤りなら正せばいい。そう、愛紗も学校とか
家庭で習っていたが
そうでない人間もいる。そういう人も乗るのが路線バスだ。
そう、実感するコトバだった。
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