10 / 38
583系の昼
しおりを挟む"はくつる81号" は、昭和の香りを乗せて
<その9> 583系の昼間...
ぶらぶらと、撫牛子方面に向けてバス通りではなく、田んぼ道を歩く。
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/ringo.jpg
遥か、夏空に岩木山が霞んで見え、以前は林檎畑だったあたりに国道7号線が4車線で。
雰囲気的には、茨城県とかの国道沿い、のように田畑と不釣り合いなほど
都市的なコンクリートの建物が並ぶ、商業地域に。
地場産業の育成という意味では仕方のない事なのだろうが、
イメージしていた故郷の景色が消えて行く、というのはやや淋しさを覚える..
夏のひざしはいくらかエネルギィを増し、頭にかぶっていたタオルも殆んど乾いて来た。
ザックにしまってあった帽子をかぶり、ついてに昼飯にしようか、と田の畦道に腰を下ろす。
往路、コンビニエント・ストアに立ち寄ったところ、大量生産のコンビニおにぎりでなく、
手作りの丸いおにぎりが、台所用ラップにくるまれて売られていたので、上野で買った
コンビニおにぎりがあるのに、買った。
この弘前地方では昔からおにぎりは丸く、大きさはだいたいソフトボール競技の球くらい。
海苔を巻いて、だいたい中身は鮭、とかの海の幸か、漬物など。
僕も祖母によく作ってもらって、小川に釣りにいったりしたものだった..
などと思いつつ、コンビニの弘前風おにぎりを食す。
塩加減、中身の鮭の切身、などは30年前を変わらないように思えて。
しかし、白いコンビニ袋を見、これがコンビニエント・ストアで売られていることに
時代の流れを覚えた。
遥かに遠い夏の日には、手作りのお弁当を持って遊び回った少年たちも
今は、どこにも姿は見えず。
<映像>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/fujisaki,mpg
舗装された農道を、白い軽自動車ががたがたと走り去っていった。
運転者は僕と同じくらいの年代..
もしかしたら友人かな。と思い、顔を見たがわからず終い。
また、徒歩でバス通りに戻る。と、丁度いい具合いに弘前行きの弘南バスが通りかかったので
手をあげて、バスを停めた。
やや歩き疲れたのと、靴底が磨り減ってきたのが気になってきたからだ。
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/momota.jpg
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/yane.jpg
バスは青森空港線だったようで、大柄の観光バス、車体はおそらく20年くらい前のもの。
茶色いビニール・レザー、丸い蛍光ランプの室内灯。
サンシェードの青も、どことなく時代ががって見える。
乗客は皆、ご老人、老婦人。
地味な服装の、東北の顔立ちが、観光バスの華やかさに似合わない。
僕は、最前列のシートに腰掛けた。
もとより、がら空きだからどこに座っても良いのだが。
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/kawa.jpg
撫牛子駅前でバスを下車する。
停留所3ツ、およそ3km程度、とはいうものの、バス料金は200円にもならず。
これで利益が出るのか、と、他人事とはいえ少々心配になる。
さて、徒歩で撫牛子駅までは1分にもならず。
撫牛子駅前まで来ると、上り普通電車、701系2両が丁度ホームに停車していた。
運転士が僕の顔を見、乗るのか?といいたげな表情。
こんなところもローカル線区らしい。
列車本数の少いローカル線だと、こんな感じで発車を待ってくれたりして
なんともほのぼのとして人の温もりを感じる。
都会では過密ダイアでこんなサービスは不可能だろう。
僕は、上りに乗るか、下りに乗るかを決めていなかったので
運転士に手を振って「乗らない」という意思を伝えた。
運転士は頷き、701系は発振器の音楽のようなサウンドを残して、弘前方へと
軽快に走り去った。
さて、ホームに上り、僕は時刻表を見た。
先ほどの電車は648M , 弘前行き。 11:42 弘前着。
しかし、弘前からの先の連絡は14:26 の 「かもしか2号」2042Mまではない。
大鰐温泉に行こうかと思っていたが、これでは少々時間がかかりすぎる。
648M に乗車しなかったのはまあ正解とも言える。
それならばバスを下車せず弘前のバスターミナルまで行き、
弘南鉄道の大鰐線へと乗りついだ方がよかった筈だ。
時刻表の奥羽本線、下り方面を見ると..
