バス・ドライバー日記

深町珠

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恋のムーンライト

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森は、意外な理由を述べた。

「そういうのを、考えると事故が増えるんだ」

それで、嫁探しも?


愛紗は、安全に気を使う姿勢に感銘を受けた。

そこまでしないとダメなのか。

それでも事故は起こる。



「その時もな、岩市がそんな事言わなければ良かったんだ。
女の子たちが浮き足立つ事もなかった。で」

森は事故を語った。

「深町の乗っていた風船ラッピングのバス、7953が
非番の時に、なぜか恵美ちゃんががそれを借りたがった。

理由は知らないが、まあ、同じものに触れたいなんて
気持もあったのだろう。

それで。」


集中力を欠いた彼女は、なんでもない交差点で右折時に
直進車の前を、何故か通り

直進車は、バスの左中扉の後ろに衝突した。


まあ、双方怪我はない程度の事故ではあったが。


愛紗は思う。

ひょっとして、それをきっかけにしたい、とでも?
女の子は時々そういう事をするが。
まさか、ね。

ウェットショートヘアの、ダンサーみたいに活発で
華やかな恵美を想像すると、もしかして、と
思わないこともなかった。



森は「まあ、それでも。処分にはならなかった。
会社も、査問委員会には掛けなかった。」


愛紗は「そんなものがあるんですか?」


森は「うむ。路線バスは国の法律で出来ているから、事故が
起こると国に報告しないとならない。監査が入る。」


そんなに。


愛紗は、とんでもない仕事を選んでしまったかな、と
少し後悔。


森は「でもな、女は男と違うから、気が散り易い。それを
会社もわかっているから、あまり無理はさせないんだ。向き不向きは
どうしてもある。」


守られているんだ、と愛紗は
有難いと思うけど

女に生まれたくなかった、とも思う。


見かけ、可愛らしいと云われても

その為に、生まれてきただけでもない。


奇妙な構造の体のせいで、精神も不安定になるなら
やっぱり、ドライバーはしないほうがいいんだろうか、なんて
思ったりもする。

森は「だから、家庭が必要なんだよ。恵美だって、誰かがそばに居れば
たまちゃんに気を寄せたりしない。そういうもんだ。」と、森は言ったが


愛紗には、それは男の考えみたいにも感じられた。

女って、もう少し思う時は徹底的に思う。

けど、終わるとさっぱり忘れる(笑)

男は反対で、ゆるーくずーっと思う。

そういう感じにも見えた。


「さ、少し走ろう、話し過ぎたな。まあ、走り出したら前を見ろ。
交差点でもな、停まるまでは停まる事に集中しろ。
上手く交通の流れに乗ろう、交差道路の切れ目を読もうなんて
思う前に、安全に停めろ。それが路線バスだ。」


愛紗は「はい。」

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