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深夜の駅
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「その現場はどこ?」と輝彦は尋ねる。
ゆうこは、「私の来る前なので、良くは知りませんけど」と
言いながら
いつも通ってくる片野駅です、と言った。
輝彦の記憶にもある。
直線の線路が長く続く、その傍らにホームがある
無人駅で
貨物列車などが高速で通過すると
怖いようなホームだった。
輝彦は思う。
無人駅でホームから身投げ、なら
自殺と断定できないだろう?
「自殺って警察がそう言ったの?」と輝彦が聞く。
ゆうこは、ちょっと真面目な顔「チェーンの本部では
事故か自殺かわからないので、とりあえず経営権を
本部に戻して」
そうすると、借金は無い事になるそうなので
遺族の夫、家族がそれを望んだと言う事らしい。
「でも、鉄道自殺だと補償金とかはどうしたの?」
と、輝彦は聞く。
ゆうこは「よくわかりませんけど...深夜の貨物列車だったので、損害賠償までにはならなかった、とか」
なるほど。
昼間だったら、お客の払い戻しとかで
損害は大きい。でも
深夜で列車が少ないと、貨物が
予定時刻に届けば、損害は少ない訳だ。
「でも、遺書とかはなかったんでしょ?」と。輝彦が聞くと
なんだか探偵さんっぽい、と
ゆう子はからからと笑うので
「僕は、本当はルポライターだから」と
輝彦が言うと、ゆう子は嬉しそうに笑顔で
「かっこいいです、やっぱり。友里恵ちゃんの
思った通り」と。
「彼女がどう思っているのかな(笑)」と
輝彦が尋ねると
「カノジョ、ですかー、そーなんだ」と
ゆう子は喜ぶ。
いや、そうじゃないくって、She ,でしょ、英語だと。
と、輝彦は弁解したが
「おふたり、お似合いですもんね、美男美女で」と
ゆう子は嬉しそう。
そういう話が好きなのは、20歳の女の子らしくて
自然でいいな、と輝彦は和んだ。
「でも、友里恵ちゃんと僕じゃ年が離れてるし」と輝彦は
本音を述べる、するとゆう子は
「そんな事言ったら友里恵ちゃん、泣きますよ。
かんけーないです、その位の年。」と、楽しそうだ。
「そういえば、そのオーナーと大学生も、もっと年は離れていたよね」と
輝彦が聞く。
「そう...ですね。そのあたりは詳しくないですけど、たぶん前オーナーは40歳は
越えていたと思います」
それはそうだろう。そんな年齢の人が大学生の男の子と恋愛...。?
とは言うが、自分も友里恵に心惹かれている訳だから
まるっきり理解できない事もない。
しかし、輝彦は独身である。
家庭を持った主婦とはちょっと違うと思うな、と
やや自己弁護っぽく(笑)。
推理小説っぽく(笑)スクリプトすると
経営は危うかった。
夫はコンビニ経営にはノータッチ、別に収入があるので
店が潰れても困らない。
むしろ、店が潰れて困るのはバイトの連中とか...だが
その為に自殺するとは思えない。
やっぱり、自殺なら、恋の悩みかな。
夫も子供も居るのに、大学生のカレシができてしまった。なんて。
なんとなく気になる。「その大学生は、今、どうしてる?」と、ゆう子に尋ねる。
ゆう子は、ちょっと表情を曇らせて「わからないんです。それから行方不明で。
噂だと、病院に入っちゃったとか....。」
早朝のコンビニは、暇だ。
こんな話をしていても客がまったく来ない。
これでは、アルバイトをふたり雇っても、経費が出るだけだが
そもそもこんな田舎のコンビニに24時間営業、と言うのが無理なのだ。
もうすぐ6時。友里恵が朝シフトで出てくる頃だが....。
電話が鳴る。輝彦が出ると、友里恵だった。
「ごめーん、ねぼーした。まだメークもしてないし~。」(笑)
のんびりしている子だ。
「休んでいいよ、ってゆう子ちゃんが言ってるよ」と告げると
「それじゃ悪いもん、今から行くからタイムカード打っといて(笑)」
と、こんな感じだけど、と、ゆう子に言うと
「そうなんですよね、この店。すべてこんな感じなので。
経費が増えるばかりで。」と。
みんなそうらしい。
でも、それも前オーナーのやりかただったらしい。
その代わり、お昼休みとかも適当だし、残業もいいかげん。
かえってその方が損なんだけどなぁと輝彦は思う。
だって、商品持ち逃げされたりしてるわけだし(笑)。
友里恵ちゃんはのんびりさんだなーと
輝彦が言うと、ゆうこは
「いい子でしょ友里恵ちゃん。大切にしてね」
なんて、お姉さんっぽく言うので
輝彦は思わず笑顔になった。
それで、ちょっと聞いてみたくなった
「あの子、13の時に家出したとか僕に言ってたけど
信じられないな、あんな大人しい子が」
ゆうこは、少し考えて
「学校の先生が、なんだか友里恵ちゃんに
恋しちゃったらしくて。セクハラ、とかじゃなくて。
それで、誰も傷つけたくないからって。学校に行かなくなって。お父さん、お母さんにそれを言うと
先生がかわいそうだから、って。」
そうか。友里恵ちゃん、賢いなと
輝彦は思った。
先生はセクハラじゃなくて、真面目に恋しちゃったんだ。
それは分からないでもないけれど。
「ちなみに、独身の若い、イケメン先生だとか」と
ゆうこはにこにこして。
...イケメンでロリコンかぁ(笑)と輝彦は思ったが
自分も似たようなものだと(笑)。
まあ、いまの友里恵は未熟ながら女、である。
13の時は知らぬが。
13歳なりの魅力があったのだろう。
「それで、友里恵ちゃんはいつも、スカートはかないんです。控えめにしてれば怖い目に合わないからって。
でも、深見さんと出会ってから、明るくなったんです、あの子。前はもっと、自棄な感じで」と、ゆうこが
話してると
硝子のドアを勢い良く開き、友里恵が駆け込んできた。
ごめーんチコク、って。
いつもじゃん(笑)
輝彦が、ちょっと気になったのは
友里恵が、怖い目に遭わないためにスカートをはかない、
と言うあたりで
そんなに怖い目に遭うのだろうか?
もしかして、その教師も
愛、の表現をはき違えて
抱きついて襲ったりしたのではないか?
未熟な若い、ロリコン教師なら考えられる(笑)。
まあ、それはともかく。
今の友里恵が幸せならそれでいいか、とも
思う。
寝ぼけた顔で、にこにこしている友里恵が
愛らしくて、輝彦はにこにこと「やあ、おはよ」と
声を掛けると
ゆうこと並んで話してたので
友里恵は「ね、何の話?ね?」と
顔を突っ込んできた(笑)。
その距離、数cm(笑)
そういう様子を、周りが誤解するんだろうな、と
輝彦は思う。
僕らは、カップルじゃない。
そうは思ったが、無碍に否定もできない(笑)。
過去にもよく、こういう事はあった(笑)。
その時、なぜか麻美が愛車の四駆で店に来たので
ゆうこを駅まで送っていく、と言う事になった。
片野駅は、歩いても1kmくらいだから、そう遠くない。
「でもぉー、雪だよーー」と、麻美は
いつもの調子でそういうので。
みんな、窓の外を見ると
暖かいこの地では珍しく、粉雪が舞っていた。
友里恵は、楽しそう。「ゆき、ゆき!」と
表に飛び出して空を仰いで。
写真を撮ってたけど、そのケータイが
ラメで派手派手、ストラップがいっぱいで
ケータイ本体より大きかったので
輝彦は微笑んでしまった。
のびのびしてて、かわいいな、と。
脳裏に閃いたのは、ゆう子のひとこと。
..友里恵ちゃんは、以前はもっと自棄な感じだったけど。
深見さんと出会ってから、明るくなって....
それはそれで、少女らしくて好ましい事だと思う。
手編みのマフラーを作ろうとしたり、
同じ色、素材のコーデュロイを探したり。
キッチンで、サンドイッチを作ったり。
少女が、恋愛を夢見て
してみたい事、それは
輝彦が少年の頃と変わらないようだ、と
彼は思う。
友里恵にちょっと驚くのは
とても大胆なときがある、こと。
誰もいないとき、胸の中に倒れ込んで来たり。
誰かがいても(笑)すりよってきたり。
そういう所が、カップリング済み(笑)と
誤解される所以でもあったが
別に、愛を誓い合った訳でもない。
何かに追われるように、そうしているようで。
タイム・リミットに追われる
天使のようだ、とも思う。
おそらく、安らぎたかったのだろう。
過去の話などをゆう子に聞き
断片だけでも苛酷な状況が伺え
友里恵が望むなら、安らいでいてもらいたいと
思う。
でも、それが友里恵の望む恋愛かどうか、は
彼女自身がいつか、気づく事だろうと思うし
もし、このままで良いのなら
それもいいかもしれない、とも
輝彦は思った。
ゆう子を駅まで麻美が送る、と言うので
「あ、あたしもいくー」と友里恵(笑)。
それじゃぁ、バイトになんないじゃん(笑)と
輝彦は思ったが。
まあいいか、と、送り出す事にすると
「あ、でもそれじゃあひとりになっちゃう、お店」と
気をつかう、優しい子、友里恵(笑)
「いいよ、だいじょうぶ、いっといで友里恵ちゃん」と
輝彦が言うと、
「その呼び方やめてよー」と、友里恵。
なんて呼ぶの?と輝彦が聞く、すると
「友里恵、って呼び捨てでいいの(にこにこ)」と
友里恵は楽しそう。
「じゃあ、いっといで、友里恵」と、輝彦が笑顔で言うと
「はい、ア・ナ・タ」(笑)
それでもなんとなく恥ずかしそうな友里恵は
とことこ、と表に飛び出していった。
「キミたちはなーにをやっとるの(笑)」と、麻美。
でもまあ、和やかでいい朝だ。
麻美の、赤いいすゞ・μが
駅に向かって走り去る。
そういえば麻美は9時からのシフトなのに
早く来たなぁ(笑)
友里恵のアッシー君かな(笑)。
雪はすぐに止んで
「積もるといいのになー」と、つまんなそうな
友里恵を乗せて、麻美は帰ってきた。
輝彦は、ちょっと気になっていた事を
麻美に聞いてみる。
「ここのさ、前の店長さんが
あの駅で線路に落ちたんだよ
ね」
麻美は、ちょっと驚いた感じで「そうですね」
「その時、ひとりだったの?」
麻美は、思い出すように「店を出る時は。」
でも、いつもだったら恋人の大学生が
途中で車に乗せていくので、待っているそうだ。
ふつう、コンビニってのは
二階に住居を持って、下でお店とか
そういう、住み込みのお店を作る。
脱サラの夫婦が、家とお店を同時に手に入れると
夢を持って始めるから、だとか。
でも最近は、家を別にするのが増えている。
そうしないと、プライバシーが保てないとか
そういう理由らしい。
ここの場合は、亭主が反対してたんで
尚更、らしい。
「じゃあ、駅までふたり?」と輝彦が尋ねると
「その時間は電車が無いので、駅に行く理由が
ないんです」と、麻美。
輝彦は考える。
駅に車で行ったなら、目撃されている筈。
だが、深夜の無人駅。タクシーもいないだろうから
それは不明だ。
もし、見つかっていれば
恋人の大学生は重要参考人、だし
無理心中の可能性もある。
いや、それどころか殺人容疑だって
成立するだろうと
輝彦は思った。
「その大学生、病院に入っているって言うけど...どこの?」
と、輝彦は尋ねる。
麻美は、ゆう子と同じく、どこか分からないけど
「ショックで心を痛められたとか...」と。
それはそうだろう。
しかし、輝彦は探偵としての冷徹な解析視点も
持ち合わせている。
嫌疑を逃れる為の詐病、と言う事もあるし
