関東電力殺人事件

深町珠

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2番線ホーム

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輝彦も、2番線ホームまで見送りに行く事にした。
もとより、ひとの気配が少ない夜の由布院駅である。
町全体をテーマパークのように仕立てているので
夜の歓楽街のような場所は無く、健康的に演出された
リゾートで、そこは好みの分かれる所かと思う。

ただ、歓楽街は主に男の欲である。
都市、社会は男性的な破壊と征服の象徴であると言われるが
ここ、由布院はその対極である女性的な回帰の場、
ふるさとの原風景を演出している。


都市生活に疲れたひとの癒しの場。

輝彦も、真智子もその都市からの来訪者で
真智子などはその、都市、男性的な破壊と征服に
翻弄された人生を今、送っている事になる。


いや、父の勝又にしても、結果的には征服も
破壊も出来ずに翻弄された訳である。


ホームに止まっている普通列車は大分ゆきの
赤いディーゼルカーである。


エンジンの音が、長閑に響く。

誰もいないホームに、駅の裏手の住宅に住む
大型のピレネーズの吠え声がこだまする。

真智子は、輝彦に向き直り
「本当にありがとうございました。私は、これからは
新しい人生を送れるような気がします。池田湖に沈んだ
姉の事は気がかりですけれど、もう、生き返る訳でもありませんし。」と、気丈にそう述べた。


「ご存じだったのですか」と、輝彦は静かに。


はい、と、真智子は答え「姉は真知子と名付けられて、生まれてすぐ母と引き離されて親類の子、とされたそうです。その頃の母は、勝又家とは関係のない人でしたから。」



それを知ったのはいつですか、などと尋問するのは
止めた輝彦は、話の接ぎ穂を待った。


「私が生まれた時に、真智子と名付けた母は
いつか、姉を引き取りたいと思っていたようですけれど
社会通念、と言うのでしょうか。許されなかったようです。」

それを無念に思っていたのだろう、不憫な事だと
輝彦は思慮した。


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