関東電力殺人事件

深町珠

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250 推理

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「でも、北口にふたりで来たとしても、下りホームね、南側の。
そっちに降りても不自然じゃないね。」と、友里恵。

そうだね、と輝彦は考えた。

ふたりだと、違った視点でモノを見られるから面白い。

それに、友里恵はちょっと個性的なので(笑)。


「それで、なんかの拍子にホーム下に転げた。
ふざけて追いかけごっこしてたとか。」と、友里恵は想像するけど
また、自分だったら視点(笑)
40女がそんなことするかなぁ、と輝彦は思ったけど
それも、33男の発想かもしれない。

大学生の若い男の子とはしゃいでいると、心が若返るのかもしれない。
実際、輝彦自身が友里恵と居ると、18歳に戻ったような気になってしまう。

「ぜーんぜん、おじさんっぽくないよぉ。クラスの子より、若いもん。自由だし」と
友里恵はそう言う(笑)のだけれど。



「それで、落っこちた拍子に動かなくなったオーナーを見て
恋人の大学生は怖くなって、逃げた。
あるいは軽いケンカしてて、揉めて落ちたのかな...と、それだと事故だね。」と
輝彦。

それなら、翌日警官に遭遇し、気が動転していたのも道理....だけれども。
警察はそれを殺人容疑とせず、鉄道会社も事故にしなかった。

当日の新聞を調べると、自殺との表現はない。
周囲への配慮であろうか、「片野駅付近での事故」としか。
名前も出されていなかった。

「でも、だんなさんも冷たいね」と、友里恵。
だって、奥さんが死んだってのに、事務的っていうか。と、続け

「ねえ、あたしが死んだら、泣いてくれる?」なんて
かわいいことを言うので、輝彦は笑って

「キミが先に死ぬ筈ないんじゃないかなぁ。だいたい、僕の方が年上なんだし。16年も」と
輝彦は気になってる事を言うと

「もしものハナシよ、も・し・も」と、友里恵は楽しそうだ。


「そうだなぁ...それは悲しいかな。泣いちゃうかもな。」と、輝彦は、にこにこしながら。

「ホント?」と友里恵は、にっこり。

「うん。だって、まだ、ちっちゃいまんまだし....。」と、輝彦が言うと

友里恵は、耳まで赤くなって、輝彦の腕をひっぱたいた「バカ。気にしてるのにー。バカバカ。」

と?
なんのこと、って、輝彦が尋ねる。

「...まだね、これから大きくなるんだもん。好きな人に触れてもらえばね....。」って
俯いて。


?、輝彦は「ああ、おっぱいか」と、言ったので


「バカバカ、ほんとにもぅ、ばかーーーー!」と、駆け出してホームの端へ
制服のまんまなので、どう見ても変な親子か兄妹か(笑)


さわってないじゃん、まだ(笑)

と、輝彦は言いながら

「おーい、転ぶとあぶないよー。」と、ホームの端っこまで掛けていった友里恵を追いかけた。

「あぶない!」
転びそうになった友里恵を、寸でのところで輝彦は抱きとめた。

小柄で軽い友里恵だから、軽く抑えられた。
普段はきなれないスカートだし、革の靴だから、と
友里恵はちょっと恥ずかしそう。でも、
輝彦の腕の中で「もうちょっと、こーしててぇ」なんて甘えてる(笑)。

「危ないJK愛人みたいじゃん」と、輝彦はわざと軽く。若者ことばで。

「んー、でもあたしたちはコイビトだもーん。フィアンセだし。もう18歳だからタイホされないもーん」(笑)友里恵。

「でも、ちっちゃなキミはひょっとすると中学生に間違えられたりして(笑)」と、輝彦が言うと

抱きついていた腕に噛み付く振りをして、友里恵(笑)