誰かが罪を彼に被し、詐病を指示して
入院させたかもしれない。
保健所長の指示があれば、一般市民を
措置入院として病院に収容する制度がある。
実際は、司法警察官が要請し
医師二人以上の指示を要するが。
そのあたりは、どうにでもなる。
心の中は見えない。
精神分析の知識がある者が
演技指導すれば、うまく操作できてしまう。
「なーに、考えてるのふたりで。あやしいぞーー!」と
友里恵が飛び込んできた。
輝彦が、女の子と話してると
いつも邪魔しにくるのは
所有権を主張するのか(笑)。
「大人の話、」と、麻美がからかう。
友里恵も大人だよー、もうじき。なんて
おどける友里恵は、可愛い(笑)。
そうそう、18になればね、と麻美が言うので
輝彦はどっきりしてしまった(笑)
青少年健全育成条例で、18歳未満の者と
不適正な関係にあると、淫行と見なされタイホ(笑)
なのだ。
別に待ってる訳でもないが
その頃になれば、答えは出るだろうと
思ったりもした。
「うん、あの、前の店長さんが事故かなって」と
輝彦が言うと、友里恵は
「うん、でも、かわいそう。死んじゃうなんて。」
と、淋しそうな顔になるので
「もう、過ぎた事だけどさ、気になるんだ。
ほんとに自殺かなぁって」と、輝彦が言うと
「刑事さんみたい」と、友里恵は笑う。
「フリーライターなんだって」と、麻美は言うので
友里恵は、「そーなんだ、なんかいいね、自由っぽくて」
自由。
友里恵の好きな言葉だけれど
そんなに束縛されてるのかなぁ?
まあ、確かに
13歳から女、として
求愛されるのは確かに窮屈かもしれない。
それも、相手が教師じゃな.....
バイトが9時で終わってから、輝彦は
仕事に就く麻美に、もう少し聞いてみた。
「いつも、大学生と元オーナーは、そうして帰ってたの?」
そうみたい。と頼りなく麻美が言う。
店の外の事まではよく分からない。
それは本音だろう。
最初は親切で、大学生が送ってあげていたのだけど
そのうちに、どういう訳か愛し合うようになった。
堂々と店から送ればいいのに、途中で待っている
あたりで怪しまれた、とか(笑)
策士策に溺れる、か。
バイトが引けたので、帰りに片野駅によって来ようと
輝彦が帰り支度をすると、友里恵が
「捜査?あたしもいくー(笑)」なんて言うので
バイト残ってるじゃん、って言うと
友里恵は、唇を尖らせて「つまんないー」って言う(笑)
その仕草も、とっても可愛い。
尖らせた唇に触れたくなる(笑)。
その視線に気づいて、友里恵がすり寄ってくる。
けど麻美が(笑)「キミたちはなにしてんのかなー。」
なんだかなぁ(笑)
ひとりで、片野駅のホームを見る。
深夜に入ろうと思えば、無人駅だから入れる。
別に自殺でなくても、ホームには明かりもあるし
防犯カメラもある。
だから、自殺と断定できないなら
映像が役に立たないのだ。
深夜なら、ホームの明かりは落ちているから
ビデオは映ったとしても、列車のヘッドライトの
範囲だけだろう。
それでは自殺、かどうかは
はっきりしない。
後ろから落とされた可能性もある、のだ。
しかし、深夜の駅に
わざわざ入ってくるのは、野良猫くらいのものだ。
経緯からして、夫婦仲はあまり良くなかったようだ。
それでなければ、家事を置いてコンビニ経営など
考えないだろう。
その心の隙、と人間故の生殖の欲求に
大学生のバイトは、魅力的に映る。
フランス映画にもよくある(笑)。テーマだ。
別に恥じる事もない。
別に、亭主が嫉妬深くなければ
問題はない。
だから、動機があるとすれば
亭主だが、お堅い公務員で
殺人を犯すような人物とも思えない。
なぜかと言えば、鉄道を殺人の現場にすれば
証拠を綿密に取られるので
犯行が発覚するし、ばれたら免職である。
ふと、見上げると
ホームの端には、スポットライト。
そういえば、夜行列車の車窓から見た記憶がある。
深夜でも、昼間のように明るく線路を照らしている
ライト。
それが点いていれば、
列車から、線路上に
人が居たなら
非常ブレーキを掛ければ
停まれるはず。
鉄道法では、600m以内に停まれる速度で走る
ように定められている。
まして、ここは直線だ。
貨物列車と言っても、鉄道法の例外ではないから
遥か遠くに見えるカーブを、制限速度一杯,75km/hで抜けたとして
最高速度は110km/h、と言っても
深夜の無人駅ホームに人が居れば、ブレーキを掛ける筈だ。
それなら、ホームに転落したとしても停まれるだろう。
輝彦は推理した。
貨物時刻表を見る。
その時刻の列車は、コンテナ特急列車で
大阪、吹田ターミナルから東京汐留行き。
ゆう子の話では、「損害賠償にはならなかったらしい」と言う。
不審だ。
特急貨物列車が、仮に30分停車すれば
後続列車や、寝台特急列車も先に進めなくなるから
遅延損害を請求されるかもしれない。
可能性は、幾つかある。
1)列車に接触せずに、転落時に線路外で頭部挫傷などで死亡。
2)そもそも列車が停まらなかった。
3)何等かの過失が鉄道側にあり、過失相殺をした。
....うーむ。
輝彦は考え込む。
1)の線でも、警察が来るまでは列車は走行できないが
運転士が気づかないと、そのまま通過してしまうから
遅延は起こらない。
2)事件がなかった、と言う事。鉄道自殺ではなく、別の場所で殺害されて
