arcadia

深町珠

文字の大きさ
上 下
40 / 93

生きる

しおりを挟む
神流は、発車する新幹線の廊下側のシートで
その加速を体感していた。
電磁気力によって、これほどの力が得られる。しかし
その電磁気力すら、まだ、よく判っていないのだ、現代の物理は。

そんな風に思うのは先入観である。そのような記憶が元になって
感じたもの=>言葉にしている。

感じたままに=>論理。と言うのは、勿論研究者なればこそである。
言葉に置き換えないでロジックを作るのだ。

イメージの中に物理モデルがあるのである。

誰でもそうで、例えば、お料理が好きなら

甘いものを食べて、甘すぎると思ったら対策は感覚的に判るが

好きでない人は、分量を計算したり、本を見たりする。
それに似ている。



珠子は、この瞬間、どう感じているのだろうと
神流は、窓際のシートの珠子を見た。

意外にあっさりとした感じなので「珠ちゃん、なに考えてますか」直裁に
聞くのが神流らしい。


珠子は、窓の外を眺めていたけれど
神流の方に向き直り「うん。なんだかホッとしたみたい。気持が。」


神流は「安心できましたか。」

珠子は「それもあるけど、今までずっと、お店の事考えてたでしょ。
なんだか、こういう事でもないとずっと。あのままだから。
本当は嫌だったんじゃないかと思うの。でも、妹みたいに『嫌だ』なんて
言えないもの。」

神流は「ふーむ。それじゃ珠ちゃんは悪い子だったと、本当は」と。
もちろん。そうできないから珠子は、どことなく緊張感のある表情を
している子だった。高校生の頃も。

こういう子は、悪いキッカケがあると、弱いものいじめをしたり。
そうでないと、勉強とかスポーツで勝つ事を憂さ晴らしにしたりする
ちょっとヘンな優等生やエリート選手になってしまったりする。


心は元々動物の時代からあったものだから
生理的に辛い時にはストレスを感じる。

珠子みたいに、無理して働けば当然ストレスになるから。
どこかで発散したいと心が思う訳だが

あのアーケードみたいに、家の外でもみんなが愛してくれていると
そこから出ない事には、「良い子」を演じ続ける他はないので

それがストレスになるのである。

古き良き日本の社会が、だんだん壊れていったのは
その「良い人たち」が、「自分達に都合の良い子」を
求めるようになったから、なのだが。

それで、和がなくなった。


そこまでいかないにせよ、珠乃家にいる限り
珠子は解放される事はなかっただろう。


そう思うと、珠子のお母さんも、解放されて
良かったのではないか、などと
神流は思った。

結局、珠子もこうした解放された訳、なのだが。


「ね、神流ちゃん。私達ふたりって、初めて?」

「・・・そういえばそうですね」と、神流は微笑む。

いつも、だいたい珠子は碧がそばに居た。
碧がお姉さんの役をやりたがっていた、と言うのもある。

「これから、どんな風になるんだろ、私達」と、珠子。

神流は「はい。私の部屋に泊まってもらいます。」と、直裁に。


珠子は笑って「そう。お世話になります。それもそうだけど。私は
何をして生きていけばいいのでしょうと。」

神流は「そこまでは考えていませんでした。とりあえず避難ですね。
その間に考えれば」とは言ったものの、対策はほとんど想像を超えている。
そういう時は物理モデルで思考すると好いのであるが。

26歳の珠子に訪れた死生観のような物であろうか。

普通、終末が近づくと誰でも考えるものらしいが
それまで何をして生きてきたのか、これからは?

などと。


元々、人間は「何かの為に」生きている訳ではなくて

「とりあえず生きてしまった」から、考える事が出来ると言うだけだ。

元々考えるのは、生きる為、生き延びる為の機能なのである。


従って、珠子の場合でも「とりあえず生きる」為に食料を得る手段を
考えればよいのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...