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深町珠

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準備室

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「よっこらしょ。」と、珠子が買い物を
机の上に置いた。

「いやー、おばさんっぽい。」と、碧が笑う。

「そっかなぁ。」と、珠子は、少し安心。
おばさんと言われて安心する26歳も面白い (笑)。

「いえいえ。素敵ですよ珠ちゃん。一生懸命だし、いつも。」と
神流。

「今は貴重なタイプね。」と詩織は微笑む。

珠子は「そう?お店に住んでると、なんとなくね。お客さんが来るのが
ふつうだし。」


碧は「そっか。あたしもお店に住んでたら、いい子になれたのかな。」と
ケーキの箱を開けながら。


「碧ちゃん、悪い子なんですか」と、神流は長閑に。


碧は「うーん、やっぱ、おじいちゃんのお店継がないし、って、神流!。」と。


面白い冗談であった。神流のセンスの。

みんな、笑った。






「ま、それよりケーキ食べよ。」と、詩織。
ケーキは好きみたい。

「そですね。」と、神流は
お茶でも煎れますか、と
ガスバーナーと網、ビーカーを
備品棚から持ってきて。


「あ、それ懐かしいね。」と、珠子。

「そうそう、フラスコでよくお湯沸したっけ。」と、碧


「なんとなく、味気ない気もしてたけど。」と詩織。

ちょっと、お洒落なティーセットで頂いた方が
美味しい。

そういう事もある。気持って大事。


珠子はチョコケーキ。
詩織はモンブラン。
神流はイチゴのショート。
碧はミルフィーユ。


「あの駄菓子屋さんにケーキがあるとはねぇ。」と、碧は
感心。うんうん。


「時代の流れね。」と、詩織。


「和菓子は乗り遅れてるなぁ。」と、珠子。


「高校の時も、そう言ってましたね。」と、神流。

珠子は「なんとなくね。今は、お父さんの気持も判るな。」と。


「珠子も成長したなー。」と、碧。


「お母さんみたい。」と、詩織は言って、あ、禁句だったかな、と。
思った。

でも珠子は「そだね。碧ちゃんお母さんだもん。わたしの。」と、にこにこしてるので

碧も、神流も、詩織も。
ホッとした。



「いろいろあったよねー。クラブ。」と、碧。

「そうですね。学校の竹藪、かと思って
材料を取ったら、植えてあった竹。」と、神流も微笑む。


竹で、笛とか、ケーナとか。ファイフ。
そういう物を作ろうとしていたのは、神流だった。

「音、綺麗だったね。」と、詩織。

「そーだったね。響きがやさしくて。」と、碧。

「懐かしいね。楽器持ってくれば良かった。」と、珠子。


「そういえば、古楽器クラブって、今はなくなっちゃったのかな?」と、碧は
気づく。

「そうかもしれませんね。ここに、何もないのですから。」と、神流。


「ちょっと淋しいね。」と、詩織。


「それも時代の流れかな。」と、珠子は微笑む。

窓の外を眺めながら。


「でもね、仕事して給料貰うのって、なんとなく慣れない。」と、詩織。

「どして?」と、碧。


「うん、家がお店を持ってたから。決まった給料が入っては来るけれど
それしか入ってこないから、なんとなくね。
将来が決まってしまってるような、そんな気持になるの。」と、詩織は
高校生の頃、海外に憧れた少女だった、そんな、自由と発展を
夢見る気持から、そう思う。


「そうですね。父は職人でしたから。変化ありましたね。」と、神流。
きっちりと筋道立てる性格は、そんな所から来るのかもしれない。

物を作って、報酬を貰う。そんな感覚。


「うちは、お菓子だから。その日暮らしね。」と、珠子。

その時、珠子の姿が揺らいだ。そう、見えた。
陽炎が立ったみたいに。


珠子も気づいた。「あれ、また・・・。」眩暈かな。そういう風に見える。

碧は「ちょっと!珠子?」と、珠子の手に触れようとした。
けれども、触れられない。


神流は二度目なので、じっくりと観察。



ほんの一瞬の後、また、陽炎は消えた。

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