駅ホーム下の線路に転がした。運転士は気づく事もなく通過。
3)例えば、運転士が居眠りをしていた、照明が故障していて
レール上の人に気づかなかった。ブレーキが遅れた、利かなかった。
いろいろ、考えられる。
警察が裁定したとなると、1)か、3)の線が強い。
だが、何れにしても、呪いではなさそうだ(笑)。
もし、発作的に飛び込んだなら、呪いかもしれないが。
保険金が出るので、コンビニ・チェーン側は損をしない筈である。
普通、そういう借金をするときには支払い担保として
支払いをする人が死んだ時、保険金が出るように
設定されているのだ。
オーナーはそれを知っている。夫も知っている。
チェーンは勿論知っている。
ただ、自殺と事故死では出る金額が違うので
それで、チェーンは事故死とした、というゆう子の言葉は
理解できる。
つまり、次のオーナーになる人は
最初から、ただ、無料で建った物件に
金を払う事になるわけだ。
前のオーナーの死亡保険金で、店の建設費用は全額返済されているからである。
それなら、無料で友里恵たちに提供してもいいのだが
そこは、商売である。チェーン店も。
そこで、地元の新聞社に
フリーライターとしての、コネで
当時の事を聞いてみると
列車にはねられたのではなく、高速な
列車の風圧で飛ばされて
線路脇下のどこかに当たったのが
死因、との事で
事件性を問わず、警察と鉄道会社で
不慮の事故、としたそうだ。
それで、遺族が
経営を継承しなかったので
コンビニチェーンが、店を受け取り
次のオーナーを公募して、つまり
既に保険金で支払い済みの店を
新しいオーナーに貸し、賃貸料をもらおうという
そういう話、らしい。
世の中、金持ちに都合良くできてるなと
輝彦は思った。
新築でコンビニが建ち、10年くらいで閉店する
のは、そんな理由もあるのかと
その巧妙さに、輝彦は呆れた。
自殺か事件か、を調べるつもりだったが
それでは、前オーナーは
死を選んだ方が得策と考えたかもしれない。
ただ、もし。
夫や、恋人の大学生に
愛されていれば、死を選ぼうなどとは
思わなかった筈。
愛、は生きる希望足りうる。
何もなくても、それだけで
死にたくないと思う筈だ。
反対に、愛を失ったとき
死を選ぼうとするかもしれない。
輝彦は、友里恵の事をイメージした。
愛、それを失う事のないように、と。
それで事件性を否定するのは
事なかれ主義ではないけれども
田舎の警察によくある感じだなと
輝彦は思う。
住人を、駐在や交番で
知っているので
嫌疑を掛けるか否かを
普段の巡査活動で見極めているのだ。
次のバイトの日。
輝彦は、時々
お店を手伝っている程度だったから
そんなに辛いとも思わなかった。
でも、昼間学校に行って
夜、バイトに来たり
早朝勤務したりする友里恵たちは
若さがあるな、と(笑)
おじさんっぽく思う。
時々、寝ぼけていても
メークだけはしてきたり。
学校じゃ禁止なんだろうけどなぁ(笑)
みんな、なにがしかのメークアップをしている
JKたち、である。
けれども、輝彦の高校生時代でも
やっぱりおしゃれしたい年頃だった。でも
まわりでしなかっただけで(笑)
いまは、みんなでしてるから平気なのだろう。
そんな多忙な中、クリスマスが過ぎ
冬休みに入った。
クリスマスになると、主婦パートたちは
理由をつけて休みがちになる。
子供が家にいると、パートどころではないとかで(笑)
クリスマスはなんか、イベントとか(笑)
もう、辞めてもらった方がいいと
本部では思い
バイトの募集をしたりする。
事実、パートを休んでいるのに
店の裏口に車を付けて
廃棄寸前の弁当を持って行ったりする。
ついでに、冷凍肉まんやパンなんかも。
車で持って行くので、どうしようもない(笑)。
その事を友里恵や麻美たちは、普通に見ているので
理由を尋ねると「前の店長がしていたから」とか。
まあ、経営者だから店の物を持って行っていいとか(笑)
そういう姿勢がまずかったらしい。
まあ、背景には貧困があるのだろうけれど。
この店を立て直すのは困難だと
輝彦は思った。
それでもクリスマスに、友里恵はちゃんと
マフラーをくれた。
少し不格好だったが、手編み、を作りたいと言う
心が嬉しかった。
ありがとう、いい子だね、と言うと
友里恵も喜んでいた、ちょっとだけ
不満そうだったのは「いい子」って言い方だったのだろうか。
何も持って行かなかったので、銀が好き、と言う
友里恵に
普段、持っている銀のキーホルダーをあげた。
およそ男っぽいものだが、かえってそれが
かっこいいし、変な男避けになっていいと
友里恵は言う。
男っぽい物を持ってると、カレシの持ち物だと
思って、悪い男は逃げていくとか(笑)
にこにこしてる友里恵の、頭をよしよし、ってなでると
子犬みたいにじゃれて来たので、
愛らしいな、と
輝彦も微笑む。
ゆうこは、「私の来る前なので、良くは知りませんけど」と
言いながら
いつも通ってくる片野駅です、と言った。
輝彦の記憶にもある。
直線の線路が長く続く、その傍らにホームがある
無人駅で
貨物列車などが高速で通過すると
怖いようなホームだった。
輝彦は思う。
無人駅でホームから身投げ、なら
自殺と断定できないだろう?
