関東電力殺人事件

深町珠

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肥後大津から

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肥後大津からは電車は走れないので
ディーゼルカーへの乗り換えをする。

エンジンの振動と音が、どこかなつかしい感じで
乗っていて楽しい列車である。

昔ながらの国鉄ふうの車両で
見た目は電車のようだが、煙は出るし
少し油の匂いもするあたりは
有機的で好ましい。

温もりを感じる、と言うと
文学的に過ぎるかもしれない。

けれど、人間も
そうした温もり、心の優しさを分かち合う事が
生きてゆく上で大切なのではないかと
輝彦は思った。

いろいろな事件を見ていると、それがあれば
平和だったのだろうと思う事が
随分ある。


既に、午後の陽射しから
夕刻に近づきつつある時刻ではあるが
九州は日暮れが遅いので
東の感覚からすると昼間のように感じられる。

白いディーゼルカーは、ドアをがらり、と空気圧で閉じ
ゆっくりと坂を登り始めた。

鋼鉄のボディーは重々しいが
それが却って重厚で、頼もしく感じられる。


左手に阿蘇山を望むあたりに来ると、そろそろ立野駅で

ここからは南阿蘇鉄道、かつての国鉄高森線の
転換路線、自治体出資の鉄道である。

元々、高森線は宮崎県の高千穂へと結ばれる筈だったが
トンネル工事で出水多量の為、断念したと言う経緯を持つ。

それは、原発以前の国策であった。

危険が無いあたりは原発より良いし
民間資本ではなかなか難しい鉄道敷設である。

しかし、採算の取れないような工事も進めてしまう傾向があるのは
公共事業につきもの、である。

その負債で、国鉄は民営化せざるを得なくなったが
現在、黒字を計上するまでに回復している。

つまり、多くの無駄がどこかに消えたと言う事だ。


それは電力利権と同じである。


列車が立野駅に着き、乗り換えは3分と言う
通勤電車並みのスムーズさで、レールバスは登山を始める。

ほとんど乗客は、熊本方面への通学客である。

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