40 / 187
50 臼杵駅
しおりを挟む
臼杵駅は、1970年代の国鉄の駅そのままの雰囲気で
都会人にとっては旅情を誘う懐かしさである。
行灯式の番号表示、コンクリートのままのホーム。
改札は切符切りが入れるようなステンレスのブース。
スレートの屋根を支える柱はレール、と
古い映画のセットのようだ。
壁面には、地元出身の漫画家、富永一郎さんの
ユーモラスなイラストが、ふぐを模したようなデザインで
描かれていて、旅人が安堵するような
楽しさであったりもする。
プラットフォームは、やや電車よりも低く
それも、古い国鉄時代の客車規格そのままである。
普遍的なふるさとの風景を描いたような駅なので
映画のロケに使われるのだろう。
その背景に相応しく、普遍的な刑事の様相で
名古屋刑事が、輝彦の前に現れる。
やあ、ひさしぶり、と
片手を上げる短髪は、どこか懐かしい。
あれから、永い時が経ったような気がするが
まだ数日である。
どうしてこちらへ、と輝彦が尋ねると
公休日なのだが、ちょっと遊びがてら
輝彦に会いに来た、との事。
予定は伝えてあったのだが、偶然にしては
タイミングが合う。
「いや、時刻表を見ればね、どの列車で来るか
大抵分かるの、田舎は」
と、名古屋刑事の言うとおり
由布院から大分経由で臼杵に来ると言うと
特急に乗る他は無いので
一日に数本、と言う訳だ。
「取材って言うから、この時間かと」
そう、名古屋刑事は
職業的な勘、だろうか、そう述べた。
案外、勘と言うのは役に立つが
地道に同じような経験を続けると、それが
勘、になったりもするからで
経験則は、意外にコンピューターより正確だったり
する事もあるのだ。
「その勘で、真智子事件の真相はどう感じますか」と
輝彦が尋ねると
「いやー、なんとも言えないけど、自殺はないんじゃないかな、毒物を所持していた形跡はないし。」
と、名古屋刑事は言う。
「それに、池田湖までの足取りも掴めない」
地元タクシー運転手に聞き込んだが、指宿のいわさきホテルから池田湖までと言うと
相当メーターが出るので
覚えてるだろう、との事。
タクシーじゃない。なら、バスか鉄道か、と言っても
朝のあの時間に、湖に着くのは不可能だ、と言う。
「列車もバスも、本数がないからね」
なるほど、と頷ける。
田舎だから、かえって足取りを掴みやすいのだろう。
-----------------
都会人にとっては旅情を誘う懐かしさである。
行灯式の番号表示、コンクリートのままのホーム。
改札は切符切りが入れるようなステンレスのブース。
スレートの屋根を支える柱はレール、と
古い映画のセットのようだ。
壁面には、地元出身の漫画家、富永一郎さんの
ユーモラスなイラストが、ふぐを模したようなデザインで
描かれていて、旅人が安堵するような
楽しさであったりもする。
プラットフォームは、やや電車よりも低く
それも、古い国鉄時代の客車規格そのままである。
普遍的なふるさとの風景を描いたような駅なので
映画のロケに使われるのだろう。
その背景に相応しく、普遍的な刑事の様相で
名古屋刑事が、輝彦の前に現れる。
やあ、ひさしぶり、と
片手を上げる短髪は、どこか懐かしい。
あれから、永い時が経ったような気がするが
まだ数日である。
どうしてこちらへ、と輝彦が尋ねると
公休日なのだが、ちょっと遊びがてら
輝彦に会いに来た、との事。
予定は伝えてあったのだが、偶然にしては
タイミングが合う。
「いや、時刻表を見ればね、どの列車で来るか
大抵分かるの、田舎は」
と、名古屋刑事の言うとおり
由布院から大分経由で臼杵に来ると言うと
特急に乗る他は無いので
一日に数本、と言う訳だ。
「取材って言うから、この時間かと」
そう、名古屋刑事は
職業的な勘、だろうか、そう述べた。
案外、勘と言うのは役に立つが
地道に同じような経験を続けると、それが
勘、になったりもするからで
経験則は、意外にコンピューターより正確だったり
する事もあるのだ。
「その勘で、真智子事件の真相はどう感じますか」と
輝彦が尋ねると
「いやー、なんとも言えないけど、自殺はないんじゃないかな、毒物を所持していた形跡はないし。」
と、名古屋刑事は言う。
「それに、池田湖までの足取りも掴めない」
地元タクシー運転手に聞き込んだが、指宿のいわさきホテルから池田湖までと言うと
相当メーターが出るので
覚えてるだろう、との事。
タクシーじゃない。なら、バスか鉄道か、と言っても
朝のあの時間に、湖に着くのは不可能だ、と言う。
「列車もバスも、本数がないからね」
なるほど、と頷ける。
田舎だから、かえって足取りを掴みやすいのだろう。
-----------------
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スマホ岡っ引き -江戸の難事件帖-
naomikoryo
ファンタジー
現代の警察官・佐久間悠介が交通事故の衝撃で目を覚ますと、そこは江戸時代。
混乱する中、手には現代のスマートフォンが握られていた。
しかし、時代錯誤も構わず役立つこのスマホには、奇妙な法則があった。
スマホの充電は使うたびに少しずつ減っていく。
だが、事件を解決するたびに「ミッション、クリア」の文字が表示され、充電が回復するのだ。
充電が切れれば、スマホはただの“板切れ”になる。
悠介は、この謎の仕様とともに、江戸の町で次々と巻き起こる事件に挑むことになる。
盗難、騒動、陰謀。
江戸時代の知恵や人情と、未来の技術を融合させた悠介の捜査は、町人たちの信頼を得ていく。しかし、スマホの充電回復という仕組みの裏には、彼が江戸に転生した「本当の理由」が隠されていた…。
人情溢れる江戸の町で、現代の知識と謎のスマホが織りなす異色の時代劇ミステリー。
事件を解決するたびに深まる江戸の絆と、解けていくスマホの秘密――。
「充電ゼロ」が迫る中、悠介の運命はいかに?
新感覚エンターテインメント、ここに開幕!
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
憑代の柩
菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」
教会での爆破事件に巻き込まれ。
目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。
「何もかもお前のせいだ」
そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。
周りは怪しい人間と霊ばかり――。
ホラー&ミステリー
失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産
柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。
そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。
エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。
そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。
怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。
悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる