関東電力殺人事件

深町珠

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鹿児島、13時40分。

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鹿児島に着いたのは、13時40分。
新幹線ホームは、行き止まりで
まるで地方私鉄のように簡素な作りであることは、
輝彦はノスタルジーに浸らせてくれた。
それだけでも、ここに旅して良かったと彼は思う。

そのまま、宮崎方面へと鉄道が延びていきそうな
形態に、未来を感じたりもするが。

かつて、西鹿児島と呼ばれていたこの駅は
東京からのターミナルであったが
今もそれは変わらない、賑わいを見せる駅である。

到着した列車が、すぐに折り返し新大阪行きとなる。
慌ただしいようだが、それがターミナルである。


エスカレーターで一階に下ると、見覚えのあるような
在来線の景色に変わり、少し安堵する。

格別急ぐことのない旅なので、一度改札を出る事にする。
乗ってきた切符に、乗車記念スタンプを押してもらって
持ち帰る、そんな乗客もいるので
輝彦も、そうする事にした。

桜の花をあしらっている楽しい印章の穏やかさに
微笑みを覚えるような、いい演出である。

その列車に乗っている証明にもなる。

探偵っぽく、不在証明の種と考えた輝彦は
やや自嘲気味に、次の列車の発車時刻を見る。
14時12分。

30分ほど間がある。
その次は15時14分なので、駅前を散策してみたりもした。

地域特産の品などのイベントが賑々しく行われ
無料配布されていたりして、輝彦も
自然とその輪に入ってしまっていたりする。

穏やかな地域の人たちの笑顔に囲まれ
美味を楽しみつつ、旅の午後は過ぎて行く。

指宿ゆきの普通列車は満員に近かったが
それでも座席にゆとりはあるあたりが
ローカル線の良い所。

ボックス席を地域の女子高校生たちと共有しながら
列車に揺られていると、浦島太郎伝説の事や
池田湖の恐竜伝承の話、なども
それとなく取材されてしまった。

70歳代くらいだろうか、品の良い
農婦らしい方が「指宿のたまて箱」と言う列車が
それで出来た事、とてもステキなの、と
にこにこされていたりした事に、ちょっと感銘を受ける彼でもあった。


その、素直さと穏やかさ、少女のような感性に。

老若を問わず、感銘を受ける輝彦である(笑)


「どのあたりに素敵さをお感じになりますか」と
輝彦は、その貴婦人にインタビュー。

ソフトな甘いマスクの輝彦は、どこでも、誰にでも
好まれるようで、婦人もやや気恥ずかしそうに

たまて箱の煙、が出るところ、と
本当は淋しいお話の、浦島太郎の伝承を
楽しく見せてくれるところ、などを素敵だと
婦人は述べ、輝彦は頷く。

確かにそうだと思う。夢のように楽しいひとときに
浸りすぎた浦島太郎が
現実に戻る時、代償として若さを奪われた。

人生もそうかもしれない。
享楽的に過ごしていると、いつか代償を払わされる。
それを怖れ、忌避して自殺したりする人もいる...


輝彦は、ふと
関東電力会長変死事件を類推したのは
探偵としての天分かもしれなかった。

長きに渡り、利権を欲しいままにしていた
日本の電力会社代表。
地震がきっかけで、全てを奪われた。

そう、彼も「浦島」ではなかったのだろうか。
だとすると、自殺の可能性も...などと考えに耽っていたのは
ほんの一瞬だったが。

婦人が、輝彦の様子を伺ったので
彼は、愛想笑いで繕った。
すみません、ちょっとぼんやりしていました、と。

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