女バンパイヤかい(笑)。

「あ、でも。こんな感じでじゃれてて落ちたのかなぁ。ホーム下。」」と、友里恵は言う。

確かに、友里恵だったから支えられたけど。
大柄40女(笑)では、痩せぎすの文学青年(笑)では支えられずに転落。

レールで頭打って、絶命。

怖くなって逃げた。

そんな推理も成り立つ。

その場合、保護責任遺棄罪、が成立するかどうかだけど
まあ、年少の大学生だし。....。



「でも、コイビトが怪我したら、ふつー助けるよ。」と、友里恵。


「ケンカしてた後、で、例えばもう愛が冷めてた、なんて事だったら
関わりを恐れて逃げた....とか。だって、不倫だし。不貞罪ってあるんだよ、今でも」

ふーん、と、友里恵はうなづく。「フテイザイって、罪重い?」

「大学生の方は、そうでもないだろうね。でも、だんなさんが訴えなければ、なんでもないよ。
浮気なんて、いっぱいあるじゃない。」と、輝彦は言う。


「アナタ、浮気しないでね」と、友里恵は、輝彦の腕にまだ頬をもたれたまま、甘えて。


「僕は、別に。だいたい、あんまり女の人に積極的だったこと、ってないんだ」と、輝彦が言うと



「そーいえば、アタシの時もそんな感じだったかなー。あ、でも、それじゃ過去にいっぱい
がーるふれんどが居たとか?」と、友里恵はすぐに自分のハナシになる(笑)


「フレンドって言うか、お友達はいっぱいできるけど。取材とかで。でもそれっきりだね、ふつう。」
と、輝彦は正直に。


「そっか、それなら許してあげる。これからはウワキなし!」、と、友里恵はぱっ、と離れてジャンプ。

コンクリートのホームに、革靴が当たって硬い音を出した。
意外に響くのは、ホームも、防音壁も音を反射する材質だから。


そんな会話も筒抜けか(笑)


「音がこんなに反射するなら、
もしブレーキ音があれば、交番でも聞こえるだろうし。
ふたりで、駅のホームで喧嘩してたりしたら
南口のタクシープールとか、交番とか。
誰か声を聞きそうだね。」と、輝彦。

「黙ってケンカって、フツーないもんね。
コーネンキの夫婦ならともかく」と、友里恵は
おばさんキャラっぽい(笑)。

そういう事言うと、母上そっくり。と、輝彦は
友里恵の背後霊のように、母上の幻影を見て
ちょっと、どっきり。

「どーしたのぉ。」と、にこにこ、ふんにゃりしている
友里恵。

「....あ、ちょっと、キミの背後霊に母上が...。」


「おもしろ怖ーい。」と、友里恵はきゃはは、と笑う。

「それ、流行ってるの?おもしろ怖いって」と
輝彦が言うと

「いま、考えたの。」と、友里恵は、まだ笑いながら。


「でも、背後霊はともかく、呪いかどうかはわかんないね。
今のところ。」

と、友里恵は変な子(笑)。



「ま、たぶん事故かなぁ。その大学生が
お化け見た、とか言うならともかく。
病気直ったら、警察が調べるだろうけど」と、輝彦は冷静に。



「とりあえず、おまわりさんに聞いてみよっか、交番の。
タクシーの運転手さんとか」と、友里恵が言うので
輝彦も続く。

あんまり、教えてくれそうにないけど....と。輝彦。
警察でもないのに、なぜ聞くとか、いろいろ言われるのだ。



友里恵は、ぱたぱた、と交番に駆けて行き、お巡りさんにいろいろ聞いていた。

お巡りさんもにこにこと、いろいろ答えていた。

それから、タクシープールの運転手さんたち。


意外な展開に、呆気に取られる輝彦だったが
どうやら、若い女の子にはお巡りさんも弱いらしい(笑)

聞いてきたよー、と、友里恵が走ってきた。
歩いてもいいんだけど、やっぱりそこが
若いのかなぁ、って
輝彦はおっさん風の感想(笑)

「電車の音がうるさいから、普段から気にならないんだって。音。
それで、その日もね。寝ちゃってて
分からなかったけど。ブレーキの音は
聞こえなかったみたいだって。」

それは、警察も把握しているだろう。


「それでね、タクシーの運転手さんもね、夜は2時半頃
帰っちゃうんだって。電車来ないのに駅に居ても
仕事ないから、だって。」

そうすると、事件があった頃は
ここには人目もなく、事件性は低い。

そう警察も判断したんだろうと輝彦は思った。


「でもね、もし、もしよ。
恋人が死んじゃって、怖くなって逃げて。
ショックで心を病んだのに、自動車運転して帰れたって
変よね。」



そうか、と
輝彦は感心した。友里恵の捜査勘はすごい。

「さすが、加賀野刑事」(笑)とほめると

へへー、と、友里恵は舌をちょこっと出して。
子犬みたいだ。(笑)

