関東電力殺人事件

深町珠

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想い

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その、中学のクラスメートは
野球少年に片想いしていたので
輝彦は、それが叶うようにと
いろいろ、考えた。

でも、上手くいかなかった。
そうして彼女も、野球少年の
事を忘れた。


どういう訳か、高校生の頃
30歳のサラリーマンと
付き合っているとの噂だった。

格別、輝彦は彼女を
愛していた訳ではなかったが
その責任を、何故か旧友に問われた。
彼女がそうなった責任、である。

彼女の方が、輝彦に
いつしか
気持ちを傾けていて
その事に、彼女自身も
気づいていなかったのかもしれない。
失意のあまり、30男と
関わってしまった彼女を
少年輝彦は、なんとなく不潔に
思ってしまい

旧友の進めはあったものの
恋人にはならなかった。


その頃、待ち合わせによく
Cafe Rulie を使ったので
由布子や、深町も
その頃からの付き合い。

なので、いまの輝彦の気持ちも
由布子、深町もよくわかる。


友里恵を、大切に思い
あとで後悔しないように、との思いは
その、戻す事のできない時間への
哀悼も含んでいるのだ。


ラジオの音楽が、ソフトなバラード
今度は「Lovin' you」。
Minnie Ripertonが歌って、彼女の死後
有名になった歌だ。

「優しい声~。なんか、でも悲しい響き。」
友里恵は感性豊かで、歌声の響きで
歌い手の心を感じ取っている。

病死を目前にした母が、我が子を思って
歌ったので
それが、聞く者の心を動かす。

友里恵は、恋する乙女ゆえ
敏感にそれを、感じ取っているのだろう。



「なんて唄ってるの?」と友里恵は尋ねる。

「愛するって簡単、それはステキな事...
あなたが、至上へとわたしをいざなうの...」とか、輝彦はヒアリングで。


「そうよね....。」と、友里恵は音楽に聞き入っている。

「でも、なんか淋しいかんじ....。」と友里恵。

愛らしい瞳から、はらり、と、涙。

「あ、あれ?あたし...どうしちゃったの?」と、指で頬の涙を拭い。


かわいらしくて、輝彦は、友里恵の肩を抱き寄せた。


「....この歌は、もう、命が長くないお母さんが、幼いわが子に向けて
唄ったんだよ。」と、輝彦はつぶやく。


「....かわいそう....。」と、友里恵は、いつかみたいに
彼にもたれたまま。涙が流れ落ちて。
彼の胸に。

「あ、ごめんなさい.....。」と、離れようとする友里恵を
やさしく腕に抱いて。


うつむいたままの、愛らしいlipに、そっとくちづけた。

朝露がころがる花弁のように、わずかにふるえる彼女は
やわらかく、彼の腕のなかで浮遊した。












「ごめんね」と、輝彦はなぜか謝罪を口にした。

「ううん、とっても嬉しかった。」と、友里恵は
彼が愛を求めてくれた事に、喜んだ。

それまでは、いつも
友里恵が求め、彼が応えるような
感じだった。


それで、よかったのさ。と
輝彦は、どこかで親友、深町が
肩を叩いて、そう言ってくれているような
気がしていた。


幼なじみの女の子と関わった、30男を
心の中で忌避していた輝彦は

いつしか、友里恵に関わる自分を
対比させていて

友里恵とふれあう事に、罪悪感を感じていた。


神聖な領域を侵すような、気持ち。


実際、友里恵は神々しいほどに
愛らしく


その時間を、止める事など
誰にも出来ない。


彼女自身が、貴重な「いま」を生きているのである。
その相手に選ばれたなら

それで良いのだろう。






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「細かいミスって、どんなの?」と、友里恵。

「うん、交差点でウィンカー出し忘れ、とか。あるけど
仮免許は、あんまり細かく言わないから
大丈夫。普通に運転できれば。」と、深町。


「深町先生はタイヤを溝に落としても合格だった」と
輝彦。

「余計なこというな(笑)」と、深町。


「そーなんだ。じゃ、運転してみようかな」と、友里恵。

エンジンを掛けようとした。


「そうそう、それでいいけど、試験は
車に乗るところからやるから、その時ね、
安全確認、なんてあるんだ。
それを忘れると、1回カウント。」と、先生らしい発言の深町。



「けっこメンドいね。」と、友里恵。


「そうなんだけど、免許もらうまでの辛抱さ。って
そういうのが嫌で教師辞めたんだ」と、深町。


「よーし!じゃ、覚えるか!。どうするの?」と、友里恵。

深町は真面目に「うん、クルマに乗る前ね、ホントはクルマの前と下を見て、
子供が居たりしないか、確認する。んだけど、これは大抵の試験場じゃ
しなくていいよ、って言われる。」

「試験場に居るわけないもん」と、友里恵。


「そうなんだけど、法律ってそうなんだよ。ね?」と、深町は輝彦に振る(笑)


「いいからぁ(笑)」と、輝彦。

友里恵は、輝彦の家の事情を知らない。
兄が警察官僚であったり、父親も官僚だった等。

山の手に住んでる事も、知らなかったくらいで。


どうして、それでカレに興味を持ったか?(笑)謎である。



「それでね、クルマに乗る前に、道路、後ろから他の車が来てないか、とかを
確認する。これも、パフォーマンスだと思って
大袈裟に演技した方がいいね。指さすとか。」と、深町。


「あ、知ってるー。電車の運転手さんとか」と、友里恵、指さす。
ふんにゃり、してるので
かわいらしいけど、凛々しくはない(笑)



「そこまでしなくていいけどね。」と、深町。


普段、バス会社でしてるので
ちょっと食傷気味(笑)。かな。




「よーし。やってみよう。後ろよし!」と、友里恵が言うと


「うん、言わなくてもいいけどね。『後方よし』かな。言うなら。
乗る前に歩道で見て、ドア開ける前にもう一回みるの
。」と、指導員深町、真面目に(笑)。


「めんどいよー」と、友里恵、笑う。

「ドア開けるとね、後ろからクルマ来たら当たっちゃうでしょ」と
深町。

ふだん、バスを運転していて
路上駐車の車に、迷惑を掛けられているらしく
実感がある。



「なるほどー。」と、言葉の雰囲気で
友里恵は納得した。


賢い子である。




その時、友里恵の携帯が鳴った。

メロディは、なんだか騒がしい(笑)。

キラキラ、ネイルアートみたいなケータイを取り出すと
いつかみたいに、ストラップの方が本体より大きい(笑)。

「あー、ゆかぁ。なに?いまぁー、教習所。ってもね、
教えてもらってんの。タダで。うん。ふかふかコンビに。」
電話の相手は由香らしい。

ふかふかコンビってのは、深町と深見だからか(笑)。

彼女たちの面白いところは、感覚がフラットで
ヘンに謙らないところ。

それで、敬語扱いになる相手、と言うのは
仲間以外、と言う事らしい。


つまり、なかよくなれるとみんな「お友達」らしい。







山の畑の中に、ひっそりとある
教習コースは

森林に囲まれて、静かで
外からは見えないので

時々、こうして
練習に来る学生がいるらしい。

「よし。じゃあ、始めよう」と、深町は
真面目な顔で(笑)でも、どこかユーモラス。

「はい、先生」と、友里恵にこにこ。

「先生って言われると、個人教授みたいだな」
と、深町。

個人教授というのは、古い映画で。
まあ、筆おろし映画だ(笑)


「エロ教師、さわるなよ」と、後ろの席で輝彦(笑)



「うるさい(笑)」と、深町。

「先生って響きがどうも、妄想に誘うな。」と
深町。


「じゃあ、教官?」友里恵も楽しそうだ。


「それもいいね。なんとなく鬼、ってつけたくなるな。
鞭で叩いたりして」と、深町はまた脱線(笑)

「SM教官」と、輝彦も楽しそうだ。


「やかましい、降りろ(笑)」と、深町は
輝彦を叩くふり。


「どうも、しっくりこないなぁ。いい呼び名はないかな」
と、深町。


「ご主人様とか?」と、友里恵も面白がっている。

「お、いいねそれ。それで行くぞ。友里恵ちゃん」と
深町はミュージシャンらしく、明るい。

「はい、ごしゅじんさまぁ」(笑)と、友里恵も
漫才クラブに入ったようだ。

「ご主人は僕でしょ」と、輝彦も笑って。

「アナタは、だ・ん・な・さ・ま。」と
友里恵は、運転席から振り返って
にっこり。


「あー、まあやってらんないなぁ、じゃ。行くか。」と、深町。

「仮免はまあ、受かる。事故起こしたり、信号無視とか
しなければ。それで、細かいミスが続かなければ」と
深町は、指導員モード(笑)


「来る?べつにいーけどぉ
。あ。ちょっとまって。おーい
ゆかぁ....切れちゃった」と、友里恵は
ケータイを指さして。


「由香ちゃん?」輝彦。


「そーなの。『アタシもあたしもー、
ずるーい、ゆりだけ』
だって。」と、友里恵は苦笑い(笑)


「どうやって来るのかなぁ」と、深町。


ま、いっか。と、教習続き。
車に乗るとこ、は教習1段階(笑)だけど
大幅に省略して。

バックミラーの調整とかも、ホントはあるし
サイドミラーとか。

全部すっ飛ばして。でも、それらを
調整しないと、減点だとか。

忘れたら、途中で直さない方がいい、とも。



それで、ようやく車に乗り込んで、
エンジンを掛けて。

「そう、ギアが入っていないのを
確かめてね。それも
減点になる」と、深町教官。

AT免許なら楽だけど。この車はマニュアル。

「バス持ってくればよかったなぁ」とか
深町が言うと、友里恵は

「なんだか、
バスも乗れそうな気がしてきた」(笑)

「そうそう、そういう気持ちが
大事だね」と、輝彦。
怯えてちゃミスるし、とも。

エンジン掛けて。
キーひねるだけ。
掛かったら、クラッチ踏んで。

「シートのね、位置が大切で。」と、深町。
楽に、クラッチがつながるあたりで
足が疲れない場所に、背もたれを
調節するとか。

それで、だいたい上手にできるとか。

「いろいろ、あるんですね」と、友里恵は
ギアを1、に入れて。
クラッチをゆっくり放して。

「うん、放していくとクルマに伝わるから、力。」
と、深町。


そーっと放していくと、確かにクルマにショック。

「そこがね、つながるとこ。そのまま放していくと
走るから。」と、深町。


ゆーーーっくり、クラッチペダルを
戻していくと。


クルマが、がくがく。


それでも、走り出した。


「走った!あ。」友里恵のドライブする
クラウンの、ウィンドウ越しに。


坂道を昇ってくる白い自転車、は。
猛チャーヂでペダルこぎこぎ。


「ゆかぁ。」(笑)

友里恵は、クラッチを放しちゃったので

エンスト(笑)。


「おーーーーいーーー、
ゆぅーーりぃーーええーーー」と
息切らして駆け上がってきた由香(笑)。

自転車止めて、クルマの前に。


「まぁにあったぁーーー。」

何が間に合ったんだか(笑)。


「ずぅるぅいですーー、
ゆかとも遊んで?ねね?」

やっぱり、一緒がいいのね。
由香ちゃん(笑)。






「ゆかぁ、教習所行くん
じゃないの?」と、友里恵。

「友里恵が試験受けるんなら、
あたしも。それで
無理っぽかったら教習所行く」由香。


「じゃ、一緒にやろっか」と、深町。


「はい!よろしく、先生。
かぁっこいーですぅ」と、由香。


「ミュージシャンだもん」と、友里恵。



「ひぇぇぇーーー。すごーい。
由香とアソびませんかぁー。
ホレちゃいますー(笑)」由香。


「ホレッポイんで、
気にしないでくださいね」
と、友里恵(笑)


「だぁってぇぇーー。
深見さんはぁ、
友里恵の物だし。」と、由香。(笑)



物かい(笑)


深町、あっけ(笑)

「ま、いっか。一緒にやろうよ、
ゆかちゃん」深町は
フレンドリー。


「ありがとうございますっ」と、由香は
まじめのお辞儀(笑)

さ、やろやろ~。と。


「お友達がいた方が
楽しいでしょ」と、輝彦。


由香は、スクーターの免許もないから
標識とか、覚えるのも大変(笑)でも

それも楽しい思い出になるかなー?





