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234・誇張
しおりを挟む「おいおい、話が違うじゃねーかよ」
居る筈の無い二人の姿に、ギャレクは早々に計画が頓挫したと忌々しそうに舌打ちする。
「そこのオマエ、巣穴から離れろ! 変な動きしやがったらガキの首折るからな」
突然現れたギャレクに驚き硬直している男にそう言い放つと、ギャレクはシェリーの背を踏んだままグルリと周囲を見回した。
聞いた話ではこの二人、化け物みたいな魔獣人に追われて絶体絶命だった筈だ。
ところが付近に魔獣人の姿はおろか痕跡すら無い。足下で呻く女も巣穴へ入ろうとしていた男も大きな怪我も無くピンピンしている様に見える。
(ヘイズの奴、話を盛りやがったのか?)
聞いていた話と大分違うーーもしかしたら、大した事無い相手に深傷を負わされたヘイズが、自分の面子を取り繕う為に話を大きく誇張したのかもしれない。
魔獣人の話が嘘なのは構わないが、気になるのは獲物の方だ。数百と言う一角兎の数まで誇張されてるとなれば、大きな荷車を買った此方に損が出る。
「おいガキ、獲物はちゃんと居るんだよな? 兎だよ! 此処には何百って数の一角兎が居るって話だったろうが!」
楽に儲けるどころか大損になるかもしれないーーギャレクはそんな焦りと怒りの矛先を足下のシェリーに向けた。
「うぉいっ! 誰だか知らないけどシェリーから足降ろせ! ぶっ飛ばすぞ!」
ギャレクの乱暴な態度を見た男は思わずそう叫んで一歩踏み出すが、シェリーの喉奥から漏れた苦し気な声を聞いて慌ててその動きを止める。
「……あぅッ」
「おいおい、動くんじゃねえ! ガキの首折るっつたよな?」
凄むギャレクの足に力が入る。首根をぎゅうっと押されたシェリーの顔が苦痛で歪んだ。
「シェリー! この野郎……」
「んだコラ、やんのか!?」
一触即発、辺りに不穏な空気が流れ出したその時。
「うるせえな、一体何を揉めてやがる」
女性二人を引き連れたシルバが森から現れた。
ザッと見回し状況を察したシルバは、荷車を押す二人の女性に軽く目配せする。すると女達はすぐさまギャレクの元へ駆け寄って行き、その尻を無慈悲に蹴飛ばすと足下のシェリーを引っ張り出した。
「痛てぇ!? 何だよっ!」
「相変わらず女の扱いがなっちゃいないねぇ」
「ごめんねー、虎のお嬢ちゃん。こっちでお姉さん達と大人しくしてようねー」
蹴られた尻を摩りながら振り返るギャレクに向かって、シルバがチョイチョイと人差し指を動かした。
「おいギャレク、テメェちょっとコッチに来い」
シルバの呼び出しにギャレクは不機嫌そうに語気を強めて言い返す。
「何だよ! 文句なら俺じゃなくヘイズに言うべきだろ!」
ーー途端、シルバの目付きが変わった。
赤褐色の立髪を逆立てたシルバは、その場に荷車の持ち手を落とすと、鋭い目をギラつかせながらギャレクに向かって駆け出した。
「お、おい……冗談だろ!?」
焦ったのはギャレクだ。確かに俺様気質のシルバではあるが、これまで幾度と無く繰り返したやり取りの中、これくらいの暴言でキレる様な事は無かったからだ。
獰猛な牙を剥き出しながら迫るシルバの目付きは、まるで獲物を狩る時の本気のそれである。シルバの実力を良く知るギャレクは、数秒後にぶっ飛ばされる理不尽な未来を呪いながら身を屈めて目を閉じた。
バチッーーン!!
ギャレクの頭上で音が破裂する!
庇う様に掲げた腕の隙間から覗けば、先程までギャレクの頭があった辺りでシルバの大きな掌が誰かの拳を掴んでいた。
「…………穏やかじゃねぇな兄ちゃん」
「穏やかでいられなくしたのは誰の所為だ?」
シルバの掌の中で燻る拳が、つい先程まで巣穴の側に居た男の物だと気が付いたギャレクは驚きに目を見開いた。
(ーーいつの間に!?)
ギャレクは振り返ったあの僅かな時間で距離を詰められた事に驚愕すると共に、シルバが駆け付けた理由が自分を守る為と気付き胸を撫で下ろす。男の実力も気になるが、身内の怒りに触れる方が余程怖い。
「クハハッ、生意気な野郎だ。ーーだが嫌いじゃねえ」
「ーーっとと」
シルバは掴んだ拳を払う様にして男の体を崩すと、その強面に豪快な笑を浮かべる。
「勘違いさせたかもしれねぇが俺達は敵じゃねえ。詳しくは後の女共に聞け、コイツにゃ俺様がちゃんと言っておく」
シルバはそう言い残し、座り込むギャレクを引き摺りながら巣穴へと歩き出した。
男は暫くその場で拳を構えていたが、やがて女達が居る方へ小走りに駆けて行った。それを見たギャレクは後ろ首を掴むシルバの手を叩いて言った。
「おい離せよシルバ、もう自分で歩くって!」
「ーー全く、テメェは余計な事しやがって」
シルバはそう言って引き摺っていたギャレクを手前に向けてぶん投げた。
「痛えっ! だ、だってよ、聞いてた話と違うじゃねぇか。どうすんだよ、初っ端から計画が崩れちまったぞ?」
先程蹴られた尻を再び地面にぶつけたギャレクは、顔を顰めながら文句を垂れる。
「バカかお前は、生きてるんならそれはそれで何の問題も無え。遺品探しの手間が省けたってだけだろうが」
「………………ん? そうか。そうだな、別に問題は……無えのか? ーーいや待て、魔獣人は? あの二人が食われて無いならまた襲ってくんじゃねぇのか!」
「あれから一晩は経ってんだ、来るならもうとっくに来てる。もし来やがったらアイツらを囮にすりゃあ良いだけの話だ」
「そりゃ良い! ……それにしても、さっきは随分らしく無かったじゃねえかシルバ?」
これまでシルバに楯突いてきた者達の末路を見てきたギャレクは、殴り掛かって来たにも関わらず、男をそのまま放置したシルバを訝しげに見上げた。
「俺様が見境なく暴力を奮う乱暴者みたいな言い方するんじゃねえ」
「実際そうだろ!」
「うるせぇ、さっさと行きやがれ!」
そんなギャレクの尻を蹴飛ばしながら、シルバは未だ痺れの取れぬ掌を握り締めるのだった。
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