「刑事になろーかな」なんて、気軽な友里恵である。

試験受ける?って輝彦は言うと


「しけんかー、べんきょーやだー」(笑)と
転げる友里恵。

ペットの学校は無試験なんだろうか(笑)



「ペット・スクールって勉強しないの?」と聞くと
友里恵は

「そーなんだよねー。それがナやみ。」って
変なイントネーション(笑)


トリミング、まあ、犬猫の床屋さんの他に
ペットの看護師資格も取れるらしい。

「でもまあ、ふつうに高校卒業したなら
大丈夫だろうけど」と、輝彦が言うと

「そーだよね。だいじょうぶだよ、たぶん。
あ、でも」と、友里恵は真面目な顔で

「奥さんがバカだと困る?」って(笑)


...奥さんねぇ(笑)。


「まあ、読み書きソロバン程度でいいんじゃない」って
輝彦が言うと


うわーソロバンだめだーーー(笑)と
頭抱える友里恵。


ホントにおかしな子(笑)。


大丈夫大丈夫、電卓で。と輝彦が言うと

「あ、それなら出来るよー、バイトでもしてたし。」と
にこにこ友里恵。


おなかすいちゃったー、なんか食べにいこー、って
にこにこされると、なんか楽しい輝彦である。

でも、これってデートなのかな(笑)。
一度もデートしてなくて、フィアンセだとか
奥さんだとか。

おもしろい子だ(笑)。



何食べたい?って聞くと
「パスタ好きー」って、元気な声が帰ってきて。
伸び伸びとしてて、愛らしいなぁと

輝彦も楽しい。

そっか、それじゃあ、どっかお気に入りのお店ある?って
尋ねると

「どこでもいーよ、おいしいとこ。」って友里恵が言うので
輝彦は、学生時代から時々行っている
地下室のカフェへ。

白壁で、煉瓦の床で。
柿渋の大きなテーブルがあって。

グランドピアノが置いてあって。
時々、ジャズを演奏したり。

そういうところ。


町のほうの、問屋街の裏手だった。


そこまで、シトロエンを運転して行く道すがら
自動車学校の前を通る。


「免許とりたいなー」って、また、友里恵。

「お金ないならさ、試験受けてみれば、免許の。」と
輝彦が言うと


「えーー、無理ーぃ。頭悪いもん」(笑)


そんなことないよ、と輝彦は
「捜査で結構鋭い指摘、できるんだもの。
頭は悪くないよ。学校の勉強はさ、楽しく
教えないんだもん」と、友里恵口調で輝彦。


そうそう、って友里恵はいい(笑)
「なんかさー、難しく言うんだよね、わざと」

輝彦は笑顔で頷き「そう、大事なのは
理解する事。簡単に教えればいいのにね。
さっきのね、物理の運動式だってね、
v2=v1+atとか言うけど、例えば
ボール投げるとする。
手から離れた時の早さと、投げた先の早さが
飛んでる間の時間と、加速度を掛けたものだ、って言ってるんだけど。当たり前で。」

「どう、当たり前なの?」と、友里恵は思案顔。
考えてる時は、子犬みたいにかわいい(笑)。


「加速度、って時間あたりの速度差だから。
この話だと、ボール投げた時刻と、届いた先の時刻、
何秒か。それで、ボールの速度差、最初から
最後までのね、それを割ってるの。」

