科学は、如何にしてヒトを幸せにするか～ななの例～

ゆきなの気持ち

「加藤さんですか？！」ゆきなは
驚いたようで、喜んだようで。

「お元気になさってますか？」と
言葉が丁寧なところは、上品に感じる。



「しばらくですね。楽しかったね、パンの
お店」 と、加藤は言った。


本当は、嫌な事もいっぱいあったはずなのに
楽しい事しか覚えていない加藤は

ふだん、楽しい気持ちでいるから。
音楽をいつも聞いていて、心が楽しいと

あまり、嫌な事は覚えない。


そういうもので、人間の記憶は
喜怒哀楽を一緒に覚えるように出来ている。


たぶん、怖い事とか危ない事を
避けて通るように、そういう機能が出来たと
考えられている。



そのせいで、ゆきなのように

危険な目にあうと、それが忘れられなくなって
夜眠れない、なんて事もあるのだ。



「ひとり暮らしだと、いろいろ考えちゃうね。
それで眠れない時は、強引でも
違う事するといいんだね。今、困ってる事
あるの？」と、加藤は優しく。



「そんな事ないんです。ひとりで部屋にいると
なんとなく思い出しちゃって」と、ゆきなは
静かに、でも少しだけ寂しそうに。



加藤は「お友達とおしゃべりするのもいいね。お休みの日とかは、何してるの？」



「お掃除したり、お洗濯したり」と、ゆきなは
少し恥ずかしそうにそう言う。



年頃なのに、男の子の友達も作らない、と
言うか、たぶん、怖い目にあったのだろう。


そういう女の子は多い。



世の中が変わっても、記憶はずっと付いて
回る。



加藤は「いつでも電話してきてね、眠れなかったら。何か、お話してあげるから。
ゆきだるまさんのお話とか」と、子供に言うように言うと

ゆきなは、笑った。


「でも、うれしいです。お暇な時で
結構ですから、日曜日にでも
お会いできませんか？」と、ゆきなは
恥ずかしそうに小さな声でそういう。





「はい。お話しましょうか。」と

加藤は、cafe rulieの場所を教えた。


そこなら、変な人は来ない。


地下室で、グランドピアノが置いてあり

古いステレオがあったりするお店だ。




「そこでね。」と、加藤は時間を告げて。



面倒だ、とも言えないし、断れるはずもない。


何か、楽しい予定があれば
少しでも明るい気持ちになって
眠れない、なんて事は減るだろう。



ゆきなの力になってあげれば。



そういう気持ちで、親切に加藤は

そう思った。