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仮想敵

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加藤は、静かに言った。
「三浦を淘汰すると言うより、狂った心を
淘汰する、と言うべきなんだろうね。

如何なる事情があっても、人を傷つけるのは
どんな手段でも許されない。


民法にもあるし、大元は憲法にある。
そして刑法では、例えば強要罪や暴行罪になるね。
そして、社員の立場を悪用して、権限がないのに
派遣や契約の社員にそういう不法な事をするのは
この研究所の最も嫌うところだ。

でも、三浦は病気なんだよ。
顔を見てごらん?
悪い事と知っていて、悪い事を
しなくてはいられない。

行動障害、だろうね。
自分で抑えられなくなっているのさ」
と、加藤は冷静に観察した。



ふつう、悪い事をしたいと思っていても

対外的に恥ずかしいとか、処罰されるとか。

家族が悲しむとか。



そんな理由で、しない。



悪い事よりも、良い事、楽しい事が
一杯あるからだ。




「何らかの理由で、悪い事をしなくては
いられないような精神になった。
それは、病気だ。」


ななは、思い出す。
神様が、薬を上げているけれど
なかなか、行き渡らない。



「三浦も、本当は貧乏なのさ。
子供がいるなら、家で可愛がっていれば
幸せなハズ。

子供を預けてまで働かなくちゃならないのは
正社員を辞めたら、もう復職はできないって
分かってるから、なんだろうな。


そうかと言って、僕らみたいな研究員にも
なれる頭脳じゃない。


あいつも被害者なんだよ、派遣法の」と、加藤は言った。



「でも、悪い事は良くない」ジョナサンは言った。



「それが解らなくなっている人が多いのさ。
損得だけ教えられて生きてきたから。
定年間際のおじいさんにも居る。
研究費で、860万円の自動車を買って
自分で乗り回して研究、としたいって
企画を通そうとした井川、とかね」加藤は笑った。



「そんなバカな」と、ジョナサンも笑う。





「そう。そんな事をすれば自分でバカだって
会社に言うようなものだからね。


でも、その企画を出して、通したのが三浦。
だから、どのみち三浦は退職させられるだろうな。

研究費の不正利用って、よくニュースにでるけど

ここは民間資本だから、表に出れば
株主が怒るだろう。それで僕は
それを法務部に報告した。

他にも、半年で3回もヨーロッパに行っている
研究員がふたり。


みんな、三浦が予算を通している。
自分の金、と勘違いしてるんだろうな。

それは公金横領だよ」加藤はそう言った。



正義感がない奴、目先の損得だけ見てると
結局損をする。



普通に定年まで行けば、退職金や年金で
安泰なのに。



「心の病気なんだよ」

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