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女系・男系
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それから2人は、細胞の採取に
医学部へ。
このカフェは付属病院にあるので
玄関から表に出て、裏の建物。
こちらは、綺麗に建て替えられた、とはいえ
10年くらいは経っているだろう。
玄関のエントランスも素っ気無く、ステンレスのカードリーダが
冷たく光っている。
詩織は、IDカードをかざして。
電子音の後、入り口の施錠が外れた。
「すごいんだねー。」珠子は感動する。
「一応職員なの」と、詩織はすこし俯いてはにかむように笑う。
その表情は、高校生の頃のままだ。
硝子扉を開き、ステンレスのエレベータ扉の前に進むふたり。
その素っ気無さが如何にも医学部のようである。
エレベータを待っている間、詩織はふと気づく。
・・・・珠子の家は、これまで男系だったけれど
珠子と妹のふたりだから、この代は女系になる。
もし、二人とも生まれ変わりなら。
どこかにいなくなってしまって、珠子の家系は
消滅してしまう事になる。
・・・生まれ変わって、帰ってくるまで。
20年くらいだろうか。
その間、珠子の父が生存していないと・・・・。
それも、遺伝子検査で分かるだろう。
エレベータが7階に着き、ふたりは降りる。
小部屋が幾つも存在する、研究棟。
そのひとつを、詩織は探し当てて。
此方もステンレスのドアについているカードリーダに
IDカードをかざした。
電子音。それとインターホンの声「はい。」
静かな男の声だった。
詩織は「すみません、生態学実験室の・・・」と言うと
インターホンの声は朗らかに「ああ、どうぞ」と
ドアも開いた。
北向きの研究室は、臨床実験をしているようで
何処かの医院の診療室にも似た雰囲気。
柔らかな日差しが、ブラインド越しに届いている。
「ああ、君ね。遺伝子を調べたいと言うのは」
君、と気楽に言うこの男は、年配、少し柔らかな表情。
准教授と言ったところだろうか。
「はい。」
珠子は、少し緊張して頷いた。
准教授は笑顔で「大丈夫大丈夫。ちょっと口あけてー。
おじさんにまかせなさい。いたくしないから。」
ユーモラスなので、詩織も珠子も笑ってしまう。
狭い部屋に、笑い声が響く。
准教授は「はいはい。笑ってないでねー。」と、
綿棒を珠子の唇の裏に当てて、ちょっと摺った。
「はい、終わり。解析は一週間くらいかなー。今は
スーパーコンピュータだし。」
と、楽しそうに言った。
いかにも研究好き、と言う感じで
珠子は好感を持った。
「医学部って、もっといかめしい所かと思いました。」と、珠子は素直に感想。
准教授は、ははは、と笑い
「そういうところもあるけどね。」と率直に。
ひと好きな感じのこの男、医者と言うムードではない。
珠子は「これ、うちのお菓子なんです、商売ものですみません」と
お店のお菓子をいくつか、折詰めにしたものを。
「おお、有難うありがとう。甘いの好きでね、僕。
珠乃家さん、知ってるよー。今度行こうと思っていたんだ。」と
楽しそうに、お土産を受け取る。
その間にも、助手らしき数名が
珠子のサンプルを持って、別の部屋に向かって。
何か、解析をするらしい。
医学部へ。
このカフェは付属病院にあるので
玄関から表に出て、裏の建物。
こちらは、綺麗に建て替えられた、とはいえ
10年くらいは経っているだろう。
玄関のエントランスも素っ気無く、ステンレスのカードリーダが
冷たく光っている。
詩織は、IDカードをかざして。
電子音の後、入り口の施錠が外れた。
「すごいんだねー。」珠子は感動する。
「一応職員なの」と、詩織はすこし俯いてはにかむように笑う。
その表情は、高校生の頃のままだ。
硝子扉を開き、ステンレスのエレベータ扉の前に進むふたり。
その素っ気無さが如何にも医学部のようである。
エレベータを待っている間、詩織はふと気づく。
・・・・珠子の家は、これまで男系だったけれど
珠子と妹のふたりだから、この代は女系になる。
もし、二人とも生まれ変わりなら。
どこかにいなくなってしまって、珠子の家系は
消滅してしまう事になる。
・・・生まれ変わって、帰ってくるまで。
20年くらいだろうか。
その間、珠子の父が生存していないと・・・・。
それも、遺伝子検査で分かるだろう。
エレベータが7階に着き、ふたりは降りる。
小部屋が幾つも存在する、研究棟。
そのひとつを、詩織は探し当てて。
此方もステンレスのドアについているカードリーダに
IDカードをかざした。
電子音。それとインターホンの声「はい。」
静かな男の声だった。
詩織は「すみません、生態学実験室の・・・」と言うと
インターホンの声は朗らかに「ああ、どうぞ」と
ドアも開いた。
北向きの研究室は、臨床実験をしているようで
何処かの医院の診療室にも似た雰囲気。
柔らかな日差しが、ブラインド越しに届いている。
「ああ、君ね。遺伝子を調べたいと言うのは」
君、と気楽に言うこの男は、年配、少し柔らかな表情。
准教授と言ったところだろうか。
「はい。」
珠子は、少し緊張して頷いた。
准教授は笑顔で「大丈夫大丈夫。ちょっと口あけてー。
おじさんにまかせなさい。いたくしないから。」
ユーモラスなので、詩織も珠子も笑ってしまう。
狭い部屋に、笑い声が響く。
准教授は「はいはい。笑ってないでねー。」と、
綿棒を珠子の唇の裏に当てて、ちょっと摺った。
「はい、終わり。解析は一週間くらいかなー。今は
スーパーコンピュータだし。」
と、楽しそうに言った。
いかにも研究好き、と言う感じで
珠子は好感を持った。
「医学部って、もっといかめしい所かと思いました。」と、珠子は素直に感想。
准教授は、ははは、と笑い
「そういうところもあるけどね。」と率直に。
ひと好きな感じのこの男、医者と言うムードではない。
珠子は「これ、うちのお菓子なんです、商売ものですみません」と
お店のお菓子をいくつか、折詰めにしたものを。
「おお、有難うありがとう。甘いの好きでね、僕。
珠乃家さん、知ってるよー。今度行こうと思っていたんだ。」と
楽しそうに、お土産を受け取る。
その間にも、助手らしき数名が
珠子のサンプルを持って、別の部屋に向かって。
何か、解析をするらしい。
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