だから、 最後の速度=最初の速度+加速度×時間
なの。

加速度=最後の速度ー最初の速度÷時間
だから。


と、輝彦が言うと。


「同じ事を言ってるだけみたい」と、友里恵。


「そうそう。この式で、どこか足りない所を調べる
時に計算するの」と、輝彦は簡単に言う。

たとえば、2階から黒板消しを落として、
下歩いてる誰かさんにぶつけるためにはー、と言うと


友里恵は楽しそうに笑う。

「物理っておもしろいんだね」と。


「捜査がおもしろい、って人ならね」と輝彦が言うと

「あなたが先生だったら良かったのに」と、友里恵は
にこにこして、でも、なんとなくノスタルジックに。


学校、不登校だった事、残念だったね。
そう思った輝彦だった。でも、言わない方がいいかな、
いま、しあわせなら。





たのしく学習しながら(笑)
ふたりは、カフェに。
シトロエンを、店の前にパーキングして。

木格子のドアは、開け放たれている。
黒板みたいな看板が、頭上に。
優雅な筆記文字で、cafe rulie と。

「るぅりぃ...?」と書いてあるのかな、と、友里恵は首を傾げて。
長い髪と細い首、ちいさい頭。小鳥みたいにかわいいな、と
輝彦は思う。

「うん、そうも読めるね。フランス読みなら。ローマ字だと瑠璃恵、かな」

と、輝彦は楽しそうに。

「あたしと似てるねー。」(笑)と、元気な友里恵は
弾むように、レンガの階段を下りていく。
正面に、ちいさいテーブルがあって。

右手にグランドピアノ
奥にキッチン、その手前にテーブル。

趣のあるジャズ・クラブっぽいけれど
今は生演奏はあんまりしていない。

代わりに、奥にあるステレオで
レコードを掛けている。

「わぁ、ステキ!」って、友里恵は
グランドピアノの傍へ。



奥から、いらっしゃい、と顔を出したのは
由布子。

時々店に出ているひと、だけれども
本業は英語の翻訳、とかをしているらしい。
すっきり日本的美人で、ストレートの黒髪は、ミディアム。
無地のさっぱりとした服が好きらしい。

「ひさしぶり」と、輝彦が言うと

「元気にしてらした?」と言う由布子。

輝彦よりちょっと、年上に見える。


「あ、この子はね、バイト仲間だった...友里恵ちゃん。、こちらは、沢口由布子さん...だっけ(笑)」と

紹介するあたり、お店に来た、って言うか

旧いお友達のところに来た、感じ。


「はじめまして。加賀野、友里恵です。さっき卒業式でした。」と
制服のままじゃなくて、おしゃれして来たかったなー、と
お店の白壁を見回して(笑)


かわいいのね、友里恵ちゃん。、と由布子が言うと

友里恵はエヘ、と、舌を出した。


「また、今度は随分かわいいガールフレンドね。」と由布子が言うと

誰も客がいないことをいい事に、グランドピアノを適当に弾いていた、友里恵は
「フィアンセでーす。」なんて、にこにこして言うので、由布子は

「ほんとにかわいいのね。」と、にこにこ。

どういう事か、だいたい理解したようで
旧い友達は有難いと輝彦は思った。(笑)





「そんなに古いお友達、なの?」
友里恵は、スパゲティ・カルボナーラを
頂きながら

由布子と、楽しくおしゃべり。


「そう!だいたい、そうね。わたしが
友里恵ちゃんくらいの頃からかな。」


そーなんだ、と、楽しそうな友里恵。

ふたりが和やかなのを見ながら
輝彦は、プレーン・オムレットと
エスプレッソ。

ここの名物だ。

「じゃあ、おふたりは恋人だったとか?」と
友里恵は、もちろん冗談で。

由布子は、笑顔で「そんな事ないのよ。」とかぶりを振った。


そう、長い年月。いろいろあったけど
それはなかったな。と

不思議な感慨を輝彦は憶えた。

「あ、でも。時々かわいい女の子つれて。
やっぱりかわいい子が好きなのねって、思ったけど」と
由布子は、いたずらっぽく。

「浮気はダメです、旦那様。」と、友里恵は
時代劇みたいな口調で(笑)。

「あら、ヤキモチしないの?」由布子は楽しそう。


「だってぇ、フィアンセだもーん。それに、
アタシと出会う前じゃ、仕方ないよ。年上だし」
友里恵は、どこまで本気なんだか分からない(笑)。


「あっさりしてるのね、わたしだったら
過去にまでヤキモチ焼いちゃう」と、由布子も楽しそう。


輝彦は、ピアノの鍵盤に触れて。

<a href="http://www.youtube.com/watch?v=JC86jK0Qnto">I got rhythm</a> のコードで
別のメロディを弾いたりした。


