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深町珠

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楽しい夕餉

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珠子が、慎重なので
それを見ていたナーヴは、model.tamakoのステータスに
それを書き込む。
/users/status/female/tamako.activity

date  event
2020    d1

時系列に沿って書き込まれたステータスが、model.tamako
を動作させる。 所謂 model_base_anarysisであり
物理解析では常套である。

作った神流が物理解析を今、しているので
そういうふうになった。


慣れた手段でモノを考えるのも、ひとの習性である。



珠子は、フライパンの温度を下げる為に
レンジから下ろし、流し台のステンレスに敷いた濡れふきんの上で
少し冷ます。

「何をしているのですか」と、神流。


珠子は「うん。油が煮えてるから。卵が煮えすぎちゃうの。半熟が美味しいから。」と。


ナーヴは「細密なものですね。」と、穏やかな言葉。
人間と違って、感情が基底ではないAIであるから
そういう感じになる。


人間、と言うか動物の思考は、好き|嫌いが基準である。
生きていく為に好ましいものが「好き」なのである。

情報(視床下部など。視覚の場合)

好き|嫌い(辺縁系)

行動選択(海馬・前頭葉)

行動(運動野)

大まかに言うとこんな感じで、ストレスが続くと海馬が壊れるので
行動選択がヘンになる。

珠子たちが新幹線で見たような人々になる訳だ。TPOに合わない行動をする。


ナーヴの場合は、この「好き嫌い」が生命に根ざしていない。
生命体ではないからである。
故に、感情的にはならない。
その辺りが、人間と大きく異なる。


でも、珠子の言葉に返答することは出来るし
気遣う事も出来る。

「油ハネにお気をつけて、珠子さん」と。ナーヴは言う。


珠子は「ありがと、ナーヴちゃん。わたしの事も、珠子って呼んでね。」と
フライパンの温度を気にしながら。

冷め過ぎでも美味しくない。ベーコンの油が卵と分離してしまう。
頃合は難しい。

詩織は、その辺り作り慣れていたのだろう。
多人数のスパゲティ・カルボナーラを均一に作るのは難しい。
専門店でも一皿づつ作るくらいである。

珠子は「けっこう難しいね、これ」と言いながら
フライパンを再びレンジに戻す。
少し冷め過ぎなので、スパゲティを入れ、卵を混ぜる前に
温めて。

生クリームがないので、少し緩めにした。


「よし!」と、お皿に取り分ける。

「あ、三つ作っちゃった。」と。

「ナーヴちゃんも食べられるといいのにね。」と、珠子。

ナーヴは、にっこり。「はい。そのうちにそうなるかもしれませんね。」と。

ナーヴには生命がないから、永遠に「生き」られるようにも見える。
比喩的には。
1000年生きた、伝承の存在のように。


「さ、美味しくできたかなー。」と。珠子は
お皿を持って、茶の間へ。

台所で食事するのは、昭和の中頃からの風習で
それ以前は、畳の部屋で座卓で食事していた。

田舎だと、特に虫が居たりするので
台所のような所で食事するのはあまり宜しく無かった訳だが
実感できる人は少ない。


でも、ここは農村だから
そんな、昭和の頃を経験できたりする。

それに合わせて家も作られている。


冷めないうちに食べよう、と。
珠子と神流は、お食事。

「意外と早くできたねー。」と、珠子。

「そうですね」と、神流はゆっくり食べながら。
ちょっと感情の起伏が少ないように見えるのは、物理シミュレーションが
客観を求めるから、でもある。

科学的な研究をすると、どうしてもそうなる。

ちょっと、ナーヴに近い存在になる。


「ナーヴちゃんが女の子だったら、お着替えしたりして楽しいね。」と珠子。


人間型スタイルだったら、と言う事だろうか。

神流は「それは、いずれそうする予定です。その方が良ければ。」と。

珠子は「モテちゃって困るでしょうね。」と、にこにこ。

ナーヴは「いえ、そんなこと・・・・。」と。

神流は「では、外見を女の子型にしても、可愛いかたちにしなければ」と
ちょっとユーモア。

珠子は「かわいくしようよぉ。」と、普段の珠子らしくない口調は
そこに妹も、父もいないせいで

気張らずに出た言葉。

ふつう、誰でもそうだけど。
珠子は、店に住んでいて、一日そうだから

いつも、自分を演じていなければならない。


それも、少し辛かったのだろう。

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