「自殺って警察がそう言ったの?」と輝彦が聞く。
ゆうこは、ちょっと真面目な顔「チェーンの本部では
事故か自殺かわからないので、とりあえず経営権を
本部に戻して」
そうすると、借金は無い事になるそうなので
遺族の夫、家族がそれを望んだと言う事らしい。
「でも、鉄道自殺だと補償金とかはどうしたの?」
と、輝彦は聞く。
ゆうこは「よくわかりませんけど...深夜の貨物列車だったので、損害賠償までにはならなかった、とか」
なるほど。
昼間だったら、お客の払い戻しとかで
損害は大きい。でも
深夜で列車が少ないと、貨物が
予定時刻に届けば、損害は少ない訳だ。
「でも、遺書とかはなかったんでしょ?」と。輝彦が聞くと
なんだか探偵さんっぽい、と
ゆう子はからからと笑うので
「僕は、本当はルポライターだから」と
輝彦が言うと、ゆう子は嬉しそうに笑顔で
「かっこいいです、やっぱり。友里恵ちゃんの
思った通り」と。
「彼女がどう思っているのかな(笑)」と
輝彦が尋ねると
「カノジョ、ですかー、そーなんだ」と
ゆう子は喜ぶ。
いや、そうじゃないくって、She ,でしょ、英語だと。
と、輝彦は弁解したが
「おふたり、お似合いですもんね、美男美女で」と
ゆう子は嬉しそう。
そういう話が好きなのは、20歳の女の子らしくて
自然でいいな、と輝彦は和んだ。
「でも、友里恵ちゃんと僕じゃ年が離れてるし」と輝彦は
本音を述べる、するとゆう子は
「そんな事言ったら友里恵ちゃん、泣きますよ。
かんけーないです、その位の年。」と、楽しそうだ。
「そういえば、そのオーナーと大学生も、もっと年は離れていたよね」と
輝彦が聞く。
「そう...ですね。そのあたりは詳しくないですけど、たぶん前オーナーは40歳は
越えていたと思います」
それはそうだろう。そんな年齢の人が大学生の男の子と恋愛...。?
とは言うが、自分も友里恵に心惹かれている訳だから
まるっきり理解できない事もない。
しかし、輝彦は独身である。
家庭を持った主婦とはちょっと違うと思うな、と
やや自己弁護っぽく(笑)。
推理小説っぽく(笑)スクリプトすると
経営は危うかった。
夫はコンビニ経営にはノータッチ、別に収入があるので
店が潰れても困らない。
むしろ、店が潰れて困るのはバイトの連中とか...だが
その為に自殺するとは思えない。
やっぱり、自殺なら、恋の悩みかな。
夫も子供も居るのに、大学生のカレシができてしまった。なんて。
なんとなく気になる。「その大学生は、今、どうしてる?」と、ゆう子に尋ねる。
ゆう子は、ちょっと表情を曇らせて「わからないんです。それから行方不明で。
噂だと、病院に入っちゃったとか....。」
早朝のコンビニは、暇だ。
こんな話をしていても客がまったく来ない。
これでは、アルバイトをふたり雇っても、経費が出るだけだが
そもそもこんな田舎のコンビニに24時間営業、と言うのが無理なのだ。
もうすぐ6時。友里恵が朝シフトで出てくる頃だが....。
電話が鳴る。輝彦が出ると、友里恵だった。
「ごめーん、ねぼーした。まだメークもしてないし~。」(笑)
のんびりしている子だ。
「休んでいいよ、ってゆう子ちゃんが言ってるよ」と告げると
「それじゃ悪いもん、今から行くからタイムカード打っといて(笑)」
と、こんな感じだけど、と、ゆう子に言うと
「そうなんですよね、この店。すべてこんな感じなので。
経費が増えるばかりで。」と。
みんなそうらしい。
でも、それも前オーナーのやりかただったらしい。
その代わり、お昼休みとかも適当だし、残業もいいかげん。
かえってその方が損なんだけどなぁと輝彦は思う。
だって、商品持ち逃げされたりしてるわけだし(笑)。
友里恵ちゃんはのんびりさんだなーと
輝彦が言うと、ゆうこは
「いい子でしょ友里恵ちゃん。大切にしてね」
なんて、お姉さんっぽく言うので
輝彦は思わず笑顔になった。
それで、ちょっと聞いてみたくなった
「あの子、13の時に家出したとか僕に言ってたけど
信じられないな、あんな大人しい子が」
ゆうこは、少し考えて
「学校の先生が、なんだか友里恵ちゃんに
恋しちゃったらしくて。セクハラ、とかじゃなくて。
それで、誰も傷つけたくないからって。学校に行かなくなって。お父さん、お母さんにそれを言うと
先生がかわいそうだから、って。」
そうか。友里恵ちゃん、賢いなと
輝彦は思った。
先生はセクハラじゃなくて、真面目に恋しちゃったんだ。
それは分からないでもないけれど。
「ちなみに、独身の若い、イケメン先生だとか」と
ゆうこはにこにこして。
...イケメンでロリコンかぁ(笑)と輝彦は思ったが
自分も似たようなものだと(笑)。
まあ、いまの友里恵は未熟ながら女、である。
13の時は知らぬが。
13歳なりの魅力があったのだろう。
「それで、友里恵ちゃんはいつも、スカートはかないんです。控えめにしてれば怖い目に合わないからって。
でも、深見さんと出会ってから、明るくなったんです、あの子。前はもっと、自棄な感じで」と、ゆうこが
話してると
硝子のドアを勢い良く開き、友里恵が駆け込んできた。
ごめーんチコク、って。
いつもじゃん(笑)
輝彦が、ちょっと気になったのは
友里恵が、怖い目に遭わないためにスカートをはかない、
と言うあたりで
そんなに怖い目に遭うのだろうか?