「知らないメロディ...だけど。懐かしいような」と
友里恵はおしゃべり途中で
ピアノのそばに来た。


「うん、古い曲をイメージして。ほら、お料理で。
サンドイッチに目玉焼きくっつけたら、クロックムッシュ、
みたいな。そういう感じ」と、輝彦が言うと

「ジャズだ。」と、友里恵。

「そうそう。ジャズってもともと『おしゃべり』って意味だもん」と、輝彦。

そっかー、あたしも弾きたいな、ちっちゃい時習ってたけど。

と、友里恵が言うので輝彦は<a href="http://www.youtube.com/watch?v=eEkMwotUuic">、one note sambaの</a>
右手を弾いて、友里恵に促した。

自分は左手のフレーズを展開して。

88鍵盤の、真ん中を輝彦、高い音を友里恵。
そうして遊んでいた(笑)。

客のこない店だ。


と...
いきなり、低い音が、コンサート・グランドピアノの
低音弦で加わった。

輝彦がにっこり笑う。

そのベースは、友里恵のメロディと似たラインを
辿りながら
半音ずつ、ずりさがりながら
ベースの音を奏でて。


友里恵が、見上げる。


彼は、輝彦と似たような
優しい風貌で、しかし髪はナチュラルスタイル。
細面で長身。
ブルージーンズは、無骨なリーバイスの
16オンス、502XXだ。

あっさりと、構わない感じは
どこか、武芸的な雰囲気もある....と
友里恵は、それを一瞬で観察した(笑)。

曲が終わる。

由布子は、ちいさく拍手。

「ああ、彼は深町。古い友人でね。元、ミュージシャン。
だけど仕事にあぶれて今は、フリーター。バスドライバー
をしてたりね」と、お茶目に輝彦。


この子は、と輝彦が言おうとすると

「すてきな演奏ありがとうございます、加賀野 友里恵、
輝彦さんのフィアンセでーす」(笑)と、言うと

相変わらずだな深見、と、深町。

相変わらずってなんだよ、と輝彦はいいながら
「ああ、深町はね友里恵ちゃん、こう見えても
もう41歳なんだよ」と、輝彦。

ぜんぜん、そうは見えない。

むしろ輝彦より若くみえるくらい(笑)

「びっくりだー」と、言う友里恵の口調が
おもしろくて。

みんな、和やかに笑った。



「そうだ。友里恵ちゃんはさ、でっかい車運転したいんだよね」と、輝彦。

うんうん、と、友里恵。


「ああ、じゃバス運転してみる?」と、深町。


むりですー、って友里恵が手を振る。

みんな、楽しそうに笑った。

「免許まだだもん」って友里恵が言うと

「バス会社の隣、教習所だから。朝早くとかだったら
練習させてくれるよ。それで、試験場行けば」と、深町。

簡単そうに言う、気楽な人らしい。
友里恵は、なんとなく輝彦と似てる、と
思った。


「でも、みなさんスゴいですー。楽器が
上手だったり、お料理が上手だったり。
なんか、魔法みたい。」と、友里恵。

深町は、にっこり笑顔で
「うん、年を取ってるから」(笑)と言うと
「深町は特にな」と、輝彦。

うるさい、と(笑)深町は笑いながら
「友里恵ちゃんの年に、僕はあんなに素直な
メロディは弾けなかった。それは。やっぱり
友里恵ちゃんの天性さ」と、深町は
ミュージシャンらしく、言い回しが個性的。

そーかなぁ、えへ、と友里恵も嬉しそう。

「ほんとだよ、天性ってあるのさ。
ひとりひとり、みんな向いてるジャンルが。
それを、上手く見つけて、みんなが
喜ぶ形で世に問えば、うまく行けば
ヒットする。ヒットし続けるのは難しい」

