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とりあえず、行ってみよう。そう思い
その住所、武蔵小山に行ってみた。
通勤ラッシュが終わるのを待ち、9時頃だろうか。
構内踏み切りのある、小さな駅から歩いて。
東京でも静かな住宅街。
庶民が、肩寄せあって仲良く暮しているような、そんな町のようで
輝彦は好感を持つ。
山本医院、と白い、小さな看板が
植え込みの中にあり・・・。
ガレージをふと見ると、空冷のVWと
ポルシェ911の、やはり空冷の最初のモデルがあった。
それを見た瞬間「ああ、この人は悪い事をする人ではない」と
探偵の直感を感じる、輝彦である。
意外と、類推は当たる。
古いものを労わりながら使うような人、古いVWやポルシェの空冷911を
維持するような人は、優しい人である筈だ。
自己顕示欲でそれらを持っているなら、日常的には使えないだろう。
この人は、話してくれそうだと思い・・・・電話ではなく
直接医院を訪ねてみた。
「おそれいります・・・先生にお話しを伺えないでしょうか」と、
出入りの新聞社の名前を使った。
こういう時、便利である。実際は外部ライターなのだが。
一応、名の通った新聞社なのだ。
担当は旅行、なので
あまり、怪しまれる事もない。
年配の看護婦は、穏やかに微笑んで「はい、どうぞ」と・・・。
ひと気のない、待合室から
診療室に招いた。
古い西洋館を直しながら使っている、と言う印象の医院で
下町によくある、お洒落なお医者さんだったのだろう。
「失礼します」と、診療室に入ると
穏やかそうな白髪、長い髪の紳士、と言う印象の山本医師が
肘掛のある大きな椅子に座って
「どうぞ」と。
メタルフレームの眼鏡の奥で柔和に微笑んだ。
輝彦の名刺を見て、山本は「事件のことですか」と。
輝彦は意外な言葉に驚いたが「はい」と答えた。
山本は「鹿児島県警の・・・・名古屋刑事さんがお見えになって。
いろいろ聞いていきました」
輝彦はなんだ、と思った。
名古屋刑事が調べていたなら、山本医師に不正はないだろう。
そう直感する。
山本医師は「私が担当するのは検死、なのです。本人性確認は
警視庁の担当ですね。DNAの鑑定など」
なるほど。そういう事か。
毒物中毒死、と言う事に嘘は無いだろう。
それなら検死報告に問題はないわけだ。
だが・・・警視庁サイドに圧力がかかり、本物|替え玉の
鑑定が蔑ろにされれば。
替え玉殺人の可能性は否定できなくなる。
それは、池田湖事件も同じである。
ふと類推するのは・・・
イギリスで起きた、ロータス社の事件、コーリン・チャプマン創始者の
国外逃亡事件(?)であった。
それも、似た方法で行われた筈だ。
イギリスを遠く離れた南アフリカで目撃されたのは
彼が心血を注いだF1レースの現場であったし
ロータス社の古い車両、キット・カーと言われる
ロータス7の組み立てキットを作る会社が
南アフリカで興り、それで世界の注目を得たからだった。
設計が凝った、改良型と言うべきそのキットは
コーリンの妻、ヘイゼルが社長の会社、南アフリカ・ロータス社が
作っていたものだからである。
妻だからと言って、夫のような設計センスがあるとも思えず・・・。
国際刑事警察機構が動いたとの、結末であったが
コーリンの姿は消え、会社も消えた。
どこに行ったかはナゾである。
その住所、武蔵小山に行ってみた。
通勤ラッシュが終わるのを待ち、9時頃だろうか。
構内踏み切りのある、小さな駅から歩いて。
東京でも静かな住宅街。
庶民が、肩寄せあって仲良く暮しているような、そんな町のようで
輝彦は好感を持つ。
山本医院、と白い、小さな看板が
植え込みの中にあり・・・。
ガレージをふと見ると、空冷のVWと
ポルシェ911の、やはり空冷の最初のモデルがあった。
それを見た瞬間「ああ、この人は悪い事をする人ではない」と
探偵の直感を感じる、輝彦である。
意外と、類推は当たる。
古いものを労わりながら使うような人、古いVWやポルシェの空冷911を
維持するような人は、優しい人である筈だ。
自己顕示欲でそれらを持っているなら、日常的には使えないだろう。
この人は、話してくれそうだと思い・・・・電話ではなく
直接医院を訪ねてみた。
「おそれいります・・・先生にお話しを伺えないでしょうか」と、
出入りの新聞社の名前を使った。
こういう時、便利である。実際は外部ライターなのだが。
一応、名の通った新聞社なのだ。
担当は旅行、なので
あまり、怪しまれる事もない。
年配の看護婦は、穏やかに微笑んで「はい、どうぞ」と・・・。
ひと気のない、待合室から
診療室に招いた。
古い西洋館を直しながら使っている、と言う印象の医院で
下町によくある、お洒落なお医者さんだったのだろう。
「失礼します」と、診療室に入ると
穏やかそうな白髪、長い髪の紳士、と言う印象の山本医師が
肘掛のある大きな椅子に座って
「どうぞ」と。
メタルフレームの眼鏡の奥で柔和に微笑んだ。
輝彦の名刺を見て、山本は「事件のことですか」と。
輝彦は意外な言葉に驚いたが「はい」と答えた。
山本は「鹿児島県警の・・・・名古屋刑事さんがお見えになって。
いろいろ聞いていきました」
輝彦はなんだ、と思った。
名古屋刑事が調べていたなら、山本医師に不正はないだろう。
そう直感する。
山本医師は「私が担当するのは検死、なのです。本人性確認は
警視庁の担当ですね。DNAの鑑定など」
なるほど。そういう事か。
毒物中毒死、と言う事に嘘は無いだろう。
それなら検死報告に問題はないわけだ。
だが・・・警視庁サイドに圧力がかかり、本物|替え玉の
鑑定が蔑ろにされれば。
替え玉殺人の可能性は否定できなくなる。
それは、池田湖事件も同じである。
ふと類推するのは・・・
イギリスで起きた、ロータス社の事件、コーリン・チャプマン創始者の
国外逃亡事件(?)であった。
それも、似た方法で行われた筈だ。
イギリスを遠く離れた南アフリカで目撃されたのは
彼が心血を注いだF1レースの現場であったし
ロータス社の古い車両、キット・カーと言われる
ロータス7の組み立てキットを作る会社が
南アフリカで興り、それで世界の注目を得たからだった。
設計が凝った、改良型と言うべきそのキットは
コーリンの妻、ヘイゼルが社長の会社、南アフリカ・ロータス社が
作っていたものだからである。
妻だからと言って、夫のような設計センスがあるとも思えず・・・。
国際刑事警察機構が動いたとの、結末であったが
コーリンの姿は消え、会社も消えた。
どこに行ったかはナゾである。
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