もしかして、その教師も
愛、の表現をはき違えて
抱きついて襲ったりしたのではないか?
未熟な若い、ロリコン教師なら考えられる(笑)。
まあ、それはともかく。
今の友里恵が幸せならそれでいいか、とも
思う。
寝ぼけた顔で、にこにこしている友里恵が
愛らしくて、輝彦はにこにこと「やあ、おはよ」と
声を掛けると
ゆうこと並んで話してたので
友里恵は「ね、何の話?ね?」と
顔を突っ込んできた(笑)。
その距離、数cm(笑)
そういう様子を、周りが誤解するんだろうな、と
輝彦は思う。
僕らは、カップルじゃない。
そうは思ったが、無碍に否定もできない(笑)。
過去にもよく、こういう事はあった(笑)。
その時、なぜか麻美が愛車の四駆で店に来たので
ゆうこを駅まで送っていく、と言う事になった。
片野駅は、歩いても1kmくらいだから、そう遠くない。
「でもぉー、雪だよーー」と、麻美は
いつもの調子でそういうので。
みんな、窓の外を見ると
暖かいこの地では珍しく、粉雪が舞っていた。
友里恵は、楽しそう。「ゆき、ゆき!」と
表に飛び出して空を仰いで。
写真を撮ってたけど、そのケータイが
ラメで派手派手、ストラップがいっぱいで
ケータイ本体より大きかったので
輝彦は微笑んでしまった。
のびのびしてて、かわいいな、と。
脳裏に閃いたのは、ゆう子のひとこと。
..友里恵ちゃんは、以前はもっと自棄な感じだったけど。
深見さんと出会ってから、明るくなって....
それはそれで、少女らしくて好ましい事だと思う。
手編みのマフラーを作ろうとしたり、
同じ色、素材のコーデュロイを探したり。
キッチンで、サンドイッチを作ったり。
少女が、恋愛を夢見て
してみたい事、それは
輝彦が少年の頃と変わらないようだ、と
彼は思う。
友里恵にちょっと驚くのは
とても大胆なときがある、こと。
誰もいないとき、胸の中に倒れ込んで来たり。
誰かがいても(笑)すりよってきたり。
そういう所が、カップリング済み(笑)と
誤解される所以でもあったが
別に、愛を誓い合った訳でもない。
何かに追われるように、そうしているようで。
タイム・リミットに追われる
天使のようだ、とも思う。
おそらく、安らぎたかったのだろう。
過去の話などをゆう子に聞き
断片だけでも苛酷な状況が伺え
友里恵が望むなら、安らいでいてもらいたいと
思う。
でも、それが友里恵の望む恋愛かどうか、は
彼女自身がいつか、気づく事だろうと思うし
もし、このままで良いのなら
それもいいかもしれない、とも
輝彦は思った。
ゆう子を駅まで麻美が送る、と言うので
「あ、あたしもいくー」と友里恵(笑)。
それじゃぁ、バイトになんないじゃん(笑)と
輝彦は思ったが。
まあいいか、と、送り出す事にすると
「あ、でもそれじゃあひとりになっちゃう、お店」と
気をつかう、優しい子、友里恵(笑)
「いいよ、だいじょうぶ、いっといで友里恵ちゃん」と
輝彦が言うと、
「その呼び方やめてよー」と、友里恵。
なんて呼ぶの?と輝彦が聞く、すると
「友里恵、って呼び捨てでいいの(にこにこ)」と
友里恵は楽しそう。
「じゃあ、いっといで、友里恵」と、輝彦が笑顔で言うと
「はい、ア・ナ・タ」(笑)
それでもなんとなく恥ずかしそうな友里恵は
とことこ、と表に飛び出していった。
「キミたちはなーにをやっとるの(笑)」と、麻美。
でもまあ、和やかでいい朝だ。
麻美の、赤いいすゞ・μが
駅に向かって走り去る。
そういえば麻美は9時からのシフトなのに
早く来たなぁ(笑)
友里恵のアッシー君かな(笑)。
雪はすぐに止んで
「積もるといいのになー」と、つまんなそうな
友里恵を乗せて、麻美は帰ってきた。
輝彦は、ちょっと気になっていた事を
麻美に聞いてみる。
「ここのさ、前の店長さんが
あの駅で線路に落ちたんだよ
ね」
麻美は、ちょっと驚いた感じで「そうですね」
「その時、ひとりだったの?」
麻美は、思い出すように「店を出る時は。」
でも、いつもだったら恋人の大学生が
途中で車に乗せていくので、待っているそうだ。
ふつう、コンビニってのは
二階に住居を持って、下でお店とか
そういう、住み込みのお店を作る。
脱サラの夫婦が、家とお店を同時に手に入れると
夢を持って始めるから、だとか。
でも最近は、家を別にするのが増えている。
そうしないと、プライバシーが保てないとか
そういう理由らしい。
ここの場合は、亭主が反対してたんで
尚更、らしい。
「じゃあ、駅までふたり?」と輝彦が尋ねると
「その時間は電車が無いので、駅に行く理由が
ないんです」と、麻美。
輝彦は考える。
駅に車で行ったなら、目撃されている筈。
だが、深夜の無人駅。タクシーもいないだろうから
それは不明だ。
もし、見つかっていれば
恋人の大学生は重要参考人、だし
無理心中の可能性もある。
いや、それどころか殺人容疑だって
成立するだろうと
輝彦は思った。
「その大学生、病院に入っているって言うけど...どこの?」
と、輝彦は尋ねる。
麻美は、ゆう子と同じく、どこか分からないけど
「ショックで心を痛められたとか...」と。
それはそうだろう。
しかし、輝彦は探偵としての冷徹な解析視点も
