7 / 328
陰謀もある
しおりを挟む
森は戻ってきて「ああ、そうか。ありがとうね。みわちゃん」とにこにこ。
人のいいおじさん。
愛紗は点検票を見て「クリップボルトの緩み」を気にすると
森は「ああ、まず緩む事はないし、緩んでても
人力じゃどうしようもないから、朝、時間があれば
見てもいいな。ナットを締める方向で軽く叩いて
澄んだ音ね。聞いてみると。」と、叩くと
金属音がした。
それで、3452号の真向かいにある
廃車になったバスにちょっと移動して
緩めてあるボルトを叩く。
ぼよん、と、鈍い音。
「それとタイヤだな。空気抜けてると」と
バスの後ろに転がっている、古タイヤを叩くと
ぼこ、と言う音がして。
こんなものだ。と。
みわは、と言うと
事務所の方に歩いていった。
後姿は、凛々しくてカッコいいと
愛紗は思う。
「ああ、暑いから走ろう。」と、森は
3452号に戻り、愛紗にエンジンを掛けさせようとして
「その前に、エンジンルームの蓋を締めるが
言い忘れていたが、ファンベルトの緩みはいつも見ておいて。
」
と、ハンマの先でベルトを押して
「このくらい緩みがないと、エンジンが熱くなると伸びるから、金属が。
下で締まってるから、上に伸びるので
ベルトが締まる。あまり気にして締めると
切れる。」と
ベルトテンショナーの位置を示した。
「この長ボルトを見れば判ると思うが、締めると
そっちへ動く。単純だな。」と、森は言い
それで、向かいにあったE7953を見て
「この、クランクナットを悪戯で緩める奴も居る。
深町もな、妬まれて。このナットを緩められて。
まあ、バンパー外さないとできないから、工場でやらないなら
指令が、夜隠れてやったんだろう。」と。
愛紗は驚き「そんなこと。」と、思ったが
女の子に親しまれる深町を、そういう目で見る人も
いたのは事実らしいことも知っていた。
ガイドたちの他愛無い遊びが、思わぬ所で迷惑を
かけていたことになる。
森は回想する「あれは、通勤バスだった。この車両を最初に、横浜から
配置転換になって、深町が担当した。
普通、新し目のバスを若手が担当することはない。
和田でさえ、この3452くらいの、20年前クラスだ。
それは、社長が目を掛けていたからで
指令補助の川本は、自分が助役になりたいから
それを心配したんだろう。まあ、たまちゃんは
元々いつか研究所に戻るつもりだったんだが。
それで、夜勤の時にバンパーを外してまで
川本がやった。
昼間、バンパーを外したのは
整備の当時の工場長だ。
予算を握られてるので逆らえないし
ヘタをすると転勤だ。
」
酷い。と、愛紗は憤慨した。
「お客さんに迷惑が掛かるし、事故だって。」
森は頷き「深町はしかし、運転が上手いしエンジニアだから
バスの異変に気づいた。水温が異常に上がるし
夏だったのにクーラーも効かない。
でも、山の途中にあるコンピュータ工場、NECのね、あそこまで
行かないとならない。
気づいたのは登攀しているときだった。
平地ではほとんどエンジンを回さない運転だったから
そこで気がついた。」
愛紗は「それで、どうしたんですか?」
森は「うん、無線で会社を呼び、終点に整備を待機させた。
私も聞いておって、終点で待っていた。
それから、クーラーを切り、お客さんに事情を話して
ヒータを入れ、窓を開けた。
ほとんど上りきっていたから、これで終点まで着いた。
お客さんを下ろして、バスをロータリーに入れると、
見事に緩んでいた。クランクナットがな。
外れない程度に。前日、バンパが外れていたのを
深町は知っていて。
そこにいたつなぎ服姿の川本に「なにをしてるんですか?」と
聞いた。
深町は、その事を指令の野田に言った。」
愛紗は「それでどうなったんですか?」
森は「ふつう、エンジンを壊すと始末書だが、その話を、まあ
野田も偉かった。ちゃんと誤魔化さずに本社に報告した。
川本の一存でするほど、指令補助は暇じゃない。
たぶん、当時の所長、岩市の指示だろうと思った。
それでかどうか知らんが、岩市は定年をとっくに過ぎているから
大岡山から居なくなった。懲戒かもしれない。
工場長もそれで変わったのだが、彼はもう定年だから。」
と。
愛紗は「そんな事があるなんて。」
森は「まあ、男の嫉妬って怖いんだな、特に岩市みたいな男は
正義がない。本社としても何か理由をつけて退職させたいと思っていたのだろうね。」
と。
それだけじゃないが、と、森も言い
「さあ、暑いからエアコン入れて走ろうよ。」と