と、元ミュージシャンらしく彼は
おもしろい発想をした。

友里恵は興味を持ったらしく
「アタシ、何ができるんだろ」と。


それを、探していけばいいのさ。

深町はそう言い、レモン・ロックをひと飲み。


「さ、遅くなると、おうちのひと、心配するから」と、輝彦が言うと

「なんだ、フィアンセって言うから
もう一緒に住んでるのかな、と思ったけど」深町。

「おまえと一緒にするな」って、輝彦。


「あのー、ひとつ質問ですー」友里恵。

なに?と、深町。

「どーして、輝彦さんと深町さんって
年がいっぱい離れてて、兄弟みたいに
話せるんですか」と、素朴に。

「友里恵ちゃんだって、輝彦と16歳離れてるのに
フィアンセなんだろ?」と、深町はからかう。

「あ、は、はい。」と、言いながら
男の人に言われると恥ずかしいのか
友里恵は頬赤らめて、肩すぼめた。

おとなしくしてるとかわいいんだけど、と、輝彦。


「あーひどー、おとなしーじゃない、いつだって!」と
友里恵はいつもの口調になる(笑)



「ほら、それと同じさ。気心知れるってそういう事。」
と、深町は鷹揚に。

「年の差なんて気になんないさ」

深町なりに、友里恵にエールしたつもり、らしい。

素朴でいい男だ。


「あ、そーだ、深町さんは、あの..片野駅の話、ご存じですか?」と、友里恵は唐突に。

深町は「知ってるよ。幽霊でるとか。バスで
深夜通ると怖いな」と、おどけて両手をぶらり(笑)。

「えーゆーれいー!」友里恵は絶句。
輝彦も初耳だ。

「それ見てぶったまげた奴が、踏切事故起こすとか」

聞いて見るもんだ、と、輝彦「そんなに事故有るの」

「ああ、あそこの交番も、慣れてるって、事故処理」
と、深町。

それでか、と。輝彦は納得した。
事故処理が手早いのと、新聞があまり
報道しないのは。


「それじゃ、あの、西森コンビニの、店が出来る前
なんだったか....」と、友里恵が聞くと

「ああ、古い家と森があったよ。それで
あそこを西の森信号って言って。学校入り口って
バス停あるな」と、職業柄、バス停で覚えてる(笑)




「その古家は、どうして無くなっちゃったんですか」と、
友里恵はどきどきしながら聞いた。

もしかすると、何か呪いが(笑)とか
康夫の言ってた事はホントだった!?とか。
想いながら。


深町は「残念だけど、そこまでは知らないな。
しばらく人が住んでる様子は無かったから、
相続した人が売ったとか」


「そーぞく?」と、友里恵に耳慣れない言葉。
ひとが、子孫に財産をあげる、ってこと。


「そっか、まああとは法務局で調べてみるか」
と、輝彦。


「ほーむきょく?」と、友里恵にまた耳慣れない言葉。


「ああ、家とかの持ち主がね、地図に書いてあるの。」
と、輝彦。


「いろいろ勉強になります」と、友里恵は
にっこり、ぺこりお辞儀(笑)


なんだかロボットみたいで、ユーモラスなのは
もちろん、友里恵のユーモア。

和やかに、カフェをあとに

ふたりは、シトロエン・エクザンティアで
友里恵の団地へ。


「深町さんってステキだったなー。」と、友里恵が言うと

「ウワキはダメですよ、奥様」(笑)と、輝彦はユーモアで。


「ヤキモチですか、ダンナサマ、嬉しいですぅー」と、
友里恵は時代劇の奥様、のつもりだけど
口調が砕けて
アニメみたい(笑)。

「そんなんじゃないですぅー」と
輝彦も口調を真似て(笑)


どうも、友里恵ペースだな、なんて。


「でも、深町さんの言うみたいに
一緒に住みたいなー」なんて、友里恵はどっきりする
事を言う。

高校の制服で、そういう事を言うのは
ちょっと、かわいらしいけれど。

夢、見ながら生きてるのかな、と
輝彦は、微笑ましく友里恵を見守った。


そして「そーいうのは、ほら、段階を追って。
少しずつ楽しみながら行かないと。
もうすぐ日曜日だなー、ってわくわくしながら
待つ間も楽しいけど、いきなり日曜が来ちゃったら
つまらないでしょ。」と、輝彦はSFチックな事を言う。


