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深町珠

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理科室

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お店から出て、裏門から校内へ戻る時
また、門扉が軋む。

「グリースを点したくなりますね。」と神流は
みんなに判るように言った。

ひとりごとみたいに、さっきは言ったので
今度は、わかりやすいように言葉を選んだ。


「エンジニアって、なんだか難しそう。」と、詩織。

神流は「いえ、生態学ほどでは・・・。」と。

珠子は「大変な仕事だよね。ほんと。」

碧は「お菓子作るのも、大変だよね。」

などと、各々に労いながら、旧校舎へ向かう。


新校舎に並んで建っていて、木造の古い校舎は
2階建て。
主に実習とか、クラブの部室になっている。


渡り廊下のところから、校舎に入ると
日曜なので、あちこちでクラブの生徒の声がする。

ブラスバンドのパート練習や
軽音楽部のロックの音。

ジャズ風のブラス。

各々に楽しそう。


上履きを持ってきたので、履き替えて。

来客用の下駄箱に靴を入れる。
碧はお洒落な靴。
詩織は、スニーカー。
神流は、ゴム底の黒い靴。
珠子は、学生の頃履いてた茶色の靴。

碧が「珠子の、懐かしいね。」

珠子は「うん、学校に来るから、なんとなく懐かしくなって。
出してきたの。」


古くからの職人の家。
ものを大切に使う所は、なんとなく伝統で

給料が定額で来る訳ではないから、無駄に使わない。
使えるものを捨てない。直す。

明治以前はそうだったのだろうけれど、それはお菓子作りのように
伝統を大切にする姿勢に似ている。

長く使っている物には、愛着が生まれるけれども
それは、ひとの心の中にあるものだ。

物を見た時に、思い出が心に浮かぶ。


なので、ものを大切にする。

お友達も、大切にするのと
少し似ていて。
お友達と、思い出があるから。

そんな風に、珠子は生きている。



廊下を静かに、白い上履きで歩いて。

「制服着てくれば良かったかな。」と。珠子。

「そだねー。似合うよきっと、みんな。」と碧は言って

・・・・失言だったかな、と。珠子を気遣う。

珠子が言い出したのだが (笑)。


「似合いますよ珠ちゃん。碧ちゃんも、詩織ちゃんも」と、神流は気遣う。

「ありがと、神流」と、碧は、その言葉と、気遣いに感謝。


詩織は「大学でね、お嬢さんって呼ばれたの」と、にこにこ。
ちょっと恥かしかったけど、と。

「まだお嬢さんでいいんじゃない?」と、碧。
「未婚ですから」と、神流
「それは、わたしも」と、珠子。

和やかである。


西側階段を上がって、二階へ。




古楽器部の部室は、西側の端、二階だ。
理科室が広く、テーブルになっている座席が10。
水道と流し台がついていて、ガスの栓があるのは
実験をしやすい為の構造。


主に、隣の準備室が部室になっている。
理科教師は、ここで実験の支度をしたり
資料を置いておいたり。

以前はそういう場所だったが
今は、新校舎で授業をしているので
古楽器部室になっている。

誰も来る事もない。


準備室は、こじんまりとした広さで
教師の木製机が4つ、薬品棚が3つ。

そのくらいがちょうどいい。

4人なら。




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