科学は、如何にしてヒトを幸せにするか~ななの例~

深町珠

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「お母さんが大切なのね」と、ななは微笑む。

でも、どことなく寂しそう。

血のつながりには、勝てない。


そんな思いもあっての事か。





「仕方ないさ、父が死んで、兄も死んだから
僕がついていてあげるしかない。」と、彼は言う。



「うむ。」神様は思う。
いろいろな事情がある。


思いやりのある彼だから、その
思いやりのために、自らの幸せは
次善のものと考える。


そのために土着を選択し、不条理にも堪える。

誰かのために、その領域を守るのが
男の在り方であると彼は考えている。



愛されて育って来たから、愛を持って
帰す。


自分勝手な欲望のままに生きる、他の
男たちと異なり、その潔さ、凛々しさに


ななは感動する。



この人こそ、愛すべきひと。



「わかりました。わたしは、でも
あなたのためになりたい。」ななは、落涙した。

求めていたなにかが、見つかった。
そんな思いで。
「僕は生き物だから、食べなくてはいけない。
頼みもしないのに、税金を納めたり。
そのために嫌でも働かなくてはならないし。
家族なんてものがあるから、自由にはなれない。
母がいるから、生きているけれど。
いつか、母が天に召されたら、僕も自由になれるのさ。
その時のために、家族はもう増やさないつもりなんだよ。
ななちゃんは、どうか、誰か他のひとと
幸せになってほしいんだ。」と、加賀はそう言った。


神様は、黙っていた。


こんなふうに、純真なひとが
安心して生きて行けないのは、雇用不安や
租税のせいだ。


「ななは、あなたと生きたいのに」と訴える声はか細い。



なな自身も気づいている。それは愛とはいえ
贅沢な要求だ。



「止めておいた方がいい。あのBMWの青年とでも生きたらいい。その方が苦労しないだろう」と、加賀は科学者らしく冷静に告げた。



彼とて、ななに心惹かれない訳でもない。
なので、振り返らずに別れたのだから。




彼は、愛、と言うと
物語や音楽の中にあるように
純粋なものをイメージしていたから


ななが、たとえばBMWの青年に
ランチに誘われると、ついて行ってしまったり
する行動を、ハシタナイと思っていたし


旧来の日本人のする事ではないと思っていた。

謂われなく、金品を受け取るなど
自らを商売にするような行為であると考える。

下俗した連中には当然かもしれないが
日本人の社会では、してはならない事で


無意識に、渡来人の生活様式に侵食されて
しまっているなな、の事を


恋人にすると、禁止の言葉を多く使わなくては
ならないから



そうする事は、ななにとっても苦痛であろうから


無理しなくても、いまのまま

生きていけばいいのだろうと
彼は、思った。


「ななちゃんは、いまのまま
自然に生きていけばいいんだよ」と
加賀は言った。



優しくはない言葉なのだ。



神様は、加賀の意図がわかるが

ななには、その意味を知るには幼かった。



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