関東電力殺人事件

深町珠

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新幹線さくら号

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新幹線さくら号は、中国語と韓国語、英語のアナウンスが
録音で流され、賑やかな印象なのは

大陸に近い九州らしい。

かつては国策として、弾丸列車構想と言い
海底トンネルで韓国とつなぐ計画もあった。

今では、そんなものは無くて良かったと
思っている人が多いのではないか、と思う。

国策とはそんなものだ。そこに多くの矛盾が生じ
辻褄合わせを政治が行う。

公開できない事もあるのだ。



ふと、新幹線の車内に視線を移すと
シートを向かい合わせにして、中年の女性が
老夫婦とお弁当を食べていたりする。


嫁いだ娘と両親、いや
独身の女性のように見える。




輝彦は、真智子とその婚約者の事を思った。

彼については、捜査線の対象から何故か外されているのが
不思議だ。

警察も疑ってはいない。

鹿児島県警の名古屋刑事によれば、指宿には
来ていないと言うあたりが不審ではあるが。


所在が確認できていると言う事だろう。

それとも、真智子自殺説に固めたいので
外していると言う事だろうか。



秋と言うのに、陽射しの強い九州。
ブラインドを下ろそうとすると、それは
昔懐かしい鎧戸をイメージした木製のものだった。

凝った作りに感心する。


木の感触は、どこか落ち着きを誘う。




熊本までは一時間半、ゆっくりと過ごそう。


先程の親子も、落ち着いた様子だが

娘らしき人物は、切符を出して勘定を始めた。
割り勘なのか、親にねだっているのか。


親子と言うのは遠慮が無くていいものだと思う彼だが
自身は父が官僚であったためか、実感に乏しい。
ホームドラマの中にしか無いものなのではないかとも
思っていたりする。

そのような無意識からだろうか、傲慢なもの、不条理なもの。
そうしたものを是正する事に、どこか喜びを覚えるのは
父の自由を束縛してしまった、仕事、それも「国策」である。

この事件に関わる事は、無意識下のそうした
嫌悪感を払拭するような、心理的効果もあるのだろうと
輝彦自身も思っていた。

兄は、どう思っているのだろう。
父と同じ轍を踏み、似たような人生を歩んでいるが
逸脱した弟を、どこか羨ましげに見守っているような
そういう感じもある。


この事件を解決する事で、兄に迷惑が掛からなければ
いいのだが。


いつも母が言うように、兄の出世の妨げになりたくはない。

だが、持ち前の正義感は、隠せない。
それは、生まれついてのものであったのかもしれない。

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