持ち合わせている。
嫌疑を逃れる為の詐病、と言う事もあるし
誰かが罪を彼に被し、詐病を指示して
入院させたかもしれない。
保健所長の指示があれば、一般市民を
措置入院として病院に収容する制度がある。
実際は、司法警察官が要請し
医師二人以上の指示を要するが。
そのあたりは、どうにでもなる。
心の中は見えない。
精神分析の知識がある者が
演技指導すれば、うまく操作できてしまう。
「なーに、考えてるのふたりで。あやしいぞーー!」と
友里恵が飛び込んできた。
輝彦が、女の子と話してると
いつも邪魔しにくるのは
所有権を主張するのか(笑)。
「大人の話、」と、麻美がからかう。
友里恵も大人だよー、もうじき。なんて
おどける友里恵は、可愛い(笑)。
そうそう、18になればね、と麻美が言うので
輝彦はどっきりしてしまった(笑)
青少年健全育成条例で、18歳未満の者と
不適正な関係にあると、淫行と見なされタイホ(笑)
なのだ。
別に待ってる訳でもないが
その頃になれば、答えは出るだろうと
思ったりもした。
「うん、あの、前の店長さんが事故かなって」と
輝彦が言うと、友里恵は
「うん、でも、かわいそう。死んじゃうなんて。」
と、淋しそうな顔になるので
「もう、過ぎた事だけどさ、気になるんだ。
ほんとに自殺かなぁって」と、輝彦が言うと
「刑事さんみたい」と、友里恵は笑う。
「フリーライターなんだって」と、麻美は言うので
友里恵は、「そーなんだ、なんかいいね、自由っぽくて」
自由。
友里恵の好きな言葉だけれど
そんなに束縛されてるのかなぁ?
まあ、確かに
13歳から女、として
求愛されるのは確かに窮屈かもしれない。
それも、相手が教師じゃな.....
バイトが9時で終わってから、輝彦は
仕事に就く麻美に、もう少し聞いてみた。
「いつも、大学生と元オーナーは、そうして帰ってたの?」
そうみたい。と頼りなく麻美が言う。
店の外の事まではよく分からない。
それは本音だろう。
最初は親切で、大学生が送ってあげていたのだけど
そのうちに、どういう訳か愛し合うようになった。
堂々と店から送ればいいのに、途中で待っている
あたりで怪しまれた、とか(笑)
策士策に溺れる、か。
バイトが引けたので、帰りに片野駅によって来ようと
輝彦が帰り支度をすると、友里恵が
「捜査?あたしもいくー(笑)」なんて言うので
バイト残ってるじゃん、って言うと
友里恵は、唇を尖らせて「つまんないー」って言う(笑)
その仕草も、とっても可愛い。
尖らせた唇に触れたくなる(笑)。
その視線に気づいて、友里恵がすり寄ってくる。
けど麻美が(笑)「キミたちはなにしてんのかなー。」
なんだかなぁ(笑)
ひとりで、片野駅のホームを見る。
深夜に入ろうと思えば、無人駅だから入れる。
別に自殺でなくても、ホームには明かりもあるし
防犯カメラもある。
だから、自殺と断定できないなら
映像が役に立たないのだ。
深夜なら、ホームの明かりは落ちているから
ビデオは映ったとしても、列車のヘッドライトの
範囲だけだろう。
それでは自殺、かどうかは
はっきりしない。
後ろから落とされた可能性もある、のだ。
しかし、深夜の駅に
わざわざ入ってくるのは、野良猫くらいのものだ。
経緯からして、夫婦仲はあまり良くなかったようだ。
それでなければ、家事を置いてコンビニ経営など
考えないだろう。
その心の隙、と人間故の生殖の欲求に
大学生のバイトは、魅力的に映る。
フランス映画にもよくある(笑)。テーマだ。
別に恥じる事もない。
別に、亭主が嫉妬深くなければ
問題はない。
だから、動機があるとすれば
亭主だが、お堅い公務員で
殺人を犯すような人物とも思えない。
なぜかと言えば、鉄道を殺人の現場にすれば
証拠を綿密に取られるので
犯行が発覚するし、ばれたら免職である。
ふと、見上げると
ホームの端には、スポットライト。
そういえば、夜行列車の車窓から見た記憶がある。
深夜でも、昼間のように明るく線路を照らしている
ライト。
それが点いていれば、
列車から、線路上に
人が居たなら
非常ブレーキを掛ければ
停まれるはず。
鉄道法では、600m以内に停まれる速度で走る
ように定められている。
まして、ここは直線だ。
貨物列車と言っても、鉄道法の例外ではないから
遥か遠くに見えるカーブを、制限速度一杯,75km/hで抜けたとして
最高速度は110km/h、と言っても
深夜の無人駅ホームに人が居れば、ブレーキを掛ける筈だ。
それなら、ホームに転落したとしても停まれるだろう。
輝彦は推理した。
貨物時刻表を見る。
その時刻の列車は、コンテナ特急列車で
大阪、吹田ターミナルから東京汐留行き。
ゆう子の話では、「損害賠償にはならなかったらしい」と言う。
不審だ。
特急貨物列車が、仮に30分停車すれば
後続列車や、寝台特急列車も先に進めなくなるから
遅延損害を請求されるかもしれない。
可能性は、幾つかある。
1)列車に接触せずに、転落時に線路外で頭部挫傷などで死亡。
2)そもそも列車が停まらなかった。
3)何等かの過失が鉄道側にあり、過失相殺をした。
....うーむ。
輝彦は考え込む。