13:12 に下り、青森行き649Mがある。
おそらく、先程の上り648Mが弘前駅で折り返して来るのだろう。
帰路も夜行列車なので、どこかで温泉に寄ってゆこう..と思う。
以前、この平川付近にも「平川温泉」があったらしい、とガイドブックには載っていた。
しかし近所で聞いてみたところ、そのような温泉は無い、という。
電話帳にも載っていない。
485系特急「かもしか1号」が、タイフォンを鳴らして走り去る。
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/kamosika.jpg
奥羽本線沿線で、青森までの途中で..と考えてみたが、思い当たらず。
それならば、と青森まで直行し、青森からJRバスで十和田湖方面に向い、
八甲田山麓の温泉に行こう、と思い、649Mからの乗り継ぎを見てみると...
649M
13:12 ->13:52
撫牛子 青森
14:30---->15:34----->15:43------->15:53----->15:56----->16:14[みずうみ14号]
青森 城ケ倉温泉 酸ケ湯温泉 猿倉温泉 谷地温泉 蔦温泉
17:05<----16:08<-----16:05<-------15:43<-----15:38<-----15:28[みずうみ9号]
18:05<----17:08<-----17:05<-------16:43<-----16:38<-----16:28[みずうみ11号]
19:05<----18:08<-----18:05<-------17:43<-----17:38<-----17:28[みずうみ13号]
と、温泉に入って折り返し、とするにも都合がよいから、どこかで途中下車しよう。
この路線は周遊ゾーンであるから、料金もかからないし。
そう思うと、じっくりこの駅で残り時間を楽しもう、と思う。
ザックから洗濯物を出し、人気のないのをいい事にホームに干した(笑)
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/sentaku.jpg
その脇で、先程のコンビニエントで買った氷を、コップに開けて飲む。
真夏の太陽の下、しかし、8月も半ばの青森の空は、
どこか、もう秋を感じる風が爽やかだ。
この、撫牛子駅から、青森方へ進むと、平川の橋がある。
よく、この橋のたもとから蒸気機関車の写真を撮ったっけ...
などと、少年の頃を思い出していると、突然、気動車が駆け抜けて行った。
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/828D.jpg
惰行の気動車は音が静かで、ちょっと驚く。
時刻表を見ると、鯵ヶ沢ゆき828Dだ。
鯵ヶ沢、というと五能線。川辺から分岐して、ぐるりと日本海沿岸を通り、奥羽本線の秋田方、
東能代までの路線。
この路線も、時々蒸気機関車の写真を撮りにいった記憶があるが、まだ非電化のようだ。
旅行に出た時くらいしか気動車に乗れる機会のない僕にとっては
そんな時、旅していると実感するものだが、今回は乗車の機会が無かったので
その内、あの気動車にも乗車してみよう。
と、時刻表をみながらぼんやりしていると、弘前方面からレールの響き。
........臨時列車?
時刻表をザックの上に置き、なんとなくカメラを持つ。と、三条の光が
ヘッド・ライトより放たれて。
...あれは...たぶん...。
見間違えるはずもない。
Nikon-FEのレンズ・キャップを外し、ズボンのポケットに入れる。
右手の親指でフィルムを巻き上げ、左手指先でピント・リングを送り
架空のポイントにフォーカス。
ファインダーに、ゆっくりと近づく列車のフロント。
露出計の針が、シャッター速度を表示する。
右手の指先で、露出計の指針よりやや
シャッター・スピードを早くし、左手でレンズの絞りリングを移動させる。
その度、露出計の針は敏感に上下する。
文字にすると長いが、僅かな時間にこれを行う...のが、マニュアル・カメラの醍醐味。
..真夏の昼下がり、被写体は明るい色、TTL露出計はグレイの反射だ、との計算値だから、
指針に合わせると、暗くなるはず、だから...
