汽車旅つれづれはなし

深町珠

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さくら 2005/2

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皆さん、お元気ですか?山岡です。

僕は相変わらず旅の日々でありますが...
そうそう、特急「さくら」が無くなってしまうのですね。
それで、今回は「さくら」の想い出などをつれづれなるままに
オハナシしてゆきたいと思います。


[さくら]

僕は子供の頃、静岡に住んでいた事がありました。
昭和40年代、東海道線のこのあたりはもう電化されていましたが
未だ構内入れ替え蒸機は健在であり、東は沼津機関区や国府津機関区には
まだ扇形庫が残っており、すこし都市から離れれば煙の匂いを感じる事ができた時代で
東海道本線には80系、153系、111系が湘南色で花形だった時代でした。
電気機関車はEF58、60、65やEH10が主で、デッキ付きの古い茶ガマもたまに見かけ
最新鋭、鳴り物入りで登場したEF66がフレートライナーを率いて飛び回っていた、そんな頃でした。

九州ゆきブルートレインも華やかに、「さくら」「富士」「はやぶさ」「あさかぜ」「みずほ」と
20系の丸いテールがとても愛らしく見え、鉄道少年の憧れの的でした。
僕の通っていた小学校は線路のそばだったので、授業を受けていてもブルー・トレインの
往来がよく見えましたから、通過時刻が近づくと窓の外ばかりを見ていて
よく教師に叱られたものでした。(笑)。

今は特急、373系6両の「東海」も、当時は急行、153系15両(だったと思う)、4往復が
東京-大垣往来だった時代で、庶民の利用はもっぱら「東海」止まりで
それも特別な時くらいで、普段はもっぱら80系の利用でした。

で、東京に行く時はさすがに当時の普通電車では遅すぎたので「東海」の利用、となる訳で

その頃の上り朝ダイアでは「東海1号」に乗り遅れると次の「東海2号」まで時間が空いてしまうので
やむなく普通か、新幹線利用となっていました。
新幹線は0系がまだまだ新車で、200km/hの指針をビュフェの速度計(当時はあったのです)見、
高速時代が来たと感動を覚えて居たような記憶がありましたが....なにぶん料金が高く
今のように新幹線で通勤などは考えられないような時代でした。

ある日のこと....
僕は父のお供で東京に行く事になりました。
鉄道少年として、これほどうれしい事はありません。153系に乗れるのだ、
品川客車区も見れるし、国府津のD52(扇型庫は現在の駅のすぐ側、山側にあり、無煙化後も
そこにしばらくD52は置いてありました)。が見れるとワクワクしていました....。
が。

バスが遅れ、駅に着いた時にはすでに「東海1号」は発車してしまった後で
僕はがっかりしていました。
今なら80系に乗れて喜ぶのでしょうが、当時の少年としては古い各駅停車で
行くのはなんかカッコ悪い、と(笑)そんなフウに思っていました。

あるいは、今日の旅行は中止になるのかもしれないな....と。

複雑な思いで、僕は父の顔を見上げていました。

東海道線上りホーム、通勤時間はそろそろ終わりでホームは閑散としていました。


ぼんやりと、僕は列車到着表示を見ていました。


すると....


鋭く空気笛が鳴り、EF65がホームに滑り込んできました。
貨物列車か?と思いました。

違います。丸いヘッドマークには桜花があざやかに五つの花びらを開いています。

「さくら」号でした。

いつも沿線から見上げていた20系は、金属的な車輪の響きも軽やかにホームに停止します。


目前にある折り戸、寝台特急の気だるい朝のムードと共にある、車内の旅客の非日常感....


特別な列車がそこにある、と、僕は思いました。


この当時、遠い未来に旅行ばかりをする人間になるとは思っても居なかった僕は
父に言いました「乗りたい」と。

この機会を逃したら二度と乗れないような、そんな気がしたのです。



勢いで僕は父の手を引き、短い停車時間の間に20系のデッキに滑り込みました。


それまでも東北特急には何度か乗車していましたが、なぜか「さくら」は特別な列車だと言う
イメージがありました。


デッキに立つと、EF65は衝動すらなく滑るように発車しました。

軽やかな、今の24系とも14系とも違う車輪の響き、静粛な室内...。

一級品の輝きが、そこにありました。



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