1)の線でも、警察が来るまでは列車は走行できないが
運転士が気づかないと、そのまま通過してしまうから
遅延は起こらない。
2)事件がなかった、と言う事。鉄道自殺ではなく、別の場所で殺害されて
駅ホーム下の線路に転がした。運転士は気づく事もなく通過。
3)例えば、運転士が居眠りをしていた、照明が故障していて
レール上の人に気づかなかった。ブレーキが遅れた、利かなかった。
いろいろ、考えられる。
警察が裁定したとなると、1)か、3)の線が強い。
だが、何れにしても、呪いではなさそうだ(笑)。
もし、発作的に飛び込んだなら、呪いかもしれないが。
保険金が出るので、コンビニ・チェーン側は損をしない筈である。
普通、そういう借金をするときには支払い担保として
支払いをする人が死んだ時、保険金が出るように
設定されているのだ。
オーナーはそれを知っている。夫も知っている。
チェーンは勿論知っている。
ただ、自殺と事故死では出る金額が違うので
それで、チェーンは事故死とした、というゆう子の言葉は
理解できる。
つまり、次のオーナーになる人は
最初から、ただ、無料で建った物件に
金を払う事になるわけだ。
前のオーナーの死亡保険金で、店の建設費用は全額返済されているからである。
それなら、無料で友里恵たちに提供してもいいのだが
そこは、商売である。チェーン店も。
そこで、地元の新聞社に
フリーライターとしての、コネで
当時の事を聞いてみると
列車にはねられたのではなく、高速な
列車の風圧で飛ばされて
線路脇下のどこかに当たったのが
死因、との事で
事件性を問わず、警察と鉄道会社で
不慮の事故、としたそうだ。
それで、遺族が
経営を継承しなかったので
コンビニチェーンが、店を受け取り
次のオーナーを公募して、つまり
既に保険金で支払い済みの店を
新しいオーナーに貸し、賃貸料をもらおうという
そういう話、らしい。
世の中、金持ちに都合良くできてるなと
輝彦は思った。
新築でコンビニが建ち、10年くらいで閉店する
のは、そんな理由もあるのかと
その巧妙さに、輝彦は呆れた。
自殺か事件か、を調べるつもりだったが
それでは、前オーナーは
死を選んだ方が得策と考えたかもしれない。
ただ、もし。
夫や、恋人の大学生に
愛されていれば、死を選ぼうなどとは
思わなかった筈。
愛、は生きる希望足りうる。
何もなくても、それだけで
死にたくないと思う筈だ。
反対に、愛を失ったとき
死を選ぼうとするかもしれない。
輝彦は、友里恵の事をイメージした。
愛、それを失う事のないように、と。
それで事件性を否定するのは
事なかれ主義ではないけれども
田舎の警察によくある感じだなと
輝彦は思う。
住人を、駐在や交番で
知っているので
嫌疑を掛けるか否かを
普段の巡査活動で見極めているのだ。
次のバイトの日。
輝彦は、時々
お店を手伝っている程度だったから
そんなに辛いとも思わなかった。
でも、昼間学校に行って
夜、バイトに来たり
早朝勤務したりする友里恵たちは
若さがあるな、と(笑)
おじさんっぽく思う。
時々、寝ぼけていても
メークだけはしてきたり。
学校じゃ禁止なんだろうけどなぁ(笑)
みんな、なにがしかのメークアップをしている
JKたち、である。
けれども、輝彦の高校生時代でも
やっぱりおしゃれしたい年頃だった。でも
まわりでしなかっただけで(笑)
いまは、みんなでしてるから平気なのだろう。
そんな多忙な中、クリスマスが過ぎ
冬休みに入った。
クリスマスになると、主婦パートたちは
理由をつけて休みがちになる。
子供が家にいると、パートどころではないとかで(笑)
クリスマスはなんか、イベントとか(笑)
もう、辞めてもらった方がいいと
本部では思い
バイトの募集をしたりする。
事実、パートを休んでいるのに
店の裏口に車を付けて
廃棄寸前の弁当を持って行ったりする。
ついでに、冷凍肉まんやパンなんかも。
車で持って行くので、どうしようもない(笑)。
その事を友里恵や麻美たちは、普通に見ているので
理由を尋ねると「前の店長がしていたから」とか。
まあ、経営者だから店の物を持って行っていいとか(笑)
そういう姿勢がまずかったらしい。
まあ、背景には貧困があるのだろうけれど。
この店を立て直すのは困難だと
輝彦は思った。
それでもクリスマスに、友里恵はちゃんと
マフラーをくれた。
少し不格好だったが、手編み、を作りたいと言う
心が嬉しかった。
ありがとう、いい子だね、と言うと
友里恵も喜んでいた、ちょっとだけ
不満そうだったのは「いい子」って言い方だったのだろうか。
何も持って行かなかったので、銀が好き、と言う
友里恵に
普段、持っている銀のキーホルダーをあげた。
およそ男っぽいものだが、かえってそれが
かっこいいし、変な男避けになっていいと
友里恵は言う。
男っぽい物を持ってると、カレシの持ち物だと
思って、悪い男は逃げていくとか(笑)
にこにこしてる友里恵の、頭をよしよし、ってなでると
子犬みたいにじゃれて来たので、
愛らしいな、と
輝彦も微笑む。
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