などと、考えながらも列車がファインダーの中に拡がって。
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/rinji.jpg
緊張。
ピントを送りながら、レリーズ!。
バネの反発でミラーが跳ねる。
583系団体臨時列車。
回送のようだった。
テールを見送り、もう一度シャッターを切る。
今度は陽射しが背中からなので、いくぶん露出を抑え気味に。
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/hissyou.jpg
....上手く撮れただろうか。
現像が楽しみだ。
偶然、があるので沿線写真撮影は楽しい。
その後も、鯵ヶ沢で折り返してきたさっきの気動車を50mmで流し撮り
(これは、失敗。)
<写真>
http://users.goo.ne.jp/c62_/view/829D.jpg
長いレンズを持ってくれば良いのだが、荷物が重くなるのは嫌だし。
それに、50mmで撮れば写真の練習にもなる。
遊んでいると、すぐに時間は過ぎ、下り649Mは定刻、 13:12に到着した。
いざ、出発、となると、名残惜しい。
もう少し居たかった。などと思いつつ、がら空きのロング・シートに腰を下ろし
懐かしい平川橋梁を眺めながら、故郷を後にした。
景色にはちょっと似合わない感じのモーター制御の発振器の音とともに
701系は素晴らしい走りを見せた...
-------|以下、次回に続きます..|-------
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
タビスルムスメ
深町珠
青春
乗務員の手記を元にした、楽しい作品です。
現在、九州の旅をしています。現地取材を元にしている、ドキュメントふうのところもあります。
旅先で、いろんな人と出会います。
職業柄、鉄道乗務員ともお友達になります。
出会って、別れます。旅ですね。
日生愛紗:21歳。飫肥出身。バスガイド=>運転士。
石川菜由:21歳。鹿児島出身。元バスガイド。
青島由香:20歳。神奈川出身。バスガイド。
藤野友里恵:20歳。神奈川出身。バスガイド。
日光真由美:19歳。人吉在住。国鉄人吉車掌区、車掌補。
荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。
坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。
三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。
鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。
板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。
日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。
坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。
橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。
三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。
松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
肥後の春を待ち望む
尾方佐羽
歴史・時代
秀吉の天下統一が目前になった天正の頃、肥後(熊本)の国主になった佐々成政に対して国人たちが次から次へと反旗を翻した。それを先導した国人の筆頭格が隈部親永(くまべちかなが)である。彼はなぜ、島津も退くほどの強大な敵に立ち向かったのか。国人たちはどのように戦ったのか。そして、九州人ながら秀吉に従い国人衆とあいまみえることになった若き立花統虎(宗茂)の胸中は……。
お盆に台風 in北三陸2024
ようさん
ライト文芸
2024年、8月。
お盆の帰省シーズン序盤、台風5号が北東北を直撃する予報が出る中、北三陸出身の不良中年(?)昌弘は、ひと回り年下の不思議ちゃん系青年(?)圭人と一緒に東北新幹線に乗っていた。
いつまでも元気で口やかましいと思っていた実家の両親は、例の感染症騒動以来何かと衰えが目立つ。
緊急安全確保の警報が出る実家へ向かう新幹線の車中、地元に暮らす幼馴染の咲恵から町直通のバスが停まってしまったという連絡が入る。
昌弘の実家は無事なのか?そして、無事に実家でのお盆休暇を過ごすことができるのか!?
※公開中のサブタイトルを一部変更しました。内容にほぼ変更はありません(9.18)
※先に執筆した「ばあちゃんの豆しとぎ」のシリーズ作品です。前作の主人公、静子の祖母の葬儀から約20年経った現代が舞台。
前作を読んでなくても楽しめます。
やや残念気味の中年に成長したはとこの(元)イケメン好青年・昌弘が台風の近づく北三陸で、鉄オタの迷相棒・圭人と頑張るお話(予定)
※体験談をヒントにしたフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。
※題材に対してネタっぽい作風で大変申し訳ありません。戦乱や気象変動による災害の犠牲が世界から無くなることを祈りつつ真剣に書いております。ご不快に思われたらスルーでお願いします。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
山の秘密のアイスクリーム屋さん
O.K
エッセイ・ノンフィクション
物語は、無断で山に入る主人公が、山の中で美味しいアイスクリームの秘密を見つけ、山を買い取りアイスクリーム屋さんを始めることになるという冒険と成長の物語です。主人公は地元経済の活性化や環境保護にも力を入れ、成功と責任感を兼ね備えた新しい人生を歩んでいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる