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深町珠

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静かな村

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珠子自身も、ご近所さんの双葉に
恋を感じたことはない。


それは自然で、近くにいて慣れてしまうと
興味はなくなる。

感覚には恒常性がある。
野生の頃の名残であって、外敵、つまり「普段と違うもの」を
検出するようにして、人間は生き延びてきた。

なので、近隣に居るものは慣れてしまうように出来ている。

それに、高校生の頃は
碧が珠子を守りたかったらしいから、と
碧の気持を気遣ったのもある。



「碧ちゃん、双葉が嫌いだったみたいだし」と、珠子が言うと

神流は「そうかもしれませんね。」と。


さ、交替交替。と、珠子は
今度は神流の背中を流す事に。

すこし、珠子より小柄。
ふくよかで、女らしい背中だなぁと思う珠子。

・・・・ふつう、こうなのかな。
なんて、少し思ったりもしたけれど
そこは切り替えの早い子である。

「神流ちゃんは、ずっと研究一筋なんだね。」と、珠子。


神流は「はい。それが楽しいのです。」


もちろん、そういう人だから
研究をするのであって

向いていない人が無理にしても、成果は残せないものだ。

神流の背中は、丸みを帯びて愛らしい。
シャボンの泡で包むと、お菓子のようだと珠子は思う。

「私達も、いつかお母さんになるのかな」なんて、珠子はふと思う。
どこかの世界に飛ばされなければの話である。

あの町に帰らなければ、安全だと思うのだけど。

神流の背中から、脇には
柔らかな脂肪がついていて、お母さんみたいだと珠子は思う。

神流は「いつか、母にはなるかもしれませんけれど・・・・。
恋愛って面倒ですね。」と。

それは本音かもしれない。

珠子も「そうだねー。双葉がラブレターくれた時も、碧ちゃんが怒って。
あんなことになるんなら、したくないなぁ。恋愛。
みんなが仲良くなれないと。でもなんで碧ちゃんって、あんなに怒ったんだろね。」


神流は「珠ちゃんが可愛いからでしょう。」と、微笑んだ。

珠子は「碧ちゃんは恋人いるのかなぁ。」と。

神流は「・・・さぁ。でも、人気ありそうですね。」と言って

ありがとうございます。と。


背中を流してくれた礼を述べ、お湯でシャボンを流した。
珠子にも掛けてあげた。

黒湯なので、シャボンがグレィに見える所が面白い。


「あったまりましょうか」 「はい。」と
珠子と神流は、風呂桶に。

文字通り桶になっているそれは、今はあまり見かけないタイプ。
ふたりで入れるくらいの大きさ。

ここは温泉なので、沸かす設備がついていないから
その分大きく見えるのもあるだろう。

黒湯が浸透して黒くなっていないので、新しく作ったのかもしれない。


「ナーヴちゃんも入れればいいのに」と、珠子。
神流は「その辺りは課題ですね。機械ですし、あくまでも」


「静かね」と、珠子。
ここは農村なので、あまり人の気配がしない。

そういう環境に慣れていない珠子は、特にそう感じるらしい。

神流は「私はすぐ慣れました。ナーヴもいるし。」

珠子は「ひとりだと、ちょっと怖いかもね。」

神流は「ご近所もいい人ばかりだから、大丈夫です。」
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