愛紗に、エンジンフードを閉めさせ、エンジンを掛けさせた。
フードを閉めると、電気のスイッチは自動的に入るように出来ている。
愛紗は、教習所で習ったように
運転席に向かい、ギアをニュートラル確認した。
森は「これは空気シフトじゃない、機械式だからいいが。
リモコンのものは、空気が抜けるとギアが抜けなくなる。
エンジンを掛けないと空気が溜まらないから、あの手は
ギアを入れて停めない。」と言った。
それは教習所では教えない。
「まあ、こういう機械式がいいが、ぶらぶらして判り難い。
エンジンも揺れるしな。ながいロッドでつないでいるから。
左と右は、押し付ければ入る。問題は2だな。
真ん中だから。どうしても判らなければ
一度5に入れてみて、角に沿って戻すと良い。
5なら、万一ヘンに入ってもバスは動かない。
1だと、暴走事故になる。」
と、森は淡々と述べた。
「まあ、これからみんな空気になるから、気にしなくていい。
クラッチも空気、ハンドルはパワー。
女の子でも乗れる。」と、森は笑った。
人のいいおじさん。
愛紗は点検票を見て「クリップボルトの緩み」を気にすると
森は「ああ、まず緩む事はないし、緩んでても
人力じゃどうしようもないから、朝、時間があれば
見てもいいな。ナットを締める方向で軽く叩いて
澄んだ音ね。聞いてみると。」と、叩くと
金属音がした。
それで、3452号の真向かいにある
廃車になったバスにちょっと移動して
緩めてあるボルトを叩く。
ぼよん、と、鈍い音。
「それとタイヤだな。空気抜けてると」と
バスの後ろに転がっている、古タイヤを叩くと
ぼこ、と言う音がして。
こんなものだ。と。
みわは、と言うと
事務所の方に歩いていった。
後姿は、凛々しくてカッコいいと
愛紗は思う。
「ああ、暑いから走ろう。」と、森は
3452号に戻り、愛紗にエンジンを掛けさせようとして
「その前に、エンジンルームの蓋を締めるが
言い忘れていたが、ファンベルトの緩みはいつも見ておいて。
」
と、ハンマの先でベルトを押して
「このくらい緩みがないと、エンジンが熱くなると伸びるから、金属が。
下で締まってるから、上に伸びるので
ベルトが締まる。あまり気にして締めると
切れる。」と
ベルトテンショナーの位置を示した。
「この長ボルトを見れば判ると思うが、締めると
そっちへ動く。単純だな。」と、森は言い
それで、向かいにあったE7953を見て
「この、クランクナットを悪戯で緩める奴も居る。
深町もな、妬まれて。このナットを緩められて。
まあ、バンパー外さないとできないから、工場でやらないなら
指令が、夜隠れてやったんだろう。」と。
愛紗は驚き「そんなこと。」と、思ったが
女の子に親しまれる深町を、そういう目で見る人も
いたのは事実らしいことも知っていた。
ガイドたちの他愛無い遊びが、思わぬ所で迷惑を
かけていたことになる。
森は回想する「あれは、通勤バスだった。この車両を最初に、横浜から
配置転換になって、深町が担当した。
普通、新し目のバスを若手が担当することはない。
和田でさえ、この3452くらいの、20年前クラスだ。
それは、社長が目を掛けていたからで
指令補助の川本は、自分が助役になりたいから
それを心配したんだろう。まあ、たまちゃんは
元々いつか研究所に戻るつもりだったんだが。
それで、夜勤の時にバンパーを外してまで
川本がやった。
昼間、バンパーを外したのは
整備の当時の工場長だ。
予算を握られてるので逆らえないし
ヘタをすると転勤だ。
」
酷い。と、愛紗は憤慨した。
「お客さんに迷惑が掛かるし、事故だって。」
森は頷き「深町はしかし、運転が上手いしエンジニアだから
バスの異変に気づいた。水温が異常に上がるし
夏だったのにクーラーも効かない。
でも、山の途中にあるコンピュータ工場、NECのね、あそこまで
行かないとならない。
気づいたのは登攀しているときだった。
平地ではほとんどエンジンを回さない運転だったから
そこで気がついた。」
愛紗は「それで、どうしたんですか?」
森は「うん、無線で会社を呼び、終点に整備を待機させた。
私も聞いておって、終点で待っていた。
それから、クーラーを切り、お客さんに事情を話して
ヒータを入れ、窓を開けた。
ほとんど上りきっていたから、これで終点まで着いた。
お客さんを下ろして、バスをロータリーに入れると、
見事に緩んでいた。クランクナットがな。
外れない程度に。前日、バンパが外れていたのを
深町は知っていて。
そこにいたつなぎ服姿の川本に「なにをしてるんですか?」と