「でも、もう十分待ったもん。」と、若さゆえ
性急な友里恵。

まあ、自分も18歳の頃は
そうだったな、と
輝彦は懐古。




「ひとり暮らししたいって言ってたけど、
家に居づらいの?」と、輝彦。

友里恵は、かぶりを振り
「ほら、親ってどうしても干渉するから。
わかるけど、そんなに気をつかわなくても
大丈夫だから、って思うの」


「友里恵ちゃんは優しいなぁ」と、輝彦は
そう思った。

若い頃だと、親とケンカしたりするのに。

そういえば、この子は
優しいから、あちこちで好かれるのかな。

好かれすぎて、ロリコン教師に
13歳で襲われそうになったりしたけど(笑)。

ファースト・キッスも守ったって
勇ましいとこもあるけど(笑)


「あの、ペットショップの2階に
住む?」と、輝彦。

夜はちょっと淋しそうな、オフィス街だしなぁ。
それは輝彦も心配。



「もうちょっと、このままで。」と、友里恵はいつもの
顔になって。

団地の、集会所のところで
シトロエンの白いドアを開けた。


「じゃ、また。」と、にこやかに友里恵

輝彦も手を振って。


まだ7時だけど(笑)。





翌朝は、寝坊して
ゆっくりと朝の輝彦。

母上より朝食を賜り(笑)

お小言を頂戴する前に、出発。

法務局へまず向かう。


あの、西の森交差点付近の
古い公図を見た。

ごく普通の民家だけど、道路を広げるので
建て直しの時は、セットバックと言って
道路分を市に売らなくてはいけない。

それで、家ごと手放して
どこかに転居したようだ。

念のため、名前だけは控えておいた。
コピー取って。


お昼近くになったので
そろそろ、友里恵のバイトが終わるかと

西の森コンビニへ。


広い駐車場は、田舎のコンビニ特有で
そこに、シトロエンを止めて
輝彦は、店に向かった。

ほんの少し前なのに、どこか懐かしいようだ。

「あ」輝彦を見つけて、由香が飛んできた。

ひさしぶりー、元気?と。

友里恵より更に元気で、疲れるほど(笑)。


「ゆかと遊んでよー」って
迫ってくる(笑)

友里恵は、お弁当コーナーで
検品をしていて、そんなふたりを
にっこり眺めて、仕事に戻った。

「遊ぶのは、バイト終わってからね」と、輝彦。

「つまんないなー、シフト外そうかな」と、由香。


店のシフトは自己申告なので
抜けたい時は抜けられる。

でももう、閉店が近いから
代わりのバイトはいないだろう。

「ゆかちゃんは、別の店に移るの?」

「はい。ここの仕事、慣れてるし」


就職難で、高校を卒業しても
派遣かパートくらいしか、仕事がないらしい。

それで、とりあえずバイトしながら。
または、ゆう子みたいに
コンビニチェーンに就職する、なんて
手もある(笑)。



「何かわかった?」と、友里恵が
お弁当を並べ終えて。

「うん、ここの敷地は古家だったけど
別に、変なことはなかったみたい。
後は、図書館に行って事件簿を調べたり、
風土記を見たり」と、輝彦。


「ふーどき?」と、友里恵。


「うん、戦国時代に、戦場だったとか、墓地だったとか。」

そういう由来を調べるの。と、輝彦。


「うわー、面白そう。ゆかも連れてってー。」



「バイトじゃん」と、友里恵。

「つめたいな。なーによ、自分は玉の子だからって、
ふーんだ。」と、ゆか(笑)


「たまのこ?」


「ああ、玉の輿のことでしょ、国語赤点だろーゆか、これ」と、友里恵は叩く真似。


きゃーきゃー、と、ゆかは騒々しい(笑)
ひとの来ないコンビニだ(笑)


「玉の輿ってなに?」と、輝彦。


友里恵は「ああ、あたしたちみたいな団地住まいから
見ると、お屋敷ね、山の手の深見家にお嫁入りなら
玉の輿って、みんなが囃すの」(笑)