「じゃ、もう一度」深町は
手順通りに、やってみせた。
歩道脇に止めた、クルマの脇で
後方よし!

もう一度、クルマの後ろ、道路で。

ドアを開ける時に、もう一度。

運転席に乗って。
シート調節。ハンドルを合わせて。
クラッチペダル、ブレーキペダルを踏んで。
ルームミラーを合わせる。

シートベルトをして、
同乗者のベルト「お願いします。」

「ドアロックお願いします。」


で、ギア・ニュートラル確認。



「ここまでだね、1段階。」と、教官(笑)深町。


「かっこいーです、深町さん。」と、由香(笑)。


「ゆかちゃんもやってごらん、
かっこよくね」と、輝彦。


「覚えられない~うー(笑)」と、由香。

「動画撮ったから、リピートして見て」と、友里恵。


「ありがとーゆりぇーー。らびゅ」と、由香は
なんか、ハイ(笑)

ほんとに、深町にホレたか(笑)



「とりあえず、友里恵ちゃんは走れそうだから
コース一回りしてみよう」と、深町。


「さっきの手順でね。」と。


ゆっくり、踏んだ左足を戻していくと
力が伝わる。

静かに、左足を戻す。
エンジンが止まりそうになるから
ほんの少し、右足を踏みながら
左足を放す。

静かに、走る!


「やったぁ!」


一同、拍手。


「そうそう。それでいい。バスも運転できる」と、深町。

(笑)


走りだすと、クラッチを踏んで
シフトアップした友里恵。


「うん、ギアを変える時
ハンドルはまっすぐね。」と、深町。

バイクに乗れるので、シフトアップの
意味は分かるらしい友里恵。
まっすぐの次は、左カーブ。


真ん中を走ってしまう。

深町は、それには構わず
次の真っ直ぐを走らせて
「左に曲がってみてくれる?」

友里恵は、一生懸命に。
アクセルを戻して。

ギアを落とすのを忘れて。
スピードが早くて、左の後ろタイアが
路肩に落ちた。


「うん、いいよ。そのまま真っ直ぐ。」深町は
「走りながらギアを落としてごらん。」


「どうするんですか?」友里恵。


「バイクと一緒さ」と、深町。



「そっか」友里恵は
それで、冷静さを取り戻した。

アクセルを戻して、スピードが落ちたら
クラッチを踏んで。
ギアを落とす。

「そう、それでいい。カーブはゆっくり走れば
タイアは落ちない。後ろの人の分を考えて
ハンドルを切る。そこは、バイクと違う。
左後ろにも人が居る」深町。

「はい」と、友里恵は真剣。



「でもぉ、上手、友里恵。あたしは無理だー」と、由香(笑)

緊張ムードが解けて。友里恵の肩の力も抜けた(笑)。

次の、左カーブはゆっくりと抜けられたけど
ちょっとぎこちない。

「うん、上手上手。ATなら合格」と、深町は
指導が優しい。




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「教えるの、上手ですね」と、友里恵は
運転しながら。

「ありがと」と、深町はにっこり。



「教習所の先生って、怖いと思ってた」と、由香は
後ろの席から。


「怖い人もいるよ。危険なものだから、クルマは。
優しく教えられるのは、キミたちが
危険な事をしないから。」と、深町は言う。


事故を起こしたら、指導員の責任なので
免許を取られたりもする。

そういう事情だから、生活が掛かってるひとは
怒りっぽくもなるんだろう。




「右カーブ、白線を右タイヤが踏むと、減点ね」(笑)
輝彦は、後ろの席から。


「今はまだいいよ」と、深町。


「そっか」と、輝彦。


「減点ってなんですか」と、友里恵は
右カーブを曲がりながら、クルマを止めて
降りてみた。


右の後ろタイヤが、白線を踏みそうだ。


「ああ、もっとクルマを左に寄せれば大丈夫。
最初はね、左側の幅がわからないから」と、深町は
左タイヤのところに自分が立って

「運転席から見てごらん、ここにタイヤがあるのさ。
道路はもっと左まであるから、もっと寄せて平気」

と、白線のところまで歩いた。2歩、3歩。


「どうすればいいですか?」友里恵は、ちょっと
分からない。


「道路の幅は、クルマより広いから
右の後ろタイヤがね、白線を踏まない位置を
通るようにイメージしても、大丈夫。
自分の後ろの人が、カーブに入る頃に
ハンドルを切れば。

前が落ちそうに見えるけどね。1回、落としてみれば
分かるよ(笑)」と、深町は楽しそうだ。


限界を知るのも、大切なんだよ、と。



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「限界か」輝彦は
深町の意図と無関係に連想した。

僕らの生活も、自由だけれど限界がある。

例えば、17歳の頃の友里恵と出会って
魅力的に感じた。

デートしたいな、と思って
誘う。

当人同士がそれで良くても
法令で、それは良くないこと、とされる。

そういう限界もあるけれど

18歳になれば大丈夫なのは
それが限界だから、と
決められているから。だ。


西の森コンビニのオーナーも
限界が分からなくなっていたのかもしれないな、と
思ったり。


土地が、ただで手に入ったり。
店を持つことができたり。

ちょっと、限界を越えてしまって
していいこと、そうでないことが

わからなくなってたのかもしれないな。





「じゃ、ちょっとタイヤをゆっくり落としてみて」と
深町は、運転席の友里恵に
カーブの外の、緑地から。

静かに、タイヤが路肩に。


「そこまで行けるんだよ。降りて見てごらん」と
深町。

友里恵と由香は、クルマの後ろから見ると
道路の幅、半分くらいが
タイヤの右側にある。


「もっと行ける、ってことさ」と、深町。


「そうなんですね」と、由香は
クルマの前に回って。


「うん。カーブの、外側のところに
マークが置いてある。鉄板だから
踏むと、音がするし
ハンドルがふるえるから
そこを踏む練習をするといいね。
でも、仮免許だったら
これだけ乗れれば受かるよ」と、深町。

「ほんとですかーぁ、よかった」と、由香。

「アンタはまだ乗ってないじゃん」と、友里恵。

「じゃ、由香ちゃん乗ってみよー。」


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由香は、友里恵より
ずっとふつうの(笑?)初心者ドライバーで

クラッチペダルをうまく、操る事が
できなくて。

「ゆかはー。ムリですーー。」


深町は「ペダルのね、位置を合わせて。
シートをずらせてね。足の力が
上手く使えるところに。
高いところから踏み下ろしたほうがいいかも。」

そういって、シート高さや前後位置を動かして
踏みやすい場所を探した。


「慣れると分かるから。かかとを床に付けて支点にして
ゆっくり放していくと、クルマが動くところがあるから」



足で、微妙に加減するのは難しいらしく
放しかけで、止まってしまうエンジン。


「難しいですー、うぅ~。友里恵に出来るのにな。
」と、由香。


「感度の良い子、友里恵」と、友里恵はちょっと(危笑)


「勘のよい子。(笑)だよ、感度って言うと
Hじゃん」と、由香。


「そっかぁ(笑)わはは」と、友里恵はおもしろい。


どこまでわかってるのか不明な
楽しい18歳、である。



深町は、調節ノブで
アクセルを踏まない時のエンジン回転を高くした。


「これで、やってごらん」


由香は、おそるおそる。

左足を放した。

ちょっと、唐突だけど「走った、走った!」

やったぁ!と、友里恵も拍手。「由香も、感度の良い子~」(笑)


それは危ないじゃん、おとぼけゆりえちゃん(笑)







一旦、覚えてしまえば
慣れるのは早いのは
若さ故、のことだろうか。


コースの外を、ぐるっと回るのも飽きた頃

「じゃ、クランクコースね」そこにあるでしょ、と、深町。

「左クランクだから、左を大きく開けて。
右ぎりぎりに右の後ろのタイヤを寄せて。
それで、右の前のタイヤが落ちないように、左に一杯切る」

と、言うのは簡単。

はじめたばかりのドライバーには、難しいのは、スピード。



「1速でいいね。ほんとは2速だけど、できるまでは」と、深町。


「やってみる。」と、由香。



右折して左クランクに入るのが、結構、初めての人には難しい。
斜めに入ってしまったりする。


「適当にやっても、落ちないよ」とは深町。


でも....斜めに入ってしまって、曲がれなくなったり。


「そう、早いとね、ハンドルが回せなくなってしまうから。
ゆっくりでいいの。間違えたらね、後ろを確認して戻れば
大丈夫だから」とは、深町先生(笑)。

行き過ぎて、少しバックして。
もう一度きりなおして。


何とか通れる。


「やったぁ!」と、爽快ゆかちゃん(笑)。

「やるじゃん」とは、友里恵ちゃん。

クルマの運転も、面白くなってきたみたい。





「次は、S字ね。ちょっと難しいけど。さっきの、カーブの感じで。
右にカーブするときに、左ぎりぎりを走って。次の左カーブで、左を空けておかないと
左の後輪が通れないから、先を考えて走る。前輪が落ちないようにするのは同じ」と。


「先を考えるのは人生ゲームみたい」とは、友里恵ちゃん(笑)渋い。


「先生は人生、考えてます?」とか、由香ちゃん(笑)鋭い。


「シビアな質問ですねぇ。予定通りに行かないのが人生だったり」とは、深町。
ユーモアたっぷり。

実際、深町の人生は親兄弟に翻弄されたようなものだった。
父が政治家だったので、ライバル政党の攻撃を恐れて
地方に疎開。
その父が死んでから、やれやれ、と思ったら兄が他界。
兄の子供たちのことも気がかり、母も気がかりで
ミュージシャン活動を中断して帰郷。

その時代を知るのは、輝彦と由布子くらいのもので.....。

でも、筋を通すのは深町の本質で
ミュージシャンには任侠も大切であった(当時)。

困っている人を見過ごせない性格である。


「深いお言葉ですね」とは、由香。


「ちょっとカーブが深いです」とは、輝彦(笑)


