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ゆりの願い

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「そのせいで、日本は貧しくなって
争って勝てば、何をしてもいいと
変な人が出てきた。
そういう経済に苛まされた精神が、狂ってしまったんだ」と、加藤は言う。


柔道で金メダルを取ったのに、教え子を
凌辱してしまう男。


銀メダルになったのに、金メダルでないと
嫌だとごねる女。


そんな、日本人にはない感覚だ。



「あの、さっきから睨んでいる中年事務員だってそうさ。部長と親しいから威張っていい、なんて変なんだけど。あの人は貧しいから
そんな事しかできないのさ。
狂っているんだけど、本人がわからない。
だから異常なんだけどね。」と、加藤は言った。


ありもしない事を信じるのは、認知障害だろうと医学書には書いてあるが。




「ゆりが、赤ちゃんがほしいと言う気持ちは自然なものさ。でも、時給900円のバイトで
赤ちゃんなんで育てられないだろうし」
と、加藤は言って



「それで、ゆりは
バイト先のコンビニエンスの契約社員になって
僕とふたりで働いて、その店を買い取りたいと思ったらしい。でも、そういう話は
ほとんど宣伝文句でね。


売上が上がれば、利益を本部に持って行かれて
結局、買い取りなんてできない例が多い」と
加藤は経験からそう言った。


加藤が高校生の頃、コンビニエンスが
日本にも出来て


脱サラして始めた人達の殆どが、また
サラリーマンに戻っていった。


加藤がバイトしていたセブンイレブンでも


オーナーは夫婦で開業したが、結局
失敗して閉店した、のだと言う。




「ゆりと僕がいた店でも、似たようなもので
前オーナーが経営を辞めた店だった。


なので、僕はゆりに言った。

お店は、コンビニエンスでなくてもいいんじゃないか?と」



ゆりは、失敗する事など
考えていなかったのだろう。

でも、賢い子だから



「わかった。」と言った。



「実際、日本は貧しいんだよ。
17才の女の子を、見通しのないビジネスに
巻き込んで儲けようするコンビニエンス。
経営は外国人だったね。投資家もそうだろう。
それからしばらくして、国が指導をしたね。
訴訟が起きて」と、加藤は言った。



ゆりは「でも、失敗したって
ゆりちゃんはよかったかもしれない、
そばにいられれば」





ジョナサンは「心情は分かるけど
負債にならないにしても、ずっと
貧乏暮らしが続くし、なにより加藤さんは科学者だから、その道で稼いで
お店を買った方が」と言うと

加藤も「そう、僕も思ったな。
でも、それよりも世の中を変えないと、と
言う気持ちが強かった。
子供が産まれたって、荒んだ世の中で
傷ついて行くのはもっと悲しい。それで

革命を起こした。」


加藤の父は政治家、兄は信仰。

そういう血筋なのかもしれないのは


先祖が僧侶だった、と言う関係が
あるのかもしれない、と

ジョナサンは思う。



「10年ってそろそろですね」ななは気づいた。

加藤は「まあ、忘れてくれてるといいね。
ゆりは、それから専門職になって、
トリマーとか言ってたな。
就職先を探してあげたのは僕だったけど。
住み込みでいい、って話で。
高校を出たら、学校に行きながら働けるって
そういう話だったな。


時々、お店の前を僕が通ると
ゆりは気づいて、手を振ってくれたりね。

そういう、楽しい関係は続いていたけれど」

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