「お金、ありませんよ」と、輝彦(笑)
それは本当で、古い屋敷は先祖代々のもの。

毎年、春の税金を払うので
兄が苦労しているらしい。


「いーの、みんな冗談なんだから。
お金目当てなんかじゃないわ」と、友里恵。


それは知っている(笑)。
だいたい、無いものを目当てされてもなぁ(笑)。



待てよ。
相続税か。


それで、ここを売ったのかもしれないな。


法務局で見た、権利書類のコピーでは
所有者が何人か変わっていて。

ひとりひとりを当たれば、売却の経緯が
分かる。


「これ!」書類を見ていた由香が声をあげた。

どうしたの?と、輝彦と友里恵。


「オーナーと同じ名前、だけど苗字が違う...」


「どういうこと?」友里恵が尋ねるように。


書類の日付を見ると、このコンビニが
建設される前、だ。


「これ、オーナーの旧姓じゃない?」と、輝彦。

そこまでわかんないけど....と、友里恵、由香。


「じゃ、市役所で調べてみよう」と、輝彦。



ぴんぽーん♪


お客さんが来たので

友里恵と由香、接客スマイル¥0(笑)



お昼になるまで、お店カフェでくつろぎ
輝彦は、ちょっと和む。




 


町内放送のお昼のチャイム。

田舎なので、お昼と
夕方に時報代わりのチャイムが鳴ったりする。

お昼は、ポール・モーリアさんだった。
「恋はみづいろ」かな。

のどかでいいなぁ、と
輝彦は思う。


友里恵のシフトはお昼までなので

シトロエン・エクザンティアで
待っている事にした。

コンビニの前の十字路は、都市計画で
広くなり

その時、この場所も更地になったらしい。

道を広げる時は、何十年も掛けて
そうして、古い家を建て直す時に
土地を、市役所に売る。

それが事前に分かっていれば
高く売る事が出来るので

家を売らずに待っている、そんな事もある。



ほぁん♪

バスの、空気笛の音がして

見上げると、深町が
今日は、地域のコミュニティバスを運転して。


かわいいメルヘン調の絵柄のバスで
にこやかに手を振って通り過ぎた。


「いまの、深町さん?」私服に着替えた友里恵。
きょうは、ジーンズ。
でも、体の線が目立たないような
ストレート。


「そう。」と、輝彦は答えた。


スカートも良かったけど、やっぱり
ジーンズの方が安心かな、と
友里恵の気持ちを案じた。


一度でも、怖い目に遭うと
なかなか忘れないものだし。




「かっこいーなぁ、大きい車はやっぱりいいな。」と
友里恵は、バスの走り去った方向を眺めた。


「まってーーーーー!」と、声がするので見ると
店の方から、なぜか由香が。

ミニスカートは、制服のものっぽい。
上は、白いYシャツっぽいそれと、カーディガン。

家出JKが有り合わせを着てるみたい(笑)。


「バイトは?」友里恵。

「うん、本部の人がね、帰っていいって。」


それは、割と暇なので(笑)許可か。


「いーかげんだなぁ。給料日に泣くよ。それになに、その
格好。家なき子みたい」


そういえば、由香は
妙な男とつきあってるって噂だったっけ、と輝彦は思う。


近くに来ると、強いコロンの匂いがした。
シトラスだったけど。



「ま、いっか。それじゃ市役所行こう」
と、輝彦が言うと


「ちょっと待って!」由香は掌を差し出し「市役所は
ガード固いから、本人じゃないと戸籍調査は無理。
委任状をね、作っていかないと」と、意外に詳しい由香。


「どこで聞いたの?」と、友里恵。


輝彦はそれを知っていたから、自動車登録、と
言って住民票のコピーだけ貰うつもりだった。

それで苗字は確認できる。



「カレシは車屋さん?」と、輝彦。

ううん、ケータイ売ってる、と
由香は口を滑らせる。


「あ、言わなきゃよかったかな」と、由香(笑)。



なるほど。携帯電話の転売だと
そういう書類にも詳しい訳だ。

変な男かどうか、は別にして。


「ま、いっか、いこ」と、友里恵は前、
由香は後ろのシートに収まった。


「すごいねー、ふかふか」と、由香は
エクザンティアの乗り心地に驚く。



「ホント?後ろいこっかなー」と、友里恵は
ドア開けて後ろへ。


にぎやかになっちゃったなー(笑)、と。輝彦。

「さ、いくよーぉ」と、輝彦ものんびり和む。

騒がしいけど、どこか和める友里恵と由香は
やっぱり無邪気だからかなーーー。なんて。
バックミラーみて思う輝彦だった。



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