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深町珠

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科学と信仰

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アーケードに戻ってくると、ご近所さんが
みんな、家族のように珠子を迎えてくれる。

「おかえり、珠ちゃん」
「ごきげんはいかがかしら」
「いよっ!」

当然に思っていたけれど、でも、有難い事なんだな、って
珠子は感じる。


おばちゃんと一緒に歩きながら。

別に、おばちゃんはお地蔵様のお掃除当番と言う訳でもない。
町内は、みんな仲良し。
当番、なんて決めなくても、みんなが、なんとなく
お地蔵様を大切にしている。

その辺りも、思えば少し
今の時代にはあまりない風習かもしれない。



珠子は、さっきのおばちゃんの言葉を思い出していた。


・・・・女の人が出て行く家系。宮様。


おばちゃんとお店の前で別れてから、なんとなく。


「・・・・私の言い方がヘンだったのかなぁ。」
お嫁さんに来たはずの、曾祖母、祖母、母が
なんで不在になるのだろう。


そういえば、アーケードには若い女の人は居なかったことにも気づく。





数日後。


詩織は、飼育室ではなく
研究室に居る。

ここは、生態学研究室なので、幾分新しい建物である。

と、言っても既に建築されて20年は経っているようだ。


資料や、コピー、科学雑誌等が
山積みになっている机で


何か、データをコンピュータで計算していた。



黒電話が鳴る。


昔ながらのこの通信、詩織はなんとなく好きである。


「はい、生態学研究室です」


電話の主は、この間の医学部准教授だった。


遺伝子解析の結果は、16歳とは断定できないけれども
すこし、26歳にしては若い細胞だと言う事だった。
培養してみないと詳しくは判らないが、細胞自体が加齢しない可能性は
有り得る、との事。

もうひとつ、不思議なのは
放射線測定をしてみると、近年に生まれたにしては
放射線被曝量が少ない、との事。


「理学部に持っていってね、測ってもらった」と、あの、朗らかな彼は
事も無げにそう言う。


専門分野に囚われず、多角的な知識を持っている所が
新しい研究の出来る、やはり准教授だなぁと

詩織は感心した。


「私達と違うのですか?」と、詩織。



准教授は整然と「うん、値からはね。ふつう、自然放射線があるんだけど。」

値が小さい、と言う事だった。


礼を述べて、詩織は電話を切る。


・・・・値。


ここに住んでいなかったのか、それとも・・・。



詩織は空想する。



「タイム・トラベラーとか。」科学的にはないのだけれども。


そんな空想をして、笑った。


でも、ふと思う。


「昔から、神隠しとかあったのね、この町は。
あれも、タイム・リープかもしれないわ。」


そういう説明も可能だ。まあ、SFの世界のお話だが
この世界は3次元に見えるけれども

角砂糖のような空間なら、どこかに突き当たってしまうので
そういう空間ではないと考えられている。

ふつう、銀河は重力場だから
空間はそれに沿っている。


真っ直ぐは進めない、と言う訳だ。水平線がそうであるように
直線に見えても、実際は曲線だと言う事である。


理論上は、そういった時空間が隣接しているとも考えられている。

4次元空間が隣接していれば、見た目、団子の串刺しのように見える。


「お団子、そういえば珠子の店にもあったっけ。」と、詩織は微笑んだ。




・・・現実的に考えると、珠子はこれからどうなるのかな。


と、詩織は思い返した。



これを、どう伝えたらいいのかな、とも思った。




「昔からあった、神隠しってなんだったんだろう。」
そんな疑問も、同時に。


時空間移動で、説明は出来るのだけれども。








その事を、珠子にとりあえず電話した。



珠子は、お店が忙しかったのだろうか
ありのままに受け取ったようだった。


そういう事もある。それに、理系の考え方に馴染めないのもあるだろう。

言葉が判らないと言う事もある。
ふつう、そんなものである。


お店の仕事をしながら、その意味を回想する珠子。



これから、どうなるの?
年を取らなくなったら。


・・・神隠し。



このあいだのお地蔵様を、ふと思い出す。


「おばちゃんは、その事を言ってたのかしら。」


・・・・みんなを守ってくれている。


信仰は、それで広まったと言う説もある。


「このアーケードって、そういえば
家族が欠けている家、殆どね。」と、珠子は思う。




「お母さんも、お祖母ちゃんも。神隠しにあったと思われているのかな。」


突然、姿を消せばそう思うだろう。
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