ハナシをしていて、ハンドル操作が遅れて
曲がりきれなくなった(笑)。


「まあ、そうしたら、切りなおせばいい。
後方確認すれば。」と、深町。


「早く曲がりすぎるよりは楽だね、直すのが。
後ろのタイヤは、内側を通るから。
それも人生と似てるか、な(笑)」と、深町。

早まった事をして、取り返しが付かなくなるよりは...慎重なほうがいい。
それも、人生経験からか、41歳深町(笑)。





そういえば、ふたりは
茫洋と生きているところも
よく、似ている。

深町は、ミュージシャンとしては
自己顕示が足りず、野心もない。

ただ、音楽が好きなだけだし
音楽をしていないと、死んでしまうような
激しい欲求も、ない。

そういう理由で、堅気(笑)に戻る人も多く
そのひとり、と言う事か。

輝彦も同様に
ライター志望、と言う訳でもない。

なんとなく、生きているだけ。


人生、計画が必要とは言え
そう、思い通りにもいかないものでもある。


特に、差し迫って
身の安定が要求される事もないから

結婚などするのも重荷、だったのも
正直なところであった。


先行き不透明な今のご時世だから
家庭を持ち続けられるか、疑問だったのもある。


お嫁さん候補が現れると
「他の男にしたら」と言ったりした。

その方が安定した家庭が築けるし、と
思ったりして。





ただ、輝彦には
友里恵が現れて

なんとなく、人生の目標が
できたような、そんな風にも

深町には思えた。


ふつうな幸せも、楽しいもの
であるかもしれない。

少なくとも、友里恵は
愛を大切にしている、希有な人のように
深町には思えたから、でもある。


それが幼さだとは、思えない。
年老いた女ほど、経済的な事情を
重視して相手を選んだりするが

どちらかというと、その方が
幼稚な行為であろう。

経済は行動であり、豊かになるのは
心、である。

経済では、愛を得られないから
友里恵たちの方が、賢いのだと
深町には思えた。


「ま、人生、計画も大切ですね」と、深町は
ユーモラスに言う。



「どーしてですか?」と、由香(笑)






-----------------
「まあ、ほら
やっぱ家族が大事じゃん。だから
働き手はさ、家を守んないと」と、深町は
自分の感覚で言っている。

「かっこいーですー。ゆかは、ついていきますー」(笑)。

「気にしないでくださいね。いつもの病気ですから」と、
友里恵(笑)。


「ついて行くと、危ないかもよ」と、輝彦(笑)

「あぶないのもステキー」と、由香は
どこまでユーモアなんだかわからない(笑)。



「あ、そうだ。お店に刑事さんがまた来たって。」
と、いきなり由香はふつうの顔して(笑)


「前にも来たの?」と、輝彦。


「はい。事件の後かなー。」


...刑事事件でもないのに。

輝彦に対応した刑事は「事件にならない」とか
言っていたのに、前にも捜査に来ていたなら

何か、方針があってしているのだろう。



-----------------
「刑事さん、どんな事聞いてたの?」と、輝彦は
ちょっと気になった。

捜査を始めたのだろうか?と。


「うーん、お店はいつまでやるのか、とか。
由香の名前聞いたり、とか、出勤データ見たり」



由香の返事を聞いて、ちょっと輝彦は
理解が難しかった。

過去の、オーナーの死と
どういう関連があるのだろう?




その時、由香のケータイが鳴ったけど
マナーモードになっていたので、震える音が
聞こえるだけ。

由香は、着信画面を見て、そのまま閉じた。


「出なくていいの?」と、友里恵。

「うん、だってホラ、あいつだもん」と、由香が言うと

ああ、と友里恵も苦笑い。


「そろそろ、暗くなってきたから、教習は
また今度にしよっか」と、深町が言うと


「はい」と、友里恵が言い
「ありがとうございます」と、由香。



クルマを降りて深呼吸。4人で乗ってると
クラウンでも、結構息苦しい(笑)。


輝彦は、ちょっと気になったので
捜査情報を差し上げた刑事課へ電話。

したが、捜査の進展はない、との事で

「西の森コンビニに捜査員が来ましたが」と輝彦が言うと

それは別件です。と言われたので

「私も、西の森コンビニの従業員でした」と、輝彦が言う、と。

電話を転送されて、生活安全課らしき
若い声の婦人刑事が電話に出た。


「あなたは、携帯電話をどなたかにお売りになりましたか?」と、婦人刑事が言う。


輝彦は、直感的に思った。
あの、由香の幼なじみの電話ブローカーが何か
したのか?


「いいえ」と、返答すると。

婦人刑事は
「そうですか。今、電話レンタル業者に関わる
事件を追っておりまして。
お尋ね致しました、ありがとうございます。」



....うーん....。輝彦は考えた。






-----------------

「電話レンタル業者か...」輝彦は
ひとりごと。

「どうかしましたぁ?」由香は、輝彦の
浮かない表情を見。
それでも、明るい由香は
つい先日までJKだった。否、卒業しても
3月31日までは、学生だ(笑)

その気分が、抜けきれない。

抜けなくても、就職先もない。
それもご時世か。


「うん..ちょっと気になるんだけど
由香ちゃんの幼なじみって
、ケータイの販売してるって」と
輝彦が言うと、由香は
なんとなく、微妙な顔になって

「今も、デンワ掛けてきたり、メールしたり。
ウゼーなぁ、って思ってた。」
と、由香の口調が砕けて(笑)


「刑事さんがお店に来たの、たぶん
その話みたいでさ。西の森コンビニが
電話不正レンタルの窓口になってたとか...」
と、輝彦。


「あたしは知らないけど....あいつは
そんな事してたのかなぁ」と、由香は
その、幼なじみの事を「あいつ」と言って。


「不正レンタルってなに?」と、友里恵。


「身元がバレないように、ケータイ借りて。
大抵、詐欺とかに使われるから
禁止されてる」と、深町。







「あたしも借りた事あるよ」と、友里恵。

就職活動とか、バイト探しとかで
不採用になった後も、女の子は何かと
セクハラされたりするそうで

自分のケータイ番号を教えたくないので

そういう時に借りるらしい。


男には経験のない事...でもないか(笑)。


借りる事自体は、違法ではない。


ただ、その時本人確認書類を
携帯電話会社に送るのだが

当然、自分の名前を教えたくない。


「だから、他人の住民票とったりして」と
輝彦が言うと、由香は

このあいだの、捜査(笑)で

その手法を使った事を、思い出し


「ああ、あいつ。転売だけじゃなくて
そんな事に.....。」と、悔しそう。


「彼から連絡、いっぱい来てる?」と、深町。


由香は頷く。

「たぶん、口止めだろう」と、輝彦。



「捕まっちゃうの?」と、友里恵。




「公文書偽造行使だね。下手すると
由香ちゃんも危ない。」と、輝彦。


「えええーーー!!あたしは
頼まれただけですー!」と、由香は首を振る、手を振る。





「そのケータイが事件に使われていなければ
注意くらいで済むだろうけど」と、輝彦は言う。


「どうすればいいの?」と、由香。


「たぶん、聞かれた内容からして
お店で仲介を由香ちゃんがしてない、と
警察は分かったんだろう。だから、警察に
呼ばれなかった。でも、幼なじみの彼が
由香ちゃんに頼んで、他人名義の住民票
取った、と、警察に話したら、呼ばれるかも」
と、輝彦。


「あいつめ。あたしをそんな事に使って」と、由香は
ちょっと怖い顔。

「ほんとだね。ひとりでやれって。悪い事は」と
友里恵。

「うん、その幼なじみって、同じ年?」と、深町。

「ひとつ上。」と、由香はまだ怒った顔で。


「未成年だと、取引免許取れないから
まともな商売できなかった、ってのもあるんだろう。
頼れるのが由香ちゃんしかいなかったんだよ」と
深町。


「だからって、悪事に巻き込まなくても!」と
友里恵。


「そこなんだよね。」と、輝彦。

「それが悪いことだって、よく分からないで
やってる、ってのもあるし。

昔は、自動車のナンバーを取る時なんかに
他人名義の住民票なんて、自動車屋さんが
取っていたんだ。
でも、悪いことには使わなかった。
それが悪用される時代、って事さ」と。


「怖い」と、由香。


「でも、誰が警察に言ったんだろう?事件でない
とすれば。」と、深町。


「....たぶん、だけど。
あの、パートのおばさんたちが警察に呼ばれて。
有罪になるかもしれない。

その報復に、あのコンビニ関係で
何か、アラを探したんだろう。
それで、由香ちゃんの幼なじみの
闇商売が見つかった」と、輝彦。


「そんなぁ。関係ない。あたし」と、由香。


「そういう悪い人って、相手が誰でもいいんだ。
攻撃したいだけなんだから。
子供のいじめと同じさ。」と
深町は、かつて父が政治家だった為に
対抗政党の攻撃を受け、
田舎に避難した記憶から、そんな事を言った。




-----------------
「いずれにしても、微罪だから
由香ちゃんの幼なじみの彼にしても、
逮捕されるような事はないよ。
未成年だし。」と、輝彦は言った。


「彼じゃありません」と、由香はきっぱり。

「そーなんだ?麻美ちゃんや舞ちゃんも
彼氏じゃない?って言ってたから」と、友里恵(笑)


「嫌いだよ、あんなの」と、由香は怒った顔のまま。


実際、幼なじみは慣れた相手なので
恋にはならない例が多い。

動物行動学的にも、未知の相手と
仲良くなるきっかけのひとつに、性があり
それが異性の場合でも、同性でも

相手と、快い関係になりたい、
相手を快くさせたい

相互に思う時に恋、に見えるので

もともと知っている相手と、より仲良くなりたい
とは、あまり思わないのが通常、である。









廃校になった自動車学校だから
古い防火ポスターが貼ってあったりする。


アブナい視線のお姉さまが

「火をつけた あなたの責任
最後まで」

と、標語の隣で睨んでいるポスター(笑)


それを見て、深町は輝彦を

「ほら、火が着いちゃってるてさ。
最後までだってよ(笑)」と、つついた。


「何考えてる、エロ中年」(笑)と、
輝彦はつつき返した。




友里恵は「恋の炎で、ああ、焼き尽くしたいわー」と
タカラジェンヌみたいに踊るふり(笑)

由香は、その友里恵を見て
「あたしも燃えたいなー(笑)深町さーん
一緒に燃えません?」と、かわいく
とことこ寄ってって。すりすり。


輝彦は「ほれ、最後まで面倒みろよ」と
深町をつつきかえした(笑)。




-----------------
「そろそろ帰ろうぜ」と、深町が言うと

はーい、と女子ふたり組は
おとなしい(笑)