聞いた。
深町は、その事を指令の野田に言った。」
愛紗は「それでどうなったんですか?」
森は「ふつう、エンジンを壊すと始末書だが、その話を、まあ
野田も偉かった。ちゃんと誤魔化さずに本社に報告した。
川本の一存でするほど、指令補助は暇じゃない。
たぶん、当時の所長、岩市の指示だろうと思った。
それでかどうか知らんが、岩市は定年をとっくに過ぎているから
大岡山から居なくなった。懲戒かもしれない。
工場長もそれで変わったのだが、彼はもう定年だから。」
と。
愛紗は「そんな事があるなんて。」
森は「まあ、男の嫉妬って怖いんだな、特に岩市みたいな男は
正義がない。本社としても何か理由をつけて退職させたいと思っていたのだろうね。」
と。
それだけじゃないが、と、森も言い
「さあ、暑いからエアコン入れて走ろうよ。」と
愛紗に、エンジンフードを閉めさせ、エンジンを掛けさせた。
フードを閉めると、電気のスイッチは自動的に入るように出来ている。
愛紗は、教習所で習ったように
運転席に向かい、ギアをニュートラル確認した。
森は「これは空気シフトじゃない、機械式だからいいが。
リモコンのものは、空気が抜けるとギアが抜けなくなる。
エンジンを掛けないと空気が溜まらないから、あの手は
ギアを入れて停めない。」と言った。
それは教習所では教えない。
「まあ、こういう機械式がいいが、ぶらぶらして判り難い。
エンジンも揺れるしな。ながいロッドでつないでいるから。
左と右は、押し付ければ入る。問題は2だな。
真ん中だから。どうしても判らなければ
一度5に入れてみて、角に沿って戻すと良い。
5なら、万一ヘンに入ってもバスは動かない。
1だと、暴走事故になる。」
と、森は淡々と述べた。
「まあ、これからみんな空気になるから、気にしなくていい。
クラッチも空気、ハンドルはパワー。
女の子でも乗れる。」と、森は笑った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
DiaryRZV500
深町珠
青春
俺:23歳。CBX750F改で峠を飛ばす人。
Y:27歳。MV750ss、Motoguzzi850,RZ350などを持っていた熱血正義漢。熱血過ぎて社会に馴染めず、浪人中。代々続く水戸藩御見医の家のドラ息子(^^:。
Nし山:当時17歳。RZ250。峠仲間。
などなど。オートバイをめぐる人々のお話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
タビスルムスメ
深町珠
青春
乗務員の手記を元にした、楽しい作品です。
現在、九州の旅をしています。現地取材を元にしている、ドキュメントふうのところもあります。
旅先で、いろんな人と出会います。
職業柄、鉄道乗務員ともお友達になります。
出会って、別れます。旅ですね。
日生愛紗:21歳。飫肥出身。バスガイド=>運転士。
石川菜由:21歳。鹿児島出身。元バスガイド。
青島由香:20歳。神奈川出身。バスガイド。
藤野友里恵:20歳。神奈川出身。バスガイド。
日光真由美:19歳。人吉在住。国鉄人吉車掌区、車掌補。
荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。
坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。
三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。
鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。
板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。
日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。
坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。
橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。
三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。
松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる