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深町珠

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中野先生

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「そういう事で、では、いただきます。」と神流は
ケーキを食べはじめる。

昔から切り替えの早い子である。

理知的に出来ているのだろう。

「ちょっと、神流!。いま、そんな気分じゃ・・。」と碧。

「でも、食べちゃお。」と、当の珠子は笑顔が戻る。
「気にしたってしょうがないもの。」と。
それは、お母さんが居なくなった時に珠子が感じた事。

悩んでたり、泣いてても。
同じだったら。

今、目の前にある事をしよう。

お店の仕事に打ち込んだのは、そういう気持も
あったのだろう。

悩みは空想である。記憶にある事を考え続ける事。

目前にある事を考えていれば、悩む事はないのだ。


「そうね。」と、詩織はメタル・フレームの眼鏡の奥で微笑んだ。


美味しいものを食べてると、どこか幸せが戻ってくる、そんな気がして。

「ここの町から離れてればいいなら、気にしなくてもいいね。」と、珠子。
割と楽天的である。

碧は神経質なのだけど「まあ、珠子がいいならそれで・・・。」と
ケーキを、それでも美味しそうに頂いている。


詩織は「眼鏡、変えようかなと思うの。」と。ひとりごとのように。

珠子は「どんなのに?」

碧は「ノンフレームとか、アンダーフレームとか。コンタクトは?」

神流は「いまのままも素敵ですよ・・。」と。のどかに。



そんな時、廊下に足音がして。
理科室に入ってくる。


「誰だろ?ここは使ってないのに。」と碧。



理科準備室のドアは開いていたので、そこから、ぬっ、と出てきたのは
白衣の中年。髪の毛はオールバックで、さっぱりとした感じ。
顧問をしてくれていた中野先生だ。

「先生!」と、4人一緒に声を上げた。

「やあ、みなさん。おそろいで。」と。中野はのんびりとして。
鼈甲の眼鏡がお気に入り。


「すみません、お誘いを忘れておりました。」と、碧。
一応は部長である。

中野は、いやいや、と、手を振り

「お嬢さん方だけの方がいいでしょう。僕は、偶然学校に来たので。」

と、にこにこ。


「先生、古楽器クラブはどうなっているのですか?」と、詩織。

中野は、のんびりと微笑んで「ああ、今はないね。でも、好きな子が
時々、見に来るね。昔の資料とか。楽器のとか。」


楽器なんてあったっけ、と、珠子。


中野は「んー。君達が卒業してから、時々クラブが出来ては消えて・・
そんな時にね。」と。
中野は博学である。

そうだ、と思いついて碧は「先生、神隠しの伝承ご存知ですか、この町の。」と
珠子の事は言わずに。

中野は「ああ、いろいろあるけれど。超常現象と言われてるね。ほとんど。
実際は違うんでしょうね。何等かの理由で、都から逃れたとか。
熊に食われたとか。」と。


「熊!」とは碧。

中野は「この辺りには居たんだよ。昔は。日本って今でも居るけれど。
先進国で野生の猿や熊が居る国って珍しいね。
日本は豊かだから。食べ物が。」と。
元々はそちらが専門らしい。


自然の中で食べていけるので、野生の動物が居る。


中野は「まあ、他には政治の関係とか。都合の悪い人を追い出したとか。
昔から変わらないね。それは。」と。


そういう視点はなかったので、神流も詩織も新鮮だった。


中野は「そうそう。言い伝えだとこの町にね。800年生きた女王が
北の海岸沿いからやって来て。命を託して果てた、と言うんだね。
そういうお話もあるね。まあ、SFだね。」と、笑って。


命そのものが何かは、よくわからないけれども
遺伝子なら、ミズクラゲさんたちもそうなのかしら、と
詩織は思った。
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