いつもは、(とっても)やかましいのに(笑)
とか、コンビニで一緒にバイトしてた頃を

ほんのちょっと前なのに
懐かしんでいる輝彦だった。

感覚の時間って、そんなものだ。
覚えているイメージは、一瞬で
思い出せるけど

回りの場所が変わっちゃうと、
とっても遠い時間、空間みたい。


それも、生きていく間に
経験の積み重ねで作った
人間の能力、で

今、回りの雰囲気に慣れて
変わった動きや、音、匂いなんかで
敵を見つけだす、そういう能力だと
動物行動学は教える。


そうした事で、変わった者を排除する性質が
転じて、いじめになったり。

反対に、愛するものを特別視すると
恋愛になったりするので

つまり、愛のない人しか
いじめはしない、と言う事になるんだろうと


輝彦は、可愛らしくしているふたりを
見てそう思った。



ただ、恋していると言う状態も
悲しい事に、人間は慣れてしまうように出来ている。

それは、生理学的な理由で...
やはり、動物だった頃の名残で

新しい相手を求めて、より優れた種を残す為の
プログラムだ。

それを越えて、特定の相手を慈しみ続ける事が
人間の愛である。が....。


果たして自分たちに愛が
もたらされるのかなぁ、と....。
思ったりもする彼らであり

無邪気な彼女たちは、まだ
そんな事まで思いを馳せる事もなく
はしゃいでいる。

それで、いいのかもしれない。今は。


そう、輝彦も深町も思った。
時が来るまで、守ってあげなくては。




「でもさぁ、ゆかぁ、ちゃりじゃん」と、友里恵が笑って
自転車を指さす。

「あ、そっかぁ(笑)」由香がからから、と笑って
膝をたたいた。

すらりとした脚には、ちょっと膝に
擦り傷があったりして

いたずら小僧のようで、可愛らしい。


ひざ上くらいのスカートも
あまり短すぎるよりも、かえって可愛らしく
悩殺的(笑)。

極度に短いと、健康的な
スタイルのいい子でないと

攻撃的で、無駄なお肉(笑)が
目立ってしまうものだけど

由香は、どちらも似合いそうで
ちょっと、男の子みたいに
スポーティな足まわりだ。


「じゃ、飛ばして帰ろっ!下り坂だし。」と、
由香は愛用の白い自転車、ハンドルを
改造してあるそれにまたがって、スタンド外して

立ち漕ぎ。


「お先に失礼しまーす!」由香は、職業少女らしい
折り目正しい挨拶の出来る子だ。


コンビニでバイトするような子に
悪い子はいないと
輝彦は思う。

低賃金で、忙しいし
割に気を使う職場だし。


「お先、って
どこ行くんだろね、由香ちゃんは(笑)」と
深町はにこにこ。

懐かれてるので、悪い気はしないようだ(笑)



「さぁ?お家へ帰るんじゃない?」と、輝彦は
のんびりと構えて。


「俺たちも戻るか」と、深町は
白いクラウンのドアを開けて。

友里恵は後ろ、輝彦は助手席。


「なんとなくそうなるな(笑)」と、深町は
エンジンの回転数ノブを左に回して

由香ちゃん仕様(笑)だった
回転を下げ、クラッチをつないだ。



「低い回転でも止まらないんですね、エンジン」と
友里恵は感嘆したように。


「ああ、エンジンが止まりそうになったら
アクセルを踏めばいいのさ。長年つきあうと
分かるんだよ、エンジンが辛そうかな、楽そうかなって」
と、深町は言う。


「お母さんと赤ちゃんみたい」と、友里恵。


「ああ、泣き声で気持ちが分かる?似てるね。」と
深町は教習コースを出て、入り口に

車止めを置いた。

「止めとかないと、夜だから」と言い
車をスタートさせ、坂を下って

高速道路の陸橋まで下ると、
由香が自転車に乗ったまま、携帯電話で
なにか話しているのが見えた。




通話が済んだらしい由香は
ケータイをバッグに入れると
ちょうど、後ろから来た深町のクラウンに気づき
手を振った。

緊張の表情。

「どしたの、ゆか」
友里恵は、車から降りて
由香のところへ駆け寄る。


「電話、出てみたら....あいつ、
家に警察が来てるかもしれないから
様子見てくれないか、だって。」
由香は、憮然と。

「捕まっても、大した罪にならないのに」と
友里恵が言うと


「それ、あいつ知らないから。
刑務所に入れられるって、半ベソだよ」と、由香。

「しょーもないなぁ」と、友里恵も言い
「でも、確かめてやるくらいはいいんじゃない?
連絡してさ、刑務所は行かないよ、って
言ってやれば」とも。


「安心させてあげればいい」と、深町は言い

彼の家は?と尋ねた。

「同じ団地だけど、市営のほう」と、由香。

友里恵や由香の住んでいる方が公団、で
いわゆるマンションふうの分譲。


市営、は
いわゆるアパートふうの賃貸で
好みで、いろいろ住み分けられるらしい。


「そっか、じゃあちょっと寄り道して」と
深町は、帰りがけに見ていく事に。


自転車で坂を降りていく由香は
結構なスピード(笑)。

「下り坂だしな」と、輝彦は
スピードメーターを見る。

40km/h。

道幅の狭い農道は、誰も来ないとはいえ
自動車だと結構怖い速度である。

坂を下りきる頃には、由香の姿は
見当たらなかった。

「友里恵ちゃん、市営ってわかる?」と、深町。

うん、知ってる、と友里恵は言い

海岸沿いの団地、そこから
県道を挟んで砂浜のほうにある、市営アパートの
方へ、車を走らせると

由香が、制服警官のパトカーに止められていた。



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「どうかしたの?」輝彦が
車を降りて、由香に駆けよると

制服の警官は、厳めしい顔。

由香は「へへ、信号無視で」
注意されただけ、だと言う。

パトカーを見送って
「事件の事かと思ったよ」輝彦。

「あたしもー。それで張り込みしてるのかと...。」由香。


海岸沿いに警邏隊詰め所があるので
時々、捕まるらしい(笑)


「彼は無事みたいね」と、深町が
車から降りてくる。


「駐車違反で捕まるぞ」と、輝彦が笑う。

大丈夫、コンビニに停めたから、と、深町。


「コンビニか....」輝彦は
その、アルバイトの日々を楽しく
振り返った。

「アイツも、ヤバい仕事しないで
コンビニででも働けばいいのにさ」と、由香。


「就職しなかったの?幼なじみくん」と、深町が聞くと


「アイツね、高校の途中で親とケンカして。
家出して、退学。それで、就職できなくて。
あたしですら、就職難しいのに、中退じゃムリって。」
と、由香はちょっと淋しそうに。

「優しいとこもあるヤツなんだけど、親、おかーさんが
子供扱いしてなんでも仕切るんで、キレちゃって」とも。





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割と、ある話だ。

母子関係、母にとっては
自分から生まれたので、所有物の
ような感覚がある。

母自身、子だった頃
親のそういう感覚を疎ましく思った筈だが。

その時、父が第三者として
逃げ場になると良いのだが。


人間は、他の霊長類比で

母子関係が長いので
父の存在を要する。

生物社会学の定義では
父・母・子を以て家族とし

家族を持つ事が人類の必須条件である....。

つまり、彼の場合は両親の間に

良好な関係がなく、父が
頼りにならなかったと言う事だろうか。


「さ、警察いないって電話してあげな」と、深町

「はい」と、由香は
深町にはしおらしい(笑)


恋すれど故、の事だろうか。





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「かけたよー」と、由香はにこにこして答えた。

「刑務所は行かないから、って言っといたから
安心したみたい」とも。


由香の幼なじみくんも、たぶん
行動力が余っていて。

いろんな事をしたかったのだろう。


お母さんからすると、危ない事に
見えたりして。

可愛いから、世話を焼いてしまう。

それを鬱陶しく思うのも少年故、である。



「家に帰ってくるのかな」と、深町が言うと


「たぶん帰るんじゃない」と、由香。


「捕まらないといいけど」と、友里恵。


「大丈夫。話しを聞かれるくらいだろう」と、輝彦。




もう少しいい時代だったら、彼らも
のほほんと遊んでいられたし、高校中退だって

いい仕事は沢山あった。


国が、戦後政策の延長で
何よりも国民が富む事を考えていたから、だ。


企業は、中卒でも人を雇い
働きながら学校に行かせたりした。


そうして、家族のように
従業員を守ってきたのである。

そのお金は、銀行、元を質すと
国が、国民に借りていたのであるから

社会全体が、日本と言う国を
守っていたのである。

それが、昭和の終わり頃まで、
つまり、輝彦の世代くらいまでなのだった。


それなので、友里恵や由香たちが

輝彦や、深町に安心を感じるのは
背後にあった、日本的な安定を

求めているの、かもしれない。


実に不憫な事で
平穏な生活を、脅かしているのが
実は政治的圧力、主に
同盟国である筈のアメリカ、を
主とした金融ギャンブラーたちの意向で

日本のお金を横取りに来たから、である。

そのせいで、例えば
テレビ局が外国の株主に乗っ取られかけたり

ソニーを、イギリス人が
めちゃくちゃにしたり。


高校中退の男の子の、幸せと引き替えに

外国のお金持ちが、より、幸せになっていく。

そんなのはおかしいと輝彦も思うから
身近な不正から直して行きたいと
思うのかもしれない。





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政治的に決められたのは、あくまで秩序を持った
日本市場開放、と言うものだったけれど

ギャンブラーたちが、秩序を守る筈はなく


結局、そのせいで
日本は、弱いものイジメ社会になってしまった。


金があれば、何をしても良い。

そんな人たちが増えたので

友里恵は、わずか13歳で
しかも教師の、欲の対象になったりもする。

それは、友里恵の正当防衛(笑)で
未遂に終わったりするのだが。


同様に、由香の幼なじみ君は

不運にも、経済に翻弄されて
危ない仕事をする訳だ。



保護主義であった日本経済を
鬱陶しい親心のように思っていた日本人も
多く存在していたが


由香の、幼なじみ君のように

後で、親心のようなその、国の方針を
有り難く思う事になる訳、である。


その点、友里恵や由香のような
女の子は堅実である。

道理であり、子供を育む機能を持つので
慎重になるのだ。


それが、進化生物学で言う
生得的な性質、進化の課程で覚えた記憶、だ。


無論、男にもある筈ではある。





由香は「クラスメートは子供っぽくて」
友里恵は「早く結婚したいから」

と、ふたりに言わしめるように
男の子の方が、女の子より
幼いのは
昔も今も同じだ。

理由は、男の子は
生理的に大人になるのが遅いからだ。


女の子は
既に子を宿す事が出来るせいで
大人として、社会的に先を読んで生きる
事を強いられる(もちろん、被害防止だ)が

対する男は、それが無いので

例えば20歳を越えて、教え子の13歳に
手を出したりする幼稚な者もいるのだが


実は、それも経済のせいで
社会が変質したからであり



力関係で優越ならば、劣位の権利を
侵して良いと思うのは、昔は無かった性質だ。


今、起きている事件は全て、そういう
根拠で起きている。


ルール通りに振る舞えば起こらない事件、だ。


文化人類学的に言う「世代影響」に似たような
社会構造による影響である。




「アイツ、だいじょぶかなぁ」由香は
それでも幼なじみを心配している、
優しい子だ。


「大丈夫さ、きっと帰ってくる」深町は
安心させようと思い、そんな事を言った。


「自分で稼ごうって考えは偉いと思うな」と
輝彦は感想を述べた。



「工夫するのが好きなヤツでさ。
学校は好きだけど、勉強は嫌いって。
教師とも、あんまり合わなくて」由香。



そういう者に合った道を探せる教師は
今の学校には少ないのだが
それも、教育を予算で管理する考えのせい、だ。


つまり、経済を基準にすると言う
教育には相応しくない考えが持ち込まれたために

彼の幸せは、ここでも見捨てられている。

日本は、「福祉主義」を憲法で標榜しているのに
競争的な経済の考えを、生活の考えと
混同しているのだ。

経済活動は競争でいいが

生活の基本は、あくまで平和基調である。
誰かの平和を、他の誰かが侵してはならないのだ。




-----------------

「警察に証拠、出したんだろ」と、深町は
不審顔。

「ああ、捜査情報を隠蔽したんだろう。
出世したがる刑事なんかはよくやる」と、輝彦。

手柄を上げて、偉くなりたい人は
他の者を出世させたくない。

競争心だ。


でも、警察は市民の為にある、のに。

それを、蔑ろにしているのだ。

またしても利己、である。
それを戒める上司は、どこに行ってしまったのだろう。



「とりあえず、今夜は安全だから」と、深町は言い
由香は、自転車を押して。
団地の階段を登るまで、見届けた。


「とんでもない事になっちゃったね」と、輝彦は

友里恵を、送り届ける。


「おやすみのキッスは」と、深町は
気分転換が早い(笑)

