科学は、如何にしてヒトを幸せにするか～ななの例～

僧侶の道

古来、僧の道である
人の安らぎへの誘い。

加藤は、それを記憶のどこかに
持って生まれて来たのだろう。

幼い頃から、物静かな子供で

争う事を好まない性質が

性格に、顔に、表情に現れる。


それが、ゆきなの安心につながるのなら、と
加藤はそう思う。



ゆりの時もそうだった

cafe rulieでのひととき。


静かな店で、快い時間を過ごして。




「しばらくです」ゆきなは
控えめにそう挨拶。


そう広くはない店の奥で、加藤との
再開を喜んだ。


まっすぐな黒髪は整って、艶のある
切り揃え。


淡い色合いの服装だが、スカートではない
あたりに、ゆりと似た雰囲気を感じる。



何か、怖い記憶があったのだろうか。


そう思ったりしたが、思い出させない
方がいいと
加藤は、柔和に微笑んだ。


「元気そうですね」




ゆきなは、俯きながら微笑むと

白い歯が、薄い唇からこぼれる。


清潔そうな雰囲気は、パン屋さんに
似合いだが

でも、元々は歯科衛生士だった。




「今は、お仕事を戻られたのですね」と
ゆきなは静かに言う。


大きめの黒い瞳が、少女の面影を残すが
少し、悲しみ色にも感じられて

秋風のようでもある。




「はい。もう働かなくてもいいのだけど」と
加藤は笑う。



無限エネルギーの事は、ゆきなも知っているらしく


加藤の業績を讃えた。



「おかげさまで、私も静かに暮らせています」


働く必要がなければ、歯科医の
傲慢に付き合う事もなかったろう。



もっと早く進んでいれば、と
加藤は思うのだが。



ゆきなは、少し話しにくそうだったので

加藤は「時間、いいですか？僕の車で
少し走りましょう、そこでお話を」


レモン水を飲みながら、軽く
そんな風に言う。


ゆきなは、自ら話したいらしい。







階段を上りながら、白い壁側に沿う
ゆきな。



壁側に寄るのは、割と
防御の姿勢であるので

少し、俯き加減の姿勢といい、どこかに
心の傷みを覗かせて
痛々しい。




店の前のパーキングに停めてある
古いセダンに、加藤は誘った。


ゆきなは笑顔になる。「ドライブ、好きなんです」



「古い車で申し訳ないけれど」と
加藤が言うと



ゆきなは「いえ、とても素敵です。落ち着きがあって」と、笑顔で
ドアロックを手で外した、前の左シートに座った。



加藤は、ドアを静かに閉じ
右に回って
ドライバシートに座る。