ばーかぁ、と輝彦は言い

それでも、ちょっとしたかったかな、と
思ったりもしたが(笑)

団地だし(笑)

人目の多い時間である。


住むところってのも、ロマンスには
関係あるのかな(笑)


なんて思ってたのか

ちょっと振り返りながら、友里恵は
軽やかに階段を昇っていった。




翌日。
警察に、輝彦が連絡すると
由香の幼なじみの事件は
警察は不問に付す、との事だった。

西の森コンビニの商品窃盗事件は
悪辣パート主婦二人が、主犯とされたそうだ。

本人たちが、黙秘するので
そういう事に落ち着いた、との事。


二人とも前科、と言うか
微罪があったために
今回は何らかの処罰が下る、との事。



決着しないのは、西の森コンビニ土地
収受の不正疑惑、それと
オーナーの不審死の真相である。




環境が悪いと
よく言われる。

昔は良かったとも。


例えば、地球上の生物は
元々水の中に生きていたので

陸上に向かった生物は
もう、水中に戻る事は、出来ない。


水中に適応した種も
陸上に向かう事も、もう、できない。


環境が激変した時ー。

適応できない種は死滅するのであるから


今の、歪んだ価値観に適応している種は

その、価値観が変化した時に死滅する。
ので、今、彼らは苦しんでいるのだ。


もともと、ありもしない富、その夢を作る為に
銀行が、ありもしない資本を貸し続けて
かりそめの繁栄を見ていた時代。


それが、彼らの価値観である。

愛もない、正義もない。

物質と欲望だけが意味を持っていた。

それは、とうの昔に崩れているのに
その幻影を追い、例えば
パート主婦が時間給800円の勤務に就く為に
ガソリン代を払い、月3万円ローンで
黒いバン型自動車を買う、と言う
奇妙な価値観を持って
飽きたらず、店の商品を盗んで
物欲を満たす、と言うような
行動様式をする人たち。

彼らが、事件の主犯であり

比喩的に言えば、滅び行く前世代の生物で
あろう。

次の世代の若者は、それに気付いていて
例えば、由香や友里恵、舞やゆう子などは
堅実に、愛を大切に生きている。

前世代に戻ったのである。



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しかし、どうも納得が出来ないのは
事件の、実行犯は捕まっても

その動機、背後関係が曖昧なまま
捜査を終えてしまう警察のあり方、であった。


それも、言ってみれば
成果にならない事は仕事じゃないと
言いそうな理由である。


第一、不条理にも
由香や、その幼なじみの少年は

西の森コンビニへの攻撃心の
とばっちりを受けただけ、だ。

(だから、処罰されなかったのだろうけれど)


そういう理由で、悪い企みをする者が
罰せられない限り、立場の弱い者への
イジメは無くならない。


みんなが、安心して暮らせるように。

そういう正義感から、報酬もなく
輝彦は、ひとりで行動した。




とりあえず、盗犯ふたりと
オーナーの愛人だった大学生の接点、
片野ベーカリーがあった
線路脇、駅前ロータリーに

もう一度行ってみた。


跡形なく、今は近代的なロータリーと
駅へのエレベーターが出来ている。



「工場が、ここにあったなら...」
随分な数の工員が、職を失ったのだろう。
その多くは、パートやバイト、だった筈。


その者たちのうち、近隣にある赤道付近の
在住者が、鉄道事故の被害、用地収用などで
行政、国や県、市町村を良く思っていなかった。


そこに、同じく駅前再開発で
鉄道・行政がまた、彼らの感情を刺激した。


たまたま、西の森の土地を
行政ゆかりの者が、棚ぼたで手に入れた。


運悪く、その土地は
赤道出身の者の土地だった為

そこに、コンビニが建設され
彼らの攻撃心から、乗っ取りを企む者が

西の森コンビニへの攻撃を始めた。


経緯は以上。



主犯は、おそらく近隣の者だろうと
輝彦は思い、ふたたび
赤道に歩みを進めた。






-----------------
線路沿いの細い道は
舗装されていない。

かえって自然で、足応えもいいが
雨の日にはぬかるんでしまうだろう。

そう、「ぬかるみ」語感も
友里恵や由香、舞あたりには
実感が乏しいだろう。

学校の校庭まで、舗装されているような
昨今である。


そのくらい管理されているのだ。

でも、赤道のあたりは
行政との対立もあってか
環境整備が、立ち遅れているように
感じられた。


昭和の終わりあたりで、時が止まっているような
地域。


そこに住む人々は、慎ましく暮らしている。

でも、なぜか
あの、お店の品を盗む主婦たちは
ブルジョワの振りをして、中古ミニバンを
飾りたてて乗り回していたり。

不思議な断絶を感じた。


そんなムリをしないで、慎ましく生きれば
そこそこ暮らしていけるのだ。


畑に通う老婦人たちの表情は
明るいのである。


「こんにちは」と、声を掛けると


「ああ、またあんたかい」と
手ぬぐいで頬かむりをした、農民は
笑顔で答えてくれる。


それとなく、事件の事を尋ねてみると


「ああ、怠け者にバチ、あたったんじゃろ。
働きもせんで」

と、意外な言葉が帰ってきた。


「どういう事ですか」輝彦が尋ねると


工場が移転する事で、解雇された
引換に、市から補償金を貰っていたのだそうだ。

無論、正規の、雇用保険は貰っていたが
給付期間が終わっても、
ただ、お金を貰える事に味を占めて
次は、行政に金をせびりに行ったらしい。



それで、行政が
あの、西の森のコンビニのパートを
紹介した、と言う。


「....なるほど。」輝彦は理解した。


搾取した土地で、コンビニを始めていたので
口止め料代わりに、補償金と、仕事を得た
と言うわけか。

それで、店の品物を我が物のように
得ていた、と言う訳か。


不浄だ。





それが事実なら、黙秘する訳だ。



その行動をさせた黒幕が、あるいは
主犯であるかもしれないし

各々、主犯と言えるかもしれない。


働かずして大金が得られるなら、と
不正な行動をするなら
行政の不正と、程度は同じ。


同類と言うこと、だ。


心のブレーキがなければ、どこまでも
墜ちてしまう。



「それで...」警察は
由香の身柄を、その件で確保して

あの、幼なじみの少年のしていた事の
全容を掴みたかったのだろう。

別件なので、それも違法確保である。
おまけに未成年だ。




-----------------

行政が、西の森コンビニの仕事を
悪辣な人間に紹介したのは
偶然か、故意か。

あるいは、コンビニを起業したのも
行政の意志かもしれない。

時折、善意で行われる
そうした民間協力も
時には、仇となって返される事もある。


友里恵や由香たちにも
不正な方法で店の商品、
食べ物を得る手段を
教えたり、と
どうしようもない大人たちで

そういう大人がいるから、
子供がダメになるのだ。


発覚すると、由香を共犯などと言う
あたりも、救いがない。


つまり、進化生物学的に言えば
滅びて行くべき種、なのである。

ありもしない富を渇望するのは
明らかに不条理だ。


その為に、罪を犯すので
誰かにそそのかされたにしても
行動責任はあるから
起訴されるのだろう。


滅び行く者にさえ、福祉主義で接する一面も
行政にはある。


仕事がなければ紹介し
生活費をくれたりする。


ある意味、それを窃用し
堕落する者は、滅びた方がいい、などと
輝彦は思うが

公安警察のデータでは、そういう者は
犯罪を犯すのだそうだから

未然に防ぐ為に
金銭を与えている、との事である。



富。
そういうが、例えば借金をして
時給800円のパートをしてまで
黒いバンを買ったり、服を買ったりするのは
「富」ではない。

物品を売ろうとする者の罠に
ハマっただけである。

渇望するのは、貧しい心の状態である。


比較学的に言えば

目の前にある環境、所持している金銭。
それを基準にするのではなく


そこには無いものを、欲求するから
心貧しくなるのである。


無いもの、は
大抵、物売りが
魅力的に見せかけるのだが
実際は、大したことはない(笑)。

比較しなければ良いのだけれど。


そうすると、物が売れなくなると
言われたりするが


必要ない物は、売れない方がいいのである。

その為に、犯罪者が生まれてしまうような
物売りは、変だ。



と、輝彦は思った。


物を買う為の貨幣すら
国への信用しかない、と言うのに
この国は、その信用も当てにならない
時代である。


そういう中で、人を愛し
家族を養う為には
相場師にならなくてはならない。


そういう能力の無い人が
損をして結果、犯罪に走るなら

主犯は国家である。



恋しい、愛しい気持ちだけで
恋愛している間は、楽しいけれど

友里恵より、少しだけ大人な
輝彦は、そんな事も考えるし

反対に、友里恵や、生まれてくる子が

そうした物売りの宣伝に毒され
欲の権化にならないか、と
心配する所でもある。


ただ、生活をするだけならば
旧来の暮らしをしていけば
そんなにお金は掛からない筈なのだが。



友里恵は賢い子だし
何よりも、薄給を遣り繰りして
学費を捻出するような子だから
大丈夫だろう、けれど。



-----------------


ただ、生まれてくる子供は
初めからそういう、物欲を過剰に刺激される環境に
胎内から放り出される訳だ。

騒々しいTVのCM音や、番組のナレーション、
それに、どぎつい色彩の画面など

過剰な刺激に、最初から慣らされてしまうと
神経は、鈍磨してしまう。

それ以前に、生まれたばかりの状態で
繊細な聴神経が、そういうものに拒絶反応を示し
休眠状態になる事は、良く知られた事実である。
泣きも叫びもしなくなる、つまり
人生の最初から、環境から乖離してしまうのだ。


生き物として、自然の微妙な変化を感じ
楽しんだり、驚いたり。

そういうものが最初から欠如してしまう。


それへの危惧は、以前からある。


もし、友里恵が
「かわいい赤ちゃんを欲しい」と言うのなら

その環境にも配慮しなくてはならない。

元々、自然界に無かった人工騒音から
遠ざける必要がある。

タバコの煙を忌避するのと同じく。


そんな時、友里恵が
赤ちゃんの為に、TVを消す、なんて事を
理解してくれるかなぁ、などと
輝彦は思ったりもする(笑)。

愛があれば、理解してくれるだろうけれど。



結構、そんなところで
人の能力は決まってしまったりする。

静かな環境で、過不足なく育てられる。
それは、愛であろうが

なかなか、例えば
住環境の悪い所では困難だったりもする。



そして、基本的にストレスを抱えた神経を持つ人は
不快なので、攻撃的になる。

あの、赤道が線路沿いにあり
その人々が闘争的なのは
鉄道騒音による睡眠不足が関係している
可能性が高い。



それで、行政に反感を持ったとしても....。
反感だけなら、あながち的外れでもない。

ただ、実力行使は間違いだし
法律違反である。

民法にもあるが、自力執行力、と言って
自分の判断で力を使うのはNGである。

また、
私的な権利は、公共の福祉により
一定の制限を受ける、とも記されているので

例えば、鉄道敷設によって
環境が侵されたなら
代替地に移転すべき、であるのだが....

おそらく、戦前に敷設された
鉄道。

当時は、国家が暴力的に
土地を収受したのであろう事が
想像される。

先祖代々、赤道地区で
そうした反感が、文化的に継承されているとすれば
怨念、と言っても過不足なく
モダン・ホラーであろう。

幽霊が出るかもしれない(笑)。


「本当にあった怖い話」愛読者の友里恵に
話の出来を聞いてみよう(笑)と、輝彦は思ったが


「マンガにしてぇ」と言うかな、と想像して
ちょっと微笑んでしまった。

愛は、怨念よりも強いのだろう(笑)





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土地収用について、不正が無かったかと思い
以前、申請していた情報開示の結果を見に

合同庁舎まで向かった。


開示されたのは、ほとんど黒く塗られた
書類のコピーだったが

赤外線ビデオカメラで撮影し、
コンピューターに取り込むと
数字の桁くらいは分かるので
資料として持ち帰った。


ついでに、都市計画課へ向かい
西の森あたりの道路計画が
いつ頃からあったか、を
聞いてみた。

返答は、無難なもので

あの、赤道から移転した一家が
西の森に移住した後で、
土地の名義が変わる前、である。

つまり、道路計画を知っていれば
土地と金銭が手に入るので

わざわざ、養子縁組してまで
他人に土地を譲る筈もない。

勿論、自分で調べれば
行政は開示するだろう。けれど
その時にはもう、後見人が必要な程

元の土地所有者の認知症は悪化していたと
言う事になる。


しかし、不審なのは
養子縁組が意外にスムーズに進行している
事であった。

通常は、長い時間を掛けて審判し
親類などを捜索するものである。

または、本人の意志で後見人を付けたか
公正証書遺言などが、事前に作られていたか。

そんな事情であろう。だが、推理のように
行政ぐるみで土地収用を企んでいれば....。


そういう話は良くある。
高速道路や、鉄道建設について

逸話が残されるのは、そのあたりである。



印象としては、かなり怪しいと
輝彦は思った。

土地の相続人が誰もいない、妻の存在も
書類には出てこない。

死別したのか、離別したのか?

赤道付近の親類は?

謎である。


おそらく、わずかな土地の為に
殺人までは犯すまいと推理され

赤道付近の親類も、幸運に
線路脇の騒々しい土地から移転できた
同族を妬っかんでいたろう事は
想像できる。

聞くところでは、そんな話だった。


持ち主としては、そんな連中に
土地を渡したくないと思うだろう。


それもまた、怨念である。


元々、土地は自然の物で
そこに所有権や課税など、と
価値を付けるのも行政である。


しかし、土地権利は
行政が証明していないので
結構、争いも多い。




そんなもの、要らないと
思っても

賃貸よりは、財産になる持ち家を
望むのも人情だ。


友里恵も「お店持ちたい」等と言っていたが
そういう時に、権利や売買の
ややこしい知識が無いと、損したりする。


ここでも、平等ではないのだ。




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その、鉄道・行政への怨念が
オーナーに恐怖心を植え付けて

鉄道自殺?

そういう事もあるらしい。

心が疲れている、自尊心の強い人は
負けを認めるより、死を選んだりする。

それこそ、まさしく呪いである。


あるいは。
何者かが、鉄道自殺に見せかけた
殺人を行ったとも考えられるが
それで利益を得る者は、いない。

それに、複数人数で深夜の片野駅に上れば
防犯カメラに映っている筈だ。

南口には交番があり、北口エレベータは深夜、電気が
切られている。

眠らせて階段を昇るには、重すぎる被害者なのだ(笑)。

随行していたと思われる大学生だが、
心身喪失状態(?)の模様で、入院中。


まあ、恋人、と言うか
親しい女性が死ねば、少年にはショックが大きいだろう。


...防犯ビデオが見られればな。

と、輝彦はひとりごとを言いながら
片野駅の構内を思い出していた。

跨線橋上に事務室がある、小さな駅。

出札口の奥に、コンピューター。
旧式の防犯ビデオは、メモリー録画タイプで
ハードディスクにデータを溜める方式。



鉄道会社や警察は、それを見ている筈。
なので、事件性は低いのだろう。



データが、正しければ。




もうひとつ気になるのは、由香にまで
敵意を持って攻撃する連中の存在だ。

形振り構わず、の
印象だが。


友里恵に魔手が掛からないうちに
主犯を捕らえなければ。

そう思う輝彦である。


友里恵。

そうだ、今日はどうしているのだろう?



電話をしてみるか。


コールしながら思う。


愛する者を守るのが、こんなに
難しい国もない。


アメリカあたりなら、悪い奴が近づいたら
ショットガンで一撃(笑)

なんて思う。
事実そうなのだが。
それは淘汰の本能である。


動物、いや、生物は皆
そうして、良好な種を遺して
生き延びてきたのだ。


ただ、人間社会の善悪を
判断するのは難しいので

一旦、第三者が裁定する事にした、ので
ウソで誤魔化す者が、生き延びてしまう。

それで、今の社会がおかしくなった。


悪い奴はぶっ飛ばしていい。
その為に、強くなければ。

そう思う、まだ若者の心が残る
正義漢、輝彦である。





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「なーにぃ?」と、とぼけた声の友里恵は
眠そうだ。

のんびりと、昼寝でもしていたらしい。

思わず、微笑んでしまう。

「何してるの?」と、尋ねると

おべんきょー、と、のどかな声が帰ってきた。

運転免許試験の為に、学科を勉強しているとの事。

「深町さんが、また、運転を教えてくれるって」と
輝彦の知らない所で、二人が連絡を取っている事に
ちょっと、驚いたが(笑)

でも、深町なら大丈夫だろう。

そう思っていると
「シンパイじゃないの?」と、友里恵が言うので

「どうして?」と聞き返すと


「たいてー男って、そういうこと気にするし。
縛るし。ウゼーってなるもん(笑)」と、砕けた口調の
友里恵に笑ってしまった。

「深町なら大丈夫さ」と、輝彦は返す。


「いいな、親友なんだね」と、柔らかい口調に
戻った友里恵は、楽しそうだ。




そう、かけがえのない存在になっている友里恵。
でも、深町なら大丈夫だ。


愛と、友愛。

互いに持っているから。



ちら、と耳に入ったニュースに
関西の行政庁のある男が「軍隊に従軍慰安婦は
必要、どこの国もやっていた」との発言を聞き

輝彦は怒りに近い不条理を覚えた。

それに、自身、戸惑う。

以前は、感情的になる事は少なかった。

愛する者がいる、守ってあげたい。

そう思うあまり、身勝手な男の言葉を
不快に思うようになった。

好きで慰安婦などする訳がない。

誰だって、幸せに愛されたいのだし
愛する者を守りたいのだ、と思う。


相手が国家だろうと、軍隊だろうと
自分なら絶対に許さないと

そんな事を思うのは、正義感もあるけれど
やはり愛ゆえの事だ。


そして、慰安婦にされてしまった人にも
愛する人がいたのだろう、と思うと

筆舌に尽くし難いと思う
輝彦であった。




それは、妄想にすぎないが
実の所、これまで彼が
特定のパートナーを持たなかったのは
そんな理由もあった。


愛ゆえの行動、それで
自らを失ってしまいそうで危険に思えたのだ。

そうして、一歩引いているうちに
時が経ってしまって。


ただ、友里恵のように
真っ直ぐに愛を求めてくれた人は
あまり見かけなかったし

分別のある大人の女性だと
慎んでしまったりする。
内なる思いは、伝わらなかったり。


それだけに、友里恵も幸運だと思うが
今一つ分からないのは、なぜ
そこまで思いこめるのだろう、と
言うあたり(笑)

若さゆえ、の事だろうか。




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「深町は迎えに来てくれるって?」と、尋ねると

「わかんなーい、でも、そうじゃない?由香も
くるんだろうし」と、友里恵。


バスの運転手も過酷な仕事だろうに。と
輝彦は、深町を案ずる。

ふつうの人間は8時間眠るものだが
バスの運転手は、法令で

最低8時間の休息が、勤務の合間に
あればいい、と言う事になっている。

変な法律だが、これでは
道路交通法にある「過労運転」になるに
決まっている。


これは、路線バスの場合で
観光バスの場合は規制がない。


業界と労働組合の話し合いで決まった
そうである。


おかしな業界だが。それで
よく、バスの事故が起こる。


これも、政治判断のせいで
以前は、普通に人間らしい生活が
送れるようになっていたのを

「規制緩和」で、人権が損なわれているのだ。


そんな中、なぜに深町は
由香や友里恵の世話をするのだろう?

とも思ったが、それは、やはり
年若い者を愛でる心、だろう。




「それで、由香ちゃんは今日、バイト?」と輝彦が
尋ねると


「わかんなーい、でも、そろそろ来るんじゃない?」と
友里恵は楽しそうだ。


賢い子だから、試験勉強にも
楽しみを発見したのかもしれない。




「後で、教習コースに見に行く」と伝えると

「一緒にいこー。」と、友里恵が言うので

それもいいか、と

後でね、と電話を切った。



黒く塗りつぶされた開示資料、道路収受のそれを
解読するために、コンピューターに取り込み

ノクトビジョンで暗い部分を解読すると
数字の桁数くらいは見える。


道路用地として、あの西の森コンビニの
前の部分、収用されたのは
大した面積ではないと思っていたが
意外に大きい数字が入っており、
そこに大きな金額らしき桁数がある。

....おかしい。

ふと思い、公図と比較して見ても
そんなに大きな面積を買ったようには見えない。


面積を水増しして、金額を増やしている。

割と、ある事だ。


土地の収用に反対する人などを
お金で買収するとき、こんな手を使う。

けれども、開示すると都合が悪いから
時々、こんな手を使う。


でも、この土地は
公務員の妻(姓は変わっているが)名義だ。

それが元オーナー、その資金で
西の森コンビニを開店、変死。


呪いといえば、そうかもしれない。

狡猾な手段で、他人のものを
掠めたと言われても、言い返せないだろう。


贖罪の意味で、コンビニを開店した
とすれば、それが間違いだったと
云わざるを得ない。

悪事に手を染めるなら、半端に
善行をすると、命取りになるだろう。


この事例は、それを物語る。
悪い事をすれば、必ず周囲に知れ
他の悪い企みを持つ者が、利益を奪いに来る。

防御を細心にするべきなのだ。


もっとも、悪い事をしなければいいのだが。


丘の上の、教習コースへ午後、行って見ると
深町は、由香と友里恵を連れて

ご丁寧に試験の練習をしてあげていた。


職業少女のふたりは、仕事、というか
目標はきちんとこなす子だから

ドライブレッスンを、ボランティアで
教えてくれる深町を、労っていた。

懸命に練習しているせいなのか

脇目を振らずに、ハンドルを握っていた。

それでも、シトローエン・エクザンティアで
コースのそばに行くと

友里恵は、クラウンのリアシートから
手を振った。



愛くるしい、と云うのだろうか。

屈託のないその笑顔を見ていて
ふと、思う。

この子は、どうして自分を選んだのだろうか?


同年代は幼くてイヤだ、と云うが
それは理解できる。

同年代に限らず、周囲の男どもは
幼稚化しているように見える。



欲しか、動機にならない行動。
友里恵に求愛する男たちは皆

その根底に性的な欲があって近づくので
友里恵はそれを忌避したらしい。


しかし、自分は友里恵のどこに愛を感じたかと
言うと


正直なところ、だろうか。
感情を素直に表して、思いやりのある所は
最近、あまり見かけなくなった人の行動だ。


ふつう、感覚が鋭敏な子は
世の中の刺々しさに
摩滅してしまう。

友里恵はそうでなかった。
けれど、由香と一緒の時は

騒がしい、どこにでもいるJKに
なってしまうので(笑)


それは、たぶん
特別な時間だけ、そうなっているのだろう。


普段の騒がしい友里恵は、あまり
好みではないが(笑)

出逢った時から、二人きりの事が
多いアルバイト環境だったので
そのせいで、かわいらしい所
ばかりを見てきたような、そんな気もするから
それで、真っ直ぐな気持ちをぶつけられると
断れる訳もない。

人間、そういうものだ。


それを愛、と言うのなら
ふつう、言われる恋愛とは
ちょっと違う気もするけれど
でも、大切な人だと
今は思っている輝彦であった。



ただ、素直に感情を露わにする子、は
それが、快い感情な時は良いけれど

そうでない時は、困ってしまったりする。


友里恵の場合も、以前
思い悩んで瞼が腫れるまで
泣きはらした事があった。


感情を抑制するのが下手なのだろう。
かわいい、で済むうちは良いが

そうで無くなると、困っちゃうなぁ(笑)と
輝彦はふと、思ったりしたけど


まあ、時が経てば大人にもなるだろう。
と、楽観していた。


そうなった時、果たして
友里恵の気持ちが誰に向いているか?
は、今案じても仕方ないし

恋が醒めても、ずっと慈しんでいるのも
愛だろう、と輝彦は思った。





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なぜ、深町も輝彦も
由香や、友里恵の免許取得、などと言う
個人の利益の為に
サービス(笑)しているのだろうかと
穿った見方をすれば、そう思われる
かもしれないけれど

それは自然な感情である。
困っている人が居れば、助けてあげるのは
当然なこと、である。

でも、今は、そういう気持ちのゆとりの
ある人が少ないので

親切でした事も、例えば若い女の子への
下心、などと曲解されたりも、する。


でもそれは、何より敏感に
彼女たちが感じ取るので

実際、変な男に引っかかる子は少ないのが
実状である(笑)。

面白いものだ。


「もう、試験のコースを走った方がいいな」と
深町は言う。

仮免許試験は、5つのコースがあり
その日のコースは毎回違うので、当日覚えなくては
ならない。

「うゎー地図ニガテ」と、友里恵は笑う。

「理系ダメだもんね」と、由香。


由香は、意外に理系も得意らしい。
見た目は、あんまり賢くみえない(笑)のになぁと
深町は思っていると、由香が
「あ、今バカにしたでしょ」と言うので

「そんなことないよ」と、深町は内心どきどき(笑)


どうして分かったんだろうか(笑)。


表情や、仕草などで
感情を思慮するのは、これは生物的感覚である。

言葉を持たない頃から、そうして交流を図ってきた。
しかし、言葉で意志を伝えるようになると

言葉に頼ってしまって、その機能は少し
退化してしまったようで

比喩されるように、男の方がやや理屈っぽいので
感覚分野は、女子の方が優れているのだろう。

由香や友里恵は、多感な時期でもある。
年齢と共に、先入観が増えるので
感じ取ろうとしなくなる傾向からも

今の由香は、とーっても鋭い(笑)のだろう。
それが、深町への恋なのかどうか、は
由香自身にも分からない(笑)

そんなものだし、定義する必要もない。

楽しくすごしてゆけるなら。





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恋は、心の琴線に触れたものが
奏でるミュージック、である。


それを制約するのは、社会の仕組みとして
家族を単位としているから、である。

日本では、一夫一婦制で
税金を徴収するから(笑)と言う理由で

ワン・ペア以外は違法となっているだけ、だし
フランスでは同性婚も認められているし
一夫多妻の国もある。


社会制度の仕組みに、婚姻が利用されている
だけの事だから


楽しく過ごすだけの関係に、規制は無用である。



そうは言っても、親が心配するのは
争い、つまり金銭や遺恨になるから、と言う理由である。


つまり、面倒を避けたいと言う処世術である。


ただ、失敗を怖れて何もせず、無難な人生を送るのは
死ぬ為に生きているようなもの、である。

生きること。


何の為に生きるのか?


生物学的な理由ではなく、人として
生きている、かけがえの無い時間、
限られた時間の中で、多くの喜びに触れ
その気持ちで、社会をより、良いものにするのも

生きる、と言う行為である。


その事を忘れ、損得だとか、勝負だとか
そういうものに拘泥する人生は、人間らしい人生
とは言えず
生物的な人生であると言える。




今、扱っている事件についても
漠然とそんな印象を持つ、輝彦たちであった。


処世術に明け暮れ、人としての喜びを
蔑ろにした結果、不幸を呼んだのだろう。


捜査を進めるに連れ、空虚に思えてくる。



すこし、休もうかと言って

深町は、教習車(笑)の自分のクラウンを
輝彦の待つ、コース脇に停めた。

もとより、他に人もいない。


「貸し切りコースってゼータクぅ」と、由香。

「うん、便利かも、ありがとうございます、深町さん」と
友里恵は、ちゃんと大人の挨拶も出来る子(笑)


それは由香もそうだし、他のみんなもそうだと
思う。


ただ、なんとなく、照れがあって
露悪的に振る舞っているだけ、だ。


少年期は、みんなそうである。


友里恵や由香が、ふつうの顔に戻れるのは
深町や輝彦を親しくしているから
なのだろう。


「遅かったねー」と、友里恵が笑う。
「迎えに来てって言ったのにぃ」とも。


「深町が来てくれたじゃん」と、輝彦もわざと
雑にしゃべる(笑)、すると由香が

「深町さんはぁ、アタシを迎えに来たの」(笑)


当人は、笑って黙っていた。



「うん、捜査の続きしてたんだ」と、輝彦が言うと

どーなったの?と
ふたりして聞くので


経過を話した。


「やっぱり役所ぐるみで、西の森コンビニの
土地を、おじいさんから取り上げたみたいだね。
まあ、行政にしてみれば
元々ただであげた土地だろうけど」


と、輝彦が言う。すると、由香は


「ひどいねそれ。」と、すこし怒り気味。



「それが、オーナーの死の遠因。だけど
直接の原因は、虐められたせいなんじゃないかな」と
輝彦が言う。



「ダンナは何してたの?役所勤めでしょ?」と、友里恵。
口調が怖い(笑)。



「ダンナには会ってないけど、もともと夫婦仲も
良くなかったみたいだから、子供の為に
離婚しなかった、って感じなんじゃない?
だから、妻の悩みにも鈍感」と、輝彦。


「やだな、そんなの」と、由香。

「でも、あるんだよ」と、友里恵。



そういう例は多い。
恋はいつか醒めるものだし、その後
愛し続けられるか、は未知数だ。

お互いの生き方がまず、合ってないと。

お店を始めたい、奥さんと
公務員のダンナ。

公務員、神経が痛む仕事だから
本当は奥さんに家事をしっかりして欲しかった、
なんてところじゃないかな、と
輝彦は思う。


それで、お店を始めたら
赤道の住人グループの虐めの標的になって


奥さんが困窮しても、助けてやらなかったご主人も
冷酷、と表面では思える。


そこに、大学生の男の子が近づいた。
たぶん、それも罠。


心の隙間に入り込まれた、と言う事だろう。



それが、ダンナに知れて
ますます険悪になった夫婦仲。



「なんか、イヤだね」と、由香。

「うん」と、友里恵。


どうして、なんのために?と
ふたりは思う。


そう、普通に暮らしていれば良かったのに。

金銭欲、名誉欲。
そんなもので、人生を狂わせてしまった。



「でも、肝心なところが抜けてるな」深町。



「なんだ、居たのか」(笑)と輝彦。

うるさい、と(笑)深町

「死の理由が何もわかってない」


-----------------
「理由って、自殺かどうか?」と、輝彦が聞く。

深町は頷く「なんで、深夜の片野駅に行かなくちゃ
なんなかったのかな」と、言いながら。


「たぶん、彼氏と一緒だったんだろうけど
何かがあって。
それで、彼氏は心を痛めてしまった。
詐病でなければ、よほど衝撃的な事が
あったんだろうね」と、輝彦。


「でも、イジメグループと接点あったんだろ、彼」と
深町。

「うん」と、輝彦。


「それなら、共犯だったかもしれないな」と、深町が言うと


「でも、悪い人っぽくなかったけど」と、由香。


深町は、そうか、と相づちし
「割とそういう勘って、当たるんだよな」と
輝彦の同意を求めた。

輝彦も頷き
「深夜の駅にひとりで行くのも
不思議だけど、ふたりで行く理由もないね。
なぜか、ホームに行って。
そこから転落して、列車には当たらないで
運悪く死んだ、と。
なぜか彼氏は、自分の家に戻っていて
呆然自失だった。
詐病でなければね。」



-----------------
全般的に、幼くなっている日本の社会、でも
なかには、由香や友里恵のように
職業を持って自立しようと言う意志のある
若者もいる。

そうでない子もいるが、それは環境の違いで

ひとそれぞれ、と言う事で
人間が知能が高い証しである。


その知能を、人を欺く為に使うのも
それぞれ。

それは、生まれ育った環境のせいで

欺く事を好むように育った人と
そうでない人と。


それだけの違いである。


友里恵は、あまり前オーナーを
好きではなかったらしく
死んでしまった理由には、あまり興味を示さない。

たぶん、前オーナーは
割と、狡い部分があったのだろう。

そういうところに、悪い人が
付け込んでくる、そういうものだ。


由香も、あまり悲しんでいる雰囲気でもない。

もっとも、夫が居て大学生と恋愛する女に
共感を持てる少女は希有だろう。



「でもまあ、調べてみるとしたら
オーナーの夫と、大学生の恋人だろうな」と
深町は言った。


意図する所は輝彦にも分かる。


ふたりの男、何れかが
支えになっていれば
死は避けられたと思える。



「由香ちゃん、事件のあった日って
お天気、どうだった?」と、輝彦は尋ねた。


「んー、忘れた」と、笑っている由香。
たぶん、その程度の存在でしかないのだろう。
そのオーナー、と言うのは。



-----------------
人間は、いや動物でも

まわりを、ありのままに理解してはいない。


目で見ているつもり、でも

視神経が伝えて、脳、でイメージしてるだけ。

耳も、そうで

例えば年を取れば、聞こえない音もある。

指で触れるものは、割とリアルだけれど。



例えば電波は見えないし、感じられない。
放射能も。


最も厄介なのは、そのいい加減な認識で

先を予測する、希望を持つ。


それが、欲とか言われたり。


いろんな人が居る、それぞれ希望がある。



事実に即して生きれば、問題はない。


そうでないとき、争ったりして

それが幼い、と言われる。



時々、誰か死んだりして。


でも、それも淘汰だ。



そこまで理知的な訳ではない、友里恵や由香にしても
感覚的に、淘汰、と言う実感が
あったのだろう。

女同士は、結局共同体的なつながりなので
友情で結ばれていない限り、淘汰される者を
身を挺して救ったりはしない。

それは、子を宿し育てる者としての
記憶が、行動形態として遺伝される為である。


男は、そうでもなく
例えば戦争の敵兵であっても
無闇に殺したりはしなかった。

それは過去の、男らしい男の話ではあり
今はそうでない男も多い。

たとえば、イジメをするような男も、居る。

そういう男が、世の中をダメにするのだ。

友里恵にセクハラした教師や
公務員の立場を利用して、西の森コンビニの
土地を搾取した連中。

そういう者を、淘汰しなくてはいけない。


男の仕事、である。




だが、それは昔の男である。

今の男の多くは、利己的だ。
だから、他人の娘である13歳の少女に
教師がセクハラしたりする。

昔だったら、撲殺されていたところだが。
そんな男は、淘汰すべきなのだ。


ただ、輝彦は
法律的に、淘汰しようとしている。
国家にのみ許される執行力を用いて。


-----------------
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「ま、それはそれとして」深町は
気持ちの切り替えが上手だ。


そうでないと、バスの運転などは
勤まらないのだろう。

いろいろな人が乗ってくる。
不条理な事もある。


そんな時、気持ちを引きずるタイプは
安全に集中できず、事故を起こしたりするのだと
聞く。


「そろそろ、試験受けてみたら、仮免許」

そう深町が言うと、由香は「えぇー、まだちょっと」


友里恵は「そうね、でも試しに受けてもいいかも」と。


それぞれ、表現は違うけど

まだ少し、自信ないらしい。


「そっか、じゃコース練習すれば」と
深町が示したコース図。


由香はしげしげ、と
眺めていた。

友里恵は、うむむ、と真剣そう。
「地図、ニガテだっけ」と輝彦。


友里恵は、うんうん、と頷く。

「どっち向いてるかわかんないもん」



そういえば、友里恵の新しい職場?を
初めて紹介した時に

地図を書いてあったのに、まったく
見当が付かない、って

そういうので、結局
輝彦が店まで連れて行った。

そんな事があった。


でも由香の方が学科試験が得意かと言うと
そんな事もない。


ひとそれぞれ、いろいろ得意な事は違う。


不得手な所を庇い合っていくのが友達だろうし
社会だ。


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「コース練習って?」と、友里恵が尋ねる。

深町は、にこにこしながら「その、地図に沿って
自分で運転するんだよ」


えーできなぁい、むり、と

友里恵と由香は、同じような事をコーラス(笑)


「地図見てても難しいと思うから、行き先別にね。
ほら、まがったら次は踏切ー坂道、とか。
運転してるつもりで、映像をイメージすれば。」と、深町。


「コースはどうするの?」と、由香。


「それは、試験場に行って走らせて貰えば。車持って行けばお金もかからないし。」と、深町。


「それでも難しいよねー」と、友里恵は
地図が本当にニガテらしい。


「じゃあ、とりあえず予行だね。走り出したら、
ぐるっと回って、クランクに入って。踏切、s字、坂道。
そんなふうにイベント順を覚えてね、それで
イベントの位置を覚える。そうして、場所を覚えていくんだ」と
深町は、指導員らしく簡単に説明した。



「それが、難しいんだよねー。」と、由香が助けると

友里恵は「アンタは地図、だいじょぶだけどさ」と
難しい顔。

由香「じゃ、地図慣れよ?あたしは学科がんばる。」


友達だもんね。と、由香と友里恵は
ほほえみあった。



「よし、そんじゃ試験場を見に行こう。見るのはただだし。」


と、深町はふたりを促し、試験場へ。


輝彦も、自分のシトロエンで随行する事にした。



なんで、そんな一銭にもならないことを、と
よく言われるけれど

でも、助け合うってのはひとの基本だ。

穿った見方をすると、若い女の子だから
下心を持って近づいていると、そう見られるかも
しれない。
けど、そういう想像をする奴がおかしいのだ。




なんとなく、輝彦が
この、コンビニ殺人の捜査に
いまひとつノリが悪いのは、そういうせいもあった。


被害者、と言うか死んだ人を
直接知らないし、不正な事をして
お金儲けをした人、のように思えてきたから、で


警察が今一つ不真面目に思えたのも
そんな理由があったのかもしれない。


結果として行政ぐるみで起こってしまった
長い歴史のある、私的財産と公共財の境界紛争
は、どこの町でもある話だ。

それでも、昔だったら
とりあえず公務員が、私財を収用して
それを私的財産にする、なんて事は
無かった。

そんな事をしなくても、安穏と定年まで勤めれば
老後は安泰だったから、である。


それは、普通の会社員でも同じだったので
7割の人が、そういう生き方を選んでいたが

いつのまにか、その生き方は国家によって
否定され、そのお金を狙って
内外のギャンブラーが群がるようになった。

それは、アメリカの意志だったので
国家が断れなかった。

それ以降、頑張っても報われない社会になった。

頑張ったぶん、株主という外国のギャンブラーに
持って行かれるようになったので

ウソをついて誤魔化す世の中になった。

そうしないと、ギャンブラーにお金を取られるから、である。


だから、西の森コンビニのオーナーも
ウソをついて金儲けをした。

それを妬んだ者が、悪い事をして
その金を盗もうとした。


悪いもの同士が騙し合いをしている。
そんなのはどうでもいいように思えた。

でも、元を辿ると原因は
日本のお金を掠めとろうとする外国資本から
日本を守らない国家、である。

というより、政治家たちが
そういうギャンブラーとグルなのだ。


それで、輝彦は
この事件の捜査にあんまり、気が乗らなかった。
深町はそれでも、決着をつけたいと考えた。

親友でも、いろいろ考え方はある。
違っていても友達、だ。
「ええぇぇー」って、友里恵は
コース図が覚えられなくて、頭抱えてる(笑)


「そー、めんどいけど。空から見たつもりでさ」と
由香は案外冷静。

普段と反対みたい(笑)。

「でも、地図だめってなんかかわいいかも」と
輝彦が言うと

「あ、そーいう事言うとちょーしに乗るから、ゆりは。
これ、覚えないと試験受けられないよ」と、由香は
おねーさん口調。

でも、友達ってほんとにいいなぁ、と
深町も微笑む。

「それじゃさ、ちょっと走ってみれば分かるよ」と、
深町は、試験が終わってしまったコースの
裏側から、車をコースに入れようとした。

「あ、でも。叱られないかな」と、友里恵が気付く。


大丈夫、と輝彦が促す。

さっき、輝彦のお兄さんから電話してもらったので(笑)
コースは借りられる。


と言っても、お忍びなので
他の人と一緒だけど。


その事を知ってるのは深町だけだ。


友里恵も由香も、輝彦のお兄さんが
警察の偉い人、とは知らない。


そんな人が、コンビニでバイトなんて
するわけないから(笑)わかるはずもない。

なので、友里恵がお金や地位目当てで
輝彦に近づいた訳ではない事は分かる。

恋に悩み、
瞼が腫れるまで泣きはらした少女が
もとよりそんな人でない事は明らか、なのだけど。






自分のシトローエンを、コースには入れず
輝彦は、試験場から
のんびりと、彼女たちのドライブを俯瞰していた。

コース図を見比べて、次はどこへ向かうのかな、と
走っている場所から、行く手を探る。


コース全体をイメージできれば、どうって事はない。
郵便配達のアルバイトをした時に、そう思った。

よく知っている町なら、自分の居場所が
町のどこで、進む先も分かるから
簡単だけど、把握できないと
向かう先もわからない。

そんなもんだ。


生きて行くのも、それに似ているかもしれない。


今、進む先がどこにあるか分かれば
困らない。


昔ふうの社会は、進む先が決まっていたので
しきたりに従っていれば、困る事は無かった。

なので、友里恵たちを不憫に思う。
そんな社会で生きていく、明るくしている
彼女たちを愛おしい、と思う。


助けてあげたいと思う。
純粋にそれだけだったけれど
いまは、友里恵は愛する存在、だ。

でも、それは友里恵の望みでもあったから
そうしたのだ。


「深町はどーなんだろ」と、輝彦は気楽に
構えていた。

友里恵の友達、由香は
なんとなく深町に、愛らしいそぶりを
見せていて
それはかわいらしい事だけど。
「楽しく、過ごせるといいなぁ」
と、輝彦は思った。






一方の、友里恵たちは
慣れないコースの運転に戸惑っていた。

「広すぎるよね」
「どっちへ行けばいいの」
「んー、わかんなぁい」


と、にぎやかにパニック(笑)していたけれど

「適当に走るより、コース図に沿って行った方が
覚えるよ」との深町のアドバイスを受けた、でも


「コース図がわかんないもん」との友里恵の言葉に


少し、あちこち走ってみるといいと
深町。


それなので、坂道発進をしてみたり、
車庫入れをしてみたり。


坂道で、ちょっと由香が失敗気味なので


「落ち着いてすれば大丈夫」と、深町は
練習の時を思い出させた。


サイドブレーキを引いておけば、後ろには行かないから、
クラッチをつないでいって。
車体に、ぐっ、と力が加わったら
ブレーキを静かに放す。


けっこう難しいらしく、練習では何度も
失敗した。


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